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#62 フライ

明日に向って撃て!!!

 ウィングはおもむろに人差し指を立てると、得意げに口を開く。


「パトナの悪い部分、その一。おっちょこちょい」

「えっ?」


 急に私の悪い部分を暗唱し始める。


 な、なにが始まったの?

 と思ったら、ウィングの後ろからラーンが顔を出した。

 彼女も珍しく得意げな顔をして、流れを引き継ぐように口を開いた。


「その二。ひとりで頑張り過ぎるところ」

「ちょ、ちょっと……」


 もしかして、いきなりグチをぶつけられる時間に入っちゃったのかな。

 どうしよう、ぜんぜん知らないノリだよ……


 で、もちろん最後はセンコウだ。

 ラーンの影から音もなく現れて、紫の瞳をこちらに向ける。


「其の三。頻繁に周囲を見失う」


 なにさ、みんな。

 急に私の欠点っぽいのを挙げちゃってさ。

 怒った方がいいよね?


「ちょっとみんな! 酷くない!?」


 私が怒ると、ウィングが私の前で胸を張った。


「そういうお前のために、サンロードがあるんだろ!?」

「!」


 彼の空色の瞳が、私をまっすぐに見つめる。

 視線が重なると、ウィングはニカッと笑った。


「俺らを頼れよ、パトナ! 今さら水くせーぞ!」


 いつもの爽やかな笑顔。

 そのいつも通りさで、ひとりで進もうとする私を隣で支えようとしてくれる。


 ここにも繋がりがあるんだ。

 ウィング、ラーン、センコウ……私の大切な仲間。


「……私の夢は、私の力で――」

「サンロードはお前の力だ! お前の夢はサンロードの夢だ!」

「そ、そんな強引な……!」

「ごちゃごちゃ言っても始まらねーぜ! 全員で行くぞ!」


 私の言葉も聞かないで、ウィングは拳を突き上げた。

 すると、ラーンとセンコウも同じように続く。


「パトナさん! 仲間です!」

「同胞でござる」


 三人の気持ちは一緒らしくて、どうやら説得の入り込む隙間はない。


 私の夢はサンロードの夢、か。

 夢のことは一度も話さなかったけど、いつの間にかバレてたんだな。

 ずっと一緒にいたんだから、隠し事できないのは当たり前かな?


 「……もう! みんな勝手なんだからっ」


 こうなったら、私に出来るのは……


「しょーがないなぁ、分かったよ! みんなで行こう!」

「よっしゃ! それでこそサンロードだぜっ!」


 気持ちに従って、素直になること。

 本当は私だって、みんなで行きたいんだ。

 仲間がいれば強くなれるって、もう十分過ぎるほど知ってるから。


「ブノスさん、ごめんだけど乗客が増えたよ」

「ああ、構わない。何人でも送ろう」


 ブノスさんは陽気なサムズアップを示してくれた。

 いい人だと思う。


「パトナちゃん、ガンバ! 僕はトラフのところに行くね!」

「あ、うん。ティムちゃん、マレッド村への行き方は分かる?」

「だいたいね。お馬さん借りていいかな?」

「いいよ! ロクサーヌも走ってるほうが楽しいと思うし!」


 ティムちゃんにロクサーヌを預けて、いよいよ出発だ。

 こんなに大人数になるとは思わなかったけど、すごく心強い。

 これなら災厄もすぐ倒せそうだよ!


 ✡✡✡


 荷物を整えて、拠点の前まで出てきた。


「秘儀!! 龍化!!」


 ブノスさんがそう叫ぶと、その背中は突如として隆起した。

 大気中の魔力を吸い込みながら、彼の身体はみるみる大きくなっていく。


「すごい! これってエルグの魔物化に似てるね」

「確かに……ですけど、異臭はないです」


 エルグの魔物化では鼻を覆っていたラーンだけど、龍化は平気みたいだ。

 取り込んでいるのが闇属性のマナではないのだろう。

 変身能力にも色んなものがある。


「グググ……ッ!! グググググ……ッ!!!」


 街中でどんどん大きくなっていくブノスさんは、骨張った翼を雄大に拡げる。

 その勢いで突風が起き、街の建造物がいくつか倒壊した。


「うわぁっ!?」

「猛威にござるな……」


 うえぇ、私とトラフが戦ったドラゴンと遜色ないパワーだよ。

 ドラゴニュートって怖い……

 拠点は壊さないで!


「ググ……ふぅ、龍化完了だ」


 完全に龍化を済ませたブノスさん。

 少し高身長だっただけの体格は、今や三倍以上の大きさになっていた。

 人間の原型は消失し、骨格からして紛れもないドラゴンの姿。

 見上げても彼の目が見えないほどデカい。


「さあ、背中に乗って! 災厄のダンジョンへ行こう!」


 荒々しいドラゴンの声で、爽やかに言うブノスさん。

 彼の足元には、暴威によって巻き上げたガレキが散乱している。


「……周りがすげーことになってんぞ?」

「背中が高過ぎて乗れないわ」


 ウィングとノエッタも、ブノスさんの気にしなさが気になるみたいだ。

 この人って天然?


 ――ともかく、みんなで協力してブノスさんに跨る。

 背中は広々としていて、私たち五人が乗っても、まだふたり分の余剰スペースがあった。


「まだ乗れるね。埋めたいね」

「あんたね、ジグソーパズルじゃないんだから……」


 隙間を見てウズウズしていると、ブノスさんの足元で誰かの声がした。


「――よぉ、御一行。温泉旅行かい」

「自分たちもご一緒したいでありますよ!」


 ふたり分の声だ。

 振り返ると、そこには……ボサボサの長い黒髪に、特徴的なおでこの傷。


「シム、エルグ!? どうしてここに!?」


 なんと意外なふたりが立っていたのだ。

 グリードの防衛に行ってるはずなのに!


