表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/66

#38 リユニオン

心に茨を持つ少女、エルグ・アヴェン(17)。

少女だが、パトナ(16)より年上である。

他のやつら:ウィング(16)、ラーン(17)、センコウ(18)、ノエッタ(17)。

ジュブナイルでした。

 やる気ってフシギなものだと思う。

 大きなことをひとつ終えても、本当に元気な時は余ってしまう。

 だから私は、それに従って、余りの時間も魔法陣に注いだ。


 すると、コンコンとノックの音がした。

 私がいる奥の部屋にも、それは容易に届く。

 すぐに出た。


「おはよ、師匠っ」

「……あら、おはよう」


 寝てない感じの師匠に挨拶しつつ、扉を開ける。

 そこにはメガネを外したノエッタが立っていた。

 昨日頼んだ通り、朝早くから来てくれたようだ。


「ノエッタおはよっ!」

「眠いんだけど」

「ごめんね! でも、これ見て!」


 私は手に持っていた魔法陣を広げて、ノエッタの前にお披露目した。

 眼を擦る彼女は、それをまじまじと見る。

 しばらくしてから、納得がいったように手を叩いた。


「ああ、完成してるじゃない。あんたって意外と根性あるわよね」

「えへへぇ」

「うんうん、なかなか良い出来じゃない。あたしとしても鼻が――」


 『鼻が高い』と、おそらく言いかけたところで。

 感心してくれてたノエッタの眼が、訝しモードになる。

 一部の隙さえ逃さないであろう鋭い視線が、私のかわいい魔法陣を突き刺す。


「えと、ノエッタ?」

「…………」


 これ、なんか緊張する。

 頼んだ通り、先生として来てくれてるからなのかな?

 あ、じゃあ、この後に言われるのは……


 顔を上げたノエッタは、腕を組んで言い放つ。


「魔法式が抜けてる!!」

「う、ウソォ!?」


 やっぱりお叱り。

 私から魔法陣をひったくって、彼女は二重円の間を指差す。

 よく見ると、確かに……なにか式を飛ばしてる気配。

 示された部分だけ、前後が繋がっていない。


「ここに代入式を入れないと、計算結果が変わっちゃうでしょうが」

「あ、ど、どうしよ……もう時間ないよ、せんせぇ……」


 これじゃ台無しだ。

 あんなに頑張ったのに、水の泡になっちゃった……

 たったこれだけのミスで……!


「……まったく、仕方ないんだから」


 あたふたする私を横目に、拠点に上がるノエッタ。


「お邪魔します、ナグニレンさん」

「ええ。おはよう、ノエッタ」

「おはようございます」


 自然に奥の部屋へ入っていく。

 あれ?

 これってもしかして……


「ノエッタ……もしかして……」


 私は救いを求めるように、彼女にフラフラと近寄った。

 すると、神様のような呆れ笑いが帰ってくる。


「手伝ってあげるわよ。もう時間がないんでしょ?」

「うびゃああっ!! ノエッタ大好きーーーっ!!」

「きゃあっ!?」


 感激のあまり、私はノエッタに抱き着いた。

 勢いのあまり、私の頭はテーブルにぶつかった。


「パトナ、早朝から騒がないで頂けませんこと?」

「ご、ごめんなさい…………」


 大声のあまり、師匠に怒られた。


 ノエッタはなにも言わずに、私の背中を叩いた。

 はしゃぐなって意味か、どんまいって意味だと思う。

 頑張りなさいよってのもあると思う。

 頑張るぞい!


