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【10/7 コミカライズ3巻発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第一部/裏 最愛の人に祝福を。

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遥かな日に、北へ【前編】

この話は、リクエストにお答えしたかなり未来の話です。


時系列的には、第二章がこれより手前の話になりますので、あまりそういうのを好まない人は申し訳ありません。

 

 ーーー遥かな、ある日。


 エイデスを訪ねてきたイオーラを待つ間、オレイアはウェルミィの元を訪れていた。


 彼女のお腹には、新しい命が宿っている。


「ねぇ、オレイア」

「はい、ウェルミィお嬢様」


 窓の外を見つめるウェルミィの問いかけに、そう答えると。

 椅子に腰掛けてお腹を撫でながら、彼女はぽつりと続けた。


「最近、よく考えるの。お母様は、なぜあんなにもお義姉さまを憎んでいたのかしら、って……」

「……」


 オレイアは、それに答えなかった。

 答えを持っていなかったわけでは、ないけれど。


「私が可愛くて、伯爵家の跡継ぎにしたかったから? でも、それだけが理由じゃ、ない気がするのよね……」


 ウェルミィは、独り言のように訥々と。


「私、お母様が怖かったの。あの、お義姉様に向けている敵意に満ちた目が。……でもあの憎しみは、本当に、お義姉様に向けられたものだったのかしら……」


 結局、ウェルミィに対して、オレイアは何も言わなかったけれど。


「お父様が、お出かけの準備をなさっておられるらしいの。北へ、向かうって」

「……」

「お母様に、会いに行かれるのかしら……」


 そんな風に言われて、心の隅に引っかかっていた気持ちを含めて。

 後日、イオーラに頼まれた魔導具をクラーテス様の元へ運んだ時に、疑問を投げかけた。


「……クラーテス様」

「はい、どうされました? オレイア嬢」


 穏やかなウェルミィの実父は、彼女によく似た、しかしより柔らかい面差しで、こちらに対して微笑みを浮かべる。


「お出掛けの準備をなさっていると、ウェルミィお嬢様から伺いました。失礼ですが、どちらへ?」

「……北の修道院へ。私は、一度イザベラと話し合わなければならない気がしているんだ。……ウェルミィの、懐妊もあるしね」


 伝えるかどうかは、迷っているけれど。

 そう、クラーテス様は言った。


「申し訳ありません。……少しだけ、私に昔話をするお時間を頂戴できますか?」

「うん」

「私は、奥様が嫌いです」


 はっきりと告げたオレイアに、クラーテス様は軽く目を見張ったけれど、何も言わなかった。

 嫌いな理由は、はっきり告げておかなければならないので、言葉を重ねる。


「奥様は、イオーラお嬢様に、大変辛く当たられる方だったので」

「……そうだろうね」

「ですが、あの方はウェルミィお嬢様や使用人には、とてもお優しい方でした。自分も元は平民で、あなた方と何も変わらないから、と」


 もう遠い記憶だけれど、オレイアは覚えている。

 ねぎらいを忘れず、きちんと顔を見て疲れていそうなら暇を出し、問題がありそうなら間に入って親身に相談を聞いていたりした。


 ただ、イオーラお嬢様のことになると人が変わったようになるため、使用人も数ヶ月も経てば皆が辛く当たるようになる。

 

 あれほどお優しいのに、なぜイオーラお嬢様だけは。

 そうした疑問が、ずっとオレイアの胸に燻っていた。


「そんな方が、なぜイオーラお嬢様にだけお辛く当られたのか、私の知り及ぶところではありません。昔、ウェルミィお嬢様が、川に落ちて高熱を出された時、あの方は看病をなさいませんでした」


 オレイアはあの時、内心で憤慨していた。


 頬を張ったイオーラお嬢様に看病をさせておいて、そのことで怒った自分は看病をしないなんて。

 そんな風に思っていたけれど。


「ですが、温くなった水を変えようと廊下に出ると、奥様が廊下の椅子に座っておられたのです」


 ビックリして固まったオレイアを見て、あの方は微笑み、唇に指を当てた。


『ウェルミィは、先ほどの件でわたくしに怯えています。そんな人間が近くにいたら気も休まらないでしょう?』


 そしてオレイアからバケツを取り上げて『後で部屋の前に置いておくから仮眠を取りなさい』と言った。


『あの……でしたら先に、イオーラお嬢様を休ませて差し上げても……?』


 おずおずと尋ねると、奥様は顔をしかめて素気なく告げられた。


『貴女に与えた休息の時間よ。貴女の好きになさい』


 そう言って、去っていった。


「奥様の真意は、私には分かりません。イオーラお嬢様やウェルミィお嬢様を、何か悲しませることになっては申し訳ないので、伝えませんでした。ですが一度、奥様が部屋の中で、ぽつりとこぼされていた言葉をお聞きしたことが、ございます」


 『もっと嫌な子なら良かったのに……』と。

 イザベラが、窓辺から離れを眺めながら呟いていたのが、かすかに聞こえたのだ。


「クラーテス様なら、何かお分かりになるかと思い、お伝えいたしました」

「ありがとう、オレイア嬢」


 クラーテス様は、黙って聞いた後に、そう言ってどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。


「イザベラは、変わっていなかったんだね。……贅沢を覚えて、違う人間のようになってしまったのか、私は騙されていたのか、と思っていたんだけれど」


 何度も頷いて、彼は自分の頬を掻いた。


「私は自分のことを見る目のない愚か者だと、そのせいでウェルミィに辛い思いをさせてしまったと思っていた……でもどうやら、別の意味で目が曇っていたみたいだ」

「……」

「私と別れた後に君が見たイザベラの姿を、よく覚えておくよ。私の知っているイザベラも、優しい人だった。二股をかけて詐欺を働くような人じゃないと、事実を目にしても信じ切れていなかったけど。君の言葉で確信が持てたよ」


 オレイアは、黙って頭を下げた。

 この話をした結果がどうなるのか、分からないけれど。


 イザベラを憎みきれない気持ちが、自分の中にも、多分あったから。

 

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― 新着の感想 ―
いやもうイザベラに関してはほんと、なんというか仕方ないよ...さすがに。
イオーラさん 。°(°´ᯅ`°)°。
[良い点] 面白いと思います 姉妹等女の子達の可愛さが良いです [一言] お母さんこんだけいい人なとこメイドさんとかには見せたり魔導爵には見抜かれたりしてるのに本質を見抜くのが得意なはずの主人公見抜け…
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