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【10/7 コミカライズ3巻発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第一部/裏 最愛の人に祝福を。

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イオーラの独白。


 ーーーわたくしが、貴女にどれほど救われたか。


 ウェルミィはきっと、小指の爪の先ほども、分かってはいないのでしょうね。


 母を失い、失意に暮れていたわたくしは、きっと同じくらいの年頃の子と比べると、ずいぶんとおませさんだったと思うの。


 賢い、と言われるのは、実はあまり好きではなくて。

 人よりも、大人になるのが、早くないといけなかっただけで。


 お母様は、自分が長くないのを、分かっていらっしゃったから。


 そんなわたくしに、屈託なく、明るく、子どもらしい気持ちを取り戻させてくれたのは、貴女だった。


 好奇心旺盛で、くるくると忙しなく動く朱色の瞳。

 陽の光に照らされて、淡く輝くプラチナブロンドの髪。


 はしゃいで、わたくしの手を引いて。

 そうして本当に幸せそうに、愛情いっぱいの笑顔を向けて、『綺麗なお義姉様』『自慢のお義姉様』『優しいお義姉様』と、褒めてくれて。


 そんな貴女こそ、天使のような女の子だったわ。


 母を亡くしたのを、さほど辛いと感じずに済んだのも、きっと横に、貴女がいてくれたから。


 本当に辛かったのは、貴女と一緒にいられなくなったこと。

 両親を名乗るあの人たちが、お母様の首飾りを奪って貴女に与えた時。


 わたくしはとても悲しかったけれど。

 それよりも、貴女の呆然とした顔と、柔らかな心に受けた傷が心配だった。


 ねぇ、ウェルミィ。

 

 ちゃんと気付いていたわ。

 そして、どうしようもなく辛かった。


 貴女がわたくしの為に何かをしようとする度に……無垢な表情を繕いながら、辛辣な提案をしながら、悲しい目をしているのが辛かったの。


 そんなに頑張らないで。

 わたくしは平気だから。


 ウェルミィが一生懸命になればなるほど、仮面を被ることを覚えれば覚えるだけ。


 貴女の本当の笑顔が見れなくなるのが、何よりも辛かったのよ。


 食事を抜かれる空腹よりも。

 失敗をして折檻されるよりも。


 エルネスト伯爵が、わたくしを殺そうとしていることよりも、よほど。

 表で悪辣に見える振る舞いをしながら、わたくしを守ろうとする貴女の影がちらつくたびに。


 それから、貴女の明るい笑顔が見れたのは、アーバインとの婚約が解消された時で。

 本当の笑顔が見れたのは、わたくしがエイデス様の元へ赴く時だったわ。


 貴女を救えないのに、自分だけ逃れなければならない。

 

 必要なことだと分かっていても、身を引き裂かれるようだった。

 それが、貴女の心からの願いだと知っていたから受け入れたけれど。


 違っていたなら、わたくしはどんな手を使っても、一時的にでも、貴女の側を離れたりはしなかった。


 ねぇ、ウェルミィ。


 わたくし、最初はレオを利用するつもりだったのよ。

 裏庭で出会った時、驚かせて、興味を引いて……ウェルミィのことを好きになってもらって、アーバインから引き離そうとしたの。


 あるいは、同情を引いて、少しでも美しさを取り戻す為に利用して、アーバインがそれに気付くように。


 だって貴女、わたくしの為に嫌いな相手に、したくもない色仕掛けをしていたのですもの。


 汚い真似を、貴女だけにさせる訳にはいかないと思ったわ。


 でも、そんな作戦は取れないと、すぐに知ってしまった。

 レオはわたくしの事を、きちんと見ている人だったから。

 

