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誤解は解きません。悪女で結構です。  作者: 砂礫レキ@死に戻り皇帝(旧白豚皇帝)発売中
第一部

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84/98

84.

 目が覚めたブライアンにマレーナが彼を殺そうとしていたことを話すと最初は嘘だと云い次にショックを受け最終的にマレーナを罵倒し始めた。

 そしてマレーナに全責任を被せ自分は操られただけだと主張し始めた。

 私に対しても無罪と引き換えに愛人になってやってもいいと言い出したので猿轡をして地下牢に戻す。

 マレーナはブライアンが私に惚れていると言っていたが、それと同時にブライアンは私も自分に惚れていると勘違いしていたのだろう。


 そんなこと有り得ないと少し前までの私なら思っている筈だ。

 ただ突拍子もない思考の人間がいることはマレーナで理解した。

 彼女の外見は美しいしブライアンにとってはかなり年下の若い娘だ。

 そんなマレーナに長年愛され尽くされた結果ブライアンの認識が歪んだ可能性も考えられた。

 だからといって公爵夫人相手に愛人になってやるとか言い出すのは阿呆でしか無いが。

 ブライアンが若い美青年でも命知らずが過ぎるだろう。マレーナの「趣味」に付き合った結果頭が多少おかしくなっているのかもしれない。


 そしてブライアンに対する尋問で彼の罪を新しく知った。

 彼の浮気は妻にきっちりとバレていて、ブライアンは怒りを避ける為の言い訳にレオを使った。

 レオ付きメイドであるマレーナと親しくすることで孫娘をレオの側付きに推薦しやすくなるのだと。

 これがただ就職先の便宜を図るという事ではないのは私にもわかった。


 念の為別室に隔離していたマレーナに確認したところ、ブライアンの出任せだとすぐ判明した。

 彼女は彼女で実家からケビンとレオを誘惑するよう命令が下されていたからだ。

 それにマレーナは家庭教師からの監視が厳しい、彼女が辞めるまで待って欲しいと返事を出し続けたらしい。


 確かにマーベラ夫人はメイドを見下している。ケビンと私が結婚したことさえ許していなかった。

 レオから少しでもそういう報告があったなら激怒してマレーナを辞めさせようとする筈だ。

 しかしマレーナがそうなることを恐れていた訳では無いのはわかる。

 寧ろ彼女はマーベラ夫人が解雇されないようレオに働きかけるよう命じた。


 理由を聞いたら「私にはブライアンがいるもの」と答えた。

 レオはマレーナの歪んだ潔癖さに救われた形になる。


 でも、原作でもマーベラ夫人は解雇される。ブライアンもだ。

 そしてその後もマレーナは側付きメイドとしてレオに仕え続けるのだ。誰にも警戒されないままで。

 どうしようも出来ないのに不安になった。


 マレーナが実家からの命令に逆らい続けたのはブライアンへの操立てだけではない。

 彼女はわざわざ銀行の貸金庫に実家からの手紙を保管していた。そして私が尋問する前に手紙の存在を言い出した。

 元々機会があったら実家の悪巧みを暴露するつもりだったのだろう。

 縛られたままの彼女は笑って私に言った。


「良い事を教えてあげるわ奥様、私も母親がメイドだったのよ」

「……つまり、破滅するなら実家も巻き込みたいってこと?」  

「そんなの当たり前でしょ、貴方だってきっとそうするわ」


 狂ったように笑うマレーナに寒気を覚えた。


「一緒にしないで」


 そう返したが、確かに私には実家に破滅して欲しいという願望があった。

 誰にも口にしたことの無いそれをマレーナに見透かされた気がしたのが怖かったのだ。


 マレーナにその後ブライアンが配偶者に吐いた嘘を伝えると笑顔を消して怒り狂った。

 彼女の価値観はやはり理解出来ない。そのことにホッとした。


 とりあえずマレーナもブライアンの横に収監しておいた。

 監視役のクレイグによると暫くすると隣にブライアンがいることに気付いたのか延々恨み言を吐き始めたらしい。

 ブライアンには良い薬だと思ったのでマレーナの口は塞がなくていいと命じた。


 今はホルガーに言われて王都に居るケビンに対し手紙で報告し指示を仰いでいる最中だ。

 数日間は彼らは牢の中だろう。好きなだけ話すと良い。見張りのクレイグには耳栓を貸与した。


 リーネは今のところ大人しくしているので窓が無く扉が二重式で外からだけ鍵がかけられる部屋を与えている。

 何でそんな部屋があるのだろうと思ったが、この屋敷に疑問を抱くのは今更だと思った。

 庭から屋敷を見ると妙に縦に長い気がするのは抜け穴の存在を知ったからだろうか。


(もし私がこの屋敷を貰うことになったら取り壊して普通の屋敷に建て替えるでしょうね……)


 そんな有り得ない想像をする。取り壊し中に何か出てきそうだなと思って無駄に嫌な気分になった。





「レイン先生、いらっしゃいますか」

「いるよ、入って」 


 その言葉と同時に扉が開けられる。白衣を着たレインが笑顔で立っていた。


「マレーナが犯行に利用したアロマキャンドルの調査結果が出たと伺ったわ」

「ああ、その件ね。簡単に言うと煙吸ったぐらいでは人間は死なない。小鳥とか小動物なら危険だと思うけれど」


 実験はしただろうけれど不十分だ。 

 彼女は手袋をした手でマレーナのキャンドルを取り出しながら言った。


「食べたら死ぬ毒は結構簡単に作れるけど、煙では難しいよね。しかも相手に気付かれないままとか」

「やっぱりそうなのね」

「素人が手に入れられる毒物には限度があるしね。睡眠薬はお金さえあれば割合簡単に手に入るけれど」

「彼女はアロマオイルやアロマキャンドル作りを趣味にしていたらしいですけれど、今回のような犯行の為かしら?」

「それは本人に聞かないとわからない。ただ精油についてある程度学べば中毒などのリスクはわかるよ」

「……そう」

「でもこのアロマキャンドルに毒物が使われていたのは確かだね。直接ブライアンに毒を飲ませるとかしなくて良かった」


 マレーナが自己保身に走らなければ屋敷で死人が出ていたよ。そう告げられる。


「……私が公爵夫人としての権力を使って、さっさとブライアンとマレーナを解雇した方が良かったかしら」

「もしそれをしたらレオが納得しないよ。レオは君を恨み心を完全に閉ざして、そして他の使用人たちも君を信用しなくなる」


 レインはアロマキャンドルを箱にしまい直すと手袋を脱いだ。


「君は丁寧に調査し証拠を見つけた上で使用人の悪事を暴いた。そこに理不尽は存在しない」

「そうかしら」

「結果他の使用人は君が苛烈だけれど暴君では無いと既に知っている。レオもだ。だからマレーナの解雇を知らされても暴れたりしなかった」


 他の理由もあるけどね。レインはウィンクする。

 私は軽く笑った。


「そう言ってくれて救われるわ。でもレイン先生が助けてくれたから出来たことよ」

「レオの新しい側付きメイド、いや侍女と言った方がいいかな。彼女については私も助かったよ。当事者の一人として後味が悪かったからね」


 これで過去の冤罪が晴れると良いけれど。

 そうレインは目を伏せて言った。



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 一番のお花畑ちゃんは原作エリカだった可能性。  だからこそこんなドロドロに腐った掃き溜めのような公爵家での生活が乙女ゲーの世界として描写出来たのでは。  もはや乙女ゲーの欠片もなくサスペンスホラーの…
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