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【ノベル6巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部・表 導くは双玉。

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新たなる十二氏族。

 

 エイデスは、キィン、という耳鳴りと共に、あの声を聴いた。


 ーーー『お前は救え』。


 ウェルミィの『解呪』が瘴気に開けた穴に向かって、咄嗟に左手を伸ばすと……胸元から、自分のものではない魔力が噴き出してくる。


「……!?」


 それは目の前にある瘴気の塊と同質の力(・・・・)

 ブローチに飾られた〝希望の朱魔珠(ウィルヴァーミリオン)〟から、それは齎されていた。

 

 ーーーまさか。


 エイデスがそこで思い出したのは……テレサロが受けた神託。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


導くは双玉


破滅の対価に祝福を

絶望に臨みし希望を

深淵こそ安寧を望む


紫月花ハイドラは呑まれ堕ち

朱花魁ロキシアに穿たれ開き

青玉簾ゼフィスが支えし時に

黄陽菊サンセマは覇道を征く


其は、森羅にして万象故に


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ーーーあれは、四公の行く末を示していたのではなかった。


 今、この場の状況だ。


 双玉の導き……〝太古の紫魔晶(ロストヴァイオレット)〟と〝希望の朱魔珠(ウィルヴァーミリオン)〟。


 破滅と絶望と深淵の三節は、『語り部』のことを指していたのだ。

 

 呑まれ堕ちた紫月花ハイドラは、イオーラ。

 穿った朱花魁ロキシアは、ウェルミィ。


「ーーー〝こじ開けろ〟!!」


 エイデスもまた、自身の魔力と何処かから齎された【魔王】の力を束ね、彼女の開いた穴を押し広げていく。


 子どもが一人、屈めば通れるかどうか程度の、穴。

 しかし深淵の奥に、まだイオーラの姿は見えない。


 まだ、足りない。


 ーーー何がいる?


 イオーラを……ウェルミィの大切な義姉を救う為に必要なものは、何か。

 

 支えし青玉簾ゼフィスが、エイデス自身であるとするのなら。

 覇道を征く黄陽菊サンセマは……一人しかいない。


 足りない、最後の欠片(ピース)は。



「レオニールッッ!! ーーー征け!!」



「おぉおおおおおおおお!!」


 レオは、攻撃の金瞳を輝かせ、エイデスが吼えるよりも前に動いていた。

 ソフォイル卿が吹き飛ばされた時に取り落とした聖剣を、走りながら拾い上げる。


 獅子の血統、レオニール・ライオネル。

 十二氏族の英傑……〝光の騎士〟の、血脈を継ぐ者。


 そして、〝精霊の愛し子〟に選ばれし存在。


 聖剣が反応する。

 【魔王】を打ち倒す宿命を受け継いできた剣が、資格を持ち、愛し子の愛を受けた存在の意志に応える。


 レオが魔力を込めると、白く刀身とその体を輝かせ、駆け抜ける彼を襲う瘴気を引き裂いていった。


※※※


 オレイアは見た。

 覆い被さるゴルドレイの肩越しに、朱の光と、青の魔術と、金剛の覚悟を。


 けれど、届かない。

 瘴気が、ウェルミィお嬢様によって開かれた穴を埋めようとしている。


 中に、もう一人の主人を取り込んだまま。


 ーーーイオーラお嬢様は……!


救われると言った・・・・・・・でしょう……!」


 約束は、破らせない。


 〝紫紺の髪と瞳を持つ魔女〟は、己の血統魔術を発動する。

 その力は、本質的には精神干渉。


 あの瘴気の塊は、『語り部』の意志によって、イオーラお嬢様を取り込もうとしているのだ。


 ならば。


 ーーー〝止まれ〟!


