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【ノベル6巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部/裏 其は、森羅にして万象故に。

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エイデスの出自。

 

「本当に、裏切り者しかいないわね! よくも私を嵌めてくれるじゃない!」


 ウェルミィが睨み付けると、ヒルデは軽く肩を竦めた。


「心外だな。ボクは『君』を裏切ってなどいないよ。どちらも『君』だろう?」

「あれは私じゃないわ!」

「間違いなく『君』だよ。どこまでも、王太子妃殿下とオルミラージュ侯爵の為に一生懸命で、ついでに人と世界を救ってしまう、とんでもない女傑さ」


 ヒルデは、言葉と裏腹に申し訳なさそうな顔で目を逸らす。


「君の最大の敵は、君自身だった。ただそれだけの話だよ。どちらにせよ、『君』の勝ちだ」


 ーーー全くもう!


 その言葉は、こういう時に使う言葉じゃない筈である。

 もっとも、自分が二人いてどっちの陣営も自陣営、なんていう状況は普通ではないのだけれど。


「貴女とオレイアと……後は誰が『向こう側』なの? レオ?」

「王太子殿下は君側だよ。エサノヴァだった君と接触はしたようだけれど、あの方が王太子妃殿下を危険に晒すことを見逃す人なら、君は王太子妃殿下を預けはしなかっただろう?」

「……それは、そうね」

「どちらかと言えば、大公国四公家が『もう一人の君』の協力者だったんじゃないかな? エサノヴァと『語り部』の拠点は、大公国だったんだろう?」

 

 言われてみれば、その通りだった。

 あの時は気づかなかったけれど、バーンズ様はお義姉様を救い出す時に、邪魔をしたブラード・ハイドラにも呼びかけていたのである。


 ーーーなら、その辺りの事情は多分、よく分からないままね。


 推測は出来る。

 彼らは愛し子の血統を守った十二氏族の末裔であり、【魔王】のことを知っていた可能性が高いからだ。


 世界を襲う【災厄】を防ぐことを餌に釣れば、あの状況を作り出すのに協力するのは、むしろ当然とも言えた。

 

