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【ノベル6巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部/裏 其は、森羅にして万象故に。

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ウェルミィ・オルミラージュの敗北。②


 ーーーそうして、3ヶ月。


「今日はようやく、お義姉様にこの子をお披露目ね♪」


 ウェルミィは上機嫌だった。

 娘のいる生活に慣れるまでの間は、ヘーゼルと一緒にわたわたしながら、ヌーアやアロンナに子どもの世話を教えて貰う日々だった。

 

 何せ、すぐに壊れてしまいそうな小さい我が子には、理性というものがない。

 感情の赴くままに生きていて話も通じない……ウェルミィにとって、そんな強敵は初めてである。


 これまで相手にしてきた誰よりも厄介で、そして絶対に勝てない相手だった。


 今はすやすやと眠っているけれど、いつ起き出して泣き出すか分からない。

 たくさんの手助けを乳母を含めて貰っていても、屋敷の中で泣いていれば目が覚める。


 ヘーゼルも寝不足気味で、エイデスも似たようなものだった。

 彼は元々眠りが浅いたちなので、別邸に居ても良いと言ったのだけれど、『慣れる』と返された。

 

 朝、仕事に赴く前に顔が見たいらしい。

 親バカだろうかと思う。


「今日は出かけなくて良いの?」


 ウェルミィが尋ねると、エイデスは薄く笑みを浮かべる。


「王太子妃殿下がおいでになるというのに、家長がいなければ礼儀が立たんだろう?」

「って言って、休みを入れたのね……」


 客間でウェルミィの横に腰掛けて、こちらの髪を撫でながら。

 娘を見てエイデスが目を細めると、コンコン、とドアノッカーの音がした。


「おいでになられました」

「通せ」


 聞こえて来た家令カガーリンの言葉に、エイデスは返答しながら腰を上げる。


「お義姉様ね!」

「ああ。そして、もう二人」

「え? 三人なの? ……レオ? と、誰?」


 聞いていないけれど。

 思わず眉根を寄せるウェルミィに、エイデスは小さく首を横に振る。


「レオではない。だが、二人とも見ず知らずの誰かではない」


 彼はどこか緊張しているようだった。


「誰なの?」

「それをお前に伝えるのも、私ではない。だが……後悔を胸に抱く者は許されて良いと、私はそう思うのでな」

「……?」


 そうして、開いたドアの先を見ると……そこに立っていたのは、お義姉様とミザリだけだった。


「ウェルミィ、体は大丈夫?」

「ええ、とても元気よ」

「そう。なら、良かったわ」


 すっかり王太子妃殿下の風格を纏ったお義姉様は、嬉しそうに頷いて、エイデスの座っていたウェルミィの横に静かに腰掛ける。


「他にも来客がいるって聞いたんだけど。今」

「ええ。別室で待っていていただいているわ。その前に二人で話したくて」

「では、我々は出よう。先に彼らに会っておく」


 エイデスが言い、侍女らと共に部屋を出る。

 間際に、ミザリが小さく手を振ったので、振り返しておいた。


「ミザリ、すっかり板についたわね」

「ええ。でも、中身は変わっていないわよ。あれは、お仕事用の顔ね。ヘーゼルは?」

「似たようなものよ。お友達だもの」


 ふふ、とお義姉様と笑い合ってから、ウェルミィは改めて問いかけた。


「それで、そろそろお客様の名前を教えてくれても良いんじゃない?」


 そう問いかけると、お義姉様は柔らかく頷いた。



「一人は、クラーテス様よ。……お義母様と一緒に、来て貰ったわ」



「……!」


 ウェルミィは、その言葉に深く息を吸い込んだ。

 

「ねぇ、ウェルミィ」

「会わないわ」


 お義姉様から顔を背けて、即座に断じた。


 今更、何故会わないといけないのか。

 奥歯を噛み締めると、背中の方から少し困ったようなお義姉様の声が聞こえる。

 

