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#64 プロヴォーク

 エンヴィによるパーティの分断は成功してしまった。

 まんまとワープさせられた私たちは、見知らぬ場所へ吐き出される。


「こ、ここは……?」


 周りはさっきと同じドロドロの岩壁。

 ダンジョン内であることは間違いない……

 でも、正確な位置は把握できない。


「なによ、これ……本当に別の場所に転移してるの……?」


 ノエッタは自分の受けた魔法が信じられないみたいだ。

 風景があまり変わらないから、移動した実感も湧かないのだろう。


「とにかく、すぐにセンコウたちを探そうぜ。ダンジョン探索開始だ!」

「ウィングくん……ええ、そうね……」


 動揺するノエッタの肩を、ウィングが軽く叩く。

 彼の変わらない態度に、ノエッタも少し落ち着いたようだ。


 そう……こんな時こそ冷静にならないと。

 今は四人だけだしね。

 サンロードとはかなり違う構成でも、上手く役割分担しなきゃ。


「ウィング。ウィングが前衛で、私は前・中衛、ノエッタとエルグは後衛でいいかな?」

「おう。戦闘は俺に任せろ!」


 私とウィング、連携に慣れてるふたりが主体になって動く。

 パーティリーダーはいつも通り、ウィングにお任せして大丈夫だ。


「あ、あたしたちは後衛ね? 了解よ」

「自分、足手まといにならないよう努力するであります……!」


 ふたりは高レベルのダンジョンに慣れてないし、私たちが先導しなきゃね。


 四人一丸となって歩き始める。

 周りの壁が爛れているから、足音はあまり響かないようだ。

 音で魔物に勘付かれる可能性は低い。


「静かだね……」

「罠もねーな。本気で分断だけが目的か?」

「エンヴィ一人で正面から相手出来ないからこその分断だよ。絶対に搦め手を使うはず」


 このダンジョンを先に踏破したのはエンヴィだ。

 内部構造を分かった上で、私たちを移動させている。

 気を抜くわけにはいかない。


「……リーダー、平気でありましょうか?」


 ふと、エルグが不安そうに呟いた。


「お。どうしたエルグ? 仲間の心配か?」

「し、心配にもなるでありますよ! ウィング氏もセンコウ氏たちが心配でありましょう?」

「いや? ぜーんぜん!」


 ウィングはすぐに首を振る。


「俺の仲間はそう簡単にやられねーからな!」


 あ。

 ウィングってば、ちょっとカッコつけてるね。

 後輩の前で頼れるとこを見せたいんだなぁ。


「そ、そうでありますね……! ウィング氏の言う通りであります!」


 不安を拭って、エルグは笑顔になった。

 良い反応に得意になるウィング。


「へへ、いいかエルグ? 仲間ってのは……」


 ――その時、いきなり気配が現れた。

 パーティに対する、刺すような敵意。


 ウィングは緩みを一瞬で引き締め、真剣な表情になる。

 私と同じように感じたみたいだ。


「……来るぞ、パトナ」

「うん……」


 なにが来るか分からないけど……僅かに魔力の流れを感じる。

 マナが揺れてる。

 攻撃態勢に入っているのかも。


「みんな、なにか飛んでくるかも。私の合図で隊列の外側に飛んで」

「おう」


 揺れがだんだん大きくなる。

 渦巻いて……一点に収束していく……

 位置は動かない……そう遠くはないけど。

 溜めの長さからすると、威力は侮れない。


 チャージの完了を見計らう。

 すると、ある瞬間、魔力の流れが大きく変わった。


「…………今っ!!」


 私の合図でみんなが飛び退く。

 そのすぐ後に――速く鋭い光線が、今パーティがいた空間を貫いて、瞬く間に消え去った。


「な……っ!? 今の、なに……!?」

「ノエッタとエルグは下がって!! ウィング、今のうちに突撃して!!」

「おうっ」


 後衛のふたりが被弾するのはマズい。