 紫の瞳のことだけじゃない。


 貴女が守るために被らせてくれた皮の奥にある、わたくし自身を見つめたの。


 心の綺麗な人だった。

 ウェルミィと同じくらいに。


 そうして、手を差し伸べてくれた。


 わたくしは弱かったわ。

 こんな人を利用したら、それに貴女が気付いたら、きっと悲しむし、わたくしに幻滅すると思って……怖くなってしまったの。


 そのせいで、貴女を救うのが遅れてしまったのかもしれないと、本当にこれでいいのかと、思い悩んでいたわ。

 ウェルミィがいてくれたから、わたくしは頑張れたのに。


 わたくしは、皆が褒めてくれるような、才能も優しさも持ち合わせていないわ。

 人を想って助ける為に、自分に出来る精一杯を行動に移せるウェルミィのほうが、きっとずっと、優れた人なのよ。


 それでも勇気を振り絞って『ウェルミィを助けるのに協力して欲しい』とレオ達に願ったけれど、すぐに動くのは難しくて。


 伝えてくれたレオの好意にも、応えられなかった。

 わたくしも惹かれていたけれど、貴女が不幸の中にいるのに、自分だけ幸せに身を浸すのは嫌だったのよ。


 だからーーー貴女の計画を利用しようと思ったの。


 デビュタントの日に、貴女がエイデス様に惹かれたことが、分かったから。

 きっと貴女は、彼の元にわたくしを行かせようとするでしょうと、思ったのよ。


 だって。


 貴女が、大切に思っているわたくしを預けようとするのなら。


 その人はきっと、誰よりも素敵なウェルミィを愛してくれるだろう人で。

 ウェルミィが、誰よりも愛せる人だと思ったから。

 

 大好きなウェルミィ。

 幸せになるなら、二人で幸せになるのよって、わたくしはその時に決意したの。


 貴女がわたくしを愛してくれたように。

 わたくしだって、貴女を愛していたのだから。


 こうして二人で、笑い合える日が来て、本当に良かった。


 先ほど、玄関先へと送り出してくれた可愛い義妹の言葉を思い出しながら、わたくしは門に向かって歩いて行った。


『ねぇお義姉様。……レオと、幸せになってね』

『そういうウェルミィも。今、幸せかしら?』


 横に立つエイデスの顔を、チラリと朱色の瞳で見上げた後。

 可愛いウェルミィは、コクリとうなずいた。


 きっともう、大丈夫。

 わたくしには無理だった、貴女の仮面を脱がすことを、エイデス様はあっと言う間に成し遂げてしまった。


 貴女の人を見る目は確かよ、ウェルミィ。

 そんな貴女を、安心して預けられる人が見つかって、本当に良かった。


 門の前で待っていたレオが手を振るのに。

 わたくしはそっと寄り添って……少しはしたないけれど、自分から抱擁した。


「い、イオーラ?」


 少し頬を赤くして、戸惑ったように呼び掛けてくる愛しい人に、微笑みかける。


『私にとっても……ずっと大切なお義姉様よ』


 泣きながら貴女が伝えてくれた言葉が、とても嬉しくて。

 ウェルミィの前ではこらえていた安堵の涙が、頬を伝う。


「ど、どうしたんだ? 何かあったのか?」

「うん……レオ?」

「はい?」

「ウェルミィが……貴方のことを認めてくれたわ」


 そう伝えると、レオはぱちぱちと瞬きをした。

 

 ちょっと疑問を抱いた時に、彼がよくやる仕草で。

 意味を悟ったレオは、満面の笑みを浮かべて、わたくしを抱き締めてくれた。


「……本当に!? イオーラ!」

「ええ」


 『レオと幸せになってね』と、ウェルミィは言ってくれた。

 

