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【ノベル6巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部・表 導くは双玉。

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大公との謁見。


 ーーー『大公選定の儀』の、一週間前。


 大公国に乗り込んだウェルミィ達は、翌日の夜に歓待を受けていた。

 他の賓客も出揃う場であり、当然、全員が正装をしている。


 レオ、お義姉様、エイデス、ウェルミィ、ズミアーノの四人は1箇所に固まっていたが、ヒルデを含む四人の護衛以外は思い思いに散って、繋がりを作りたい相手と談笑している。


 ーーーああ、お義姉様は今日もとんでもなく美しいわ……!


 王太子妃になられた後は、ますますその美しさに磨きをかけているお義姉様の着飾った姿に、ウェルミィは表情だけは淑女の微笑みを浮かべつつ、永遠に見惚れていたのだけど。


「……なぁ、そろそろまともに動いてくれ」


 ウェルミィが何もしていないのを見抜いたレオが半眼で文句を言ってくるのに、ふん、と鼻を鳴らした。


「何よ。主役じゃないんだから別に良いでしょ?」

 

 一番矢面に立つのはレオ、次がエイデスとお義姉様。

 ウェルミィはエイデスの添え物なのに、文句を言われる筋合いは全くない。


 けれど。


「……そろそろ、大公が来る」


 エイデスにそう言われて、渋々お義姉様から目を離した。

 エイデスの敵……その本性はきちんと見極めておかなければならないからだ。


「私は枯れ木より唯一無二のこの世の花を愛でたいわ……」

「もう、ウェルミィ?」

「だって、それが本心だもの!」


 お義姉様に呆れたような微笑みで窘められて、扇を広げたウェルミィは口をへの字に曲げる。

 その間に大公入場の号令がかかり、大公ピエトロ・ハイドラの姿が見えた。


 この国の王に当たる人物の登場に、その場に居る者達が一斉に頭を下げる。

 ウェルミィもそれに順じながら、視線だけで彼を追った。

 

 高齢の柔和な笑みを浮かべた老人で、空色と白が混じった豊かな髭を蓄えている。

 髪は後退して頭の地肌が半分見えているが、狡猾そうな印象が空色の瞳から感じられた。


 ーーー上手く隠してるのかしらね?


 穏和で平和的な人物だと言われているが、そんな人間が、四つの勢力が常にしのぎを削るこの国でトップに立てる訳がない。


 目が役に立たないこともヒルデやヤハンナ様で経験済みのウェルミィは、周りに小さく問いかけた。


「魔術の気配はある?」

「一般的な防御結界の気配は感じますね」


 最初に答えたのはヒルデだった。

 公的な場なので、敬語である。


「他には?」

「〝影〟はいるようだが、隠蔽魔術を行使しているのは彼らだけだ」

「ええ」


 エイデスの呟きに、お義姉様も頷く。

 二人が言うのなら、ピエトロは見たままの人物で間違いないのだろう。


「ふぅん……」


 ウェルミィは、油断のならない人物という印象にも拘らず、彼がそうした対策をしていない理由を考えた。


 氏族の一つである以上、朱瞳のことを知らない、ということはない筈なのだけれど。

 まして、〝土〟と同様に大公国の四公家の一つであり、現在の宗主なのだ。


 ーーー知られても問題ない、と思っているのかしら。


 あるいはオルミラージュ侯爵家と同様、断片的にしか氏族の話が伝わっていないのか。


「ま、私たちにとって有利な話であることは間違いないわね」


 『狡猾である』という印象が嘘ではないのなら、汚いことをするのに躊躇いがない……つまり『エイデスの義母や義姉を呪いの魔導具で殺した』という疑いが、的外れではない可能性が高まるからだ。


 流石に王族や高位貴族ばかりの場である為、序列や力関係を無視するような恥知らずな真似は皆しない。

 ピエトロは四公家の分並べて置かれた席にはつかず、前に立ったまま、まず各国王族らとの挨拶を交わした。


「海原の如く大いなるピエトロ・ハイドラ大公閣下に、栄誉ある場にお招きいただいたこと、感謝致します」

「ライオネルの小太陽レオニール・ライオネル王太子殿下をお迎え出来たこと、誠に喜ばしく思います」


 表面上は和やかに挨拶を交わしたピエトロの視線が、チラリとエイデスに動く。

 そしてその目が、わずかに細められたことを、ウェルミィは見逃さなかった。


 ーーーなるほどね。


 瞳に宿るのは、忌々しさ。

 あるいは敵意や嫉妬、と言い換えても良いだろう。


 それも、対等か格上の人間に対するそれのように読み取れた。


 彼がオルミラージュを狙った理由は、予断は禁物だけれど……同じ氏族の末裔であり、臣下の立場にありながら数々の名声を得て各国に権勢を轟かせているのが、気に入らなかったか、脅威と感じたか辺りなのだろう。


 ーーーくだらないわね。


 いくら権力を得ても、名声を、金銭を得ても、上がいると満足しない者というのは、数多く居る。

 ピエトロも、そうした人間の一人なのだろう。


 過ぎた嫉妬、というのは大罪の一つに数えられる程に劣悪な感情である。

 そして私情と欲望で他人を虐げ、害す人間が、ウェルミィはこの世で一番嫌いなのだ。


 順に挨拶を終えてピエトロの前を辞し、ちょっと機嫌を斜めにしていると、エイデスに軽く肩を叩かれた。


「そう怒るな」

「貴方が一番怒らないといけない立場でしょう」

「怒りを滾らせても、何も解決はしない。……相応の報いを受けさせる為の準備は進めているだろう」

「分かってるわよ」


 それでも、感情と理性は別なのだ。

 エイデスの大切な人を奪い、左手に火傷を負わせた相手がのうのうと生きているのが、気に入らないのは仕方がない。

 彼を八つ当たり気味に睨みつけると、エイデスは苦笑してこちらの耳元に口を寄せた。


「頭を切り替えろ。ここから、どこを立たせようと各国が考えているかを探りに行くのだからな」

 

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