「ウェルミィ……」

「あの人は、お義姉様を殺そうとしたのよ。絶対に許さないわ!」


 思わず腕に力がこもりそうになるけれど、生まれたばかりの娘を抱いている腕でそれは出来なかった。

 だけど、お義姉様は諦めてくれない。


「ねぇ、聞いて? ウェルミィ」


 お義姉様が静かに立ち上がって回り込むと、ウェルミィの顔をそっと両手で包む。

 思い切り眉根を寄せた顔を上げると、目の前にいつもの、優しい笑顔があった。



「ウェルミィ。……貴女の抱く、その憎しみは、本来わたくしのものよ。貴女に預けた覚えはないわ」



 表情と裏腹に、その言葉には確かな力があった。

 そして、はっきりと告げる。


「ウェルミィ。わたくしは、あの人を許すわ(・・・・・・・)。だってお義母様は、わたくしが知らなかったのと同じように、知らなかったのだもの。わたくしがサバリンの子ではないことも、お母様のことも、エルネストの事情も」

「知らないからって、許されて良いことと悪いことがあるわ!」

「ええ。でも、わたくしは許すわ。……だってわたくしが願うのは、ウェルミィ、貴女の幸せなのだから」


 お義姉様は、娘に目を落とす。


「可愛いわね、ウェルミィ。貴女の娘よ。わたくしよりも、もっともっと、貴女にとっては可愛いでしょう?」

「……ええ」

「誰かが、この子からエイデス様を奪ったら……貴女は、その人を許せるかしら。わたくしは、貴女がそんな目に遭ったら、地獄の底まで追い詰める覚悟があるわ。その血筋に至るまで、根絶やしにしても足りない……」

「お義姉様……」

「きっと、お義母様も同じだったのではないかしら」


 お義姉様は、娘を潰さないように、そっとウェルミィの頭を胸元に抱き締める。


「ねぇ、ウェルミィ。知らないことは罪ではないのよ。そして、わたくしの気持ちがわたくしのものであるように……貴女の気持ちは、貴女のものなの」


 その温かさに包まれて、ウェルミィは目を閉じる。

 お義姉様の声だけが聞こえる。


「貴女が自分の破滅と引き換えにしてでも、と、望んでくれたように……わたくしは、今、とても幸せだわ。だから貴女も、本当に幸せになって良いのよ」

「でも……でも……!!」

「貴女は分かっているのでしょう? だって、お義母様は平民で、魔術が使えないもの。……そして貴女の朱色の瞳は、全てを見抜くのだから」

「……!」

「お義母様が、クラーテス様を裏切った訳ではないことも。お義母様の葛藤も。全部全部、貴女は分かっていた筈よ。その上で、わたくしの為に、全てを切り捨てた。……だから、わたくしは返すわ。貴女がわたくしの為に捨てようとした、とっても大切な、最後の一人を」


 お義姉様が体を離して、ウェルミィを見下ろす。

 いつだってウェルミィに向けてくれる、その柔らかな微笑みで。


「だってお義母様も、ウェルミィのことは、確かに愛していたのだから」

「……お義姉様。それでも、私は、許せないのよ……!」

「許せないと思うのなら、その気持ちをぶつければ良いわ。でも、会って話さなければ、お義母様がどう思うかは分からないでしょう? それにウェルミィも」


 お義姉様はまた娘に目を向けてから、ウェルミィの額に口付けを落とす。


「だって貴女も、母になったのだもの。お互いを大切に想う二人が、わたくしの為に傷つく必要は、もうないのよ」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついにウェルミィとイザベラの対面のときですか イザベラは許されようと思っていないかもしれないですね、、、 ここは被害者であるイオーラが許す以上、それをウェルミィにも尊重してもらいたいところ…
[良い点] 子供として、同じ子供であるお義姉様に危害を加える母が、身内だからこそ許せないのはよくわかる。 母親になったから違う視点ももてるだろう、と諭すイオーラもわかる。 ウェルミィは、会ってしまえば…
[良い点] ウェルミィがイザベラのサバリンへの憎しみに気付かない訳ありませんでしたね・・・。それでも許せないウェルミィの気持ちも分かりますが
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