 紫の光を纏わせた瞳で、オレイアは瘴気の球体を射る。

 青と朱の魔術を押し潰そうとしていた、瘴気の動きが僅かに緩む。


 ひどくゆったりとした視界の中で、王太子殿下が走るが、まだ、足りない。

 もう一つ、何か。


 と、思った瞬間に、反対側の壁際から、清浄な光が放たれた。


※※※


 テレサロは見ていた。

 ソフォイルに支えられながら、王太子殿下が駆ける様を。

 オルミラージュ侯爵から噴き出す【魔王】の力と、ウェルミィお姉さまから放たれる精霊の力を。


 そして、魔女の精神干渉。


 ーーーわたし、も!


 テレサロは、聖女なのだ。

 別に望んでなったわけじゃなくたって。


 助けてくれた人達を助ける力が、今のテレサロには、ある。


 ーーー〝癒やせ〟!!


 テレサロが選んだのは、瘴気を浄化する力……ではなかった。


 『語り部』は無駄だと言った。

 浄化なんかで、自分は救えないと。


 彼の体は、魂は、瘴気に侵され切って、ズタズタだった。

 けれど……けれど同じような状況に遭ったミザリは、それでも生きた(・・・・・・・)


 なら、きっと……『語り部』だって。


 精神干渉で動きが緩んだ瘴気そのものの……元々は『語り部』の体であったモノの、魔力脈が、テレサロにはハッキリと見える。

 その中心にある『力』に呑まれかけた魂に、治癒魔術をかけた。


 ーーーお願いです……『力』なんかに、負けないで……!


 テレサロは祈る。

 自分は救われない、と彼は口にした。


 その魂が、絶望に泣くのなら……救われて欲しいと。


 相手が誰であっても、テレサロはそう思うから。

 想いが通じたのか、は、分からない。


 けれど……瘴気の嵐が、少しだけ緩んだ。


※※※


「ざけやがって……!」


 バーンズは、吐き捨てた。

 こういうのが、自分は嫌いなのだ。


 運命だの、宿命だの、魔物の脅威だのという言い訳が。


 ーーー神や邪悪如き・・が、人様の営みの上に立ってると、勘違いしてんじゃねぇぞ!!


 女神が人間を守る存在だというのなら、そもそも全部守り切れば良いのだ。

 出来ない時点でお粗末なクソだ。


 もし仮にいたところで、自分たちと大して変わらない程度の存在でしかないのだ。

 だったら、邪悪だって大して変わりはない。


 何せ【魔王】とやらは、現れては人間に潰される程度の存在だと、『語り部』自身が口にしていたのだから。


 ーーー全力で、ぶっ潰す!!


 この場にはいる。


 クソ野郎と叫んだオルミラージュ夫人が。

 戯言と切り捨てたオルミラージュ侯爵が。

 果敢に突っ込んでいくレオニール殿下が。

 

 バーンズやスージャと同じように、『武人の魂』を持った連中が、この世界にはまだいるのだ。


「ーーー〝(たぎ)れ〟! 全員だ!!」


 バーンズは、〝火〟の血統魔術を発動する。

 駿山を易々と超える、熱と身体強化の恩恵を多くの者に与える魔術が、緩やかになった瘴気の嵐を焼いて、全員に降り掛かる。


「ムゥラン兄ぃ! 騎士! 拳士ッ!! ……ブラード!!」


 その場にいる動ける野郎全員に対して、吼える。


「大公命令だ!! ーーー突っ込めェッ!!」


 そう吼えながら、バーンズも床を蹴った。


※※※


「……行くぞ」


 バーンズの咆哮を聞いて、体に力が満ちたムゥランにそう言ったのは……イオーラが瘴気に取り込まれそうになった時に阻んだ、ブラードだった。


 ーーーどういうつもりだ?

