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天照の灯  作者: 早田 サナカ
天照の灯
14/18

第拾肆話 灯花

「犯罪者!そんな仕事をして、恥ずかしくないんですか?」

「国家ぐるみの原子力犯罪だ!」

「いま、職員が裏口から出てきました!すみません、同じ電力会社として、この問題をどのように……」

「電力解体、原発捨てろ。電力解体、原発捨てろ。電力会社は人殺し。電力解体、原発捨てろ。電力解体、原発捨てろ。電力会社は人殺し。電力解体、原発捨てろ。電力解体……」


 五月蝿(うるさ)い。


 どうして、愚かな人間は、人の過ちばかりを見るのでしょうか。

 そもそも、これは過ちなのでしょうか。

 過ちなのは、過ちなのでしょう。しかしこれは、「僕の」過ちなのでしょうか。

 

 僕がいったい、何をしたというのでしょうか。


 僕はただ、灯りを送り続けるのを、止めなかっただけなのに。人々のあたりまえの生活を、守り続けただけなのに!


 忘れもしない、あの忌々しい大震災、いわゆる「3.11」――。


 その発災に伴って、電力のことなんて、何も分かっていない国の老人たちの思いつきで、急遽全国の原発が運転停止を命じられたところから、僕の地獄は、はじまりました。


 深夜の中央給電司令室。来る日も来る日も、僕は、火力部門の人間として、この事態の対応にあたっていました。

 僕の勤めていた関西では、原発にエネルギー供給の多くを依存していました。なので、それが一気に運転停止となれば、必然的に火力発電でまかなわざるを得なくなります。


 何度、頭を下げたでしょうか。

 依頼、感謝、そして、謝罪――。

 ただ火を燃やす?そんな簡単に言わないでいただきたい。

 その燃料は、どこにあるのですか?原発が空けた穴を埋められて、街や暮らしを灯し続けられるような燃料は、誰が調達するのですか?そのコストは、誰が払うのですか?


「電気代下げろ、人殺し。」

 なぜ、こんな言葉に頭を下げているのでしょうか。あまりに不可解かつ理不尽極まりない。でも、横では上司が深々と頭を下げている。僕はもう、心など持ってはいけないようでした。


 家に帰れない日々が、続きました。気にかかるのは、3歳になったばかりの娘――、楓のことでした。でも、楓には、強い「母」がついているから、きっと大丈夫。またいつか、親子三人で、一緒に旅行だとか、ピクニックだとか言って、笑い合えるはずだから。

 その日まで、その日までの辛抱だから――。


 しかし、斯様に甘い考えは、僕を地獄の底へと追い詰めました。「その日」なんて、もう来ないのです。

『公彦さん、あの子のこと、お願いね。あの子の幸せを、創ってあげてね。』

 もう二度と会えない僕の妻、陽那(ひな)の最期の言葉は、医師を通じて聞きました。

 病床でひとり冷たくなった君の手を、僕が少しでも温められたら、どれほどよかったことでしょうか。僕は君の最期にすら、立ち会えませんでした。いいえ、一瞥もせずして妻を殺したのは、きっと僕なのでしょう。


 母を失った娘は、涙をも失って、ただ呆然としていました。無理もありません。3歳の娘に、この状況が理解できるはずもないのでしょう。

 しかし、そんな日々が続く中で、しだいに彼女は、漠然と続く無の時間を紛らわすためのものを、あれこれと探すようになりました。この歳にして、父には決して、迷惑をかけまいとしているようにも見えました。


 娘は、今日もひとりで孤独と戦っている。


 通勤の電車内。本当に頭を下げたい相手に向き合えぬまま、また僕は罵詈雑言の溢れる檻へと、歩みを進めます。

 車内サイネージに流れるのは、電力各社への国民の不安を煽動するような偏向報道。これを見るに、娘の人生における本当の戦いは、これからなのかもしれません。電力会社は、このままだと社会悪であり続けるでしょう。原発を動かそうとすれば人殺し、だからといって調達コストを電気代に転嫁すれば、私腹を肥やすなと(そし)られる。証左となる数字を出したとて、信用できないと拒まれる。