 ここは私とウィングだけで処理しなきゃ。


 ウィングは素早く走り出して、大技後の隙を突きに行く。

 私たちはその背中に着いて行った。

 すると、前方の暗闇を進んだ彼が、いきなり立ち止まる。


「ダメだ、パトナ……!! 光線を撃った魔物は倒せねぇ!」

「どうして!? 他にも敵がいるの!?」

「ゴブリンだ!!」


 その声が聞こえた時、追いついた私も魔物の姿が目に入った。


 前方の空間には、7・8体のゴブリンが跋扈していた。

 そいつらに隠れて、おそらくさっきの一撃を撃ったらしい魔物もいる。


「うっ、ゴブリン……!」

「さっきのは後ろにいる鷲っぽいのの攻撃だ! 小型のキャノン砲を抱えてる!」

「抱えてる……というより、無理やり背負わされてない……?」


 鷲は地面に翼を突っ伏して、一歩も動けないでいる。

 あれじゃただの固定砲で、翼や足を持っている意味がない。

 武器自体も外付けな感じで、引っ込められるようにも見えない。


 鷲は次の一撃を放つ素振りもなく、ただ苦しそうにしている。


「へ、変な魔物でありますね……」

「うん……」


 あのキャノン砲、ゴブリンに無理やり背負わされたの?

 なんにしても、あれなら警戒しなくても良さそう。

 撃ってくるタイミングはマナの動きで分かるし、そんなに怖くない。


 それより、問題は……


「動けない鷲より、ゴブリンのほうが厄介だね」

「おう。あいつら、魔物にしちゃズル賢いからな」


 ゴブリンは仲間内で連携を取って戦う。

 その他にも地形や道具を利用したりと、冒険者と遜色ない戦法を持っている。

 しかもここは高レベルのダンジョン……一体ずつの戦闘力も侮れない。


「グジャアァ……ニンゲン、ニンゲン!」

「――ッ!?」


 え?

 い、今……ゴブリンの一体が、喋ったような……


「ニンゲン! コロス! ザコ! マヌケ!」

「う、ウソでしょ……!?」


 また喋った!

 これは気のせいじゃない!


「きゃああ!? ぱ、パトナ!! ゴブリンが人語喋ってるんだけど!?」

「お、落ち着いて、ノエッタ!」


 人語を喋るゴブリンなんて初めて見た。

 そもそも魔物が他種族言語を習得してるなんて、聞いたこともない話だ。

 いくらレベル8のダンジョンでも、こんなのってあり得るの……?


「バカ! ニンゲンノニク、クウ! カッサバク!」


 ゴブリンは片手ナイフを振り回して、好戦的なカタコトを並べてくる。


「なによアイツら……! 挑発しかしてこないじゃない!」

「突っ込んでくるのを待ってるのかな……? 幼稚な言葉だけど……」


 戦闘を誘発しようとするわりに、自分からは突っ込んでこない。

 明らかに罠を張ってる感じだ。


「とりあえず試してやる!」


 ウィングは剣に力を込め、ルーンブレードを撃ち出した。

 すると……


「ヨワイ! ヨワイ!」


 ゴブリンはそれを剣で弾いてしまった。


「うおぉ……あいつら魔法斬りやがった……!」

「ほ、本当に魔物なの?」


 魔法のコアを破壊するには、剣筋の精密性は必須だ。

 それを軽くやってのけるなんて、尋常じゃないナイフ捌き。


「あれじゃ魔法も通らないじゃん……!」

「へへ! なら、お望み通りこっちから行くか!」

「え? それは危険だって!」

「出方を見るだけだ。パトナ、上手く当てろよ!」

「ったく、ウィングは雑だよ……」


 ウィングは剣を振りかざし、軽快に走り出した。

 そのまま、壁のように並ぶゴブリンたちへ突っ込む。


「オラァ、ゴブリン共ーーッ!」

「ギーーッ!!」


 キィンッ!


 ナイフと剣が交差し、甲高い剣戟が鳴り響いた。

 ウィングはそのままゴリ押しを狙う。


「うおおおおーーっ!!」

「グ、ゲゲ……ッ!!」


 いける……ゴブリンを押してる!

 腕っぷしではウィングが勝ってるよ!

 よーし、今のうちだ!


