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天照の灯  作者: 早田 サナカ
天照の灯
15/18

第ⅩⅤ話 花火

「懐かしいね、また蒼葉から、花火しよって誘われるなんて。私と遊んでたら、また火傷しちゃうよ?」

「なんだよそれ。で……、ダメか?」

「ううん……、いいよ。花火、しよ!」


 きっと、嬉しくてしかたないんですよね。わかります、灯里。

 でも、わたしはちょっと、ジェラシーですよ!


「じゃあ、あの神社で集合ね!遅れないでよ~!」

「灯里こそな!」

 ま、なんだか微笑ましい感じなので、よしとしましょうか。これが、ふたりの新しい「普通」な時間、なんでしょうね。


 わたしは――。


「楓も、きっと来るよね?」

「え、そうなの?」

 あーあ、灯里。それ、言っちゃうんですね。でも、やっぱり、嬉しいなぁ。じゃあ、お言葉に甘えて。ごめんなさいね、蒼葉さん。わたし、やっぱり、こんなところで退いてあげるほど、やさしくないんです。


『行きますよ、灯里。わたし、灯里のこと、ずっと大好きですから。』


 わたしの声は、幸せそうなふたりの世界に、ちゃんと届いたのでしょうか。

 灯里が笑って、蒼葉さんはちょっと、困り顔。ああ、楽しいなぁ。世界って、こんなにも「普通」なんですねとか言ったら、ありきたりすぎますか?


 いったん別れて、準備をして、お(やしろ)に集合。これを最も早くやり遂げたのは、どうやらわたしのようです。

 やることもなかったので、店じまいされた屋台の傍らに置いてある、プロパンガスとか発電機とかを眺めながら、夕焼けに照らされる石畳の参道を、しばらくお散歩しました。

 なかなか暮れない空を見ていると、ここは本当に、まるで流れる時間が違う場所みたいだなんて、思えてきました。


 それにしても、ふたりとも、時間かかってるなあ。


 そういえば、明日はお父さんの、最後の裁判です。

 わたしがやれることは、もう全部やりましたし、あとはお父さんが受けるべき罰を、しっかりと受けることが大事なのだと思います。


 ちゃんと、やり遂げましたからね。わたしの、妹さん(・・・)――。



『――にげて』

 誰?

 わたしに何かを伝えようとしていたのは、わたしが吹き飛ばしている、タイヨウとかいう、兵器……のはずなのに。

『にげて。まだ間に合います。』

 どうやって、話しかけてきているのかすらわからない。でも、そう聞こえます。あなた、まさか!

『にげて。』

 これは、風……?

 この子は、わたしの風を使って、風を揺らして、語りかけてきているようでした。

 閃光がまたたき、爆風が迫り来る中、最後に聞こえてきたのは、こんな言葉でした。


『おとうさんを、よろしくね――。お姉ちゃん。』


 困った妹です。わたし、あのあとすごくがんばったんですよ。お父さんは炎に閉じ込められてるし、わたしの身体、重すぎましたし。

 でも、妹の頼みとあれば、お姉ちゃん、頑張るしかないですよね。

 わたしは、「もうここまでだ」とか言うお父さんを、防護服脱がせて、バチンって叩いてやりましたよ。妹と一緒に、ちょっと反抗期です。


 ねえ妹さん――、あなたは最初から、誰も傷つけないつもりだったんでしょう?

 意志の強い子を集め続けたのは、父の失敗ですね――。


「おっし、じゃあ始めるか!」

「うん!」

 やっと3人揃った……と思ったら、なるほど、そういうことですか。

 ふたりは、綺麗な浴衣を身にまとっていました。そうか、花火といえば、それが正装なんですね。わたし、ちょっと失敗です。


「線香花火、勝負な!灯里、ズルすんなよ?」

「分かってるって!疑うの?私のこと。」

 わたしたちは、3人で灯里の火に、線香花火を近づけました。


「きれいだな、やっぱり。」

「えっ……、蒼葉、まだ全然はじまって……ないよ?」

 あ、ずるい。先に言われました。

 ちょっと悔しいですけど、わたしを水鉄砲から助けてくれたお礼、まだしてなかったですからね。「イーブン」のお返しです。


 ふわりと、風が吹きました。


「あ!楓のぶん、もう落ちちゃってる……!」

「マジかよ。」


『まじですよ。ということで、わたしヘコんじゃったので、ちょっとあっちで風に吹かれてきます。()()()()は、()()()()で。』


 そんなこと言い残して、ちょっとにやけ顔で歩くわたしのことを、もし誰かが、いいえ、小さい頃の「わたし」が、見ていたとしたら――。


 きっと、幸せそうって、言うんだろうなぁ。


「なぁ。灯里。あの夜の続き、今から、始めてもいいか……?」

「うん……、いいよ。」

 へえ。やるじゃないですか。


 涼しくて強い風が吹きました。季節はもうすぐ、秋になるようです。



―― 『天照の灯』 完 ――

2025/05/10 一部表現を微修正して、第Ⅹ話→第ⅩⅠ話へ。

2025/05/17 一部表現を微修正して、第ⅩⅠ話→第ⅩⅡ話へ。

2025/05/22 第ⅩⅡ話→第ⅩⅤ話へ。

2025/06/02 一部表現を微修正。

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