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#39 エージェント

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そういった反響が、なによりも励みになります。

 アイ・コンタクトは良好。

 シムと私は、お互いに顔だけで気持ちを伝えた。


 さて、問題はどうやって魔法陣を渡すかだ。

 変顔を通じて送ることはできない。


「鉱山の出口側からも別のパーティが来てる。手柄を取られんなよ」


 盗賊王さんは、みんなにそう呼びかけた。

 鉱山の魔物を挟み撃ちにして、確実に仕留めるつもりらしい。


 木材に囲まれた入り口から、鉱山の中に入って行く。

 坑木と整理された岩肌が匂い立つ。


「…………」


 鉱山には隠れるところがない。

 だから私は、冒険者のみんなが振り向かないことを祈った。

 こそこそついて行くしかなかった。

 一応、屈んで歩く。


「チッ、鉱山てのは暗いな。陰気臭くてかなわねーよ」

「くく……ならば、そこの魔導師ウィザードペスカに頼もうではないか――周囲を照らせ、とな」

「あ?」


 ふと、前衛の人たちが振り向く。

 幸い、シムとエルグが盾になって、私は見えないみたいだ。

 良かった……


 けど、入ってさっそく、シムの出番が来てしまったらしい。

 ど、どうしよう……

 まだ魔法陣も渡せてないのに!


「……その辺のランプで満足しろよ。あるだろ」

「光が弱すぎんだよ! あたしがこんなもんで満足するかよ!」

「知るか」


 憎まれ口を叩いてみても、盗賊王さんは期待げな眼差しをやめない。

 ぼっちさんも「ククク」と笑いながら、心細そうにシムを見る。

 そして、シムは――ほんの一瞬だけ私を見る。


 なんか、合図っぽい。


「仕方ねェな。本当は使いたくねェんだが」

「うっせぇ、使えよ!」

「世界が滅ぶかもしれねェから嫌だが」

「滅ぶんだべ?」


 もしかして、使うつもりなのかな。

 私になんとかしろってこと?

 無茶じゃないかな、それ。


「それじゃ、今から三秒数える」

「くくく? 数える必要がどこにある……さっさと使うがいい」

「三、二、一……ハァッ!」


 詠唱は!? 

 ああもう、変な事しないでよ!

 その合図に合わせたら、シムが神様みたいになっちゃうでしょ!


 さすがに使うわけにはいかなかった。

 そして、炭鉱にシムの声が響く。

 暗闇は晴れないまま、しばらくの静寂が訪れた。


「……なにが『ハァッ』だよ、頭おかしいんじゃねーの」

「悪ィ、今のァ練習だ。久しぶりに使ったからな、仕方ないな」


 苛立たし気な盗賊王さんに対して、ヘラヘラと返事をするシム。

 そして、もう一度、一瞬だけ私のほうを見る。

 その一瞬の顔は、すごく眉を顰めていた。

 顰めたいのはこっちだよ。


「分かった、じゃあ……あっ、なんだこれ?」

「おい、誤魔化そうとすんなよ! あたしらをバカにしてんのか!?」


 おそらく次の作戦を思い付いたであろうシムは、今度は石ころを拾った。

 なんのことか分からなかったけど、とりあえず見守る。

 お願い、シム……なんとかして……


 彼はしばらく、ジッと石を眺めていた。

 かなり大胆な間を取って、長い間そうしていた。

 そして、私がだんだん不安になってきたところで、口を開いた。


「気持ち悪ィな、この石。こんな暗い中でも、紫色にギラギラ光ってやがる」


 ――紫色の石。

 それは間違いなく魔石だ。

 その辺に落ちている可能性は限りなく低い。


「えっ!? シム氏、それは……!!」


 彼の発言に、最初に反応したのはエルグだった。

 それもそのはず……ここに魔石が落ちているとしたら、ほぼ間違いなく彼女のものだから。


 明らかな動揺を示すエルグ。

 けれどシムは、わざとらしく言葉を続けた。


「不愉快だぜ。捨てる」


 彼はそう言い放って、石を前方へ放り投げた。

 悲鳴を上げたエルグは、真っ先にそれを回収しに行く。


「うわぁっ、待って……!」

「ああ? アヴェンてめぇ、その石についてなんか知ってんのか?」

「おいら、暗くてよく見えなかっただよ」


 前衛三人の目線は、石を追うエルグのほうへ向いた。

 その瞬間だけ、シムはまったく見られていなかった。


 ……今しかない!


