些事な情事の動機の鎮静
制限時間:30分、お題:セクシーな怒り
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「――無視されてるのかと思って心配した」
助手席に乗り込み、髪を掻きながら照れるその顔は確かについ先週みたばかりの精悍なもの。
けれど、私を欲情させたそれではない。
「何黄昏てんの」
SNS内のサークルオフ、その三次会。
「今夜はオールだあー!」
カラオケの大部屋で参加者達がはしゃぐ中、私はトイレに立つフリをして廊下の奥にある窓まで移動し、一人煙草を吸っていた。
問いかけに振り向くと、肩まである髪を後ろに縛った背の高い男が立っていた。今時流行らないその髪型も、ハンサムな彼がやると妙に似合っていて、密かに女の子達の目がチラチラと彼に注がれていた事も知っている。
メンドくさいのが来たなー……。
煙を吐きつつそう思っていると、
「夜景、綺麗だよね」
と彼がすぐ隣で窓の下を覗いた。
「俺、K県から来たでしょ。やっぱこっちのがいろんなショップあるし、みんなオシャレだからちょっと緊張した」
計算してやっているんだろうか。私の目の前にある彼のうなじが私を誘う。
「Mさん、ハンドルネームや発言のイメージと全然違うよね」
「――そう?」
「うん、なんかひょうきんな人だと思ってたから」
ちら、と横目で私を見ると、彼は恥ずかし気に目を伏せた。
「さっき、クラブで踊ってたのが、すげー色っぽくてさ。目が離せなかった。
DJにも『エロい』って言われてたでしょ」
「あれ、私の事だったの?」
「Mさんダントツエロかったよ」
「ふうん」
正直な話、クラブで踊ったのは初めてだった。けれど取りあえず『音に乗ればいい』と理解した私は、流れるBGMに身を任せて身体を揺らしていただけなのだ。
「Mさんさー……今から抜けない?」
「あー……、でも一応最後までオフ参加するつもりだから」
言葉を濁していると、彼は懇願するように
「じゃあさ、来週の土曜は? 俺、こっちまで来るから」
と私の顔を覗き込んできた。
迷った挙句、私は煙草をもみ消して彼に手招きすると、軽くキスをしてみた。
――うん、嫌じゃない。
彼は一瞬驚いたようだったが、すぐに顔を寄せ、熱いキスをやり返してきた。舌を絡ませ、淫らに吸い合う心地の良い波に、(これなら大丈夫だろう)と判断する。
ぷはっ、と離れた唇にもう一度軽くキスをして、
「じゃ、来週ね」
と私は言って微笑んだ。
助手席に座る彼が期待と緊張でそわそわしているのがよく分かる。
けれど私は萎えていた。
どうして、髪型変えたんだよ!
私のウケを良くしたかったんだろうか、今時の明るい色のゆるふわ頭。
色気なんて何処にもない。
全く本当に、なんにも分かっていないのだ。
ホテルのくだり等狙っていたオチがあったのですが、そこまでたどり着けませんでした。残念




