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【10/7 コミカライズ3巻発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
八大婚姻祝儀祭

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魔導卿の捜査。


 エイデス・オルミラージュは、幾つもの異名を持つ。

 〝万象の魔導卿(ソロモン)〟〝オルミラージュ侯爵家当主〟〝冷酷非情〟……。


 ーーーそして〝呪いの魔導具を駆逐する男〟。


 諸外国においては、その一番最後の異名が最も有名であり、財力以上に尊敬される理由でもある。

 かつて、火事によって火傷を負った左手を、治癒することなく黒いグローブで隠している。


 それが、義母と義姉を呪いの魔導具によって失ったからだということを、その胸の痛みと後悔を忘れぬ為であることを、知る者は少ない。


 そして今日、エイデスが民衆に伴侶としてお披露目する少女が、彼の成し遂げ得なかったことを成し遂げたが故に、最愛であるのだということも。


 エイデスのウェルミィに対する感情に、負の要素はない。

 しかし、胸中に渦巻く気持ちは複雑と言って差し支えないものだった。


 憧憬や尊敬、慈愛と庇護欲、放任と執着。


 それらが入り混じった比翼連理の想いが、エイデスがウェルミィに向ける感情なのだ。


 同志であり、相棒であり、また最愛であること。

 エイデスにとって、存在そのものが奇跡と感じるような少女。


 ウェルミィ・リロウド。


 だからエイデスは、彼女の道を阻まない。

 そして、彼女の道を阻もうとするものを、全力で排する。


 今日もまた、エイデスはその為に王城の会議室を訪れていた。

 侍女のアロンナを入口の脇に控えさせて、歩を進める。


 円卓に座る面々は、まだ全員は揃っていないようだが、時間に厳しい二人とコビャク国王陛下が、会議室の奥で談笑しているのが目に入った。


「娘が来ていると聞いたが、会ったのか?」

「ええ。今は妻と共に別室におります。ご温情に感謝しております」


 国王陛下の問いかけに答えたのは、ローレラルの父であるヤッフェ・ガワメイダ伯爵だった。

 彼の兄であるキルレイン法務卿は元々口数の多い人物ではない為、二人の会話を黙って聞いている。


 こちらの入室に気づいた陛下が、軽く手を挙げた。


「来たぞ、今日の主役の一人が」

「ライオネル王国に輝ける太陽、獅子の誉れを身に宿すコビャク・ライオネル国王陛下にご挨拶申し上げます」


 エイデスは規則に従い賢者の礼(ボウアンドウィッチ)の姿勢を取ると、そのまま前に進み出て会話に加わる。


「早くより場を設けていただき、誠にありがとうございます」

「良い。大公国に赴く前に解決しておきたい案件と言われれば、我らにとっても大事ゆえ」


 鷹揚に頷いた国王陛下の述べた通り、この場を設けてもらったのはエイデスだった。

 陛下の目は、魔導士の正装を纏うこちらの胸元に向けられている。


 そこに飾られていたのは、ブローチに加工された〝希望の朱魔珠(ウィルバーミリオン)〟である。


 以前の、王家主催の夜会での騒動の後。

 

 宰相の息子であるシゾルダ・ラングレーと、その婚約者であるヒルデントライ・イーサよりウェルミィが贈られたという魔宝玉の出所について。


 今日の議題は、それに関することだった。


 エイデスが見た夢は、明らかに魔術による幻視。

 となれば、自分ではない自分が手にしていた朱色の魔宝玉は、どこから来たものなのか。


 ーーーもし、危険なものであるのなら。


 せっかく贈られたものであっても、封じなければならない。


 場に人が揃っていく。


 元からいた国王陛下と、法務卿にガワメイダ伯爵。


 宰相と軍団長。

 彼らに連れられた、魔宝玉をウェルミィに贈った年若い二人。


 そして、エイデスの前に外務卿に任命されていた、大人しそうな顔立ちの年嵩の男……ユラフ・アヴェロ伯爵。

 エイデスの父である、イングレイ・オルミラージュ前侯爵。


 ズミアーノの父である、ハビィ・オルブラン侯爵。

 そして、バルザム帝国より祝祭に合わせて帰国した第二王子、タイグリム・ライオネル第二王子と……同様に、辺境より訪れたアバランテ辺境伯。


 総勢十三名の顔ぶれが揃ったところで、全員が席についた。

 レオは、流石に時間が取れず不在である。


 国王陛下が、笑みと共に宣言する。

 

「では、始めよう。時間もないのに人を集める祝祭の主役が、この場にるゆえな」


 民衆の前に姿を見せる時とは違い気安い印象の彼は、実のところ全く油断のならない人物だ。

 

 国王陛下は、南方の海辺以外の全てを他国と魔獣の領域に囲まれ、先王の代には帝国や大公国とも険悪な仲だったこの国を、のらりくらりと戦争を回避しながら関係を改善し、徐々に富ませていった古狸である。

 

 その笑顔の奥には冷徹な計算が隠されており、情に厚くはあるものの、それに流されることは決してない。

 国益を真に損なうとなれば、旧友ですら切り捨てるだろう鋭さが、その内には隠されている。


 ウェルミィやレオの件にしても、聖女と公爵令嬢が起こした事件についても。

 大騒動であったにも関わらず見逃しているのは、そこに関わった者たちが次代を担う有用な人材であったから、というただそれだけの理由である。


 罰して排除するよりも、恩を売って利用した方が国益に沿うからだ。

 イオーラに関して言えば、魔導具の開発や王妃の肌を癒した恩もあるだろうが。


 もしレオやエイデスが選択を間違っていれば、『次代を担うに不適格』と切り捨てられていても、おかしくはなかっただろう。


 そして、この場で試されているのは、宰相の息子シゾルダと、婚約者のヒルデントライである。


「さて、まずは議題である魔宝玉について。ウェルミィ・リロウドにそれを贈呈した二人に出所の探索を命じたが……何か、進展はあったか?」


 片眉を上げた国王陛下の眼光は、些細な嘘すら見逃さないだろう冷たい光を宿していた。

 


めちゃくちゃシリアスな雰囲気ですが、まぁひどいことにはなりません。


『あの魔宝玉って、結局どこから出てきたのよ?』ってだけの話です。


後、名前全然わからん、覚えてない! って人もご安心ください。


エイデスが『ウェルミィ危ないかもしれん。もし宝玉が危険物だったら許さねーぞ!』というのが話の筋で、皆が証言していくだけのシーンなので、エイデスだけ知ってればOKです! 皆、誰が誰だかちゃんと分かるよ! っていう凄い人は、そのままお楽しみ下さい。


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― 新着の感想 ―
ヒルデントライ・イーサ伯爵令嬢はウェルミィの目を騙して敵対する風を装ってからかってた人か。 あの時、受け取って大丈夫なのか、誰か何か企んでないか?と思ったまま忘れていたので、続きがあるのはうれしい。な…
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