謎は、全て解けた!
「……えっと」
カーラは、あまりにも変化の激しいローレラルを見て、顔を引き攣らせていた。
彼女とは、オルミラージュ侯爵家本邸で行われた王太子妃侍女選抜試験で一緒になり……彼女自身が企んだ犯罪によって、罰を受けたとは聞いている。
しかし。
「ここ、これを、そこで拾ったのです! 神に誓ってわたくしが盗んだのではありません!」
ーーーこんな性格だったっけ……?
何故か涙目で訴えてくるローレラルは、もっと傲慢で嫌味な性格をしていたと思うのだが。
彼女の手に握られているのは、高級そうな布張りの箱と十字架である。
多分ロザリオは私物で、箱はいきなり彼女が捲し立てて来た通り、拾ったのだろう。
「きき、きっと、落として困っている方がおられます! 届けないといけないのですが、どこに届けたらいいのか……ローンダート商会のカーラ様なら、どなたのものかご存知かと……!」
「知ってますが、少し落ち着いて下さいな」
厄介な客を相手にする時のように鉄の営業スマイルを浮かべて、ドン引きする気持ちを抑え込んだカーラは、その箱を眺めた。
確かにそれはカーラの実家で取り扱っている高級装飾品用の箱であり、声を掛けてきた理由は理解出来た。
「それを少し貸して下さいますか?」
「は、はい……!」
差し出された箱は、当然ながら見覚えのあるもの。
カーラは、外張りの手触りと、重さを確かめる。
勝手に開ける訳にもいかないが、多分、ほぼほぼ間違いないだろう。
「これ、ウェルミィの髪飾りじゃないかしら……?」
ローンダート商会は、得意先から作成を請け負った物の外箱に相手が分かるよう印を刻む。
箱に刻まれているのはオルミラージュ侯爵家に出す時の印であり、他、外張りの種類も中身によって変えているのだ。
今回の件で請け負った中でこの大きさと重さで、この布張りのものは、髪飾りでほぼ間違いないだろう。
何でこんなところにコレがあるのか、全く分からないけれど。
「どこに落ちていたのですか?」
「庭の草陰に……! その、お庭を眺めていた時に、ヒャオン王女が通りかかりまして! その近くに落ちていたのですが、お声がけすると、ご自身のものではないとのことだったので!」
「なるほど」
カーラが目を細めて箱を睨むと、そこに聞き覚えのある声が頭上から掛かる。
「カーラ!」
顔を上げると、そこに居たのはセイファルトとラウドン。
カーラがちょっと顔をしかめる横で、ローレラルがキラキラと目を輝かせる。
「ご主人様……!! 本日の執事姿も大変お似合いですわ……!!」
ーーーご主人様って何!?
そこはせめて、旦那様ではないのか。
全く意味が分からないが、多分この場で重要なのはそこではない。
「セイファルト」
「そこで何してるんだ?」
3階から投げられた質問に、カーラは腕を上げて手にしたものを掲げる。
「落とし物よ! ウェルミィの髪飾り!」
「……は!?」
セイファルトが驚いた顔をするが、驚き方がいつもより派手な気がする。
その横で、ラウドンが面白そうに片眉を上げた。
「ああ、それは助かりますね。僕たちが探していたのが、今、カーラ嬢が手にしておられるものでしてね」
「え!?」
今度はカーラが目を見張る番だった。
「受け取りに参りますので、少々お待ちいただけますか?」
と言って、彼らが降りてくると、カーラはセイファルトに髪飾りを手渡し、事情を聞いたラウドンがローレラルの頭を撫でる。
「お手柄だね、ローレラル」
「ありがとうございます! お、お役に立てましたか!?」
「うん。でも、何でここに?」
「あ……今日は、お父様に呼ばれておりまして」
「それは知っているけど、時間が少し早いんじゃないかな?」
「あの、父に会う前に、ご主人様にお会い出来るかと……昨日はお帰りになられませんでしたし……」
ローレラルの父、ヤッフェ・ガワメイダ伯爵は、確かキルレイン法務卿の弟だった筈だ。
ーーー何かあったのかしら?
そう思いつつ、カーラはイチャついている二人から目を離して、セイファルトに向き直った。
「何やってるの? 大事なものを失くすなんて」
「こっちにしても不思議なんだよ。鍵をかけた部屋から無くなったからね」
「ふぅん……」
カーラは頬に指を当てると、布地を指差した。
「ねぇ、それってもしかして……」
※※※
「犯人は猫ぉ!?」
「ええ、ええ、ウェルミィ様」
身支度を終えてヤキモキしていたウェルミィの元に、ひょい、と顔を見せたヌーアは。
髪飾りの入った布張りの箱を恭しく差し出しながら、種明かしをした。
「布に、黒い毛がついておりますねぇ。それに傷も。おそらくは、そこの猫用の出入り口から、侵入したのでしょうねぇ」
言われてウェルミィが目を向けると、確かにそこには、人間は絶対に通れない両開きの板が下げられた小さな穴。
「じゃあつまり、ネズミ取りに飼われてる猫が?」
「盗んだのは、ヒャオン殿下のペットだそうでしてねぇ。ここは宝物庫ではなく、本来は客間ですしねぇ」
だから、猫が入れたのだ。
盗人でなくて良かった反面、人騒がせな、と思う気持ちもムクムク湧いてくる。
「さ、お支度を終わらせてしまいますねぇ」
ウェルミィが口を尖らせていると、ヌーアが相変わらずニコニコと、箱から髪飾りを取り出した。
その松を象った銀の髪飾りを飾り、そこに鈴鳴りになった桔梗藤の紫の花を下げる。
「よくお似合いですねぇ」
ヌーアの言葉に、ウェルミィは鏡を見た。
松と藤は、それぞれに男と女を表す。
銀の松は、エイデス。
そして桔梗藤はウェルミィを。
桔梗藤の花言葉は『いつまでも貴方の側に』『忠実な愛』……そして『気品ある気まぐれ』。
『猫のような、お前の花だな』と、エイデスがそう言ったから。
本来なら、白金の髪色にちなんで白の桔梗藤を飾るものだけれど、ウェルミィはそこに一つ、意味を足した。
だって、結婚パレードに身につけるものだから。
「ねぇ、エイデスは気付くかしら」
「ご当主様は、聡明な方でございますからねぇ」
あっさりと答えるヌーアに、ウェルミィは少し頬を染める。
気づいて欲しいけど。
気づかれたくない気持ちもある。
紫もまた、エイデスの色だから。
愛や恋を表す花の、元の色が自分で、もう一つの色が相手の色である時。
その本来の花言葉とは別に、意味が生まれるのだ。
ーーー『私の心は、貴方に染められている』。
エイデスは、気づいてくれるかしら。
エイデスは、気づいてしまうかしら。
彼の訪れを、準備を終えたウェルミィは先ほどまでとは別の意味でソワソワとしながら、待った。
というわけで、お騒がせ猫とウェルミィちゃんの乙女心の話でした!
この後のエイデスの反応は読者様のご想像に……お任せしたら怒られるかなー。
こんな感じの短編を、ゆるゆると十二月中頃まで結婚式編として投稿して行きます。
早く式を見せなさい! と思われた方は、ブックマークやいいね、↓の☆☆☆☆☆評価等、どうぞよろしくお願いいたしますー!