「いくよウィング、上手く避けてね! “唄え、短き命! 勇気の欠片、誓いを……”」

「マテ、ニンゲン!!」

「!?」


 撃ちだそうとしたその時、後ろからゴブリンの声がした。


「いつの間に!?」


 回り込まれた覚えはない。

 咄嗟に振り向くと、そのゴブリンは……


「マホウ、ツカウナ! コイツ、コロスゾ!」

「う……っ! パトナ……!」


 ノエッタを羽交い締めにして、彼女の喉元にナイフを突きつけていた。


「ノエッタ!! そ、そんな……!?」

「コイツ、ヒトジチ! コロス! ウゴクナ!」

「くっ……このぉ!」


 まんまとしてやられた!

 ゴブリンは挑発で私たちの気を引いて、その隙に後衛を狙ったんだ……!


「パトナ……! あたしに構わず撃って! こ、このままじゃウィングくんが……っ」

「ヒトジチ、シャベルナ!」

「痛っ……!?」


 ゴブリンのナイフが、ノエッタの喉元の皮膚へ喰い込む。

 彼女の肌に、ツーっと血が流れていく……


「オマエラ、マヌケ! バカ!」

「うぅ……っ!」


 ノエッタの言う通り、このままじゃウィングがヤバい。

 だけど……うう、どうすれば?


 ウィングのほうを見ると、彼はまだ状況に気付かず戦っている。

 孤軍奮闘の彼に、ゴブリンがたくさん集まってきていた。


「パトナ! 早くやれ! なにしてんだ!?」


 背後を確認する余裕もないらしい。

 モタモタしてるとウィングがやられてしまいそうだ。


「へ、平気だよ……大丈夫、冷静に考えろ……」


 落ち着け……なにか打開策を……


「……ふん。あたしが戦えないって思ってるでしょ、バカゴブリン?」


 窮地に立たされたその時、ノエッタが不敵に笑う。


「グギャッ!? オマエ、シャベルナ!」

「ねぇ、ゴブリン? あんたって確か、人間の女に欲情するのよね……」

「ギ……ッ? ギィ……」


 あれ……?

 な、なにこの雰囲気は……?

 ノエッタ、なんのつもり……?


「このままあたしを殺すより……先に好き放題しちゃったほうが、もっと楽しいでしょ……」

「ウギ……ッ! シャベ、ルナ……ギギギィ……」

「ほら、なにガマンしてんの。ここ……あたしの唇……欲しいんでしょ?」

「ギィィィィ」


 唐突なノエッタの誘惑に、魔物の態度が少しずつ変化する。

 なんというか、やっぱり魔物だし、単純にそういう気分になっているらしい。

 本能に逆らえないっぽい。


 でも……えぇ、いやいや……いかんでしょ?

 いかんでしょ!?

 いくらなんでもノエッタ、このやり方はマズいでしょ!?


「オンナ……ギギィ……ッ」

「来なさいよ……あんたの。好き放題に。しなさい?」

「ギィーッッ!!」


 興奮が絶頂に達して、ナイフを投げ捨てるゴブリン!

 その醜い口を尖らせて、グッとノエッタに近づけた!


「ぎゃーっ、ノエッターーー!!」


 お、終わりだーーー!!

 ノエッタの人生が終了しちゃうよーー!!


「ふふ……来なさいよ、ゴブリンッ!!」


 ――刹那、ノエッタは大きく口を開ける。

 突き出した舌には、なんと……ルーン文字が描かれていた。


「ギ、ギジャグギ!?」

「ほれれほわひよ!!」


 ルーンがカッと光を放つ。

 光属性の魔力を凝縮した、眩い白光。

 無防備に接近したゴブリンには、繰り出される魔法を避けられない。


「ギジャグギャアアァァァァッ!!!」


 身体の4割以上を構成している闇属性のアンチマナを当てられ、ゴブリンは断末魔を上げる。

 一瞬のフラッシュの後、もうゴブリンの姿は跡形もなかった。


「う、上手くいったわね……! よしっ」


 小さくガッツポーズするノエッタ。

 な、なんて大胆な作戦……!


「ノエッタ……! し、舌にルーンを入れてたの……!?」

「そうよ。隠すには最適な場所でしょ?」

「興奮したわけじゃなかっ――」

「んなワケないでしょ!? 誰が魔物に興奮するかっ!!」


 自分の力で魔物を倒しちゃうなんて、さすがノエッタだよ。

 良かった……人生が終わらなくて……

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