 そんな業界で、会社で、父が働いていると周りに知れたら、きっとあの子は友達すら失うのでしょう。無垢な子どもを誤った方向に教育してしまう、リテラシーのない親たちによって――。


 電力会社という無限原罪。会いたい娘を、抱きしめることすらできない日々。僕にはもう、耐えられなくなりそうでした。それでも、僕は娘を養うための、誇り高き仕事をしているのだと自らに言い聞かせ、その後も会社での苦痛を乗り越え続けました。

 

 数ヶ月が過ぎた、ある日のことでした。いつものように、鞄で顔を隠し、裏口から退勤して取材陣をすり抜けた僕は、なんとか、娘が寝る前の時間に、家に帰ることができたのです。


「あ!おとうさんだ!おかえりなさい!」

 小さいながら、やせ細った手で、僕の手をぎゅっと握ってくれる。

 この子だけは、何としても、僕が守り抜かなければいけない!

 そう、強く決意したそのとき、僕の身体は、ふわりと涼風を感じました。

 扇風機、エアコン?いいえ。その発生源は、娘でした。娘はその風のことを、「おとうさんをやすませてあげるために、なかよくなったともだち」と表現しました。

 娘は、異能力に目覚めていたのです。僕はその日、娘を強く、そして、長く、抱きしめ続けました。それは娘が異能力者だったからではありません。彼女のあまりにも純で尊い思いやりの心が、とにかく嬉しかったからです。


 次の日、僕は、娘のために早く帰るぞと強く意気込んで、会社に行きました。しかし、火力部門はまた、未曾有の問題に頭を悩ませていました。

 火を焚けば、必ず灰が残ります。それは、誰もが知っている当たり前の理です。

 原発の穴を火力で埋め続けた結果、貯蔵施設に積み上がる灰の量は、日々、限界値を迎えようとしていました。僕は、ひたすらその「燃えかす」の行き場を探し、全国を飛び回っていました。ときには自治体職員に罵倒され、ときには「原発の方がマシだ、早く動かせ」と無理難題を言われ、言葉では言い尽くせぬ屈辱と疲労が、蓄積していきました。


 そんな折、山口県のとあるセメント会社が、灰の引き取りに応じてくれるという吉報が舞い込みました。他でもない、僕が電話を差し上げた会社でした。

 正直、半信半疑でしたが、急いで新幹線に飛び乗って現地に伺うと、その会社の担当者は、僕にこう言いました。

「困っちょってなら、うちで買うちゃろう。灰はセメントの素材になるけえ、お兄さんらが捨てるもんを、生かせる。ぶちええじゃろ?見方によっちゃ、要らんもんも宝になるけえの。」

 長州志士の末裔のお言葉は、半分くらい何をおっしゃっているのかわかりませんでしたが、とにかく、あのときの救われたような気持ちを、僕は忘れません。あの出会いがなければ、僕は、きっともう、電力会社を辞めてしまっていたでしょう。


 この功績は、想像以上に大きな評価を呼びました。「灰を金に変えた麻呂」(僕の名が平安貴族みたいなので、麻呂。坂上田村麻呂と音をかけているようですが、別にうまくもないですね……。)という、ありがたくも滑稽なあだ名をつけられながら、僕は気づけば、会社の中枢へと引き上げられていました。技術畑の人間としては、異例の速度でした。

 それでも、僕にとって本当に嬉しかったのは、昇進でも名誉でもなく、夜遅く帰宅したとき、玄関まで駆け寄ってくる娘の成長でした。

「おかえりなさい、おとうさん!きょうね、ひとりでごはんあたためたの!えらい?」

 彼女は、日々ひとつ、またひとつと、できることが増えていきました。洗濯物を畳むこと。風を使って、洗面所の曇りを吹き飛ばすこと。髪を乾かすこと。


 そして、ある日、娘は僕にこう言ったのです――。

「おとうさんのために、風でずっとまわる『かざぐるま』つくったの。ねえ、すごい?」

「ああ、すごいよ。」

 これが、僕の、いや、きっと僕たちふたりの、夢の始まりでした。


 季節は流れ、何度目かの夏の終わり。蝉の声が途切れ始めた頃でした。

「ねえ、お父さん。今日も、あれ、やろ!」

 小学生になった楓が庭に持ち出してきたのは、僕と一緒に作ったミニ風車、「かざくるま」の改良品でした。これがなかなか良くできていて、薄いアルミの羽根に風が当たるたび、からからと楽しげな音を立てるのです。