 

 内心で思いながら、背を向けて走り出した彼にムゥランは追従する。


 一体こいつの狙いは何なのか。

 必要だと言って取り込ませたライオネル王太子妃殿下を、何故今度は助けようとしているのか。


 考えが全く読めない。

 だがムゥランは、ブラードが何か、確固たる意志を持って行動していることを知った。


 オルミラージュ夫人は、ブラードが嘘を吐いていない、と言った。

 おそらく、魔術の気配を感じなかったのだろう。


 朱の瞳の力は、ムゥランも知っている。

 ブラードも、おそらく知っている筈だ。


 ならば、己の本質を隠す隠蔽魔術を行使したのか。

 しかし『大公選定の儀』の場で、他の誰にも気配を感じさせない魔術すらも、オルミラージュ夫人は見抜いていた。


 エサノヴァの〝変貌〟を。

 だが彼女自身に、魔術の痕跡を追う力はないとも、聞いていた。


 ーーー何か、カラクリがある。


 オルミラージュ夫人は、特別優れている訳ではないのだ。


 であれば、そこで何かが捻れている。

 彼女にだけは誤魔化しが効かない状況と、彼女だけは誤魔化せる状況が、あるのだ。


 ーーー隠蔽魔術の、使い手が違うのか?


 オルミラージュ夫人に対する隠蔽魔術と、別の人間に対する隠蔽魔術の、二種類をブラードが重ねて掛けていたとしたなら。


 ーーーその手助けをしたのは、誰だ?


「……まだ終わっていない」


 そのブラードの呟きの意味を、ムゥランが知るのは、もう少し先の話だった。


※※※



「イオーラァアアアアアアアアッッ!!!」


 

 レオは、いきなり体が軽くなったことに疑問を抱くこともなく、ウェルミィとエイデスが開いてくれた穴を見る。

 その先にいるイオーラの元に辿り着くことだけを見据える。


 ーーー奪わせるかよ……!!


 どれだけ望んだと思っているのか。

 レオと、ウェルミィが、どれだけ彼女の幸せを。


 貴族学校で、出会った時から。


 自分達は敵同士だった。

 同時に、味方でもあった。


 お互いが見据えていたのは、ただ、イオーラの幸せだけだったのだ。


 こんなところで殺される為に、奪われる為に、守ってきた訳じゃない。

 全てが『語り部』の計略だったのだとしても……レオと、ウェルミィと、彼女と関わった数多くの人々が抱いた想いは、嘘ではないのだ。


 ーーー大体、愛した女一人守れなくて……国が、民が守れるかよッ!!


 聖剣で押し広げられた穴を縦に両断すると、穴がさらに広がり。


 イオーラの姿が、見えた。



 ーーーイオーラ!!


 レオは、迷いなくそこに飛び込んだ。

 聖剣が瘴気とせめぎ合い、腕から外に弾き飛ばされる。


「ッ!」


 加護が消え、一気に瘴気の影響が襲いかかってくるが、レオはイオーラに触れた。


 彼女は青い顔をして、気絶しているようだったが、生きている。

 強く抱きしめながら振り向くと……入ってきた穴が、閉じかけていた。


 完全なる【魔王】の力に逆らうのは、ウェルミィとエイデスの二人であっても限界があるのだ。


 ーーーせめて、イオーラだけでも……!


 と、瘴気の真っ只中で全身から力が抜けていくような感覚を覚えながらも、レオが穴に向けて手を伸ばすと……。


 ……その手を、精強な腕と老人の腕が伸びてきて、ガッシリと掴んだ。


※※※


 ゴルドレイは、シュナイガーの長男として生まれ落ちた。


 エルネストに仕えるのだと、そう言われて疑問を抱くこともなく育った。

 三代前から、当主ご夫妻は素晴らしい人々で、それを誇りに思っていた。


 サバリンだけは俗物であったが……特に先代夫人とイオーラお嬢様は、聡明で。

 

