叙勲と再会。
パレードを終えて王城に戻り、竜車を降りたウェルミィ達を、整列した兵士と使用人達が左右に整列して出迎える。
侍女、侍従は一糸乱れぬ姿勢で頭を下げており、兵士たちは胸の前で儀礼剣を構えていた。
その後ろでは、下働き達が膝をついている。
その中には魔導士隊のヒルデントライや、城の入口前には軍団長ネテの姿もある。
おそらく、跪いている者の中には城で雇われている庭師、ウーヲンの姿もあるだろう。
エントランスに入ると、今度は城内で働く者達の列が連なっており、大広間へ向かう道の途中には、王都に住まう下級貴族が待っていて、徐々に貴族位が上がって行く。
最後に大広間に入ると、上位貴族の出迎え。
玉座にて待つ国王陛下の右に宰相閣下、左には辺境伯の姿があった。
辺境伯の左右には、膝をついた竜騎士らしき者達の姿がある。
中央にレオ、左右にエイデスとソフォイル、さらに横にツルギスとズミアーノが並び、列が被らないように、その左側にウェルミィ達は、それぞれ伴侶となる者達の側に侍って首を垂れ、礼を取る。
その後、廊下で並んでいた者達が入場を終えると、背後で扉が閉まる音がした。
「面をあげよ!」
号令係の宣言に全員が顔を上げると、陛下から直接お言葉を賜る。
「王太子、並びにライオネル王国に名を連ねる者らを祝う場に集いし民に、感謝と喜びを示す」
「王太子殿下、並びにイオーラ・ロンダリィズ伯爵令嬢、前へ!」
「は!」
レオが応え、お義姉様と共に陛下の横に並ぶ王族の列に移動する。
「多くの貴族が揃われたこの場にて、各々への祝儀ならびに、称号の授与を行う! エイデス・オルミラージュ侯爵、前へ!」
「は」
エイデスが静かに前に出ると、陛下のお言葉を賜る。
「オルミラージュ卿。これまでの功績を以て、領地を下賜する」
「謹んでお受け致します」
エイデスが下がると、再び号令係が声を上げた。
「〝光の騎士〟ソフォイル・エンダーレン騎士爵、前へ!」
「は!」
ソフォイル達が陛下の眼前に進み出て膝をつくと、続いて陛下は辺境伯の方に目を向けられた。
「南部辺境伯騎士団、竜騎隊士、アーバイン・シュナイガー、前へ!」
ーーーっ!?
ウェルミィは、思わず伏せていた目をエイデスに向けて上げかけた。
彼らはおそらく、先ほどのショーを行った者達だろうと想像はしていたが……出てきた名前は、ほとんど忘れかけていた相手のものだったからだ。
「はっ!」
返答したのは、懐かしさすら感じる、聞き覚えのある声。
そして、再び陛下が口を開く。
「エンダーレン卿。聖女との婚礼を以て、〝殲騎〟の称号と年俸を下賜する。同時に、王都騎士団遊軍第三部隊長へ叙す。シュナイガー。例なき白竜騎の成功と類稀なる魔術の腕を以て、〝騎竜〟の称号と年俸を下賜する」
「「謹んでお受け致します! ライオネル王国に栄光あれ!」」
ソフォイルとアーバインの声が揃い、陛下が頷く気配がした。
「また、他の竜騎隊には見事な修練の褒賞として、財貨を下賜する」
それを機に、二人が下がり、号令係の声。
「ツルギス・デルトラーデ侯爵令息、並びに、ズミアーノ・オルブラン侯爵令息、前へ!」
「「は!」」
ツルギスは生真面目に、ズミアーノはこんな時まで笑みを含む声音で、揃って前に出た。
「デルトラーデ子息、近衛隊王太子付部隊長へ叙す。オルブラン子息、外務卿付き補佐官へ叙す」
それぞれに役職が与えられ、儀礼的なやり取りが行われ、最後に。
「次期夫人には、それぞれに王妃より装飾品の下賜を。並びに後日、茶会への招待を」
陛下の言葉に、テレサロの体が強張る気配がした。
王妃の茶会に招かれるということは、派閥の中でも上位として認める、という意味である。
イオーラとウェルミィ、それにダリステアは何度も非公式に招かれてはいるけれど、王妃陛下がそれに加えてニニーナとテレサロを厚遇する表明をなさった、ということだ。
同様の爵位であれば、他に招かれた者が居なければ序列が最も上になり、そもそも〝桃色の髪と銀の瞳の乙女〟であるテレサロは教会の後ろ盾と合わせて王妃陛下に並ぶ権力を得ることになる。
もっとも、彼女はそのようなことを考えて怯えたのではなく、『王妃陛下とのお茶会』という緊張感に溢れるお招きに思考停止したのだろうけれど。
「一刻後より、晩餐、並びに舞踏会を行う! 国王陛下、並びに、妃陛下、御退出!」
祭典は終了したようだ。
陛下、妃陛下の退出を機に、レオとイオーラ、王族、と上位から順に退出して行く。
侯爵家筆頭として退出する際に、表情を作りながらもニヤニヤとした気配を抑え切れていないエイデスを、ウェルミィはずっと横目に睨みつけていた。
