兄反逆の報を聞き飛び出しました
「竜姫、リディアーヌ様。是非とも我々の王とおなりください」
「お願いいたします」
私は皆に取り囲まれてお願いされているんだけど……
いやいやいやいや、私が王になるなんてあり得ないんだけど……インスブルクの王でさえ嫌だと断って逃げてきたくらいなのだ。私達に降伏してきた領地の人口を足すと既にインスブルクの5倍くらいいるんだけど……
それが次々に雪崩を打ったように私達の勢力下に入りたいとか言いだしているんだけど……
「辺境伯、私は王の器ではありません。王が必要ならば辺境伯がなられれば良いではありませんか」
私が答えたが、
「我が辺境伯は過去に古竜王家を裏切って、シュタイン王国についたのです。そんな辺境伯家が王につくのは皆が許さないでしょう。
それに比べてリディアーヌ様は古竜王国王家の血を引いていらっしゃいます。なおかつ、始祖と同じ黄金の髪に紺碧の瞳をされて黄金の古代竜を従えてこの地に現れられたのです。
更には、前ジュタイン国王が、あなた様を王太子の婚約者にしたということは、この古竜王国の地を完全にシュタイン王国に併合するためにされたと思われます。何しろ竜王国の血筋を王家に取り込むことによって、この地の地方貴族と蔑まれた我々を王家に取り込み、名目ともに完全な併合を行おうと画策したのでしょう。その大切なリディアーヌ様をシュタインの王太子は婚約破棄したということは、この地の者達はいらないと見すてたも同然です。
とすれば我々はその竜姫様に従い、シュタイン王国から独立するしかありますまい。
そう考えると、竜姫様、リディアーヌ様を除いて新生竜王国の国王陛下に相応しい者はおりません。何我らの主となって、横暴なシュタイン王国から我らをお守りください」
ノール辺境伯らはこう言うと平伏してくれたんだけど……
「お守りくださいということは、辺境伯はシュタインの横暴に対処するのは全て姫様にお任せして高みの見物をするおつもりか?」
レナードが横から余計な口を出してくれた。
「そのような滅相もない。わがブランドン・ノール、この命を全てリディアーヌ様の盾となって捧げる所存です。我らの主となってご指示くだされば我らが戦います」
そこはインスブルクの後方に陣取って、戦いが終わったら、私を牢に入れたインスブルク王国の面々とは確かに違うけれど、でも、私が国王なんて出来るかというと、無理だとしか答えようがなかった。
だって、王妃としてのくだらない教育は受けたが、国王としての教育は受けたことが無かったのだから。
私がそう言うと
「竜姫様の足りないところは我々が分担して負担させて頂きます。竜姫様はそこから取捨選択されてご指示賜ればよろしいのでは無いかと……」
辺境伯はそう言うけれど、それで良いのかと思わないでも無かった。
それに国王とはそんなに簡単になるものでは無いのだ。
「なるほど、姫様は、我らに三顧の礼をしろとおっしゃるのですな」
「違う!」
訳知り顔で言うレナードを私は否定した。
三顧の礼とは前世では三国志の時代に諸葛亮孔明が劉備に軍師として迎えられるのに2回断って3回目に礼を尽くして迎えられた故事だと思う。今世では確か、帝国の初代皇帝が軍師を迎えるのに使った方法で、このレナードは……
「そういえばレナードは帝国の女帝に三顧の礼されても断ったんじゃない!」
「ふんっ、あの性悪女めは世界最強の魔術師様であるこの儂を王配、いや帝国だから帝配に迎えようとしたのですぞ。魔術の強い子孫が生まれれば良いとの事で。それで無くてもうら若い男どもを何人も侍らせておる変態皇帝の帝配なんぞ誰がなるものですか!」
「「「えっ?」」」
皆唖然とレナードを見ていた。
「あなた昔はそんなことを言わなかったじゃ無い」
「それはまだうら若き姫様に本当に事など言えるわけ無いでは無いですか」
「いや、私はまだうら若き乙女よ」
「成人越えたらうら若くはありません」
「何ですって、あなた私をあの女帝と同じにするの?」
レナードの声に私が切れて言うと、
「いや、女帝は既に40を越えておりますからの。さすがに姫様と比べられませんわ。姫様ならば私はいつでも王配に立候補しますぞ」
レナードがまた訳の判らないことを言ってきた。
「レナード殿、それはどういう事だ」
「そうだ、そんなことは許されないぞ」
「立候補するなら我らとて黙って見ているわけにはいかん」
レックスとかがいきり立ってなんか叫んでいるけれど……
「そもそもレナードがスカウトされた時は、女帝はまだ若かったでしょ」
確か20代のはずだ。
「ほおおおお、姫様は女帝が今は姥桜だと申されるのですな」
「いや、ちょっと待って、そんなことは一言も言っていないから」
私が必死に否定しようとした。年の恨みは怖いのだ。特に女は……
「まだ、若いということは今は若くないということで」
「いや、だから違うって」
私は必死に否定しようとした。女帝は執念深いという噂だった。
「いや、あの、竜姫様、女帝のお話は置いておいて、是非とも我らの王に!」
跪いた辺境伯が言っているし、
「女帝を姥桜と呼ぶとはさすが姫様。肝が据わっていらっしゃる」
「いや、言っていないし」
私が必死に否定しようとした時だ。
私の腕の中でつまらなそうに寝ていたドラちゃんがピクリと起きた。
次の瞬間、私とレナードの前に魔術師が転移して来た。
レナードの配下の魔術師テレンスだ。
「申し上げます。王太子様が反逆されました」
「何ですって」
その言葉に私は驚いた。
「状況を説明せよ」
「はっ、陛下がご夫妻を呼び出されたので、廃嫡の危機を覚えられたお二人が反逆。陛下が刺された模様です」
「お父様の具合は?」
「詳しいことは判っておりません。付近はギンガルメからの騎士が制圧した模様です」
「判りました。直ちにインスブルクに参ります」
私は決断したのだ。
「この地の指揮はノール辺境伯にお任せします」
私はそう言い残すと、飛び出したのだ。
そして、広いところでドラちゃんを元の姿に戻して、飛び乗った。
後ろに何故かレックスが飛び乗ってきたんだけど……
私達は一路インスブルクの王宮に向かったのだった。
ここまで読んで頂いて有難うございます
次は王宮内戦です
実の兄を前にどうするリディ?
今夜更新予定です
お楽しみに