 最も深く事情を知っていたのが、〝水〟のブラードと〝土〟のイズィースであり、残りの二人は情報的には、中立に近い立ち位置だったのだろう。


 だからお義姉様が取り込まれた瞬間だけ、少し混乱が起こったのだ。


『重要な情報は、知っている人間が少なければ少ない程、秘密が漏れる可能性が低くなる』から。


 だから『語り部』との対面の際に、十二氏族以外の要因を排除したのだろう。


 ヒルデは秘密を知りつつも、心情的には『こちら側』だ。

 『もう一人の魔王候補』と『ウェルミィ・リロウド』が口にしたズミアーノは、エイデスやウェルミィも上回る策謀を張り巡らせる人物であり、読み切れない要因の一つ。


 また、パーティーでの襲撃の際、あるいはお義姉様が取り込まれる際、もしヌーアが側に居たら計略は失敗していた可能性があった。

 ムゥランが、エイデスが襲われる直前にウェルミィに助言を与えたことは、イレギュラーだと本人は言っていたけれど。


 ーーー『語り部』ともう一人の私なら、そこまで読めていた可能性もあるしね……。


 助言があったからこそ、ウェルミィはあの時、お義姉様の側にヌーアを行かせたのだ。

 自分なら、『まず第一に考えるのはお義姉様の安全』だという確信があったからこその、見逃しだったのだろう。


 思い返せば返す程、自分が読み切られている事が腹立たしいが、それは同時に、自分だからこそでもある。


「……もう良いわ」


 どれだけ考えても『未来を知る自分』ならそう動くだろう、という気持ちしか出て来ない。

 もう終わった上にムカつくことばかりを考えていても、仕方がないのである。


「エサノヴァ」

「はい」


 黙ってやり取りを聞いていた彼女に、ウェルミィは問いかけた。


「それで、貴女はどうしたいの?」


 会いに来た目的の一つは、疑問を解消すること。

 そしてもう一つは、それを聞きに来たのである。


「と、言うのは……?」

「貴女の罪は不問に付されるわ。少なくとも、私は『ウェルミィ・リロウド』のやったことを許すと決めたから。だからどう振る舞うのも、貴女の自由よ」


 ウェルミィは、そこで小さく微笑んだ。


「……アロンナのところに、帰りたい?」


 そう告げると、エサノヴァの瞳が揺れる。

 ウェルミィとしては、彼女の真実を知った以上は、もう悪感情を抱いていなかった。


 となれば、残る問題はそれだけ。


「あの人は、貴女が居なくなった時に泣いていたそうよ。デスタームの者として、女主人に忠誠を捧げた貴女を、アロンナは責めないでしょう。だから、どうするかを決めなさいな」

「よろ、しいの……ですか?」


 エサノヴァは、唇を震わせる。

 彼女も、自分の母を裏切るのは本意ではなかっただろう。


 イズィースも、別れ際にアロンナを愛していたと口にした。


 なら、その使命を果たして自由になった者に選択肢を与えるのは。

『ウェルミィ・リロウド』の後始末をするのは……ウェルミィ・オルミラージュの仕事だ。


「望むのであれば、貴女にもイズィースにも、アロンナと話し合う場を。その後、ライオネルに残ることを望むのなら、もう一度オルミラージュ侯爵家の侍女や執事として雇い入れるわ」


 ウェルミィは扇を広げると、自分の口元を隠して軽く目を細める。

 


「ーーーその時は、ウェルミィ・オルミラージュの侍女として、今度は私の為に働きなさい」



 〝土〟の血族である彼女にも、ウーヲン同様に腕輪による枷は嵌めることになるだろうけれど。

 エサノヴァは目を伏せると、はらりと目から涙が溢れる。


「それが……叶うのであれば。母様に謝って、この先も……ウェルミィ様に、お仕えしたいです……」

「良いでしょう。今から、イズィースにも話を通しに行くわね」

 

 ウェルミィが立ち上がると、エサノヴァも立ち上がって、深く頭を下げる。


「ありがとう、ございます……!」

「ええ。……貴女も、世界を救った英雄の一人よ。英雄には、報酬が与えられるの。胸を張って誇りなさいな」


 ウェルミィが部屋を退出するまで、エサノヴァは頭を下げ続けていた。

 廊下に出てドアが閉まると、ヒルデがポツリと疑問を投げかけてくる。


「そういえば、オルミラージュ侯爵はどうなさったのかな?」

「あの人はあの人で、自分のすべきことをしに行ったわよ」


 エイデスの因縁は、まだ終わっていない。


 〝水〟の大公ピエトロ・ハイドラによって義母と義姉を奪われた彼は、自らの母親までもが『エルネストの婆や』としてライオネルに居たことを知った。


 その件があったのは、最初のパーティー……バルザム帝国宰相イースティリア・ウェグムンド侯爵にそれを伝えられ、初めてバーンズと対話した時だ。

 彼はその日の夜に、ウェルミィと話し合ったのである。


『一つ、疑問点があるんだけど』

『聞こう』

『婆やが貴方のお母様だとお聞きしたけれど……あの人、どう見ても自分で言った通りに70代くらいの外見だったのよね。おかしくないかしら?』


 ウェルミィの疑問に、彼女の姿を知らないエイデスが目を細める。


『確かに、そうだな。彼女はゴルドレイよりも、長年仕えていたと聞いている』

『けれど、私が会った婆やは、貴方のお母様なのよね。辻褄が合わないでしょう?』


 幾ら、エイデスの本当の父親であるイングレイ様の弟よりも10年上だったとしても、その出会いの後にエイデスを産んでいるのである。


 その当時に10代前半だった筈のエイデスを、60歳で産んだことになる。

 普通に考えたら、あり得ない話だ。

 

 だけれど、その夜は答えが出なかった。

 ずっと引っかかっていたその疑問の答えは……全てが終わった後に、出たのだ。

 

