最後に聖女を張り倒しました
「うっ!」
私は苦痛に呻いた。
私は聖女の十字架の力で地面に縫い付けられて、その上でアラベラにその銀色の聖女の十字架を突き刺されたのだ。
「あっはっはっはっは!」
アラベラの笑いが聖女の間に響いた。
「こうなってしまったら、竜娘と皆に恐れられたリディアーヌも抵抗すら出来ないのね」
アラベラの言うとおりだった。強化魔術も使えず、今度は私もいつもと違って、実際に十字架の先を突き刺されていたのだ。
「銀の聖女の十字架で突き刺されたリディアーヌは、銀の十字架に貫かれたドラキュラみたいで本当に惨めだわ。あはっ、あはっ、はっはっはっは」
そう言うと更にアラベラは笑い出してくれたのだ。
「ひと思いに殺してやるつもりだったけれど、もっともっと苦しみなさい。あなたによってお父様も殺されたのよ。もっともっと苦しむと良いわ」
アラベラは笑ってくれた。
私はなんとか体を動かそうとしたが、動かない。というか、銀の十字架を突き立てられているからか、どんどん力がなくなっていくのだ。
「どうしたの? もう苦しくて言葉も出ないの?」
アラベラが笑ってくれた。
「初代竜王国竜王もこの銀の十字架を突き刺されて最後は干からびて死んだそうよ。あなたも干からびて死ぬが良いわ。あなたのせいで、私がどれだけ苦しんだか思い知るが良いわ」
アラベラが憎々しげに私を見下してくれた。
えっ、私、こいつになにかしたっけ?
私は薄れ行く頭の中で考えた。
アラベラにはむかつくことをいろいろされたけれど、こいつを張り倒した記憶はなかった。
「何を私は知らないって顔しているのよ」
私の顔に出ていたのか、急にアラベラが怒りだした。
「ギャーー」
激痛が私を襲う。
アラベラは突き刺していた聖女の十字架を更に突き刺してくれたのだ。
「私はあなたがエイベル様を張り倒したから、そのエイベル様にぶつかられて顔を床にたたきつけられたのよ。私のきれいな顔が傷だらけになって腫れ上がってしまったわ」
そうか、エイベルを張り倒した時に横にこいつがいたのだ。でも、私が張り倒したわけではないからそんなに被害はないはずだ。直接張り倒したのなら全治三ヶ月くらいになっているはずだが……
「私のきれいな顔が傷だらけになってしまったのよ。下等生物の爬虫類の親玉のあなたによってね。私の高貴な顔が傷だらけになって外にも出られなくなってしまったのよ」
私はそれを聞いて思わず笑ってしまった。
高貴な顔が聞いて笑える。
元々やることがお下劣なんだから、丁度良い顔になったんじゃないのかと思ってしまったのだ。
「な、何よ、その顔は! また私を馬鹿にしたのね」
「ギャーー」
私の体に激痛が走った。
アラベラがまた聖女の十字架を突き刺してくれたのだ。
「あなたのせいで顔の傷が治らなくて、私は部屋から出られなくなったのよ。何人もの癒やし魔術の人に治してもらったけれど、竜の呪いがかかっているから治らないって、言われて。私は部屋に閉じこもって泣いていたのよ」
怒り声でアラベラが教えてくれた。
そうか、だからこいつは大聖堂にもいなかったのだ。おかしいと思ったのだ。この出しゃばりな女が静かにしているのが。王宮を灰燼にした時も、大聖堂を焼き討ちにした時もいないと思っていたら部屋に閉じこもっていたからだったんだ。そのまま殻に閉じこもっていたら良かったのに! そうしたら、静かな余生を送れたかもしれないのに……わざわざ何で出てきたんだろう?
私はそう思った。
「そんな私の所に聖遺物を宰相様の使いの方が持ってきていただけたのよ。それをかざすだけで私の美貌が戻ったのよ。貴様の汚らしい呪いもきれいさっぱり消え去ったわ。爬虫類共より人の方が、聖女の方が力は上なのよ」
そう言うと、アラベラは靴を私の頭の上に乗せて私の顔を踏みつけてくれたのだ。
でも、私はもう、抵抗する気力さえも無かった。
どんどん、力が吸い取られていくのだ。
本当にこのまま干からびるんだろうか?
そう思った時に何故かレックスの顔が思い出された。
「負けるな! リディなら出来る」
何故かそれは小さいレックスだった。
何故か必死に私を応援してくれていた。それはどこかで見た顔だった。
「あなたのせいで悲惨な目に遭ったけれど、これであなたも終わりよ」
何かアラベラが言っていたが、私は無視して必死に思い出そうとしていた。
「あっ」
私はやっと思いだした。そうだ、あの弱っちい男の子だ。
私に生意気なことを言って対戦したら一撃で私に負けてしまって半泣きになった男の子だ。彼がレックスだったんだ。
それから必死で私について来ようとしてこれなくて、迷っていたところを探しに行ったら古代竜に襲われたのだ。さすがの私も古代竜相手では分が悪かった。
その時にレックスが叫んでいた言葉がそれだった。
本来、男なら俺が倒すとか言う場面だろう! と思いつつ私はその応援に力を得て、古代竜を張り倒したのだった。
そうか、あれがレックスだったんだ。レックスも強くなったんだな。
私は感慨にふけった。
そうだ。こんな所でのんびりしている訳にはいかない。
私がこんな聖女に負ける訳にはいかないのだ。
まず、この生意気なえせ聖女をなんとかしないと。
「判っているの! リディアーヌ」
そうアラベラが叫んだ時だ。
銀の聖女の十字架が銀色に輝いたのだ。
「おおおお、ついにあなたの最期の時が来たのね」
アラベラが喜んでくれたけれど、私の体に力が戻りつつあった。
それも急激に。
十字架に力が吸われなくなったのだ。
おそらく、十字架の限界を突破したのかもしれない。
「えっ」
十字架がドンドン震えだした。
そして
パリンッ
大きな音を立てて粉々になってしまった。
唖然とする聖女を吹っ飛ばして私は立上がったのだ。
「ギャッ」
スカートがまくれてアラベラが盛大に転けてくれた。
「アラベラ・トレント。良くも今までいろいろやってくれたわね」
そう言うと私はゆっくりとアラベラに近づいたのだ。
「嘘よ。なんで聖女の十字架が無くなったの? そもそもなんで聖女の十字架に突き刺されたのに、あなたは元気にしているのよ」
アラベラが叫んでくれた。
「ふんっ、そんな、ちゃちなおもちゃで私は死なないわよ。私は竜王リディアーヌなんだから」
そう笑うと私はつかつかとアラベラに歩み寄ったのだ。
「うそよ、うそ、信じられない。来ないで、化け物」
アラベラがむかつくことを叫んでくれた。
「誰が化け物よ」
私は容赦なくアラベラの胸ぐらを掴んで持ち上げたのだ。
「ヒィィィィ」
アラベラは悲鳴を上げた。
「この一発で忘れてあげるわ」
「いや、やめて、死ぬ!」
バシーン
私は泣き叫ぶアラベラの頬を引っ叩いたのだ。
アラベラは放物線を描いて後ろにある聖女の祭壇に飾ってあった大きな聖女の像に激突、聖女の像は粉々に砕け散ったのだった。
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