表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/66

#65 ソードファイト

「“唄え、短き命! 勇気の欠片、誓いを守れ!”――脈打つ情熱(フレイム・ヴェイン)!」


 私の手のひらから火球が吹っ飛び、ゴブリンの群れへ直撃する。

 相手が反応出来ないタイミングを突いた。


「グギャアアアァッ」

「よしっ、いいぞパトナ!」


 着弾の数秒前、後方に飛んだウィングは難を逃れた。


 ゴブリンの半数ほどを巻き込む爆風。

 私たちが再び元の隊列へ戻った時、やつらはかなり疲弊していた。


「かなり数を減らしたね!」

「おう! ゴブリンを処理したら、次はあの鷲を……ん?」


 こちらに優勢ムードが漂い始めた時、ゴブリンの動きが変わる。

 隊列の真ん中を空けて、キャノン鷲までの道をガラ空きにした。


「なんだ……? ゴブリンども、隊列を変えたぜ……」

「なにか攻撃してくるかも……」


 と、言いつつ、キャノン鷲はチャージ中。

 ゴブリンたちにはナイフの他に投擲武器はなさそうだし、罠にしても意図が掴めない。


 こういう時、ウィングはウズウズし始める。


「パトナ。突っ込んでいいよな」

「ダメ!」

「無理だ……! 魔法、構えとけ!」

「あー、やっぱりこうなった!」


 ウチのリーダーは話を聞かないことに定評があります。


 ウィングが突っ込む。

 だけどゴブリンたちは構えもせず、私だけを警戒している様子だ。


「あ……!! ウィング氏、横でありますっ!!」


 刹那、エルグが叫ぶ。

 見ると、ウィングの両サイドの岩壁に、二匹のゴブリンアーチャー。

 エルグの声を合図代わりに、素早く矢が撃ち出される。


「おおっ、弓矢か!? しょーもねーなぁ!」


 ギィンッ!


 ウィングは剣とともに一回転して、二本の矢を軽く打ち落とした。

 いくら奇襲といっても、対応に困るほどじゃない。


「さ、さすがウィング氏であります……!」

「いいよウィング! そのまま突っ込んで、鷲を倒そう!」


 ゴブリンたちも賭けに出たんだろうけど、甘かったね。

 あの鷲がいなくなれば切り札は消えるはず。

 いける……!


 ――でも、そういう優勢の確信は、決まって覆される。


「うりゃあぁっ!!」


 ウィングが鷲だけを狙って剣を突く。

 その瞬間、彼の目の前に影が現れた。

 それは得物を盾にして、ピタリと剣筋を止めたのだ。


「……チッ! 新手かよ!」


 いきなり剣を押し込めなくなり、冷静に退くウィング。

 影の正体は……


「あの新手はゴブリンナイトだわ!」

「魔物がウィング氏の剣を止めるなんて……信じられないであります……」


 ゴブリンナイトは長剣を構え、ウィングと対面する。


「俺とやるか? へへ、いいぜ……!」


 ヤバい、ウィングがやる気になっちゃってる!

 ゴブリンアーチャーもいるのに……矢を避けながら戦う気なの!?

 おまけに相手の増援が来ないとも限らないのに!


「ウィング、帰っておいでよー!」

「戻れるかよ!! パトナ、適当に撃て!!」

「敵はまだ増えるかもだよー!? 一体ずつ相手してもキリないよー!」


 絶対に聞こえないけど、とりあえず忠告しなきゃ!


「せっかくの剣士バトルだ!! 俺はやる!!」


 ほーらね、聞こえない!

 やれやれだよ!


