零
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物心ついた頃から私はこれが二度目の人生であることを理解していた。
なんとなく馴染みのない世界観。幼い自分の体。それから違和感だらけの両親や使用人たち。当たり前に使っていたような気がする道具がこの世界には無いことの方が多く、現実と感覚のズレを感じることが度々あった。
しかし厄介なことに、前世の記憶を持ち越しているというわけではないのである。
自分が何者だったのかもわからない。もちろん元の性別も。ただ、これだけ精神が発達しているのだから、そこそこいい年齢の大人だったんじゃないかというのが私の見解だ。
手も掛からず、大人しく物分かりの良すぎる子供として周囲に気味悪がられていたと思う。
実際に私が暮らすシファン辺境伯家の屋敷には大きな書庫があったのだが、そんな場所に引きこもって難しい本を読み漁る子供はさぞや不気味だったことだろう。
この世界の父ですら私を遠巻きにしているようで、まともな会話すらしたことがない。
だが、それでも構わなかった。
なぜならこの世界は私にとって実に魅力的だったからだ。
ここは剣と魔術の世界。
外に出れば魔物がいる。武器の携帯は珍しくもなく、冒険者ギルドに登録すれば依頼を受けて稼ぐこともできる。
命のやり取りが身近にあるんだ。その事実にこんなにも胸が躍るのは、きっとそれらが前の人生に存在しなかったからなのだと思っている。
とはいえ辺境伯家という貴族の人間である私がそう簡単に自由にできるわけもない。
この家に産まれたたった一人の子供として、いずれは家督を継ぐべく母は私に様々な教育を施した。
剣術や魔術、貴族としての振る舞い方、それからあらゆる学問を幅広く。それらは全て新鮮で面白く私の興味を引いたのだ。
だからこそ母のその方針になんの疑問も反発も無かった。
そうして日々を過ごしていた私の人生が動き出すのは、この体が十歳を迎えた頃。
病に倒れた母があっさりと死んだのが全ての始まりだったのだと思う。




