結婚式【後編】
続いて入場したのは、ダリステア様。
手を引くのは、兄であるマレフィデント・アバッカム公爵である。
エイデスと双璧を成す、ライオネル王国のもう一人の魔導卿。
二人は学友であり、魔術の腕を競い合ったライバルでもあった。
金の髪の貴公子然とした容姿で、エイデスと同じく魔導士の礼服を身につけている。
ダリステア様は、長身に似合う金糸で彩られた、豪奢なドレスを纏っていた。
前王国王家の血を引く二人。
その血ゆえに苦労も数多く……パレードの前に、彼女らはやはり、国王陛下の元へと赴いていたらしい。
『何を話されたのですか? 言いたくなければ、良いのですけれど』
『口外出来ないこともございますけれど、お兄様が、ナニャオ殿下に添うことを、話しておられましたわ』
どこか吹っ切れたようなダリステア様の表情が、印象的で。
ーーー血筋で争うことは、もうなくなるのね。
ダリステア様は今日、ツルギスの妻となり、アバッカム家の籍から抜ける。
そしてマレフィデント様がナニャオ第二王女殿下に添う、ということは……ナニャオ様が降嫁されるのではなく、マレフィデント様の王室入り、となるのだろう。
それは、アバッカム公爵家が途絶える、ということだ。
おそらくマレフィデント様は、別の誰かに公爵家を継がせる意思はない。
ただの恭順ではなく、家を潰して未来の争いの種すらも摘むことを、彼は選んだのだ。
発表すれば、反発も多くあり、傘下にあった家々が荒れるのは想像に難くない。
けれど、彼らは選んだ。
『支持致しますわ。その勇気を』
『ありがとうございます』
やり取りは、それだけだった。
そんなダリステア様の手を取るのは、ウェルミィ達とは反対側に立っていたツルギス。
デルトラーテ侯爵家長男として、胸元の花に騎士勲章を下げた彼が、ダリステアの手を受けて下がる。
不器用で、愚直。
可もなく不可もなく、目立たない……親族はともかく、外野からはそう評され続けて来た彼は、その実、ただの一度も襲い来る困難から逃げなかった。
その末に、一途に想い続けたダリステアを得た。
やがては父の跡を継ぎ、ライオネル王国の軍団長として立つのだろう彼を、今は多くの人が祝福している。
ーーーそうして、最後に。
イオーラお義姉様が、姿を見せた。
その段になって、おそらくは知らなかったのだろう人々が、ざわりとざわめく。
お義姉様の手を引いているのは、国王陛下だった。
ウェルミィにはクラーテスお父様がいるけれど、お義姉様には既に、親がいない。
実の父母も既に亡く、義理の父母までも。
しかし繋がりの為に養子に入っているとはいえ、帝国貴族であるロンダリィズ伯爵にそれを頼むわけにもいかず。
結果、国王陛下がその役目を買って出たのだ。
『どうせ親になるのだ。構いはせんだろう?』
『何で、実の父親から花嫁を受け取らないといけないんですかね……』
ニヤリと笑った陛下に、レオがとてつもなく嫌そうな顔をしていた。
そして今、その当事者の一人であるお義姉様が、バージンロードを歩いてくる。
ーーーなんて美しいのかしら……!!
それぞれに魅力的だった皆が霞むほどに、お義姉様は輝いていた。
ドレスの形はウェルミィと同じだけれど、お義姉様の縫い取りやレースは王族の紫である。
陛下に対する驚きが収まると、集まった皆もほう、と息を吐く。
顔を隠していても、お義姉様の人を魅了する輝きは少しも損なわれない。
ーーーウェルミィが、誰よりも幸せになって貰いたかった人。
薄いヴェールの向こうで、花が綻ぶような笑みを浮かべる口元が見える。
ウェルミィが溢れそうな涙を堪えて、ぎゅ、とエイデスの手を握ると、彼は小さく握り返してくれた。
そうしてレオがお義姉様の手を取ると、皆で神前に向き直る。
司祭として皆の前に立つのは、タイグリム殿下だった。
奇しくもこの場に揃っている者たちは、皆、ズミアーノが引き起こしたあの事件に関係している者ばかりだった。
その場の誰よりも、何故か満足げに見えるタイグリム殿下の前に一組ずつ進み出て、誓いの言葉とキスを交わしていく。
真っ赤なテレサロと、真剣な表情のソフォイル。
照れ臭そうなニニーナと、いつも通りニヤニヤするズミアーノ。
そうして、ウェルミィの番が来る。
「生きとし生ける限り、伴侶を愛することを誓いますか?」
「「誓います」」
答えて、お互いに向き合い……エイデスがヴェールに手を添えて、そっと捲り上げる。
ウェルミィ自身は、口づけももう慣れたものだけれど……それでもやっぱり、皆の前で、となると恥ずかしさが込み上げた。
でも、なるべく凛として、エイデスと唇を重ねる。
軽く触れる程度。
そうして、軽く頬を紅潮させたダリステア様と、固い表情のツルギス。
内心はともかく、完璧な淑女の微笑みを浮かべたお義姉様と、何故か余裕そうなレオの誓いも終わって。
「婚姻の誓いは交わされました。そなたらの道行きに、幸多からんことを」
『ライオネル王国の未来に』
タイグリム殿下の言葉に、全員で唱和して。
ーーーこの日、ウェルミィは正式にエイデス・オルミラージュの妻となった。
残り一話で、結婚式編は終わりです!