 私は全力でシムのところへ走る。

 手を伸ばす彼へ、三枚の魔法陣を渡した。


(ナイス、シム! あと、魔法使うなら詠唱してね!?)

(ンだそりゃ、知らねェよ。適当でいいか?)

(あ、えぇっと……いいよ、言わないよりマシだからっ)


 早口で会話して、素早く後方に戻る。

 詠唱を教えているヒマはない。

 シムはお尻のあたりに付けた大きな袋の中に、さっさと魔法陣をしまった。


 その間に、石の騒ぎは収束したようだ。


「ククク、光ってなどいないようだが……」

「……!? ど、どういうことでありますか……?」

「適当なことばっか言ってんじゃねーぞ、ペスカ!!」


 案の定、光っていたのは嘘だったようだ。

 なんの理由もなく、エルグが魔石を落とすはずがない。

 誰にも見られちゃいけないと、肌身離さず持ってるんだから。


「悪ィ、見間違いだ」


 シムはまたペコペコしつつ、気の抜けた声で謝る。

 そして、また一瞬だけ私を見たあと、詠唱を口にした。


「“光よ、集まれ。そして周りを照らしたまえ”――輝く照明(スーパーライト)!」


 その声とともに、私も詠唱する。


(“唄え、短き命。勇気の欠片、誓いを守れ!”――脈打つ情熱(フレイム・ヴェイン)っ)


 火球を発射して、その直進を良いタイミングで止める。

 ちょうどシムの頭上くらいに、小さな太陽を創り出した。

 熱が光を拡散して、周りはかなり明るくなった。


 もちろん、魔法の出現場所はおかしい。

 だけど、光が後ろからやって来ても、そういう魔法かもしれないのだ。

 ここに魔法のエキスパートはいないから、多少の粗は誤魔化せる。

 なにより、シムは堂々と腕を組んだ。


「ほら」


 本当に自分が使ったみたいにしてくれた。

 役者に向いてるっていうの、そんなに間違いじゃないかも。


 でも、みんなの反応は芳しくない。


「おい、熱ぃぞ」

「ククク……まるで砂漠だな」

「実家で農作業してた頃を思い出すだなぁ」


 快適さを求められていた。


 そういえば私、攻撃魔法しか覚えてないや。

 生活魔法とかってのもあるらしいけど、あんまり興味なかったし……

 だいたいのことは攻撃魔法で代用してたから、気にしたことなかったよ。


 私は気付かれない程度に、ちょっとずつ火球を小さくした。

 鉱山を照らすのは大変だ。


 ――見やすくなった鉱山を、慎重に進んでいく。

 すると、トロッコを見つけた。


「さすが鉱山だべ。おいら、一度でいいからトロッコを押してみたかっただよ」


 というヒックさんが、なぜかトロッコを押していった。

 乗ってみたいじゃなくて、押してみたいなの?


 そのまま線路を辿っていくと、今度は道が分かれていた。

 道の中間には立札がある。


 右:きけん

 左:あんぜん


 と、書いてあった。


「くく、左に行くがいい」

「危険な道に宝があんのは常識だろうが! 右だ!」


 ぼっちさんと盗賊王さんは、それぞれ逆を指差す。

 ここはダンジョンじゃないから、宝はないんじゃ……?


