第129話 ガディと結社。終わりの禁呪
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魔都ガヘムの貧困街一角、何時でも崩れそうな寂れた酒場にて自らを『盟主』と名乗る人物から誘われ、団体の一員となったガディ・ノーバス。彼はこれまで過ごしてきた無駄な時間を取り戻せんと躍起になって命じられた魔法を研究を重ねて始めた。瞳に狂気じみた感情を埋め込み、寝る暇も惜しんで一日でも早く成果を出さんとガディ・ノーバスは組織が用意した研究室で住むようになった。
彼に与えた研究室も国家魔術研究室に匹敵する設備、渇きを知る事もない与えられた予算。
少し時が経てばガディの魔法研究に成果が現れ始め、組織としての地位もグングンと上がっていく。
そして…。
遂にガディ・ノーバスは数度のターニングポイントを得て、具体的な形を持って空間に存在する物質を平等に溶かす魔法を生み出した。奇しくもその魔法は知る事すら禁じられた禁呪の一種であり、酸性魔法とガディは名付ける。
魔物が入り浸る適当な森で魔法の試し撃ちを試したガディ、立証に立証を重ね精確な威力を見極めた彼は長年考えていた報復を実行した。復讐心に近い。
いや…復讐よりかは嫉視と言った方が正しい。
地上が厚い闇に閉ざされた魔都ガヘムの一番地、周囲には高い塀のある大きな屋敷が立ち並んだ貴族街の一角にガディは居た。組織が用意した魔力量を増やすローブと杖を装備したガディ、無造作に伸びた頭髪は手入れが施されていない髭を摩り街灯が届かない深い闇に潜んだ彼はとある豪邸へ振りまいた魔力を込めた杖を振るった。
「――塵にえ、贄の塵、散る花、荒ぶる我が親愛なる風王の金魚を、顕現せよ四つ星が疾悪『DrakoArtix』」
何もかも溶かし、無へと返す魔法が唱えられる。右手で振るう杖が触媒となり魔力がソフトボールほどもある濁った紫色の渦に変わる。次の瞬間、硫酸の渦が弾け飛んだ。魔晶石を埋め込んだ杖先を掲げて向ける豪邸に衝突し爆風が爆ぜると、屋敷全体に覆い被さる様に灰が舞い、建物が音も無く解け始める。
一分も経てば豪邸の見る影無く、一面に広がった広大な大地が広がっていた。煙如く集まった灰がいつもに比べて闇の密度が濃い夜中に流れる強い風に乗り無数の微粒が王宮方面へ広がった湖に吞まれるように消えていった。
「ア、ハハハ……成功だ、成功だ!全てを消した!全部消えた!俺が…儂が最後に上回ったッゾぉ!イひッイヒヒヒヒ。あぁ我が神よぉ儂は成し遂げましたぞ、地獄に落とされた仇を取りましたぞ!」
その翌日、魔都ガヘム中に暗い知らせが広まった。あのライブラリーにも名を連ねた次代魔導士とも名高い天才魔法使いが自宅の屋敷にて就寝中、何者かが夜襲を仕掛け建物は風化したようで全壊。使用人を含んだ家族全員の死亡を公表した。
嫉妬を組み合わせた復讐を終らせたガディはその後拠点に戻り、主である盟主に魔法の威力を報告した。
盟主の男性はガディ・ノーバスの功績を称え、大量の金銀財宝、上級ダンジョン深層でした見つからない魔導書を授与させる。
勧誘された秘密結社『福音黒十盟団』加わり早十数年、構成員も多く入会し組織規模も大きくなっていた。その勢力は国を跨ぎ、大陸全土に支部を構える程強固になっていた。
比較的初めの方に入会したガディ・ノーバスは幹部席である序列第六柱に席を置いていた。彼の役割は相も変らぬ魔法の研究に熱中しているが、その片側才にありふれた部下や新人に魔法の手解きも行っていた。
歳を重ね、頬の肉はげっそりと落ちており額の皮膚は皺だらけの老いた顔。かきあげた髪が、油っ気のない髪を持つガディ・ノーバスは主より与えられた任務をこなしていると一人の青年に対峙する。同幹部から譲り受けた使役魔物が突如半数以上削られたのだ、当然ながらどの様な人物なのかと気になった。