「待たせて、ごめんなさい」

「たった四年だよ。そんなに待ってない」

「十分長いでしょう。……ありがとう、レオ」


 レオには、全部話していた。

 待ってくれるなら、ウェルミィが幸せになるまでは、待っていて欲しいって。


 その約束を、彼は守ってくれた。


 馬車の中に移動して、手を握って横に並んで座りながら、わたくしはレオに話しかける。


「ねぇ、レオ」

「何?」

「陛下にお認めいただいても、きっと色んな人に、わたくしでは釣り合わないと言われるわ」


 元伯爵家の令嬢で、潰れることが決まっている家の女伯。

 その上、一度婚約を解消している子女。


 後ろ盾も何もなく、王家に得もない婚約だ。

 陛下がレオにお話した通りの『自由恋愛にうつつを抜かした』結果の。


 王太子妃に相応しくないという声は、きっと大きい。


「……負けるつもりはないだろう? 俺もないよ?」


 わたくしの気持ちを、きちんと分かってくれている言葉に、思わず頬が緩む。


「ええ。だから……エイデス様のお誘いを、受けようと思っているの」


 エイデスは、魔導省ではなく、オルミラージュ侯爵家が最大融資を行なっている多国籍組織……国際魔導研究所への入所資格を与えることを提示してくれていた。


 ウェルミィに約束したことを、彼もしっかりと守ってくれる。

 わたくしに天から与えられた、人よりも少しだけ優れた才能を、最大限に活かせる場所を用意してくれた。


「そこへ所属して成果を出せば、魔導爵位に相当する、上位国際魔導師資格が授与されるそうなの」


 正確には、それによって箔をつけて、魔導の力と王家へのツテを欲する侯爵以上の良家に、養子縁組する推薦状を書いてくれるという話だった。


「……結構時間が掛かるんじゃ?」

「それがね。魔力負担軽減に関する卒業論文が、学会に認められているらしくて……あれなら、サロンでこっそり試していたことを流用すれば、すぐに実用化に漕ぎ着けられるわ」


 あの貴族学校のサロンに参加していた方々は、皆とても優秀で人格者だった。

 彼らとの有益な討論がなければ得られなかった成果の数々は、まだ公表していないことも含めてたくさんある。


 古代魔導具に似た効果を再現した錯覚魔術も、その一つ。


 場所と人を、用意してくれたのは、レオとウェルミィだ。

 優秀なのは、二人のお眼鏡に適ったのだから、当然なのだろうけれど。


「本当に、感謝してもしきれない……」


 流通経路や生産については、オルミラージュ侯爵家とカーラの実家の協力を取り付けられたなら、心配ごとどころか、盤石と言ってもいいくらいの体制が得られる。


「皆がそれで得られる財産権を、ライオネル王家にも一部渡すことに同意してくれれば、話が早いと思うのだけれど……」

「あのサロンのメンバーに、その権利を主張するヤツなんかいないだろ。そもそも君が主体になってやってたことじゃないか」

「そうかしら……」


 何をしても父に手柄を奪われていたから、わたくしはその辺りのことがよく分からない。

 『自己評価が低い』と、散々仲良くなった人たちに言われていても、あまり実感が湧かなくて。


「大丈夫だよ。君は君の思うままに、やっていい。イオーラに出来ないことをやるのが、俺の役目なんだから」


 ーーー権力は、使えるうちに使おうぜ。


 そう言って、レオが笑うから。

 わたくしはうなずいて、少しだけ彼に体を寄せる。


 ウェルミィと一緒で、レオもきっと、分かってはいないでしょう。



 ーーーわたくしが、そんな貴方に、どれほど救われているか。

 

 

次にクラーテスとウェルミィ、その次にエイデスとアーバインの話を書く予定です。

多分、ザマァ的にはイマイチかもしれませんが、馬鹿どもの末路ですね。


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― 新着の感想 ―
自己評価の低さはあの叔父のせい (ゔ◉言)´・◡・,⊂) レオによる場の提供、 ウィルミィ審査(有能は弾き姉の元へ。ダメな奴は吸収)。 二人の鉄壁ガード、GJ!!!!!
[一言] レオは腹芸の出来るタイプでは無いからねぇ… ウェルミィの人を見る目は大したモンだわ〜。
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