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【ノベル6巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部・表 導くは双玉。

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【大公選定の儀】

 

 大広間に赴くと、そこには既に大公国四公家の者たちが勢揃いしていた。


 その特殊な国家形態から、席の配置も特殊である。

 赤絨毯の敷かれた、まるで闘技場のように周りが高く作られた円形の大広間。


 その最下段の四方に、各公爵家の者たちが立っている。


 東に〝水〟の公爵家であるハイドラ家。

 南に〝火〟の公爵家であるロキシア家。

 西に〝風〟の公爵家であるゼフィス家。

 北に〝土〟の公爵家であるサンセマ家。

 

 各家の髪色は四素の色である蒼紅翠黒に対応しており、一目でどこの公爵家の人々かが分かる。

 さらに、それぞれの公爵家に招かれた賓客の位置も、各家の勢力に属する貴族家の者達の位置もそれに対応していた。


 ハイドラ公爵家の後ろには、ライオネル王国王太子一行。

 ローンダート商会との海路による輸出入で、最も交易が盛んな相手であり、殺された大公がその地位に就く時に支持した関係から、〝水〟に招かれた。

 先日のウーヲンの件を穏便に収めた関係もあり、〝水〟と最も親交が深い。


 大公の息子であり、次期大公候補であるブラード・ハイドラ公爵令息が一番前に立っている。


 ーーー落ち着いてるわね。


 親が殺されたというのに、動じている様子は見受けられない。

 ウェルミィはさほど関わっていないけれど、レオやエイデスによると、親子の情という点については薄いらしいと聞き及んでいたので、仲が良くなかったのかもしれない。


 続いて、ロキシア公爵家の後ろには、バルザム帝国王太子と宰相夫妻。

 国家間横断鉄道の車両に使われている魔導機関(エンジン)で〝火〟と技術提携を結び、相互に陸路での線路架設で技術者を送り合う関係にある。

 他に例のない【紅玉の瞳】の持ち主であるレイダック殿下は不敵な笑みを浮かべていた。

 また歴代最高と名高い頭脳を持ち、帝国内で様々な改革を行う宰相、イースティリア・ウェグムンド侯爵とその夫人アレリラ様は、一部の隙もない佇まいで無表情に場を眺めている。


 〝火〟は内部で二勢力あり、現ロキシア公爵の息子であるバーンズ・ロキシア公爵令息と、その従兄妹であるスージャ・クジャ公爵令嬢が二人候補として並んでいた。

 現状、最も勢いのある公爵家であることも二人の候補者が認められた理由なのだろう。


 ーーー次期大公の最有力候補、ね。


 話を聞くところ、多くの海外勢力はそう予想しているようだ。

 

 実際、バルザムの後ろ盾は大きいだろう。

 あの帝国は、親交を結ぶ為にお義姉様が養女となったロンダリィズ伯爵家があり、かつ聖教会総本山のある聖王国を属国としており、技術面、兵力、領土の広大さも周辺国より頭1つ抜けている。


 三つ目、ゼフィス公爵家の後ろには、アバランテ南部辺境伯一家と、アトランテ王室の方々。

 この公爵家については、特に親しいと言える程の間柄の大国はない。

 元々魔法生物を乗騎とする遊牧の公爵家であることから、近年飛行型魔法生物の研究が盛んで親交のあるアトランテと、武勇で知られ領地の隣接しているアバランテ辺境伯家を招いた。


 元はアバランテと小競り合いが絶えなかった〝風〟だけれど、近年は〝火〟が鉄道を開発したことで陸路の覇権を奪われかけていることから存在感が減じており、また南部辺境伯の養女が彼らとの親交を結ぶ提案をしたことから、現在は友好関係にあるという。


 ウェルミィの目で見たところ、かなりご高齢のアトランテ王室の上王陛下と上妃陛下……各国の先代国王陛下や妃殿下に当たる方々……は、それぞれにとてつもない魔力を有しているように見受けられた。


 ーーーあの人達、多分エイデスよりも遥かに強いわよね……?