『ゴルドレイ。貴方は、この子に仕えるために導かれたのです』


 ふと先代夫人が漏らした言葉の真意を、その時にゴルドレイは教えられた。

 〝闇の拳士〟であるのだという、その言葉の意味を……このイオーラお嬢様が危機に陥った段に至って、ようやく悟る。


 ーーー私は、まだまだのようです。


 ウェルミィ様をお支えし、お二人の幸せを見届けて、自分の役目は終わったと思っていた。


 だが、違ったのだ。

 今ここで、イオーラお嬢様と、その伴侶であらせられる王太子殿下を救うことが、自分が生まれ落ちた意味。


「大公命令だ!! ーーー突っ込めェッ!!」

「……参ります」


 オレイアを置いて、ロキシア公爵令息の咆哮と共に、ゴルドレイは駆け抜ける。


 誰よりも速く。

 そう思っていたが、同時に瘴気の穴に辿り着いた人物がいた。


 〝光の騎士〟ソフォイル・エンダーレン卿。


 ーーー光栄ですな。

 

 歴史の表舞台で華々しく在る彼と、自分が並び立てるだけの存在なのだと。

 影に徹し続けた老練の執事は、こんな状況だというのに笑みを抑え切れず、僅かに口元が緩む。


 彼と同時に穴の中に腕を伸ばし……二人で、レオニール王太子殿下の腕を、掴んだ。


※※※


 ーーーこの場において役立たずであれば、体の頑健さしか能のない拙めのいる意味など、ない……!


 ソフォイルも、バーンズの咆哮と共に駆け出していた。


 〝光の騎士〟などという過剰な肩書き。

 物心ついた時から、何かが導くような声を聞いていた。


 幼い頃から、テレサロの側に在るのだと。

 魔獣を滅するのだと。


 ライオネルの王城に、行けと。


 無視していた。

 貧乏男爵家の次男坊に、何が出来るのかと。


 その声を幻聴だと思っていた。

 だが、違った。


 テレサロは〝桃色の髪と銀の瞳の乙女〟だった。

 皆が苦戦する魔獣は、ソフォイルにとって倒し方が瞬時に分かる獲物だった。


 王城には、聖剣があった。


 それでもまだ、迷っていた。

 自分が、それ程に優れた存在だと思えなかったからだ。


 だが、守る為ならば。

 自分の身に宿った力が、誉れを得る為でも、魔獣を狩る為のものでもなく……守る為の力であるのなら、それは至高とすら思えた。


 ーーー我が主君……ッ!!


 ソフォイルは、心を打たれていた。


 勇猛果敢に、愛するイオーラ王太子妃殿下の為に、聖剣すら操ってみせたレオニール王太子殿下の姿に。

 同時にソフォイルは、自分が騎士としてかくあるべきかを悟る。


 レオニール王太子殿下は、テレサロの他に、もう一人自分が守るべきお方だったのだ。

 あのお方を真の主君であると、ソフォイルは今、心の底から定めた。


 お支えすべき方を、救うのだ。


「オォオ……!!」


 全身に光の魔力を巡らせて駆け抜け、瘴気の穴に手を伸ばすと、同時に伸ばされた腕があった。

 

 ゴルドレイ・シュナイガー。

 いつでも冷静沈着で、誰よりも忠誠の一心を体現している彼と、目が合う。


 ーーーなるほど。


 ソフォイルは納得した。

 そうして同時に、歓喜する。


 ーーーいるではないか。


 目指すべき先に立つ人物が、既にいる。

 彼のような存在こそ、騎士たるべき者。


 ソフォイルは、敬愛を抱いた彼と同時に、自らの主君の腕を掴んだ。


※※※


 ウェルミィは見た。


 男達が、一斉に駆けていく。

 レオが飛び込み、ゴルドレイが、ソフォイル卿が、腕を伸ばす。


 その二人の肩に、バーンズ様が手を掛ける。

 ムゥランのみならず、ブラードまでもが、それぞれゴルドレイ達の体を掴む。


「引っ張れ!!」


 バーンズ様の号令に一斉に力を込めて……。



 ーーーレオとお義姉様が、引き抜かれる。



「お義姉様!!」


 ウェルミィが呼び掛けると……お義姉様が、こちらに目を向けた。

 

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