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誤解は解きません。悪女で結構です。  作者: 砂礫レキ@死に戻り皇帝(旧白豚皇帝)発売中
第一部

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65/98

65.

 どれぐらいの時間が経っただろうか。

 扉が外から規則正しいリズムでノックされる。


「……どなたかしら」

「レイン・フォスターだよ。君たちのお医者さんさ」


 その軽妙な台詞が聞こえた瞬間私は大慌てで扉を開けた。


「レイン先生……!」

「おや、酷い顔色だ。患者と言うのは君の事だったのかな」

「違うわ、カーヴェルが……」


 私は白衣を着たレインにカーヴェルが過労のせいで玄関ホールで気絶したことを説明した。

 そして彼に自分がどれだけ無理をさせていたかも。

 

 彼女は口を挟まず私が話し終えるまで相槌を返す。

 そして私が言うことが無くなったのを見計らったように口を開いた。


「君がメイドやレオに聞かされた報告は全部が事実という訳じゃないと思うね」

「……どういうこと?」

「レオが落ち着きすぎている」

「落ち着いている……逃げて行ったのに?」

「逃げる余裕はあったってことだね」


 カーヴェルを観察し脈などを測りながらレインは淡々と言った。


「レオたちの母親のリリーは酷く病弱で、レオを構ったりしている時に体調を崩してふらついたり意識を失うことも多々あった」

「意識を……?」

「その後リリーはロンを出産して亡くなった。けれど彼女はレオに色々な傷を遺していった。……うん、呼吸は安定している」


 カーヴェルに顔を近づけながらレインは言う。


「彼、紅茶の匂いがするし唇が濡れているね」

「えっ」

「玄関ホールで飲食でもしたのかな」

「そんなまさか……」

「だよねえ。そうだ、話を戻そうか。レオはね……自分の目の前で人が意識を失うとパニックを起こすんだよ」

「えっ」


 そんな話は聞いたことが無い。原作にも無かった。

 私の驚きを意に介さない態度でレインは診療鞄を漁った。


「昔、レオの乳母が抱いている彼を寝ぼけて落としてしまったらしいと連絡が来たことがあった…おっ、あった」

「そんな、レオは無事だったの?」

「私と父の二人で入念に診たけれど怪我は無かった。でもひきつけを起こすぐらい大泣きしてて尋常な様子では無かった」

「落とされてびっくりしたのかしら」

「乳母はね、一瞬寝て落としかけたけれど、慌てて抱き直したって主張していたよ。でも信じて貰えず解雇された」


 解雇された理由はそれだったのか。私も前世で似たようなことを息子にしたことがあるのでゾッとした。

 その後はソファーなどに座って抱くように対処した。


「でも数年後、レオ付きメイドの一人がベッドにいるレオをあやしながら居眠りしたことがあったんだ。レオは途端火が付いたように大泣きして騒ぎになったらしい」


 当然高所から落とされた訳では無い。そう補足するとレインは小さな小瓶と白い布を鞄から取り出した。


「彼はその頃にはある程度の会話が出来るようになっていたから理由を聞いた。レオはね、身近な人間が目の前で突然意識を失うことに非常に強い恐怖を覚えるんだ」


 感情が制御できなくなってひたすら泣き叫んでしまうぐらい。レインは静かな表情で言う。 


「出来るだけの治療をして、最初から眠るだけとわかっていれば取り乱すことは無くなった。でも突然玄関ホールで気絶したということならその条件には当てはまらない」

「つまり私は……嘘を吐かれていたってこと?」


 心配が反転して強い怒りに変わる。けれど目の前にぶつける相手が居ない。


「頭なんて打っていない。何の危険も無くカーヴェルは眠っているだけだ。少なくともレオはそう言い聞かされている筈だよ」

「言い聞かされているって……マレーナに?」

「そこまではわからない。とりあえず今は患者を起こそうか」


 眠りは大分浅いみたいだし。そう言いながらレインは白い布をカーヴェルの顔に近づけた。


「……レイン先生、それは何?」

「ハッカ油諸々をしみこませた布だよ、強烈な刺激で……はい、覚醒した」


 その言葉に視線を移すとカーヴェルの長い睫毛が小刻みに震える。そして盛大に咳き込んだ。

 私は慌ててレインを見たが彼女は落ち着いた表情のままだ。ハンカチを袋にしまって鞄に放るとカーヴェルの肩や背を軽く叩いた。


「はい大丈夫、毒じゃないよ安心して。体は起こせる?」

「うっ、げほっ、はい……貴方は?」

「私はレイン・フォスター、昔一回だけ会ったことがあるね」

「フォスター……たしかアルヴァ様の」

「うん、それより体調は大丈夫? 君は玄関ホールで過労で倒れたと報告を受けているけれど」

「……過労?違います、この気怠い感覚は睡眠薬を使ったのに強引に起きた時のものだ」

「やっぱりそうか。ちなみに君は睡眠薬を常用しているのかい」

「いいえ、前職を辞めたのをきっかけに断ちましたし第一過労で倒れた時はもっと頭痛が……」


 そうぼんやりと言いながらカーヴェルは手を彷徨わせる。私は眼鏡を渡した。


「有難う御座います……奥様?」

「ええ、私よ」

「……何かあったのですか?」


 カーヴェルの瞳が鋭いものになる。 

 その横で何かあったのは君の方だねと冷静にレインが指摘した。


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― 新着の感想 ―
レオってパニック障害ってやつなのか・・・? なんとか信用できるメンツが集まったから対策考えないと。
今までは激ヤバな人たちを見るのも楽しかったけれど、だんだん読むのが辛くなってきました。いろんなことが起こるのに、1歩も前進せずひと筋も光が見えなさすぎて。閉塞感苦しい。
どういう策略なんだろう。旦那様にチクって奥様が不貞したって言うつもりかな?でも、マレーナはカーヴィルが、執着する程かは分からないけど好きなんだよね?
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