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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 2 もう一人の来訪者 第三章 王子来訪

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6.報告連絡相談

「こうして、みんなが揃うのも久しぶりだな」


 いつもの部屋――食堂兼会議室と化した感のある一室――に並ぶ顔ぶれを、ヴァルトルーデが感慨深く眺めた。

 彼女が嘘を吐くことなど無いという事実を差し引いても、上機嫌には違いない。


「というか、主にボクがはぶられてただけだよねー」

「仕方ないだろ。ラーシアを送り出した直後に、王都(あっち)から無茶振りが来たんだから」


 長方形のテーブルの短辺に座るヴァルトルーデの右手側にいるラーシア。その反対側にいるユウト。

 ユウトの隣にはヨナがいて、ラーシアの左右にはアルシアとエグザイル。今日は、アカネは事情があってヨナの隣に座っていた。


「みんな簡単には話を聞いているとは思うけど、情報のすり合わせをするために集まってもらったわ」


 ラーシアが帰還し、アカネが料理の方向性を見つけ、エグザイルが部族の長となった数日後。

 集まった仲間たちを前に、紅の眼帯を身につけたアルシアが開会を宣言する。

 まさに、パーティの要。この死と魔術の女神の大司教(パトリアーチ)なくして、彼らの成功はなかっただろう。


「アルサス王子のご訪問に関しては、とりあえず後回しにしましょう。最初は、気分が滅入る話からの方が良いかしら?」

「その振りからすると、ボクだね」

「主に、俺の気が滅入る話題だよな?」

「ユウトの気分が良くなる話なんてあるの?」

「さっさとやれ」

「じゃあ、早速」


 おどけた調子で咳払いをしてから、ラーシアが言った。


「ユウトに言われて、ハーデントゥルムの危険な闇の組織を潰して、ついでに裏社会のトップに立ってきたよ」

「……おかしいな。ついに私は、読み書きだけでなく会話まで不自由になったんだろうか?」

「正直、ヴァルのこの自虐ネタってリアクションに困るわよね」

「そりゃ、日本じゃ滅多にいないってレベルじゃないからなぁ……」


 ユウトがアカネの悩みに相槌を打っているのは、現実逃避以外のなにものでもない。それでも、結局、ヴァルトルーデにこの事を話すと決めたのは、ユウト自身だった。


 深謀遠慮もなにも無い。

 秘密はあって良いけど、隠し事は嫌だっただけだ。


「まあ、公開するわけでも、便宜を図るわけでもない。むしろ、治安は良くなるから認めてほしい」

「……今回だけだからな?」


 相当な葛藤があっただろうが、最後には子供に甘い母親のような台詞で認めてくれた。

 ユウトの想像通りに。


「あと、もし真っ当な道に戻りたいという者がいたならば、最大限配慮してほしい」

「それはもちろん。うちは、足抜け大歓迎。むしろ、組織ごと合法化まであるよ」

「そっちの方がヤバそうな気がするんだけど……」


 そして、ラーシアの報告はこれだけではなかった。どちらかといえば、次の話の方が本番。


「それで、危ない所を潰すときにね、ああ、こいつらは王都から流れてきたみたいなんだけど、かなり狂っててね」

「まどろっこしいな」


 ヴァルトルーデの言葉を受け、ラーシアはちらりとアカネの方を見てから、端的に言った。


「どうも、王都の方で不死者(アンデッド)絡みの事件が起こってるっぽい」


 結論を先に言ってから、グリム・ディの首領の様子をぼかして伝える。


死霊(ゴースト)幽鬼(レイス)などの類ではないようね」

「じゃあ、屍生人(ゾンビ)塚人(ワイト)食屍鬼(グール)……」

「後は有名で強力な所だと、吸血鬼(ヴァンパイア)に、死界の王(ノーライフキング)?」

「そういうの、やっぱりいるんだ……」

「いるよー。攻撃すると、だいたい死ぬ」

「そ、そうなの……?」


 不安げなアカネへ、ヨナが当たり前のように言う。おもんぱかったわけではなく、端的に事実を伝えただけだろうが。

 

