第ⅩⅤ話 花火
「懐かしいね、また蒼葉から、花火しよって誘われるなんて。私と遊んでたら、また火傷しちゃうよ?」
「なんだよそれ。で……、ダメか?」
「ううん……、いいよ。花火、しよ!」
きっと、嬉しくてしかたないんですよね。わかります、灯里。
でも、わたしはちょっと、ジェラシーですよ!
「じゃあ、あの神社で集合ね!遅れないでよ~!」
「灯里こそな!」
ま、なんだか微笑ましい感じなので、よしとしましょうか。これが、ふたりの新しい「普通」な時間、なんでしょうね。
わたしは――。
「楓も、きっと来るよね?」
「え、そうなの?」
あーあ、灯里。それ、言っちゃうんですね。でも、やっぱり、嬉しいなぁ。じゃあ、お言葉に甘えて。ごめんなさいね、蒼葉さん。わたし、やっぱり、こんなところで退いてあげるほど、やさしくないんです。
『行きますよ、灯里。わたし、灯里のこと、ずっと大好きですから。』
わたしの声は、幸せそうなふたりの世界に、ちゃんと届いたのでしょうか。
灯里が笑って、蒼葉さんはちょっと、困り顔。ああ、楽しいなぁ。世界って、こんなにも「普通」なんですねとか言ったら、ありきたりすぎますか?
いったん別れて、準備をして、お社に集合。これを最も早くやり遂げたのは、どうやらわたしのようです。
やることもなかったので、店じまいされた屋台の傍らに置いてある、プロパンガスとか発電機とかを眺めながら、夕焼けに照らされる石畳の参道を、しばらくお散歩しました。
なかなか暮れない空を見ていると、ここは本当に、まるで流れる時間が違う場所みたいだなんて、思えてきました。
それにしても、ふたりとも、時間かかってるなあ。
そういえば、明日はお父さんの、最後の裁判です。
わたしがやれることは、もう全部やりましたし、あとはお父さんが受けるべき罰を、しっかりと受けることが大事なのだと思います。
ちゃんと、やり遂げましたからね。わたしの、妹さん――。
『――にげて』
誰?
わたしに何かを伝えようとしていたのは、わたしが吹き飛ばしている、タイヨウとかいう、兵器……のはずなのに。
『にげて。まだ間に合います。』
どうやって、話しかけてきているのかすらわからない。でも、そう聞こえます。あなた、まさか!
『にげて。』
これは、風……?
この子は、わたしの風を使って、風を揺らして、語りかけてきているようでした。
閃光がまたたき、爆風が迫り来る中、最後に聞こえてきたのは、こんな言葉でした。
『おとうさんを、よろしくね――。お姉ちゃん。』
困った妹です。わたし、あのあとすごくがんばったんですよ。お父さんは炎に閉じ込められてるし、わたしの身体、重すぎましたし。
でも、妹の頼みとあれば、お姉ちゃん、頑張るしかないですよね。
わたしは、「もうここまでだ」とか言うお父さんを、防護服脱がせて、バチンって叩いてやりましたよ。妹と一緒に、ちょっと反抗期です。
ねえ妹さん――、あなたは最初から、誰も傷つけないつもりだったんでしょう?
意志の強い子を集め続けたのは、父の失敗ですね――。
「おっし、じゃあ始めるか!」
「うん!」
やっと3人揃った……と思ったら、なるほど、そういうことですか。
ふたりは、綺麗な浴衣を身にまとっていました。そうか、花火といえば、それが正装なんですね。わたし、ちょっと失敗です。
「線香花火、勝負な!灯里、ズルすんなよ?」
「分かってるって!疑うの?私のこと。」
わたしたちは、3人で灯里の火に、線香花火を近づけました。
「きれいだな、やっぱり。」
「えっ……、蒼葉、まだ全然はじまって……ないよ?」
あ、ずるい。先に言われました。
ちょっと悔しいですけど、わたしを水鉄砲から助けてくれたお礼、まだしてなかったですからね。「イーブン」のお返しです。
ふわりと、風が吹きました。
「あ!楓のぶん、もう落ちちゃってる……!」
「マジかよ。」
『まじですよ。ということで、わたしヘコんじゃったので、ちょっとあっちで風に吹かれてきます。ここからは、おふたりで。』
そんなこと言い残して、ちょっとにやけ顔で歩くわたしのことを、もし誰かが、いいえ、小さい頃の「わたし」が、見ていたとしたら――。
きっと、幸せそうって、言うんだろうなぁ。
「なぁ。灯里。あの夜の続き、今から、始めてもいいか……?」
「うん……、いいよ。」
へえ。やるじゃないですか。
涼しくて強い風が吹きました。季節はもうすぐ、秋になるようです。
―― 『天照の灯』 完 ――
2025/05/10 一部表現を微修正して、第Ⅹ話→第ⅩⅠ話へ。
2025/05/17 一部表現を微修正して、第ⅩⅠ話→第ⅩⅡ話へ。
2025/05/22 第ⅩⅡ話→第ⅩⅤ話へ。
2025/06/02 一部表現を微修正。