 ――作業を分担すると、魔法陣はスラスラ出来上がる。

 共同クエストが始まるまでに、なんとか描き終えることができそうだった。


 余裕があったから、他に作ったやつも先生に見てもらった。

 まずは声に反応する魔法陣。


「いっくよー……わあっ!」

「……」


 魔力を通したけど、無反応だ。

 大声を出せば反応するはずなんだけど……


「失敗してるんじゃないの?」

「そんなことないよ。ちゃんと作ったから……わあぁっ!!」

「ちょ、うるさ――」


 二度目の大声を繰り出した瞬間。

 魔法陣は発光して、陣にエネルギーを巡らせる。

 そして……


 破裂音とともに、部屋の中にあった一切が吹き飛ぶ。

 私たち諸共、そこら中が巻き込まれた。

 爆発に飛ばされ、壁に背中を打ち付けて、私もノエッタも呻く。


「うっ、いぃったぁい……」

「いっ、痛いじゃ……痛いじゃない、わよっ……!」

「え、えへへ……ごめんねぇ」


 怒るノエッタの腕の中に、作り直していた魔法陣が庇われていた。

 幸いなことに無傷のようだ。

 せんせぇ……好き。


 もうひとつ、魔物の力を反射する魔法陣も見せた。

 けど、試しに魔法で攻撃しようと提案したら、頭をはたかれた。

 誰もいない場所で一人でやれと言われた。


 ✡✡✡


 作り直すことは出来たものの、もう時間はギリギリだ。

 シムはギルドで待ってる約束だったけど、さすがにもう居ないだろう。

 だから直接、冒険者たちの集合場所に向かう。


 色々と打ち合わせしたかったけど、こうなったら仕方がない。

 冒険者たちと合流したシムに、「来たヨー」なんて声を掛けるワケにもいかないし。

 ただ、問題はいつ魔法陣を渡すか……


 とにかく、普通に走っても間に合いそうになかった。

 私は師匠からロクサーヌを借りて、急いで現場に向かった。

 乗馬はしたことないけど……


「走れ、ロクサーヌ!」


 朝日の街をいななきながら走る、優雅なロクサーヌ。

 街中の視線を集めて、彼女は輝いている。

 私はその背中にしがみついて、風になった気分でいた。


 ――そうして、集合場所に近い宿でロクサーヌを預かってもらう。

 そこからは走って向かった。

 しばらくすると深い森の中へ入って、やがて大きなお城が現れた。


 棺城クイーン(・イズ)女王・デッドと呼ばれるダンジョン。

 そのお城は人工的な外観をしているにも関わらず、城壁は山肌のようにゴツい。

 というよりも、まるで山が城の形を成したかのようだ。

 形だけがそうで、城壁は緑に覆われていたり、木が突き出ていたりする。

 どう見ても斜面にはなってないから、あれを登るのは絶望的だろう。


 ウワサでは、黄金の蛙の姿をした女王が住んでいるらしい。

 といっても、もちろん魔物だろうから、人間みたいに喋ったりはしないと思う。

 口やお腹から強い魔物を生み出して、戦わせるそうだ。

 生み出された魔物は高熱や激痛などを与えてくるから、攻略には高度な耐性がたくさん必要になる。


 そびえる城の入り口に、何人かの冒険者の姿が見えた。

 不審に思われないように、見つからないように……

 と、思ったけど、その心配はなさそうだ。

 その人たちは熱心に話していて、私に気付く様子もない。


 声が聞こえるあたりまで近付いて、状況を確認する。

 回り込んで、お城の入り口に生えまくってる茂みへ隠れた。


「てめーら、あたしの足を引っ張るんじゃねーぞ!」

「おいら、協力したいだ……よろしくおねげぇしますだ、みなさん」

「くく……貴様らのチカラなど借りずとも、この俺様がすべて蹴散らしてくれようではないか」


 ……個性豊かだなぁ。

 冒険者の人たちって、こういうところがあるよね。

 あれを見てると、サンロードってちょっと、個性が弱い気がする。


 ウィングに帽子被せようかな?

 それか、センコウに……ウサミミとかね、ぷぷー。

 あとラーンにネコミミ……メイド服も良いかな。

 似合いそうー。


「んじゃ、適当に自己紹介を……俺ァ、シム・ペスカだ。弱い魔法しか使わねェんで、よろしく頼まァ」

「自分はエルグ・アヴェンと申します! クエスト完了に尽力しますので、皆さん、どうかよろしくお願いするでありますっ!」


 あ……シムとエルグ!

 もう会ってたんだ、ふたりとも……大丈夫かな?

