税率を減らす方向で話をまとめたら、今度は私の配偶者の問題が上がってきました
「姫様の縁談についてはおいおい相談させていただくが、今は領地の税率をどうするかというお話です」
マトライは全員を見回した。
円卓には私を中心にその横に宰相マトライ、ブランドン・ノール辺境伯、モスリム伯爵、アラカルト男爵、逆は大魔術師レナード、エイブ・アルトス飛竜騎士団長が座っていた。これが今の新生竜王国の重臣になる。宰相の後ろにはレックスともう一人補佐官が、私の後ろにはハワードとベティが、アーチボルトは扉の前に陣取っていた。
「まあ、さようですな。リディアーヌ様の婚姻の件も早急に決めねばなりませんが……」
モスリム伯爵はなおも未練がましく言っていたけれど、
「伯爵。それはまた後日」
マトライに釘を刺されていた。
「で、姫様は国に税は要らないとおっしゃるが、今後のことを鑑みるにそれは難しいのではないかと私めは思いますが……」
「じゃあ、教会に合わせて1%にする?」
私が提案すると、
「1%では心許ないのでは」
にべもなくマトライに却下された。
「リディアーヌ様は領民のことを考えて税の引き下げを考えて頂いておりますが、領民達は税の引き下げをその場では喜ぶとは思いますが、いきなり下げるというのもどうかと思います」
ブランドンが言い出した。
「さようです。領民達は良いことはすぐに忘れ、悪いことだけ覚えていて後でグチグチ文句を言いますからの。一旦下げた税は中々元に戻せませんし、戻せば領民は不満を覚えましょう」
モスリム伯爵もそう言ってくれた。
「ここは教会税が9%も安くなると言うことで宜しいのではありませんか?」
アラカルト男爵までそう進言してくれた。
でも、私が領民だったら働いた分の半分以上が税金で持って行かれるのは嫌だった。
今の案では領主が四割で、国が一割、教会が一%で五十一%になるではないか。過半数が税金で持って行かれる。
「では、リディアーヌ様はどうされたいのですか?」
レックスが聞いてくれた。
「領民の皆も一生懸命働いているんだからせめて半分以上は残るようにしてあげたいわ」
私が言うと
「半分ですか?」
「では国の取り分を九%に下げますか」
マトライが言ってくれたが、
「うーん」
私が渋い顔をしていると
「判りました。領主の取り分を三十九%、国の取り分を九%教会の取り分を一%にすれば皆負担することになるかと」
ブランドンが提案してくれた。
「そのような半端な計算が果たしてうまくいきますかな」
モスリム伯爵が疑い深そうに見てきた。確かにこの国の民の識字率や計算できる者の数は少ない。前世の日本人にとっては簡単な計算も、この世界の人間には難しいかも知れなかった。
私は早急に識字率の向上と計算出来る人間を増やすこともやっていかないといけないと心に決めた。まあ、これはレックスらと相談すれば良いだろう。
「ノール辺境伯の案でいきましょう」
私は頷いたのだ。
領民は今まで六十%税を負担していたのを、領主が四十%を三十九%に、国が十%を九%に、教会は十%を一%に減らして合計四十九%の税負担に減るのだ。領民も喜ぶだろう。尤も教会はブツブツ文句を言いそうだが、魔女裁判なんて開いて悪事を働いている教会など、本来は全廃したいくらいだ。残けるだけでも感謝してほしい。これで文句を言ってきたら取り潰しだ。私はそう決意したのだ。
税の話し合いは私の決断に全員頷いてくれて終わった。
よし、これで今日の会議は終わりだと私はほっとしたのだが……
「さすれば、次の議題として、リディアーヌ様の婚姻の件を審議いただきたいと存じますが」
せっかくなくなった話題をモスリム伯爵が蒸し返してきたのだ。
何故今頃蒸し返す?
私は少しいらっときたのだが
「新生竜王国は今のところリディアーヌ様に万が一のことがあった場合に継ぐものがおりません。お世継ぎの件がこの王国の早急なる問題点であると思いますが」
「確かにモスリム伯爵の申されることは一理あるが、事を急ぎすぎますとまたいろいろと問題も出てきましょう」
マトライがやんわりと断ってくれて私はほっとした。
「いやいや、マトライ宰相。このお世継ぎ問題は急ぎすぎるということはございませんぞ。何しろ今の新生竜王国は先程も申したようにリディアーヌ様のお後が全くいらっしゃらないのだ。早急に考慮すべき問題であろう」
モスリム伯爵も中々しぶとい。もっとも当事者の私はそれどころではなかったのだが……
「まあ、モスリム伯爵。姫様もまだ、十八歳。それも男に振られたところですからな」
レナードが擁護してくれたんだけど、振られたって強調するな!
私はむっとしてレナードを睨み付けたが、恐竜並みの神経をしているレナードはびくともしなかった。
「さようでございますな。シュタインを降伏させた暁にはその王太子を人質兼王配にしても良いかも知れませんが」
「伯爵。それは絶対にありませんから」
私ははっきりと断りを入れたのだ。それだけはあり得なかった。
「そうですぞ。伯爵。リディアーヌ様に酷い扱いをしたエイベルなどをリディアーヌ様の婚約者候補とするなど許されることではありません」
レックスが言ってくれて、ハワードらが頷いてくれた。
「私は例えばの話をしただけですぞ。レックス殿。リデイアーヌ様のお相手の候補は私の孫息子もおりますし、ノール卿のご子息も立候補したそうにしておられますし」
そう言うとモスリム伯爵はにやりと笑った。
「そうかその方も立候補されるのか、レックス殿?」
「それは……」
レックスは必死に何か考えているみたいだった。
私はレックスがすぐに返事してくれないことに何故だかかがっかりした。
「まあ、もっとも偽名では立候補は出来ませんな、レックス殿」
勝ち誇ったようにモスリム伯爵が言ってくれたんだけど、私はその前のレックスの態度にモヤモヤしていて伯爵の言葉をよく聞いていなかったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
レックスの正体は?
その前に教会の動きも急を告げます
次回は明朝です。
お楽しみに








