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異世界の流儀  作者: 千路文也
第一章
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012  老害の女詐欺師


 なんとか竜の谷を脱出した明とエレナは怒りで拳を震わせていた。なんと当たり屋と思しき女の老人が明にぶつかってきて、胸を押さえているのだ。何やらアバラが折れただの腹痛が止まらないだのと訴えている。だがどう見ても演技なのは素人目にも分かる。たとえ骨が弱い老人だと言っても、ぶつかったぐらいでアバラが折れる訳がない。明が何らかの特殊能力に目覚めていて、体中に魔法のオーラでも発しているのであれば分からんでもないが、生憎明は普通の人間である。魔法を使わなければ、武器を持って戦う訳でも無い。ひたすら己の肉体を信じるのみだ。そんな明にぶつかっただけでアバラが折れたと演技をしてくるのだからいい度胸だ。目の前の老人は如何にもゲスな顔をしていて、未来ある若者に意地悪をしそうな表情をしている。そういう老人の事を老害と呼ぶのだが、果たしてこの世界ではどうなのか甚だ疑問だった。そのため、明はエレナに問うていた。


「こういう人間の事を俺の国では老害と呼ぶ。お前の国ではどうだ?」

「ほとんど同じですよ。ローウガイです」

「成程。発音が微妙に違うのか」


 どうやらこの世界では老害の事をローウガイと呼ぶようだ。どちらにしても意味は同じなので明は今まで通りに老害と呼ぶようにしていた。どんなに心優しい明でも老害が相手では怒りを覚えてしまう。どの世界にも老害は存在しているのだが、それだけにイライラの感情が増えていく。奴等の相手をしていると精神病を患う可能性も出てくるので存在自体が有害なだけだ。しかしだからと言って駆除する訳にはいかなかったので、放置するのが賢明だ。ところが、老害は誰かに相手されないと寂しさと嫉妬を覚えてしまうかまってチャンだ。無視しようとするならば仕返しがまっている。どうやら目の前の老害もそのようで、此方を睨みつけながら何かをほざいている。


「あんた、あたしの骨折ったんだから医療費払いなさいよ!」


 老害の女はとんでもない言いがかりをしていた。骨を折った音など何も聞こえなかったし、ぶつかったぐらいでは骨が折れる筈も無い。それを明は知っているので奴が嘘をついているのお見通しだった。


「ふざけるな。お前が嘘をついているのは御見通しだ」


 明はまるで汚物を見るような目で、老害の女をにらみつけていた。こんな些細な出来事で貴重な時間を失うわけにもいかなかったので、明はとっとと終わらせようと強気な姿勢に出ていた。しかしそれが老害の女を刺激するなんて思ってもいなかった。



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