「よし、じゃあ今日は記録に挑戦だな。」

 僕たちの自由研究は、夏休みを過ぎてから始まりました。


 最初は遊び半分でした。どのくらい強く風を起こせるか、風車が何回まわるのか、娘の笑顔を見たくて、娘と一緒に過ごす時間が楽しくて。それだけの理由でした。

 ですが、娘を褒めれば褒めるほど、風はどんどん強く、鋭くなっていく。これは、単に娘が喜んで頑張っているからという理由だけではないように思えてきました。

「楓、すごいなぁ。さっきよりも風が、もっと元気だ!」

「えへへ、ほんと?うれしい!」

 その「うれしい」のひと言のあとに吹いた風は、庭の草木を一斉に強く揺らしました。僕の思いつきは、確信に変わりました。

 風のエネルギーと、「快」を示す感情には、強い相関がある――!


 娘が笑えば、風は吹く。娘が飽きれば、風は止まる。相関は、因果だとすぐにわかりました。

 僕は毎日、データをつけました。周囲からみれば、僕はまるで、何かに取り憑かれたように見えたのかもしれません。ですが、僕はこの自由研究を「エネルギーについての実証試験」だとは、つまり仕事と同じ話だとは、思っていませんでした。

 ただ、娘の力を知りたかっただけ。正しく理解してあげたかった。娘と一緒に、力の制御について、正しく学び合いたかったのです。きっと、この子の母も、天でそれを望んでくれているでしょうから。


 また、娘との自由研究の傍ら、僕は同様の事例がないかを調べ始めました。スマートフォンが流行り始めた時期なのが功を奏して、ネットの海の中に、いくつかの「それらしい話」を見つけることができました。

 「不可解な発火」、「原因不明の突風」、「不自然な漏水現象」、「不規則なガス漏れ」――。その背後には必ず、まだ十にも満たない子どもたちの姿がありました。

 投稿を見ていると、その事実に、薄々気づき始めている親たちもいたようですが、一時期話題になった「氷を出せる少年」が、いじめ、孤立、転校といった悲しい結末を辿ったことが教訓となり、それをあまり表立って見世物にするようなことは、皆好んでしなかったようです。


 しかし、この異能力者という存在が、そういった「噂」レベルの話に留まっていたのはこの時期まででした。2020年代頃になると、瞬く間に異能力を持つ子どもらは脚光を浴び、好奇の目に晒されて、メディアの玩具へと成り下がりました。爆発的に人気を博したものの、人権問題になって終わった「ウィザードタレントショー」とかいうくだらないネット番組。親の小遣い稼ぎの道具となった少年少女らは、さながら人間動物園の鉄柵の中にでも入れられているようで、あまりにも不憫でした。

 僕の娘には、学校では能力のことを隠すように伝えておきました。現代の「魔女狩り」が始まったからです。それでも、僕は気が気ではなく、結局は通信制の学校へ切り替えさせることにしました。

 いつしか、この国において異能力は、生まれ持った祝福(Talent)ではなく、呪い(Taint)として扱われてしまうようになったのです。


 「普通」から外れた子どもたちの、居場所はどこにもありません。

 苦しかった。僕の娘は、理解ある僕が守っているから笑っていられる。けれど、誰にも守られずに怯えている子たちが、この国に、少なからずいる。

 どうして、彼らが苦しむのか。どうして、差別を受けなければならないのか。

 彼らが、何をしたというのか――。


 重なったのは、かつての僕の境遇でした。この頃から、僕の中で何かが変わっていったのでしょう。

 彼らには、居場所が必要です。

 彼らには、正しき導きが必要です。

 彼には、確たる尊厳をもって、平和的な日々を送る権利がある。

 では、誰がそんな夢の世界を作るのか――。


『見方によっては、要らないものも、宝になる。』

 そうだ。僕には輝く僕の過去がある。

 僕になら、できる。

 