 ホント、どうやって渡そうかな……魔法陣。


 ていうかシム、もうちょっと張り切って自己紹介しなよ。

 それじゃただの「弱い魔法しか使わない人」だよ。

 設定に深みが足りないよね。


「あたしは“盗賊王”フーシャ・ティールス! レベル7だッ! てめーらの全財産、今すぐ奪ってやろうか!?」

「おいらはヒック・ラスティだべな。戦闘以外じゃあんま役に立たねぇけんど、よろしくだべ」

「ふん、貴様らと慣れ合うつもりはない……“孤高”と呼ばれたこの俺、ウルフ・ローン……この世のすべてが下らん、フハハハハ」


 個性的な人たちとも挨拶を終えて、一応みんな名前は知ったみたいだ。

 エルグがシムに気付いてないってことは、きっと『シム・ペスカ』って名前自体が偽名なのだろう。

 リーダーだった頃の名前は、しっかり隠してるらしい。


「ところでだべ、みなさん。クエストの内容は把握してるべか?」

「ああん!? 当たり前だろうが!」

「自分はバッチリでありますよ、ヒック氏! いつでも出発できるであります!」

「下らなすぎて忘れた……くく」

「普通に忘れた」


 やる気なしの男ふたりのために、盗賊王の人が説明役を買って出る。

 彼女は大きな声で、誰にでも聞こえるように話してくれた。


「最近、魔物どもがダンジョンを出て、その辺をうろついてんのは知ってんだろ!?」

「くくく……もちろん」

「そいつらが厄介なことに、この近くの鉱山を巣窟にしやがったらしいぜ!! これじゃ鉱石が取れないから、さっさと殲滅しやがれってことだッ、オイッ!!」

「へェ、そりゃ大変だ」


 「チッ」と舌打ちした後、盗賊王の人は剣を抜く。

 見たところ、短剣使いのようだ。


盗賊シーフのあたしが先導してやるッ!! てめーらは精々、死なねーように着いてこいよ!!」

「あ、俺は魔導師ウィザードだ。後衛に回らせてもらうぜ」

「クク……俺様は聖騎士パラディンだが……聖など下らん、闇騎士ダークディンと呼べ。前衛ククク……」

「自分は、その……探索支援が得意であります! 戦闘は下手なので、後衛が良いと思われます!」

「おいらは武闘家モンクだべさ。頭は使えねぇから、そこだけ分かってくんろ。前衛に行かせてもらうだよ」


 みんな、それぞれ自分のポジションに着く。

 シムは後衛だから、魔法陣も渡しやすい……けど。


「シム氏、よろしくお願いするであります!」

「……ああ、おう。ま、期待しねェでくれよ」

「謙遜する必要はないでありますよ! 魔導師ウィザードの方はとても頼りになるであります!」


 エルグと同じポジションっていうのは、かなりマズい。

 後衛ふたりだけだから、もう話しかけられてるし……

 なんとか誤魔化してよ、シム!


 歩き出す冒険者たち。

 私は移動して、なるべくシムに近い位置を確保する。

 幸い、ここは茂みが続いていて、隠れるところには困らなかった。


 今は横からシムが見えるところ。

 とりあえず、なんとか気付いてもらわないと。

 

 焦る私に構わず、シムはエルグと談笑していた。

 実際、そんな関係じゃないくせに。


「いくつもの魔法の弾を、別々に動かしたりしていました――パトナ氏は天才でありますよ!」

「……ふーん、すげェな。会いたいもんだなァ、今すぐ」

「あはは、今すぐは難しいでありましょう。こんなところにパトナ氏が居るわけないでありますから」


 うひゃあ、私の話しちゃってるじゃん。

 嬉しい……じゃなくて、ドキドキする。


 それなりに近く……私の大股4歩くらいの距離に、シムがいる。

 今のうちに気付いてもらいたいけど、どうすれば……むむむ。


 その時、私は足元に木の枝を見つけた。

 こ、これだ!


「やあっ」


 即、投擲。

 コントロール抜群な私は、それをシムの頭にぶつけた。


 と、思っていた。


「いってェな……オイ、誰だよ!! あたしを殺そうとしたのは!!」


 でも実際、シムじゃない人に当たってしまったらしい。

 振り向いたのは盗賊王さんだ。

 失敗しちゃったよ……


「ククク……殺すなど下らん……貴様ごとき、赤子の手を捻るように殺せるというのに」

「てめーかコラ、ぼっち野郎ッ!!」

「クゥーッ!? 貴様ぁ、この俺様がぼっちだと!?」


 慌てて隠れたけど、クククさんと喧嘩してくれて助かった。

 それに、結果オーライだ。

 突然のおかしな出来事に、シムはキョロキョロして、ふと私を見つけてくれたのだ。


 彼はニヤリと笑って、咥えていた飴を取ると、口をパクパク動かした。


(会えた)


 そう言ったらしい。

 人差指をクイクイ動かして、魔法陣を催促する彼だった。

この作品が気に入った方は、評価・感想・ブックマーク・いいねなど、応援よろしくお願いします。

そういった反響が、なによりも励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