その姿を一目見た時から心中に渦舞う嫉妬に駆られ気に食わなかった。
人間離れした整った容姿、長身痩躯だが衣服の上からも分かるほど鍛えられた肉体。初雪を思わせるきめ細かい無垢な白肌。目鼻立ちはまさに黄金比で象られている。黒曜石を模した漆黒の瞳、短めに整えた髪は黒と銀が混じり合っている。気温は低く、季節は既に冬に入っているのに青年はシャツに派手さを一切感じさせないズボン。
小品らしき物が詰まったレッグポーチは腿に巻き付けている。装備した武器は一本の両手剣のみ、腰に差した杖は見当たらない。
「(魔法剣士か…それにしても何と美しい魔力の流れ)」
通常の眼には映らない青年の周りに揺れる一ミリの窪みすら見受けられない半透明の虹色に輝く魔力。正に神々の情愛を受けた存在、ステータス表には映らない才能の塊。いくらガディ・ノーバスが望もうと決して手に入らない技能。いざ力をぶつけてみれば己の得意魔法である『九連龍爪』を全て躱される、数本命からがら躱される時は数度あれど、手下の部下二人を相手しながら難なく全て回避されるのは予想外であった。
それどころか影魔法を極めた優秀な部下二人が打ち取られた、それは幹部であるガディ・ノーバスにとって許されざる事。
拡がった炎の壁が消えて、青年の姿を目にすれば内臓が震えるほどの激しい怒りが魔力へ替わり噴出する。
へし折りそうに白杖を両手で握り締め彼は禁じられた魔法の詠唱を始める。
「――逃がさんぞ!『狂風の勾玉よ、全ては塵へと返し外法の業。一度は拒みし天の羽風、咲け、心海に沈められし我が欲望。風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ!来れ、北方の風!』…『Arcana's Concerto』
身体から魔力が吸い取られる、大気へ溢れ出す圧倒的な力を魔力に変換し、杖に流し込む。その杖の周りに膨大な魔力が渦を巻き始めた。空間が悲鳴を上げ始める。
彼から距離を取ったショウもその膨大な魔力を感じて目を細めた。大地にぶつかれば星に負荷を与える可能性、しかし直撃すれば二人を遠くより観察している人にショウの正体がバレるかもしれない。
限られた選択の中ショウは決断した。
杖の周りで渦巻いていた膨大な魔力は、杖から少し離れた空中で圧縮され球形となり、膨大な熱を放出し始める。超酸並みの酸性。
放出される前に縮地で敵の背後を取ったショウは剣を一閃横へ振るった。魔力の殆どを魔法に費やしたガディ、熱を放出した蒸気で視界が遮られ、ショウの姿を確認する前に剣が首へと届き一切の抵抗なく首は地面に落ちた。
しかし、魔法使用者が死んでも既に発動した魔法は止まらない。首が無くなり崩れ落ちそうになるガディの身体を受け止めたショウは掲げた杖を掴めば、白い雲が明るく、まばゆく、うごいている空へ傾ける。
そのまま圧縮された酸性の球体を発射する。魔法は飛翔中に魔力を消費して急速に温度を上げながら拡大する。
雲を突き超える頃には直径が二メートルほどになっていた。大きくなった球体は、天へ天へ向かって飛翔しやがて空中で一旦停まった。
――幻日斬。
ショウが虚空を一閃させ燃え盛る斬撃が一直線にして放たれる。やがて硫酸魔法に激突した瞬間…爆発。
一瞬の空間の静寂を切り裂いて破裂音が響き渡った。
地上にいるショウのところへも爆風が届いた。
「後は…遺品の回収にせめてもの簡易的な墓でも作るか」
数秒立ち止まったショウはやがて鞘に武器を戻し、骸が太陽の下に晒されたままは流石に可哀想と零し建物が崩れた方へ歩き始めた。




