019 肉体的衰えの恐怖
明は自身を成功に導いた原動力は欲求にあると思っていた。ああなりたい、こうなりたいという欲求があったからこそ人間として成長出来るのだと。しかしどんなに成長したとしても歳には勝てないのが人間である。明はそれを知っているので、50歳を手前にしたミドルエイジ世代なりの腕を見せていた。どうしたって若い人間には勝てない。若い頃の自分と今の自分を照らし合わせると、圧倒的に若い時の方が体が動く。歳をとってしまうと体中にガタがきてしまう。今こうして服に着替えている最中も腕が上がらない。プルプルと肩が震えてしまい四十肩の恐怖に怯えてしまっていた。年齢的な衰えを感じて、なおかつ痛い目に遭うのが怖いのもそうだが、それ以上に自分の体が壊れてしまう可能性があるのだ。近くに若い少女がいるので、尚更肉体の衰えを感じるのも容易かった。しかし他のミドルエイジ世代と比べると圧倒的に動けてしまうのが唯一の差だろうか。常に戦いの道に身を置いてきたから、他のミドルエイジ世代よりかは俊敏に動ける。ただ体力的に若い子には負けるだけで、戦いそのものには支障が出ていない。むしろ技術的な問題は昔よりも良くなっていると確信していた。
目の前で可憐な少女が着替えているので、こうして何か考え事をしながら服選びをしないとやっていられなかった。やはり男女の差はどうしてもあるので、着替えている最中にジロジロと目線を合わせるのは流儀に反する。明はそう思いながら、目の前の服を手に取って袖を通していた。先程も述べた通り、四十肩が爆発しないかと心配しながらソロリソロリと服に着替えていた。明が選んだ服はかなり無難だったが、後ろを振る返ってエレナを見たとたん、彼女は腹を抱えて笑い始めたではないか。
「な……なんですか、その服! 全身真っ赤で目立ちまくってますよ」
そう。某ジオン国少佐もビックリする程の赤い服に統一していたのだ。しかし明は元いた世界で赤い戦闘服に身を包んで悪人を殴り倒していただけに、赤い服に未練を感じていた。この感情ばかりはどうしようも無いので明はムッとした気持ちを堪えていた。
「人によって価値観は違う。エレナが目立つと思っていても、俺にとっては目立たない場合だってある。大切なのは自分の中から生まれる衝動なのだから、その衝動に従って服選びをする。それが大切じゃないか?」
「確かにそうかもしれませんけど、その服はちょっと……」
そう言っているエレナだったが、彼女自身も黄色い服を選んでいるのは内緒である。




