序章
イオーラ・エルネストが行方不明になった。
その犯人と目されたのは、エルネスト伯爵家で彼女を虐げていたとされる義妹、ウェルミィ・エルネスト。
貴族犯罪の摘発に従事するウェルミィの婚約者、魔導卿エイデス・オルミラージュはこの行方不明事件の捜査に乗り出し、同行を求める為に貴族学校へ赴くが、彼女は逃亡。
何者かの手引きにより、貴族学校を抜け出したウェルミィは、指名手配されながらも王都内を転々とする。
そんなウェルミィを確実に追い詰めていく魔導卿と魔導省の捜査官は、最終的に王城にて彼女を再び発見する。
開催されていた夜会に、堂々と姿を見せたウェルミィを。
ーーー来たわね。
イオーラは、思わず笑みを浮かべる。
来ると思っていた。
あの子なら、ちゃんとこの場に現れると……イオーラの信じた通りに。
彼女の逃亡の手引きをしていたのは、レオである。
どこまで気づいたのだろう。
イオーラが行方不明と聞いて、彼女は何を考えただろう。
「もう逃げ場はない。ご同行願おう」
魔導卿の落ち着いた低い声に、ウェルミィが応える。
「あら、その必要はないわ」
魔導卿の言葉に、ウェルミィが艶を含んだ声を出す。
いつもの『演技』の時に出す、意思と輝きに満ちた声を。
「だって行方不明になった筈のお義姉様は、ここにいるもの。……そうでしょう?」
彼女の言葉を聞いて、イオーラは歓喜した。
何故、などと考える必要もない。
可愛い義妹がその『意志』をもって行動したのなら、理由は一つだけ。
もしイオーラが彼女の立場ならば……もし、ウェルミィが行方不明になったのなら。
持てる限りの思考と、打てる限りの手を打って見つけ出す為に動くに決まっているのだから。
イオーラは、彼女の声に応えて、玉座のある壇上の下手からゆっくり姿を見せる。
「何故分かったの? ウェルミィ」
「何故って、何故逆に分からないと思ったの?」
その場にいた貴族らがざわめく中、口元に扇を広げた彼女を、イオーラは壇上から見下ろした。
ーーーウェルミィだわ。
プラチナブロンドのシニヨンに、猫のような朱色の瞳。
赤いドレスを身に纏い、艶然と匂い立つような華やかさに、はちきれんばかりの活力を感じさせる佇まい。
大広間の中央。
まるでこの場の支配者であるかのように、レオを従えて悠然と。
ウェルミィが、そこに立っていた。
「幕引きをしましょう」
「幕引き?」
笑みの形に目を細めてウェルミィが告げるのに、イオーラは首を傾げた。
「ええ。だってーーー私を嵌めようとしたのは、貴女でしょう? お義姉様」
ウェルミィが告げた言葉に、イオーラは彼女と同じように扇を口元に広げて、笑みを深める。
まだ。
まだ、喜んではいけない。
喜んでいることを、悟られてはならない。
彼女が、事の真相を口にするまでは。
全てを明らかにして、その想いを口にするまでは。
まだ今は、断罪の始まり。
これから、ウェルミィによる断罪が始まるのだから。
ーーー全て、イオーラの計画通りに。
最愛の妹を救う為の、仕組まれた断罪劇が、再び。
まるで鏡映しのように、お互いの立場を入れ替えて。