「ぱ、パトナ氏……!」

「大丈夫だよ、エルグ。私のやることは分かってる」


 結局、ゴブリンナイトとウィングは剣を交えた。

 こうなったら、私は魔法を撃って援護するしかない。

 使う魔法は決まってる。


「“扉をくぐり、証明せよ! 平行線に下る茶利、ぎらぎらの光の向こう! 汚れを受け止め、居場所を失くせ”――鎮魂せし抱擁(ユグドラシル)!!」

「そ、そうね! 鎮魂せし抱擁なら一網打尽だわ!」


 これは魔力を吸い取る樹木を生やす魔法で、萌芽すれば周囲の魔力を吸い取り切るまで枯れない。

 ノエッタの言う通り、これで終わらせる。


 萌芽させる位置は、なるべくゴブリン側に寄せた。

 あまり近くに生やしすぎると、気付いたゴブリンが切り取ってしまう。

 私が遠隔魔法で守れる、ギリギリの位置取りだ。


「ノエッタとエルグは新芽から少し離れて!」

「ええ! エルグちゃん、退がりましょう!」

「了解であります!」


 ノエッタには魔力があるし、エルグにも魔石がある。

 魔法の使用者以外は問答無用で吸われるから、退避する必要があるのだ。


 よし。

 ここからだね……うん。

 最近はかなり安定してきたし、併用できるはず……!


「“沈黙よ、応答願う……愛しい距離、弓渡るガラス玉、唄う瘡蓋と落ちる塔。望まぬことを望み、消えぬ命の最期に触れる。届かぬ光よ、花を選んで、私に会いに来て”――失われし世廻鳥(オービタル・ピリオド)っ!」


 私の頭上に大きな球体が発現し、その円周を小さな球体がクルクルと辿る。

 小球は次々に数を増やし、ゴブリンのほうへと向かっていった。


「喰らえ、ゴブリンっ!」


 見ててね、師匠。

 私が成長したってとこ!


「グギャッ!?」

「グギィ……マホウッ!」


 押し寄せる無数の弾に、ゴブリンは対応を迫られる。

 ナイフでひとつずつ切り裂いても、自動ホーミングの弾はどこからでも来る。

 一発、また一発と、確実にダメージを喰らっていた。


「よ、しっ……! 当たってる……っ!」


 いいね……コントロールはきっちり出来てるよ。

 増幅の調節とターゲッティングを同時進行でやるのは大変だけど、かなり安定してる。


 失われし世廻鳥の良いところは、私の意思をアバウトに汲み取って動くところだ。

 つまり、上手く命令すればターゲッティングを一体に絞る必要がない。

 「ゴブリンを狙え」とか「魔物を狙え」とかでも、私の認識が正しければ機能する。


 そうやって工夫して負担を減らすことで、少しずつコントロールしていく。

 この魔法が私の魔法らしくなってきたのも、そういう工夫の繰り返しの賜物だ。


 この調子なら、ゴブリンが芽を刈り取ることはない。

 芽は少しずつ成長して、いずれ周辺の魔物をすべて干からびさせる――


「マホウ……キルッ!!」


 刹那、芽に影が落ちる。

 俊敏なゴブリンナイトが、小弾の合間を縫って芽に到達していた。


「あ……っ!?」


 ま、マズい!

 このままじゃ斬られちゃうよ!


