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【10/7 コミカライズ3巻発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
八大婚姻祝儀祭

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ほっつき歩く王女様。

 

 ーーー王城の三階廊下。


「ふふ、うちのご主人様は、本当に次から次へと厄介ごとを引き込んで来るねぇ」

「笑い事じゃないですよ、ラウドン様……」


 ヘーゼルの報告を聞いて、合鍵の話をしに行って戻る道すがら、快活に笑うラウドン様に、セイファルトはため息を吐いた。


 本当に笑い事ではない。

 国家の威信を掛けたレベルの祝祭の折に、王宮内で盗難事件など、外に漏れたら大問題である。


「ウェルミィ様も、別に好きで厄介ごとに巻き込まれているわけではないでしょうし」

「ま、そうかもね」


 肩を竦めたラウドン様に、セイファルトは歩きながら話を戻した。


「合鍵はある、けど、使用人長預かり。マスターキーは王族と宰相預かり。疑わしいと思うことすら馬鹿馬鹿しい相手でしたね」

「それらがなくなっていないことは、まだ確認されていないけどね」

「なくなってないでしょう。警備のレベルが、人的にも魔術的にも桁違いですよ」


 合鍵を預かる使用人長でギリギリ疑えるくらいだが、外出の際の持ち出しは厳禁で、そもそもここ一ヶ月ほど王宮の外に出ていないらしい。

 部屋の捜索はされるようだが、もし仮に彼が盗んだとしたなら、そんな杜撰な真似はしないだろう。


 使用人長は元々が高位貴族の次男であり、長いこと王室に仕えている人物でもあるそうだ。

 話を伝えた時に『王家のお膝元で……!!』と呻いて放った怒気は、セイファルトが気圧されるくらいだった。


 アレが演技なら、大したものだと思う。

 

「でも、そうなると誰も出入り出来ないことになりますね」

「最初から中に潜んでいた、ってこともあり得るんじゃないかな」

「どうやって出ていくんですか」


 夜最後に出たのも朝最初に入ったのも、ヘーゼルとヌーア様だったという。


「ヌーア様の目を掻い潜って、ラウドン様なら盗み出せると思いますか?」

「まず無理だろうね」

「……真面目に話してもらえませんか?」


 ズミアーノ様もそうだが、どうにも軽薄組の年長は、真剣さというものをどこかに置き忘れてきている感がある。


 セイファルトがそう苦言を呈した時、道の向こうからトコトコと歩いてきた少女がいた。


 何気なく目を向けて、一瞬行き過ぎたが、バッと思わず二度見してしまう。

 対するラウドン様は、既にそつなく頭を下げていた。


「これはこれは。久方ぶりにお目にかかります。……ヒャオン・ライオネル第一王女殿下」


 ーーー何でこんなところを、一人でほっつき歩いてるんだよ!?


 そう、そこに居たのは、今日の主役であるレオニール殿下の妹君、ヒャオン王女だった。

 腕に黒猫を抱いて、今日は兄のパレードだというのに外に出る気もないのか、高級な布地ではあるが動きやすそうなワンピースドレス姿である。


 一見、凛とした気品を纏う彼女は、焦点の合わない淡い緑の瞳をぼぉっとこちらに向けて、薄い紫色の髪をサラリと流す。


「……ラウドン?」

「そうですよ。こんなところで何をなさっておられるのです?」


 ラウドン様が頭を上げて問いかけると、ヒャオン王女は胸元に……そこにいる黒猫に目を落とした。


「いなくなったから、探しておりました」

「なるほど、供の者は?」

「〝影〟がついております。今から、アダムス様のところに参ります」


 その言葉に、セイファルトの頬が引き攣る。

 公爵令息であるラウドン様と違って、話しかけられてもいないのに、自分から口を開くことは出来ない。


 出来ないが。


 ーーー王女が、こんな時に一人で外に出るとか正気じゃねぇ……!!