 いや、僕にしか、できない。

 そう、思ったんです。


 決心した日の夕方、皮肉にも政府は、震災以来逃げ続けてきた原発処遇問題に、終止符を打つことを発表しました。この発表は、電力業界に、とりわけ僕の勤めていた関西の会社に、深い絶望を与えました。

『本日をもって、我が国は、核燃料を用いたすべての商用発電の再開を禁止することを決定いたしました。再生可能エネルギー、および新たな代替手段の確立に、国家として取り組む所存です。』

 代替手段が、再エネ?そんなもので賄い切れるものか。この問題に対し、僕が何をすべきかを、僕はこの時点で正しく理解しました。

 その夜。眠る楓の頬を撫でながら、僕は静かに、心に誓いました。


 僕が、君たちを幸せにする。

 僕が、この子たちの未来を創る。

 君たちの存在が、あたりまえに、いや、万人に讃えられるものとなる。

 君たちはその世界を、笑顔で闊歩する。その中心には、きっと、君がいる。

 僕の、僕たちの、大切な娘が――!


 そして、幾年かが経ちました。会社において、ある程度の裁量権をもった僕は、光栄電力設立に繋がるプロジェクトチームを発足させることを提案し、そのリーダーとなりました。最初は乗り気ではなかった他電力会社もまた、同様の問題を解決できていないことが結束の要となり、ついには首を縦に振りました。本件は、全国10社合同でのプロジェクトへと格上げされ、合弁会社化を念頭に、莫大な資金が投入されることとなりました。


 仕事における制度、体制作りと並行して、プライベートでは娘を使った実験を進めました。この頃には、僕の自宅の電力は、電力会社からの供給を受けずとも、娘による風力発電と、蓄電池のみで成立するようになっていました。これらをふまえて、発電に使える異能力者の適格要件などを、整理していきました。

 全ては君たちが差別されない、明るい未来のために。


 さて、ここからは、島での出来事です。

 僕がまず着手したのは、島の設計でした。既存の社会から隔絶され、差別の目から解放された子どもたちが、安心して暮らし、学び、働くことができる環境。誰にも干渉されない、完全な独立空間が必要でした。

 ですから、人工島という手段を選びました。誰にも文句を言われず、誰にも否定されない、「閉じていることで、開かれている」世界。その名も「天照島(てんしょうじま)」。名は、天照大御神に由来します。新しい太陽を、ここに灯すとの願いを込めて。


 ですが結局、うまくいかないものですね。

 天照は岩戸に隠れ、もう出てきてくれない。島は、僕たちの夢は、跡形もなく燃え去ってしまいました。

 燃え去った原因については、あえて言及しませんよ。その方が、色々と都合がいい人たちもいるでしょうから。わかるでしょう?


 色んなことが、ありました。それでも、僕は決して、折れなかった。ちゃんと、自分の軸を持って、自らの意志で物事を決めて、進めていきました。

 異能力者の採用も、すべて僕の裁量で、つまりは責任で、決めました。能力そのものよりも、その裏にある「感情」の質に、僕は注目していました。怒りや悲しみではなく、愛や、愛を欲する願いが根底にあること。それこそが、最も安定したエネルギーを生み続けるのです。だからこそ、彼らには「幸福」を与えねばなりませんでした。心から、ここで生きていたいと思わせるような、そんな理想郷が必要でした。


 メイプル計画だって、その一環ですよ。

 楓という強力な異能力者をベースロード電源として、願わくは「永久機関」として、それに共鳴させる形で、将来有望そうな子どもたちを需給調整用の電源として活用しつつ、育てていく。そして、次はその子どもたちの中から、第二の楓を見つける。こうやって、保守・管理・運用をしていく想定でした。

 でも、思春期の娘のメンテナンスって、難しいものでしてね。特に、シングルファーザーにはなかなかしんどかったのです。だからこそ、力のコントロールをしやすくする薬を、国の研究機関に秘密裏に開発してもらいました。