『母は……〝夢見の一族〟と繋がりがあった……』


 ウェルミィ・リロウドを見送り、エイデスと共に貸し与えられた大公邸の寝室に戻った後、彼はそう口にしたのだ。


 ゴルドレイが、自身を『〝闇の拳士〟である』と認識していたのは、お義姉様のお母様がそう伝えていたからだと言う。

 その後、婆やの代わりにお義姉様やウェルミィの世話をさせる為に雇い入れたのは……オレイア。


 詳しい話を聞いたところ、最初に彼女を見つけてきたのは婆やであり。


『オレイアの実家は、ヤハンナ様のご実家の傍系……ね』

『そうだ。彼女は、自身の実家と繋がりが既に薄く、〝夢見の一族〟は『語り部』との繋がりを失ったと口にしていたのだろう?』

『ええ』


 エイデスは感情を抑えているような顔で、膝の上に乗せたウェルミィの頭を撫でながら、遠くに目を向ける。


『もし、そのホリーロ公爵夫人の認識が間違っていたとしたら?』


 彼女自身は、『語り部』との繋がりがなかった。

 故に、『実家が当主の資格を持つ者を取り戻すのを諦めた』と、状況から判断していたのなら。


『『語り部』は夢を渡るし、人を〝夢〟に取り込む事が出来るわね……それは世界のどこに居ても、関係なく人と話をする事が出来るということだわ』

『ああ。〝夢見の一族〟は、『語り部』と切れていなかった。ずっと、彼の意志のままに動き……〝精霊の愛し子〟とお前を取り巻く状況を整えていたのなら』

『……どこかのタイミングで、本物の婆やと、エイデスのお母様が入れ替わった……』


 もしかしたらそれは、本物の婆やが死んだ時だったのかもしれない。


 『語り部』と、お義姉様のお母様の繋がりは分からないけれど。

 エイデスのお母様が『語り部』の意思を受けた〝夢見の一族〟と繋がっていたとするのなら。


『婆やは……どうやって貴方のお父様と知り合ったの?』

『聞いたことはない。しかし、何処かのご令嬢だったという話は、聞かない。家系図にも、名のみが記されていた』


 ウェルミィは、一つの推測を立てていた。

 多分、エイデスも同じように考えているのだろう。


 けれど、口にするのをお互いに躊躇っていた。


 彼の出自そのものまでもが……ある一つの『罪』に関わっていることだという答えに、辿りついてしまっていたからだ。


 ウェルミィは彼を抱き締めて、抱き返してくれた彼の耳元で囁く。



『貴方のお母様は……ピエトロの『手足』……きっと元々は〝水〟の血統の暗殺者だった……のね』



『……ああ』


 エイデスの義母と義姉が呪いの魔導具によって、殺された時。

 ピエトロは隠蔽を図ったが、失敗したとブラードは言っていた。


 その前にも、オルミラージュ侯爵家に仕掛けようとした事があり、その際は〝水〟の『手足』が一人、行方不明になったと。


 誰に仕掛けようとして、誰が行方不明になったのか。

 10も歳が違う、ライオネル貴族でもないエイデスのお母様と、エイデスのお父様はどうやって知り合ったのか。


 そうして、どうやって『婆や』に化けていたのか。


『私は……〝水〟の血も、引いている……』


 答えは〝変貌〟の魔術。

 そう考えれば、全ての筋が通る。


 【魔王】エイデスは、【魔王】だったから、エサノヴァの容姿を隠す魔術を行使出来たのでは、なかった。

 もう一つ『ウェルミィ・リロウド』が使った誰にも痕跡を悟られない〝影渡り〟と隠蔽の力は、〝土〟の血を引くエサノヴァと【魔王】の合わせ技だった。


『決着を、つけなければならない。ーーー全ての『罪』に』

『ええ。一緒に行く?』

『いや、一人で確かめたい……許してくれるか?』

『勿論。だって私は『貴方の言うことを何でも聞く』女よ?』


 肩口に埋まったエイデスの頭を撫でながら、ウェルミィは微笑む。


『エイデス。貴方がどんな生まれの人間であっても……たとえ【魔王】でも、貴方は私の大切なエイデスよ』 


 すると、ウェルミィを抱き締めていた腕の力が、少し緩んで力が抜ける。


『……ありがとう、ウェルミィ。お前が居てくれて、良かった』

 

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