 特にベルベリーチェ上妃陛下の方は、お義姉様と同じ【真の紫瞳】をお持ちなのではないだろうか。

 色味で言うと、お義姉様が真紫なのと違い金の円環が瞳にあるように見えなくもないけれど、それでもエイデスの青みやアバッカム侯爵の赤みよりも微少な差である。


 彼女については、夫婦喧嘩で地形を変えるほどの大穴を王城近くに空けたという逸話や、アトランテ大島全土を覆う強力な防御結界を数人で維持し続けているという事実もあり、女傑として知られている。


 この周辺ではさほど影響力のない国と一領主のみの参列ではあるものの、元来権力に執着がなく、個の力を重んずると言われる〝風〟らしい賓客の人選である。


 大公立候補者は〝風〟の公爵ムゥラン・ムゥラン。

 飄々とした印象の人物で、ゼフィスの家名を冠していないのは、先祖を大切にしており、名を二重で名乗るという大公国の古き風習を捨てていないからだそうだ。


 最後のサンセマ公爵家の後ろには、東のフェンジェフ皇国の陛下夫妻。

 こちらも海を挟んだ先では、帝国に劣らず広大な領土を持つ上に〝土〟同様に温暖な気候から作物を豊富に産出しており、土木関係技術に秀でた国である。

 

 アトランテ同様に、帝国やライオネルの国土を挟んで反対側にある国の為、後ろ盾の影響力という点ではさほど強くはないものの、〝土〟自体が『食』と『住』に関する技術力を有しているというのは、強い。


 今回の儀において『大公の地位に最も近い』とライオネルが考えているのは、この〝土〟の公爵家だった。

 理由は確秘されているそうで教えて貰っていないが、それがライオネルの総意であると聞いている。


 元々親交のある〝水〟、お義姉様が国家間横断鉄道の施工を行なったロンダリィズ伯爵家と縁を繋いだ〝火〟、アバランテ辺境伯家が友好を結ぶ〝風〟と違い、唯一縁のない公爵家である。

 一応ホリーロ公爵家のヤハンナ様という繋がりはあるけれど、友好を結んでいるというには少々お互いの利益が薄い関係だ。

 

 立候補者は、現〝土〟の公爵であるフェリーテ・サンセマ……だけれど。



 ーーー何でその席に、エサノヴァが座っているのかしら?



 しかし誰も、彼女に関して違和感を覚えている様子はない。

 エイデスやお義姉様ですら気づいていなさそうなので、もしかしたら何らかの魔術を行使して正体を隠しているのかもしれなかった。


 けれど、魔術の影響ならウェルミィだけが気付けている理由に違和感があるので、二人が知らないふりをしている可能性もあった。


 こちらの視線に気付いたらしいエイデスが、小さく声を発する。

 けれどそれは、ウェルミィが予想した『どうした?』という問いかけではなく、確認だった。

 

「……〝太古の紫魔晶(ロストヴァイオレット)〟は身につけているな」

「ええ、見て分かる通りにね」


 ヒルデントライから贈られた胸元の宝玉は、『必ず身につけておけ』とエイデスに言われたものである。

 そう言ったエイデスも〝希望の朱魔珠(ウィルバーミリオン)〟を身につけていた。


「これより【大公選定の儀】を開式致します」


 ブラード・ハイドラ公爵令息の宣言と共に、室内の空気がより一層引き締まると。

 ふと、エサノヴァがこちらを見て、微笑むように目を細めたような気がした。


 ーーー今度は何を企んでいるのかしら?


 ウェルミィは、挑むように彼女を睨み返す。

 そこで、ハイドラ公爵令息がさらに言葉を重ねた。


「ですが、総意をお伺いする前に、一つ話し合わねばならないことがあります。ーーー我が父、大公ピエトロ・ハイドラ殺害に関して、この場の一同に傾聴願いたい」

 

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