「いずれにしろ、自然発生したとは思えないけど……な」


 だが、具体的な被害も分からないうちから、動くわけにはいかない。

 冒険者時代なら正義感からボランディアをするのもひとつの選択肢だっただろうが、今の立場で下手に動いては軋轢が大きすぎる。


「とりあえず、俺は宰相に話を通してみる」

「では、私はトラス=シンク神殿、ヴァルはヘレノニア神殿を通して警告を……ですね?」

「任せろ」

「当座はそれで良いとして、それだけ?」

「そうだな……」


 現時点では充分だろう。

 だが、どうも安心できない。それは、アカネを除く皆が共有している思いでもあった。


「ラーシア。もし、目端が利いて信頼できる人間がいるなら、王都に派遣できない?」

「オッケー。見繕っておくよ」

「頼む」


 心配のしすぎかも知れないが、杞憂に終わるならばそれで良い。

 ユウトがそう折り合いを付けるのを見計らっていたかのように、元気よくヨナが手を挙げた。


「じゃあ、次はエグの話。本人には任せられない」


 その割には、声は相変わらずローテンションだったが。


「細部は、私がフォローしよう」

「構わん」


 同行者だった二人のお墨付きも得て、ヨナが口を開く。


「まず、エグザイルが妹の人と、結婚するって」

「ええっ? なにそれ? どういうこと!?」


 案の定、ラーシアが過剰反応を示す。

 そのうちそうなるだろうと思っていたヴァルとユウトとは違い、予想も想像もしていなかった。


「しかも妹だって?」

「こういうのを、俺の故郷だと青天の霹靂って言うんだ」

「こっちだと、自然崇拝者(ドルイド)自然魔法(ネイチャーマジック)で、雷を落とせたりするけどね……って、今は関係ないよ!」

「それはおめでとう……で良いのよね? でも、妹と結婚って問題ないの?」


 極めて常識的な発言をするアカネ。当たり前だが、大切なことだ。

 貴重な人材が加わってくれたわ……と、アルシアは内心喜んでいた。


「いや、妹と言っても血のつながりは無いのだろう?」

「ああ。両親が山の事故で死んでな。族長だったうちが引き取っただけだ」

「義理の! 妹!」


 なにかがラーシアの心の琴線に触れたらしい。吐血しそうなほど興奮していた。


「時々、ラーシアって地球から来たんじゃね? って思うことがあるんだが、俺は間違ってないよな?」

「気持ちは分からないでもないわ。あと、地球と言っても、ほぼ現代の日本限定よね」


 頭上でかわされる来訪者二人の会話を遮るかのように、ヨナが立ち上がる。


「あと、エグがお父さんの腕を折ってた」

「それは、娘が欲しければ俺の屍を越えていけ的な?」

「それから、ロックワームを素手で真っ二つ」

「おっさん、部族をうちの領地に勧誘しに行ったんだよな……?」


 簡単な経緯は聞いていたはずだが、話がまったくかみ合わない。


「ヨナ、印象に残ったシーンだけ語らないように」

「ヴァルにダメだしされた……」


 せっかく頑張ったのにと、哀しそうな瞳でヨナが席につく。


「これは、ヴァルが有罪だね。間違いない」

「7:3で有罪かしら」

「俺はノーコメントで」

「アルシアぁ……」

「まったく……」


 このままでは、埒があかない。

 アルシアがひとつ手を叩いて注意すると、エグザイルに説明を委ねた。


 最初から、こうすべきだった。


「オレが親父を倒して、代わりに族長になった。こちらへの移住の同意も得ている。ロックワームは、ちょっと乱入してきただけ。結婚は、流れだ」

「流れですかー。余裕ですなー」

「すまんな、ラーシア」

「……いや、謝られると辛いんだけど。というか、この空間、独り身に辛いよね! 今、気付いたよ!」


 そして、気付いた時には遅かった。