 盗賊王さんからの視線に、他の三人も意見する。


「おいらは左に行きたいだよ」

「自分もであります!」

「ま、左だろうよ」


 みんな左で、彼女だけがひとり、右だった。


「……はッ!! じゃあな、このクソ共がよ!!」


 スネた彼女はひとり、怒って行ってしまう。

 浅い灯火へ向かって、ずんずん歩いて行った。


「……行くぞ、ククク」


 ぼっちさんは構わず行こうとした。

 でも、その肩をエルグが掴む。

 彼女は心配そうな顔をした。


「フーシャ氏をひとりで行かせるのは、危険であります」

「……くく、ならば着いて行くがいい。だが、絶対的な存在である俺様と――」

「感謝するであります! では!」


 盗賊王さんを追って、右の通路に飛び込むエルグ。

 彼女らしい判断だ。


 けど……これで危険な道がふたり。

 なのに安全が三人なのは、微妙かもしれない。


「おいらは誰かが行ってあげるべきだと思うだ」

「右にか? ククク、世迷言を……俺様は行かんぞ?」

「男が三人、左に固まるっちゅうんは情けないだよ」


 正直、私もそう思う。

 でも、そう言うヒックは、シムを見ながら喋っていた。

 完全に「行け」と言っている。


「……なんで俺なんだ」

「危険な道も、光があればマシだと思うだ」

「ああ、面倒くせェこった」


 渋々、右を選ぶシムだった。

 せっかくエルグと別れて行動するチャンスだったけど、潰れてしまった。


 危険な道なんて、三つの魔法陣だけで大丈夫かなぁ……


 ✡✡✡


「ふんっ! バカだな、てめーらは! のこのこ着いて来やがってよッ!」


 手をスラッシュして、自分の領域を示す盗賊王さん。

 さっきよりも声が大きいし、瞬きも多くなっている。

 本当は嬉しいんだと思う。


「ひとりで行動するのは良くないでありますよ、フーシャ氏!」

「ああッ!? なんだよテメー、あたしに指図しようってのか!?」

「いいでありますか? パーティで行動する時の基本は……」

「うっせぇ! マジメ!」


 楽しそうだなぁ。

 やっぱりパーティってこうだよね。


 悪態をつきながらも、盗賊王さんは周りの景色を見ていた。

 壁の傷跡や、音の聞こえ方など、色んな事に気を配っているのだろう。

 盗賊シーフの人は、日頃からそういった変化を探している。


 そして、彼女はふと立ち止まった。


「……てめーら、ストップ」


 エルグたちの前に腕を差し出して、静かにそう言う。

 なにか見つけたらしい。


「明かり消せ、ペスカ。コウモリだ」

「ああ」


 彼女の囁くような指示で、私は火球を消した。

 一応、シムもそれっぽい動き(開いた手を火球のほうに掲げて、グッと握る)をしてくれた。


 周りは静かで、一見するとなにも居ないように見える。

 でも、僅かな灯りの中で、盗賊王さんは天井を指差した。

 上に張り付いてるみたいだ。


「魔物じゃねーだろうが、一匹でも起こしたら面倒だ。ここは音を立てずに――」


 彼女が小声で注意を行っている時。

 前方から、羽の生えた石が近付いてきた。

 手の中に握り込める大きさのそれは、フヨフヨと浮いている。


「――ッ、妖精だ……!」


 押し殺すような声で、小さく叫ぶ盗賊王さん。

 あの羽は妖精のもののようだ。

 石は妖精が抱えていて、それは今……落ちようとしている。

 こちらに見せびらかすように、少しずつ。


 あれが地面に落ちたら、線路の鉄部分にあたる。

 音が鳴って、周囲に反響が起きる。

 すると、コウモリは……言うまでもない。


「なんとかして止めるぞ……!」

「どうやって!?」

「どうにか――」


 エルグと盗賊王さんの会話も虚しく、石は落ちた。


 刹那、シムの視線が私へ投げかけられる。

 魔法陣は、既に構えられていた。

 

 あれがどの魔法陣か分からないけど、シムの判断を信じる。

 私が咄嗟に魔力を送ると、魔法陣はじわりと光った。


「“えー、石を燃やせ……”――石燃やし(ストーンバーニング)?」


 間抜けな詠唱とともに、シムの身体に隠れた石が、黒い闇に包まれる。

 鉱山の暗さよりも、さらに暗く映える闇。

 そして、コウモリを目覚めさせる罠は、跡形もなく消え去った。


「なっ、なんだ……?」

「石が……暗闇に溶けたであります?」


 音もなく消滅した石に、ただただ困惑するふたり。

 そんな彼女たちの肩を、シムはポンと叩いた。


「今のァ燃やし石(バーニングストーン)つってな。俺の得意技なんだ」


 さっきと名前が変わってるし、そもそも名前が違うし。

 死に際の騎士(リヴィング・デッド)ね、それ。

 ていうか、魔法陣を使ったの、バレてないよね……?


 恐る恐る、ふたりの反応を待つ。

 すると、エルグはパッと明るい笑みを浮かべた。


「やはり魔導師ウィザードの方は凄いでありますねっ!」


 ああ、信じてるみたいで良かったぁ。

 うんうん、エルグは素直な良い子だよ。

陰の実力者です。

(前書きと後書きを逆にしてみました。いえい。)

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