「デカいドラゴンが見えたんでな。駆除しに来たらお前らがいた」

「なにやら重大なことが起きそうな予感であります!」


 シムは前髪を掃って、軽くジャンプする。

 なんと、たったの一跳びで背中まで到達してきた。


「おらよ、エルグ」

「感謝するであります、リーダー!」


 彼が地上へ差し出した槍を、エルグが梯子のように登る。

 とっても息の合ったコンビネーションだ。


「えへへ。やっぱりふたりは熟練のパーティなんだねー」

「ブランクがあるんだがな」

「いえ、今が全盛期でありますよ!」


 ふたりの間にあった亀裂は、もうほぼ修復したようだ。


 それにしても……まさか、みんな揃って災厄を止めに行くなんて。

 なんだか役者が揃ったって感じ!

 村から出た時に思い描いていた光景とは違うけど、それ以上の今だって思う。


「これで全員だね?」

「はい! ブノスさん、全速力で飛んじゃってください!」

「よし!!」


 すべての準備が整って、いよいよ雄大な翼が羽ばたき始める。

 私たちは勢いよく風を浴び、高く空へ舞い上がった。


「うひゃあーっ!!」


 グングン上がる高度で、グリードがみるみる小さくなっていく。

 ブノスさんにしがみついて、飛ばされないように踏ん張った。


 上昇が終わって顔を上げると、青空の中には雲ひとつない。

 透き通るような風が、澄み切った世界を切り裂いていた。


「すごい……! 空ってこんなに綺麗なんだ……!」

「パトナ氏! 自分、空を飛ぶのは初めてでありますよ!」

「エルグも!? 凄いね、私たち空を飛んでるんだよ!!」

「はい! 貴重な経験でありますね!!」


 エルグと初めて同士で盛り上がっていると、センコウが冷静に声を掛けてくる。


「お主ら、徘徊する魔物に注意されよ」

「え?」


 見渡すと、確かにブノスさんを追ってくる魔物が何匹か見えた。

 王都には入ってこないけど、空には飛行系の魔物がたくさんいる。

 ここも地上と同じく戦場と化しているようだ。


 本当は災厄のダンジョンまで体力を温存したいけど……

 迎撃したほうが良さそう。


「魔物が多いね。よーし、ここは私が……」

「ここは俺に任せな!」


 私が腕を構えると、その隣でウィングが立ち上がった。

 彼は愛剣を抜いて、魔物目掛けて構える。


「ちょ、ちょい待ち! ウィングには向いてないよ!?」

「へへ! 空を飛んでる相手に攻撃は当てづらいってんだろ?」

「そうだよ! 一体どうやって――」


 座らせようとして、ウィングの肩を掴む。

 すると、逆に後ろから私の肩を掴まれた。

 振り向くと、ノエッタの自慢げな表情があった。


「まあ見てなさいよ、パトナ。ここはウィングくんに任せましょ」

「え……? ノエッタってば、なにを……」


 飛び道具もないウィングがどうやって戦うっていうのさ。

 私が魔法を使って撃ち落とすのが王道じゃないの?


「行くぜ、パトナ! 空中の相手にはこうするんだよっ!」


 私の懸念もほっといて、勢いよく剣を振り被るウィング。

 太陽に光るブレードを、遠くにいる魔物を切り裂くように斬り下ろした。

 すると――まるで纏った光を放出するかのように、ブレードから波状攻撃が飛び出した!


『グギャアアッ!!』


 攻撃が命中した魔物は、身体の中心からキレイに真っ二つになる。

 亡骸は空から落ち、やがてマナとして空気中に溶けていった。


「え? な、なにが起きたの……?」


 呆気に取られていると、ウィングとノエッタが鼻息を荒くする。


「秘儀・ルーンブレード!! 剣にルーンを刻むことで、いろいろ理論的に強くなってんだぜ!」

「剣を触媒として魔力を操っているのよ! さすがウィングくん、命中精度バツグンね!」


 ふたりともテンション高い。

 そんなにお披露目したかったのかな。


「す、凄いね」

「ふふん!」「そうだろ!!」


 ノエッタがいつか読んでたルーンの本、これのためだったんだ。

 斬撃を飛ばす技か……投擲が得意なウィングにはぴったりかも。

 さすがノエッタ。


「おっ、ノエッタ!! あの魔物もやるか!?」

「ええ、そうね! どんどん斬り倒しちゃいましょう!」

「うおおおおおおお!!」


 バシュッ!! バシュッ!!

 みたいな感じで、やたらルーンブレードを振り回すウィング。

 その景気の良さに、ノエッタの気分もアガりっぱなし。

 新武器が上手くいって嬉しいんだろうなぁ。


「うん、爽快な感じ! ブノスさん、もっとスピード上げようよ!」

「上げるのか!? 落ちるぞ!?」

「大丈夫! 早く災厄を倒しに行こう!」


 ブノスさんの背中にしがみついたまま、私は手を振り上げた。


「よし……! 振り落とされるなよ、君たち!!」


 カッコいいセリフとともに、風を切る速度がグンとアップする。

 すると、周囲の魔物たちは見る間に置いてけぼりになった。


「うわぁーーっ!! はやーーーーいっ!!」

「ぐぬ……っ! パトナ殿、勝手な早打は止すでござるッ!」

「あははーー! センコウに怒られたーーーっ!」

「パトナさん、聴いてないですね?」


 色とりどりのマナが舞う中を、瞬きもしないで通り過ぎていく。

 偉大な翼竜は、どこまでも青い世界を突き進んでいく。


 よーし、このまま災厄のところまで一直線だ!!

 待ってろ、エンヴィ!!

書けた先から出します。

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