宅配員とおねーさん
お題:理想的なテロリスト 制限時間:15分
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「こんにちはー、白猫急便です」
カツカツ、と何度もチャイムを押しては見るが、まるで手応えは無い。
また留守か。
げんなりしつつ不在票を記入していると、
「す、すみません~」
ガチャリ、と少しだけドアの隙間が開いた。
「あ、白猫急便です」
「はい~、ちょっとシャワーしてたから……ごめんなさい~」
おっと、巻いたバスタオルから谷間見えてる。ラッキー。
「あ、じゃあこれにサインお願いします」
受取表と一緒にペンを差し出すとおねーさんは「はい~」と言いながら下を向いてサインを書き出した。
おお、くっきりと見えているが、ワザとなのか天然なのか。
「ありがとうございました」
ペコッとお辞儀をして踵を返そうとすると、
「あ、待ってください~」
と声がかかった。
「あの、ちょっとだけ待っててくださいね、ちょっとだけ」
「はあ」
かちゃん、とドアが閉じられると、ゴソゴソという音の後に、ガゴゴン! という衝撃音。「いた~い」という泣きそうな声。
あー、天然さんか。
「――お待たせしました~」
再び開いたおねーさんのバスタオルの胸の辺りがはらりとはだけて――。
俺は思わずガバっと横に顔を背けた。
「? きゃあああ」
「み、見えてません、見えてませんからっ!」
横を向いて帽子のつばを下げつつ目を隠し、俺は必死で弁明した。おねーさんはべそべそしつつも胸元をしっかりバスタオルで巻きつけ直したようだった。
「もう、大丈夫です~……」
消え入りそうな声に、なるべく目元を胸に落とさないようにして顔を戻すと、おねーさんは真っ赤な顔で俺を見上げていた。
「あの、これ実家から昨日送ってきたんですけど、一日経ったら随分傷んじゃったから、よかったら」
かさり、という音と共に渡されたのは紙袋だ。受け取ると意外とずっしりしている。
「あの、早めに食べてくださいね」
「あ、ありがとうございます!」
取りあえず礼を言って頭を下げるついでに胸元を確認してみたけど、残念ながら谷間はもう見えなかった。
車に戻って袋を覗いてみる。
一人暮らしの俺には多すぎる程の枇杷がたくさん入っていた。
枇杷なんてもう10年くらい食べてない。田舎のじいちゃん家で食べたのが最後だ。
(またあのおねーさんの家に配達があったら……)
運転しつつ悶々と妄想する。
『あの時はありがとうございました!』ってお礼くらい言ってもいいよな。
ついでに小さなお菓子なんてあげたら、迷惑だろうか。
女日照りの俺にささやかな楽しみができた。




