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放浪のエル  作者: ゆう
第二章
49/155

四十八



 私が謝礼を受け取ったことで一連の騒動はようやく終わりを迎えた。魔王の襲撃に遭った街は半壊したが元に戻りつつあるようだし、私はこの国の街を自由に出入りする権利を得られたので十分な成果だったと言えるだろう。


 そうして緩くなった空気の中で思い出したようにドルガントが布に巻かれた包みを持ってきた。

 開けてみると、中身は今回活躍してくれたワイバーンの魔石から私が作った鍋である。無いなと思っていたらどうやら戦いの後に落としていたらしい。私たちの旅には欠かせない道具の一つなので、戻って来てくれたことは素直に嬉しかった。


 それから、ドルガントからはもう一つ。

 シンディの件で報酬にと約束していた鍛冶屋の場所を記した紙を渡された。どうやらその工房はあの騒動で被害を受けずに済んだらしい。話は通してあると言うから、私はこの後すぐに向かうことにした。



「エル。最後に一つ、いいかい」



 そう言って私を呼び止めたのはギルバーだ。彼は扉の前で振り向いた私ではなく、その肩にいるシロを見て目を細めた。



「その魔物は、幻獣フェニックスで間違いないね?」


「……そうだとしたら?」



 私は思わずギルバーの目に入れないように片手でシロを覆い隠した。

 幻獣の存在を知っていること自体は不思議ではない。屋敷の書庫で本を読んで育っただけの私ですら知っていたのだから。領主ならその情報に触れる機会も私よりは多いはずだ。


 警戒心を露わにする私に両手を上げて何もしないことを示しながらギルバーは続ける。



「気を付けた方がいい。幻獣は過去の歴史にもほとんど出てこない幻の魔物。それもフェニックスとなればその力を求める者がいつ出てきてもおかしくはない」


「こう言っては何だが、特に気を付けた方がいいのは王族だぞ」



 そう言ってドルガントが自分の胸元を指差すので言いたいことはすぐにわかった。


 私が首から下げているこの国の王族の紋章には王都の聖樹と鳥が描かれているのである。ドルガントの仕草から、その鳥こそが幻獣フェニックスを表しているということなのだろう。


 この国の王族にとって幻獣フェニックスは紋章に刻まれるような存在。もしかしたら信仰の対象なのかもしれない。

 だとすると、祭りでこの街に訪れていた王族にシロが見られたかもしれない事実は捨て置くわけにはいかなくなってくる。



「……気を付けるよ。ありがとう」



 今後の対策は考えなければ。そう決意して私たちは伯爵邸を後にした。



 シンディは仕事の引き継ぎや挨拶回りを済ませてくると言うので一旦別れ、ルトも何やら商人ギルドに用があるらしく、鍛冶屋には私とシロで行くことになった。





 ドルガントから貰った紙を頼りに復興中の街を歩き出す。

 大通りがあったところはまだ店もまばらで、完全に戻るにはもう少し時間がかかりそうだ。それでも街の人々の表情はあんな事があってまだ数日しか経っていないというのに明るく活気に溢れている。


 そうして街の中心部からだいぶ離れた場所までやってくると、細い道の奥にこぢんまりとした石造りの建物が見えてきた。建物の裏に見える煙突と入り口の戸につけられたハンマーのマークがかろうじてここが鍛冶屋であると告げている程度なので、紹介が無ければ気付きもしないような店である。


 なんだか隠れ家のようで私は好きだ。

 そんなちょこっとワクワクした気持ちで戸を開けると、連動したベルの音がカランと響くのが心地よかった。



「おお……!」



 中は明かりも少なく薄暗かったが、入った瞬間に目に飛び込んできた数々の武器に思わず私は歓声をあげる。

 剣や槍、弓矢に盾。その他にも本でしか見た事がないような様々な形の武器が、壁に飾られていたり樽の中に乱雑に入っていたりといかにもな雰囲気が漂っている。



「凄い!凄いな!」



 私は広くはない店の中をちょこちょこ動きながらたくさんある武器を眺めて回った。流石に触るのは憚られる。売り物だったら申し訳ない。


 そんな事をしていると、やがて奥の戸が開き店の者がやってくる。


 見た目は私より少し背が高いくらいの爺さんだ。けれどがっしりとした体格をしていて立っているだけでも存在感がある。その容姿からしておそらくドワーフなのだろうと私は思った。

 長く伸びた白い髭を一つに編んで赤いリボンで束ねているのがなんだか不思議で面白い。



「ん?子供?……ああ、お前さんがエルか」



 どうやら話は通してあると言ったドルガントの言葉は本当らしい。ドワーフの男は店の奥のカウンターから手招きして私を呼び寄せた。



「儂はバダロ。お前さんのことはドル坊から聞いとるよ。それにしても、そのちいこい体でよくもまああれだけ動けるものだな」


「私はエル。褒め言葉として受け取っておくよ」



 バダロと名乗った爺さんは、魔王と戦う私の姿をどこかで見ていたのだろう。そうじゃなければそんな言葉は出てこない。手を差し出されたので軽く握り返すと硬い皮膚の感触がした。



