50. Bonus Stage ロード・オブ・ザ・ウルフ 首輪物語
『住処は変わった。水から、木々から、空気から、変わったことを感じる。かつて存在したものの多くは失われ、もはや覚えているものは何もない。それは首輪が作られたことから始まる――――
おいっす!ボク、フェンリル!
名前はまだないよ!
世のかわい子ちゃんはフェンちゃん、リルちゃん、フェルちゃんなんて好きに呼んでんるんだ。
ちなみにボクに首輪を付けた飼い主はフェンリルって呼ぶんだけど……
ありえないよね〜。
フェンリルとかまったく可愛くないよ。
今のボクのお気に入りはフェンちゃんかな?
まあ、可愛ければどんな名前でもいいけどね。
それよりも問題なのはパパンの策略に嵌りアレクサンドールの屋敷を追い出されてしまったことだよ。
わおぉ〜ん!
地上に舞い降りた楽園。ボクのボインちゃん達。あの屋敷を思い出す度に胸が引き裂かれるようだ。こんな悲しい時には、いつもママンの膝の上で癒してもらうんだけど、その至高のフトモモも奪われてしまった。
くッ!パパンの勝ち誇った顔が思い浮かんじゃうよ。
見事な策略!しかしパパン、自分の力で勝ったのではないよ!我が主人カレリンの筋力のおかげだということを忘れるな!
だ~って、さすがのボクでもあの馬鹿力に抵抗なんてムリムリのリームーだよ。
ご主人様おかしいよ。
なんだよあの化け物は!
まだ強くなってるんだよ。
しかも、魔力成長期終わってるはずなのにまだ魔力量が増えてんだよ。そして、その増え続ける魔力を全て物理に注ぎ込むとか頭おかしいんじゃない?
この前なんて6桁チャレンジ成功したって大はしゃぎしてたし。なに6桁って……100トン以上持ち上げたって?
勘弁してよ。もはやドラゴンだって片手で持ち上げるってか?
バカなの?ボクのご主人様はいったい何を目指してドコへ行こうとしてるの?
まあいいさ。
ご主人様がパワーを極めて世界を征するなら、飼い犬のボクはモフモフを極めて可愛いの頂点とったる。
可愛い王に!!!ボクはなるッ!!!
そしてアレクサンドール領にもいつか帰り咲いてやるんだからね。
それまでの辛抱さ。
幸い王都にあるアレクサンドール屋敷の侍女とメイドちゃんたちもみんな申し分ないサイズだ――ナイスバストッ!
こっちに来てすぐに侍女とメイドにボクの可愛いを知らしめた。今では彼女たちもボクの魅力にメロメロさ。この勢いで学園にいるという女生徒たちもゲッチュだぜ!
そんな思いを秘めてボクはルンルン気分でいざ学園へ行こうとしたら、ご主人様にむんずと首根っこ掴まれてしまった。
こらご主人様!ボクはネコじゃないぞッ!
ボクは超絶プリチーな子犬なんだからね!
「ほら騒がない。あなたを学園には連れていかないわよ」
っ…!!
「ほら、可愛いメイドさんと綺麗な侍女たちが相手してくれるから」
飼い主っていつもそうですね…!
飼い犬のことなんだと思ってるんですか!?
「だって学園の子たちをあんたの色欲の餌食にはできないでしょ」
餌食とは人聞きの悪い。
ボクは女の子たちに可愛いと癒しを提供し、その見返りにエサをもらい女の子たちにチヤホヤしてもらうWIN-WINの関係じゃないか。
この不当な扱いをボクは断固として拒否する!
「キャンキャン鳴かない。この屋敷で可愛いメイドさんに囲まれてぬくぬくできるんだから問題ないでしょ」
違う、そうじゃない!
ボクには世の女の子たちに可愛いを布教し、あまねく世の人々に可愛いの存在を知らしめる義務とボクに続く可愛い同志たちを牽引し、彼らに生きる希望と夢を与えるという崇高な志があるんだ!
「訳の分からないことをギャンギャン泣きながら言わない」
どうして分かってくれないんだ!?
ボクが可愛いをみなに伝えないといけないんだわん。ボクを屋敷に閉じ込めるメリットはゼロわん。
「急に語尾にワンをつけて可愛子ぶってもダメなものはダ〜メ!」
国家級筋力に傘を着たなんという横暴!