※※※
そうして、レオとお義姉様がウェルミィとエイデスの控え室に現れた後。
「ライオネル王国の次代を担う小太陽、レオニール王太子殿下、並びに、青く慈しみ深き小満月、イオーラ様にご挨拶申し上げます。本日は御面会の機会を賜り、感謝を申し上げます。そして、王国の叡智の光を守り来り、今また聡明を以て諸国円満の絆となられますオルミラージュ外務卿と、ご婚約者にあらせられますリロウド伯爵令嬢にお目通り願えましたこと、矮小なる身には至上の喜びと、感謝の言葉に代えさせて頂きます」
辺境伯に誘われ、眼前に膝をついたアーバインに、ウェルミィは思わず半眼になった。
「……高度な嫌味かしら」
「ウェルミィ」
「だって、アーバインよ? それ」
苦笑して嗜めるお義姉様に、ウェルミィは腕組みして頬をトントンと指先で叩いた。
レオと辺境伯がそのやり取りに、笑いを堪えて肩を震わせ、エイデスが一人がけのソファで足を組んだまま頬杖をついて眺めている。
「ガハハハ! えらい言われようじゃのう!」
堪え切れなくなったように辺境伯が笑い出すが、アーバインは許可がないからか、膝をついて首を垂れたまま答える。
「まぁ、やったことがやったことですからね」
「ふぅん」
かつてのアーバインなら、ここでプライドが邪魔をして不敬と言われる態度をとってもおかしくなかったのだけれど、声音にも態度にもそれが見えない。
「まぁ、少しはマシになったみたいね。立って良いわよ」
元々、イジメみたいな真似は嫌いである。
この場には事情を知っている人々しかいないので、ウェルミィは許したが。
「は!」
アーバインは生真面目に答えて、立ち上がると今度は後ろ手を組んだ姿勢で直立した。
改めて見ると、顔つきがかなり精悍になって日焼けしており、細身だった体が筋肉質になって二回りほど記憶より大きく見えた。
顔にはうっすらと幾つかの小さな傷痕が見える。
オシャレにばかり興味があり、見栄っ張りだったかつての彼からは考えられない変化だった。
「で、何しに来たの? ああ、敬語はいらないわ。あなたに使われても気持ち悪いし」
「……」
アーバインは少し目線を上げて何事か考えた後、後ろにいる辺境伯に目を向ける。
彼が頷くと、許可を得てからようやく表情を崩し、苦笑した。
「じゃ、お言葉に甘えて。どうだった? 俺のサプライズは」
「残念なことに、見事だったわね。どういう心境の変化かしら」
「自分でも、昔はダサかったからな。せっかくオルミラージュ魔導卿とウェルミィに許して貰ったんだから、努力したんだよ」
努力。
彼の今の姿を見るに、それは嘘ではないだろう。
推測することしか出来ないけれど、ここまでの変化とあんな風に飛竜と魔術を操るには、『血の滲むような』という枕詞がついてもおかしくない。
「面会も、本当はするつもりがなかったんだが……鍛えてくれた人が、会えって言うから」
「誰?」
ウェルミィが首を傾げると、辺境伯がドアの脇に控えた兵士に頷きかける。
すると、そこから姿を見せたのは……。
「ゴルドレイ!」
「お久しぶりでございます、イオーラお嬢様。そして、ウェルミィお嬢様」
かつてエルネスト伯爵家の家令であり、陰から二人を支えてくれた老人が、まるで変わらない姿で柔和な笑みを浮かべて、そこに立っていた。
「如何でしたかな、シュナイガー様は。少し厳しく接してみましたが」
その言葉に、『少し……?』とアーバインが頬を引き攣らせ、同時にウェルミィも昔のゴルドレイの指導を思い出してじわりと汗を滲ませる。
「なるほど……なんだか、凄く納得したわ」
ローレラル程異常な変化ではないけれど、ゴルドレイに鍛えられたのなら、この変わりようにも合点がいった。
「改めて、結婚おめでとう、ウェルミィ。それに……ロンダリィズ嬢」
「ええ」
お義姉様は嫌味を言う気はカケラもないようで、少しバツの悪そうな顔をするアーバインに対して、穏やかな笑顔で頷いている。
ーーーもう、甘いわね!
一番被害を受けたのはお義姉様なのだから、もっと詰ってやってもいいというのに。
「ありがとう、って言っておくわ。挨拶は終わり?」
「ああ」
「じゃ、下がっていいわよ。ああ、それと」
ウェルミィは、ようやくアーバインの目を真っ直ぐに見て、一言だけ告げてやった。
「少しはいい男になったわね。……もう、二度と馬鹿な真似するんじゃないわよ」
すると、そこで初めてアーバインは昔のような顔を見せて、ニヤリと言い返してきた。
「お互いにな、次期オルミラージュ夫人」