「お前の相手は俺だぜ、ナイト!!」


 ゴブリンナイトの剣が横薙ぎされた時、その剣筋をウィングが喰いとめた。

 彼は芽とナイトの間に立って、芽のガーディアンとなる。


「ジャマダ!! ドケ!!」

「うるせー! 途中で相手を変えてんじゃねーよ!!」


 ウィングはゴブリンナイトを蹴り飛ばす。

 再び距離を取り、剣を構え直した。


「パトナ! 周りのザコは任せるぜ!」

「うん! ありがと、ウィング!」


 ナイトの動きで標的を理解したゴブリンたちは、芽とウィングを分担して狙い始める。

 だけど、数匹で私とウィングの連携を崩せるなんて思い上がりだ。

 私たちはそんなにヤワじゃないよ。


「行くぜ、ナイト!!」

「ジャマモノガ!! コロス!!」


 ふたつの剣が交差する。

 いくつもの小弾が、銀色の間を交錯する。

 傍らの爆撃とともに、残像が振りぬかれる。


 ウィングの刺突に対し、首の上皮を犠牲にするナイト。

 その反撃の一閃は、赤色の髪を数ミリ斬り取った。

 大振りの隙を見逃さない二度目の刺突は、ナイトの頭から僅かに血を奪う。

 形勢不利と見て、ナイトはウィングを蹴り飛ばした。


「ぐおっ……! へへ、俺の剣筋のほうが速いらしいな……」

「ニンゲン……!! チョウシニノルナ!!」

「いーや、乗るぜ! 最高の調子にな!」


 再び距離を詰める。

 次の衝突では、鋭い剣戟の後、ウィングの剣がナイトの剣を押した。


 一方、ゴブリンたちもナイトの劣勢を覆そうとする。


「ナイト! タスケロ!」


 ヤケクソのような投げナイフや、弓矢での一撃が飛び交った。


「そ、そう簡単に通さないよ……!」


 こういう時の対処法は、簡単なやつがある。


 投擲の到達点へいくつかの弾を集め、少し大きな魔法の塊を創成した。

 すると、集まってきたナイフと矢は、塊の爆発に吸い込まれて塵となる。


「グギャッ!?」

「いくら投げてもムダだよ! 失われし世廻鳥は私の手足と同じだから!」


 弾はクモの巣みたいに張り巡らせることも、壁のように張り出すことも可能だ。

 その分コントロールは難しいけど、使えるならほぼ自由自在と言っていい。

 

 芽にもウィングにも、絶対に近づかせてたまるもんか。

 増援が来たって、その頃には吸収力の増した鎮魂せし抱擁が育ち切ってる!

 勝ちは私たちのものだ!


「おらァ!!」

「グギギィ……!! ニンゲンフゼイガ……!!」


 ウィングの剣筋がゴブリンナイトの喉を斬り裂きかける。

 一瞬だったけど、その一撃でもう剣士としての格付けは完了していた。


「来いよ!! こんなもんかよ!? ゴブリン!!」

「ナメルナァ!!」


 劣勢と挑発によって追い詰められていたゴブリンナイト。

 逆転の一手といわんばかりに、思い切った大振りを仕掛ける。

 けれど、それを予期していたウィングには当たらない。


「へへ……!! お前の弱点はその大振りだ!!」

「グギギギギィ……!?」


 凄いよウィング……相手の弱点を読み切ってる!

 レベル8ダンジョンの魔物と互角以上に戦えてるよ!

 ふふ、サンロードのリーダーはこうでなくっちゃね……!


「喰らいやがれ!!」

「ギヤアアアァッ!!?」


 鋭い切り上げがゴブリンナイトの腕を落とした。

 利き手を落としたから、これでもう満足に剣を扱えないはずだ。


「ニッギャアァァァ!! ニンゲン、ブチコロシテヤルゾ……!!」

「テメーにゃ無理だっつーの!!」


 完全に後がないナイトは、残った拳で渾身のパンチを繰り出す!

 その大振りは対策するまでもない!

 ウィングは攻撃をいとも簡単にすり抜けた!


「また大振りかよ!! ワンパターンだぜ!!」


 ウィングの攻撃が当たるのは確実!

 これで勝ち――


「――ダメ……っ!! ウィングくん、避けてッ!!」


 その時、後方でノエッタの叫び声が聞こえた。


 私にも、おそらくウィングにも、なにが危険なのか判断できなかった。

 その間に、小弾の隙間をなにかが飛ぶ。

 矢だ。


「矢、矢が撃たれてる……!?」


 そんなハズない!

 アーチャーは2匹しかいなかったはずなのに……!


「まさか……二連同時射撃!?」


 一本を爆発の犠牲にして、もう一本を生かしたんだ……!

 今までわざと一本しか使ってなかったんだ!

 その理由は、この瞬間…………ウィングが避けられない瞬間を狙うため!!

 ゴブリンナイトの弱点をわざと突かせたの!?


 二重の不意打ち。

 不可避の矢が、攻撃に集中しているウィングへ迫る。


「ゲッゲッゲッ……シネ!! ニンゲンフゼイガ!!」

「……ッ!!」


 ウィングの目は、今まさに自分を貫こうとする鏃を捉える。

 けれど、彼の剣先は矢の来る方向の真逆。

 それは致命の一撃だった。

この作品が気に入った方は、評価・感想・ブックマーク・いいねなど、応援よろしくお願いします。

そういった反響が、なによりも励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