 人生と同じだ。


「とりあえず、部隊の編成はエグザイルのおっさんに任せるよ。装備の手配もあるから、できれば早めに」

「そうだな。見栄え重視なら、装備は揃えた方が良いな」

「うんうん。そうやって、実務の話をすると良いよ!」


 ラーシアのお墨付きも出たので、本題のアルサス王子来訪について話を進める。


 アルサス王子本人と、婚約者のユーディット・マレミアスの他、随行するのは数名。

 訪問先は、当初の予定通り。ただし、"領内文化祭"を見学する可能性がある。

 執り行われる夕餐会の料理は、アカネが担当。

 そして、この訪問の真の目的は、ケラの森の奥にある祭壇で、王の証をその身に受けることにある。


 これらの要点を、ユウトが簡単に説明していく。


「ふうん。あの森に遺跡なんかあったんだ……。面白そうだね」


 最初に反応をしたのはラーシアだった。


「面白がるものではないが、久々に心躍るのは確かだな」

「ヴァル、不謹慎でしょう? でも、もちろん私も参加するわよ」


 たしなめる側のアルシアですらこうなのだから、パーティの総意と言って良いだろう。

 つくづく、宰相のあの判断は誤りだったと言える。


「これに関しては、私は留守番よね」

「だな。同じく留守番のユーディット嬢の接待をお願いすることになると思う」

「うっ。地味に、嫌な役目を……」


 その配役が後にロートシルト王国の文化史に大きな影響を残すことになるとは、当人もまだ気付いていない。


「アカネといえば、料理の方はどうなったの?」


 とりあえずの配置や計画が定まったところで、ラーシアがアカネに尋ねた。


「料理? ああ。夕餐会のか」

「良い振りをもらっちゃったわ」


 苦笑を浮かべながら、アカネが立ち上がる。


「そろそろ、休憩にしてもいいわよね?」

「それは構わないが……」

「ありがと。ちょっと待ってて」


 そう言って出ていったアカネが、カートのようなものを押して戻ってくる。


「あ、良い匂い」


 まず、ヨナが食いついた。


「確かに、そうだな」

「悪くない」

「朱音、これ……」

「ご名答」


 そういえば、保温もできる魔法具(マジック・アイテム)も渡してたっけと思い出すが、今はそんなことよりも、この懐かしい匂いが気になって仕方ない。


「アルサス王子たちに出す料理候補、ハンバーグよ」

「これが、挽肉をこねて焼いたっていう?」

「まあ、まずは食べてみて」


 鉄板の皿――とはいかず陶器の皿に盛りつけられているが、それは確かにハンバーグだった。

 中央に手のひらサイズのハンバーグが鎮座し、ソースがかかっている。地味な色合いだが付け合わせのニンジンの鮮やかさがそれを補っていた。


「見た目は、完全にハンバーグだな」

「問題は味でしょう? まあ、味見は嫌になるくらいしたけどね……」


 それは嘘では無いのだろう。事実、みんなにハンバーグの皿を並べ終えたにもかかわらず、アカネの前にはなにも用意されていない。


「いただきます」


 フォークとナイフで大きめに切り分け、口いっぱいにほおばった。

 ふんわりとした口当たり、溢れる肉汁。

 ユウトは夢中になって飲み込んだ。ソースだけは、食べ慣れたものではなかったが、コクがあってなかなか美味しい。


「旨い」

「ありがとう。でも、具体的な感想も忘れないようにね」


 誉められれば素直に嬉しい。

 それがユウト相手なら、なおさら。

 けれど、今回はそこがゴールではない。改良点を指摘してもらわないと困るのだ。


「でも、旨いし」


 付け合わせのにんじんを口に入れ、水を一口飲んでから、次の一口とナイフとフォークをハンバーグへと向ける。


 思えば、こんなに夢中でなにかを食べるのはいつ以来だろう?