 いや、話は聞いている。

 ヒャオン王女は神出鬼没で、アダムス様がいるところにはどこにでもついて行こうとする為、アダムス様には『王都からの外出禁止令』が出ている、という話は。


 だけど、今日はパレードで人がごった返している……裏を返せば、外から来た者や、良からぬことを企んでいる連中も多く混じっているということで。

 

 するとラウドンは慣れているのか、肯定するように頷いてから、言葉を返す。


「なるほど、好きな方に会いに行かれるのは……少々ご令嬢として、はしたなくはありますが……良いことですね」

「そうでしょう?」

「ええ。ですが、アダムスは今日は忙しいのではないでしょうか」

「あら、何故?」

「双子の弟君であるツルギス・デルトラーデ侯爵令息が、本日の主役の一人であるから、ですよ」


 アダムス・デルトラーデ様とヒャオン王女には、共通点がある。

 どちらも双子であるという点だ。

 

「わたくしは、お兄様がパレードに出るけれど、忙しくないわ」

「確かに、確かに。ですが、ヒャオン殿下はレオニール殿下の側近、というわけではありません。しかしアダムスは、双子の弟ツルギスの側近として、パレードに従われる筈です」

「それは知っているけれど」


 ーーー知ってんのかよ!


 というセイファルトのツッコミは、もちろん心の中だけである。


「ええ、ですからアダムスと一緒に居たいのなら、どうでしょう? ツルギスの竜車に乗って、一緒にパレードに参加されては。今から準備を整えれば、間に合うのでは?」


 ラウドンの言葉にやっぱり焦点の合わない瞳で、どうやら思案している様子のヒャオン王女は。


「そうね。そうするわ」


 と、あっさり納得して踵を返した。

 するとほぼ同時に、慌ただしい足音と、ヒャオン王女を呼ぶ声が遠くから響いてくる。


「……やっぱり、目を盗んで抜け出してたみたいだね? こんな日に王女が暇なわけがないと思ったんだよ」


 ラウドン様が、ヒャオン王女の背中を見送りながら、やれやれと髪を掻き上げる。

 

「今からツルギス様の竜車に乗る、となると、周りの人間の苦労がとんでもないことになるのでは?」


 セイファルトは、彼の提案で振り回されることになる人々に同情した。

 しかしラウドン様は、首を横に振る。


「彼女の性格は、王家の方が把握してるだろ。心配しなくても、最初からアダムスと同じ竜車に乗せる予定だっただろうよ」


 じゃなきゃ管理が出来ないからね、と彼は事もなげに口にするが、それは王族としてどうなのか。

 『没落伯爵家のご令嬢を嫁に』と望んで周りを大騒ぎの渦に叩き込んだレオニール殿下が、真面目な人間に見えてくる程である。


 ヒャオン王女付きは、気が休まらないに違いない。


「……彼女の近くにいたら、痩せそうですね。ストレスで」

「冷や汗で服が濡れる方かもしれないよ? ……ん?」


 ラウドン様は、何気なく向けたらしい廊下の外に、何かを見つけたようだった。


「見なよ、セイファルト。あそこに君と僕の愛しの人がいるように見えるんだけど」

「は?」


 言われて、中庭の方に向いたラウドン様の人差し指の先を、セイファルトが目線で辿ると。



 確かにそこにあったのは、ラウドンと結婚したという……痩せた上に性格が変わりすぎて別人かと思った……ローレラルと。

 イオーラの友人としてパレードの貴族観覧に招かれているという、カーラの姿だった。

 

髪飾りは……? というわけで、相変わらずストーカーしてるらしい王女様の登場でした。


そしてローレラルとカーラは何をしてるのでしょうかね?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 途中のヒャオン王女の表記が「王女」ではなく「王妃」になっていましたが「王女」の間違いでないでしょうか?リロウド家のように意図したものでしたらごめんなさい。 [一言] ヒャオン王女の性格…
[気になる点] 第一王女と第二王女の設定がころころ変わり混乱してしまいます。 第二王子と第二王女が双子だと思っていたのですが、ところどころ第一王女が双子となっているので、統一した方がいいかなと思います…
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