「ほぉ、良い手をしている。剣を正しく学んでおったな」


「わかるのか」


「それなりの数を見てきたからな」



 学んだと言っても私がやってきたのは屋敷で行う訓練くらいだ。シロと出会ってからは体の成長もないので、魔物との戦闘がこの体の経験値になっているとは考えにくい。

 それでもこうして正しく学んだと称されると、やってきた事が間違いではなかったのだと思えて素直に嬉しかった。


 一度は吹き飛んだ手だ。シロのおかげで取り戻せた手だ。大切にしよう、と改めて思いながら私はギュッと両手を握りしめた。



「バダロ、剣が欲しいんだ。前の物は壊れてしまって、私でも扱えるような軽くて丈夫な物がいい」


「軽量化と耐久力とはなかなかに難しい注文ではあるが、やってやれない事もない。詳しく話を聞こうか」



 そうして私は剣に対する要望を余す事なくバダロに伝えた。


 扱う方がそもそも子供の体なので軽量化は切り離せないものである。魔力で腕を強化すれば重さはある程度気にならなくなるがその力も無限ではない。疲労が溜まると動けなくなってしまうから常時強化し続けるわけにもいかないのだ。

 あとは私の戦闘スタイル的に、剣に魔力を纏わせる事が多くなる。シロの魔力は元々強力な物なので、それに耐え得る剣でなければすぐに壊れてしまうだろう。


 そう思うと、今まで使っていた剣がいかによく出来た物であったかを思い知らされる。あんな物その辺に落ちているとは流石に思えない。シロはいったいどこから持ってきたのだろう。

 私がそれを知るのは、もう少し先の話なのである。



「ふむ、子供用の剣にここまでの性能を持たせるのは流石の儂も初めてだ」


「必要な素材があれば言ってくれ。ある程度の物は用意できると思う」



 カウンターに置いた質の悪そうな羊皮紙にこちらも質の悪そうな羽根ペンでガリガリと私の要望を書き殴ったバダロは、その文面を見ながら少しの間考え込んでいるようだ。


 その間、バダロは羊皮紙を使っているんだな、とふと思う。


 ルトが術式や絵を描くのに使う紙は、彼が自分で木や草から作っている物なのでこうして羊皮紙を見るのは久しぶりだった。


 魔術が広まってから紙を作る専門の魔術師もいるくらいだ。特に滅多に人前に出てこないエルフはそれを得意としているらしい。

 今では当たり前に書きやすい紙は出回っているし、それを使った書物も多い。こうして羊皮紙を使っているのは、新しいものに抵抗がある一部の堅物か物好きだろう。


 そういえばルトから他のエルフの話はあまり聞いた事がない気がするな。まあ、それほど良い関係では無かったようだし、私もあえて聞くような事もない。



「話を聞く限り魔力への抵抗の高い鉱物はあまり使わん方がいいだろうな。そうなると魔石か……」



 いやしかし、と何やら言いにくそうなバダロの様子に思わず首を傾げてしまう。魔石集めなら言ってくれればいいのに。



「お前さん、鉱山のことは知っておるか……?」



 やがて顔を上げたバダロがそんな事を言い出すから、私は素直に頷いた。



「Aランクの冒険者が瀕死の傷を負って戻ってきてから立ち入り禁止区域になったっていうあれだろ?」



 教えてくれたのはドルガントだ。そんな危険な場所だとは知らずに突入したのは私である。

 あの場所で取れた魔石のほとんどはシンディの衣装や装飾品に使ってしまったのでもうほとんど残っていない。残ったものも追加の報酬としてクラリスに渡してしまっている。



「うむ。あの鉱山で取れる魔石は良いものばかりだった。あれが手に入ればお前さんの言う性能で剣を作る事も可能かもしれんが……」


「わかった。どれくらい必要なんだ?」


「しかし禁止区域になってからは……って、お前さん行く気か」


「いや、もう一回行ってるしな。それで、どのくらい?」



 祭りが終わったら行こうとルトとも約束した。剣の素材としてあの場所で取れる魔石が必要だと言うなら丁度いい。


 さらりと告げる私にバダロは目を見開いて驚いているようだったが、すぐに私が魔王と戦った人間だということを思い出したらしい。腹の底に響く笑い声を上げながらバシバシと背中を叩かれた。普通に痛い。



「あればあるだけ良い!余った物は買い取らせてくれ!」


「商人ギルドを通さなくいいのか?」


「そんなもん通しとったら回ってくる量が減るだろう」



 確かに。普通こういった素材の取引きは商人ギルドを通して行うものなのだが、そうなると一つの鍛冶屋に下される量などたかが知れている。そもそも私はギルドに登録できないので、取引きすら不可能だ。


 規則を守るところは守る。だが守れない時もある。そんなバダロの態度は私にとっても有り難いものだった。



「よし、決まりだな。後で転送用の術式を持ってくるよ。魔石は随時送るから、好きなように使ってくれ」



 何を言っているんだこいつ、と言いたげなバダロだったが、私があまりにも当然のように言うからか最後には黙って頷いていた。



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