 食べ慣れたものが美味しい。

 それは、ユウトにも当てはまる事実だったのかも知れない。


「このソース、どうやって作ったの?」

「ベースは赤ワインね。フライパンにバターを溶かして、小麦粉を入れて、ワインのアルコールを飛ばす。そこに、ハチミツと魚醤を少し足して調整ってところ」

「へぇ」

「本当は、お醤油が欲しかった……。というか、ケチャップやウスターソースがあれば、こんなに苦労は……」

「いや、充分だろ」


 ただ食べているだけの身で偉そうだが、その苦労の成果はきちんと出ている。

 ハンバーグ自体も、卵やパン粉のようなつなぎは使わず、塩だけでひたすらこねて作ったらしい。

 材料が無い以上、手間が必要とは言え、ユウトは頭が下がる思いだった。


「ただ、そのせいで、合い挽きじゃなくて牛肉100パーセントになったんだけどね。そしてまた、牛肉を買うのに一苦労よ……」


 雄牛であれば、農耕に。雌牛であれば、乳牛として。

 牛は家畜というよりは資源に近い。そのため、季節の祭りでも滅多に見かけることは無く、役に立たなくなったときにだけ供されるのが一般的。


 そう。


 一般的ということは例外もまた存在する。その旨さに目を付けた王侯貴族のために肉牛を飼育している施設が少数ながらあった。

 ただし、高級品である。

 アカネが躊躇するほどの金額だったが……。


「金で解決するの? じゃあ、牧場毎買い取る?」


 などという幼なじみの返答に、アカネの中のなにかが切れ、以降、自重は止めユウトへ判断を丸投げするようになったという。


「ごちそうさまでした」


 まさに平らげるという表現がふさわしい食べっぷりを見せたユウトが、ひとかけらも残さず完食して満足そうに息を吐く。

 ユウトとしては、文句の無い最高の出来だった。


 でも、ヴァルトルーデたちはどうだったろう?

 今更ながら気になって、あるいはようやく周りを見る余裕が生まれ、ユウトは皆の様子を観察する。


「ボクは良いと思うよ」


 ラーシアは気に入ったようだ。ユウトと同じく皿を空にしている。


「ユウトたちの故郷には、こういう料理が他にもいっぱいあるわけ?」

「ああ。いくらでも」

「こっちには」

「ボクもいつか、行ってみたくなったよ」

「……頑張ろう」


 ますます重たくなる責任に、忙しさにかまけて呪文の研究ができていなかったと罪悪感が刺激される。

 そんなユウトの横から、夢から覚めたかのような


「アカネのことを甘くみてた……」

「ほめてくれるのは嬉しいけど、どういう評価だったのか気になるわね」

「変な服着せるし」

「変じゃないわよ。かわいいでしょ?」


 価値観の相違はなかなか埋まらない。


「でも、これが食べれるならちょっとは我慢してもいい」

「だが、量が足りないな」

「まあ、エグザイルのおっさんはそうだろうな」


 参考にならない。


「ああ。確かに美味しかった。今までに食べたことがない料理だ」


 そう前置きしてから、ヴァルトルーデが言った。


「しかし、もう少し、噛み応えが欲しいところだ。脂も旨いが、やはり肉は歯ごたえがなくては」

「なるほど。そういう好みもあるのね」


 初めての注文に、アカネが目を輝かせる。

 こういう意見が欲しかったのだ。


「私は、多少味が薄めなのが気になりました。好みの範疇に入るかも知れませんが、もう少し味が濃い方が喜ばれるでしょう」

「そうかな?」


 逆に、これ以上は濃すぎるようにユウトには思えるが、アカネの解釈は違っていた。


「田舎のおじいちゃんとかおばあちゃんって、私たちからすると信じられないほど塩っ辛い鮭とかお漬け物とか食べるじゃない? それと同じことなんじゃ?」

「まあ、イメージは分かる」


 現代人よりも遥かに動き汗をかくブルーワーズの人々。王族でも、現代人より安穏な生活をしているとは言えないだろう。

 ならば、塩分を欲するのも道理かもしれない。


「さて。というわけで、試食係はヴァルとアルシアさんで決定ね。さあ、厨房へ行きましょう」

「今からか?」

「ヴァルはともかく、私には仕事が……」

「ユウトがやってくれるわよ。ね?」

「お、おう」

「はい。問題なしね」


 有無を言わせず、アカネが二人を引っ張っていく。

 さすがに強引に振り払うわけにもいかず、二人ともなすがままだ。


 アルシアからは抗議のオーラが出ているような気がするが、ユウトは後かたづけをして気づかない振りをした。


「うう。美味しい物が食べられるのは良いのだが……」

「ヴァルはまだ運動で解消できるでしょう? 私なんて――」


 そんな声も次第に遠くなる。

 残された四人の間に、なんとも言えない沈黙が流れた。


「奥さん同士、結構上手くやってくれるかも、とか思ったでしょ?」

「言うな」

「でも、なんか俺の居場所なくなりそうじゃない? とかも思ったよね?」

「言うなって……」

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