 赤い蜜のたくさん詰まった錠剤は、感情を高ぶらせ、過去の幸せな思い出を想起させ、幸福感を最大化する補助剤です。

 副反応は理解していましたが、これの主な消費対象となる娘は「父が最も好きで、恋愛など興味無い」といった様子でしたし、なにしろ不本意に毎月流れる血を極度に嫌っている様子でしたので、もはやデメリットではないと思いました。

 後に他の能力者が使うケースになれば、そのときに副反応の改良に向き合えばよいと考えました。完璧なんて、いきなりは作れないのですから、走りながら考えることも、時には重要なのです。


 幸い、島には、能力者が自らの意志で、次々と集まってきます。彼らがこの理想郷で自然交配すれば、より強力な異能力者が産まれるかもしれない。

 副反応が解消されるまでのしばらくの間、薬を使うのはあくまで発電設備側の人間、つまりは高出力を安定的に出せる、使()()()()の能力者たちのみに限定しておく。残りの繁殖用の能力者たちには極力使わずに、生殖機能を残しておく。これで島の持続可能性は一定程度高まるはずです。


 求められる幸せと、認められる幸せ、これらを人財の最適配置によって成し遂げたモデル。島には能力者が能力者を呼ぶ、正のスパイラルが生じる。

 僕は未来の世代に、残る仕組みとしての0→1(ゼロイチ)を開発したのです。1から10や100は、きっと誰かがやってくれるはずだったのです。


 ですが、僕には思わぬ壁ができていきました。小田垣をはじめ、一部のメンバーが、僕の計画を非難し、離反していったのです。

 僕に楯突く者どもは、口を揃えて言いました。そんなの、異能力者たちの幸福ではないと。では、逆に問いたい。彼らの幸福とはなんですか。

 本土で魔女狩りに脅えながら生きること?

 島で身を寄せあって、傷を舐め合いながら生きること?

 

 どちらも不正解なはずです。だって、これではあまりにも、満たされない。

 必要なのは、「必要とされている」という確たる安心と、それに基づく「居場所」なのです。


 確かに、幸福のきっかけは、与えられたものかもしれない。ですが、その幸福が、本人たちにとって「本当」ではないと、誰が言い切れるのでしょうか?

 ましてや、能力者でも、能力者の親でもない人間に、何がわかるというのでしょうか。計画された幸せであっても、当人たちが心から満たされているなら、それは幸福ではないのですか?


 僕は、自分の選んだ道を、後悔はしていません。

 謝罪の必要性は、一切感じていません。

 たとえ誰からも理解されなくとも。

 たとえ、娘の平手打ちを、食らうことになろうとも――。


 娘……、そういえば、僕には、娘がふたり、いましてね。おっと、喋りすぎですか?

 

 では、一言だけ。

 ふたりとも、自慢の娘ですよ。


「――さて、以上が僕、加賀屋公彦の全てです。全従業員および元従業員の行動の全ては、僕の強い指揮監督下にて行われたものと認めます。彼らのあらゆる行為を、僕は教唆・強要したと言えるでしょう。さあ、どんな罪状で、僕を裁きますか?僕の罪は、なんですか?結局、異能力者たちは、再び逃れられぬ差別の中に閉じ込められて、生きていくのでしょうね。彼らが笑顔になれる未来は、今ここに消えるのでしょうから。」

 確かなどよめきがあったのは、この国が変わり始めている証拠なのかもしれないと、思います。死して不朽の見込みあらば、いつでも死ぬべし。これは僕の尊敬する思想家の言葉です。さあ、裁くがいい。僕の「過ち」は、きっと未来を拓く、光になるでしょうから。


『主文、被告人を――。』

 

 このとき僕は、父になって初めて、この身体に沁み込むような向かい風を受けたことを、ここに記しましょう。

2025/05/10 内容を微修正して、第玖話→第拾話へ。

2025/05/17 第拾話→第拾壱話へ。

2025/05/22 第拾壱話→第拾肆話へ。

2025/06/03 誤字訂正。

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