弱者を虐げる悪しき所業!
か弱い子犬のボクを虐めて何が楽しいんだ!
「誰がか弱い子犬よ。あんた西方最強の魔獣じゃない」
そんな過去の話知らないよ。
だいたいご主人様の前じゃ子犬も魔狼も誤差の範囲さ。
「魔獣たちを恐慌状態に陥らせる子犬なんていないわよ!」
何を言ってんのさ。
魔獣なんて遭遇したらガクブルだよ。
ボク恐怖で漏らしちゃうよ。
「あんたホントに最初の頃の勇ましさが見る影もないわよ」
勇ましい?何それ?美味しいの?
ボクはか弱く可愛いみんなのアイドル、キュート・ザ・プリチーだよ。
「つべこべ言うな!」
あ、ご主人様めッ!
この愛らしいボクを投げたよ。
ポーンって投げやがったよ。
ボクが傷物になったらどうすんだ!
ボクという可愛いを失うのは世界的損失なんだからね!
ボフンッ!
と、内心で愚痴りながら空中でクルクル回っていたら、何か柔らかいものに包まれた。
この沈むような柔らかい感触、甘くて蕩けそうな匂い……間違いない。これは王都の屋敷でボクが一推ししている美侍女のキャスリンちゃん♡
「キャスリン!私が学園へ行ってる間その子をお願いね」
「もう!カレリン様いきなり投げつけないでください」
あゝキャスリンちゃんはFカップ巨乳でいい匂いで、胸が大きくて長い黒髪と泣きボクロが色っぽくて、とってもボインちゃんで毛繕いが天にも上るほど気持ち良くって、乳がデカくておっぱいが柔らかいだけではなく、とっても優しい今ボクの中でサイコーのフェバリットボインなんだ。
「あんた胸のことしかないの!」
ぽこんッ!
イテッ!
頭を叩かれた。ご主人様は相変わらず乱暴だなぁ。
「おやめください。フェンちゃんが怪我したらどうするんですか」
「こいつの本性はおっぱい好き好き堕淫魔獣フェンリルよ。こんな程度じゃ身体にも心にも傷一つつかないわよ」
「んもう!それでもフェンちゃんが可哀想じゃないですか」
キャスリンちゃんがご主人様からボクを守るように抱き締めて、よしよしと優しく撫でてくれた。
キャスリンちゃんはやっぱりイー。Fカップ巨乳だけど。甘えれば甘えた以上にもっともっと甘やかしてくれる。男をダメにするイケないおっぱいだ。
あゝ大きくて柔らかくて暖かくていい匂いがして、包まれていると雲に包まれているようで気持ち良くって微睡んじゃうよ。もうこの胸にずっと埋もれていたい。
「やっぱりね。キャスリンがあんたのお気に入りだと思ったのよ」
はっ!このおっぱいは罠だ!
「じゃあキャスリン後はよろしく」
「はい。カレリン様がお帰りになるまで、フェンちゃんは私がお世話をしておきます」
ま、まさかキャスリンちゃんもグル?
これが噂に聞く美人局!?
なんて恐ろしい罠を張るんだ!
この美女に引っかからない男はいないよ!
ボクが誘惑に負けて逡巡している間にご主人様がもの凄いスピードで屋敷を出ていったけど……
ナニあれ?
一瞬で消えたんですけど。
あのスピードはボクにも追いつけないんですけど。
ご主人様ってどこまで人外になるの?
「さあ今日は私がフェンちゃんを独占よ」
鼻歌交じりのキャスリンちゃん。
あゝこのFカップおっぱいに独占されたい。
だがしかし!ボクには学園の女生徒たちが……若い巨乳の園がッ!
「うふふ……フェンちゃんすっごくもふもふ」
あぁん!らめぇぇえ~!!
そんなに撫でないでぇ~意志が挫けそう。
キャスリンちゃんの愛撫は気持ち良過ぎるよ。
この魅力的な抱擁と愛撫はボクから意欲を奪う……男をダメにするイケない娘だ。
キャスリンちゃん、おそろしい子……!
だけどボクはボクの責務を全うする!
「あっ!フェンちゃんダメッ!」
ボクは腸を断たれる思いで極楽の中から飛び出し、戦場へと向かうべく地に降り立つと一気に走り出した。
「待ってフェンちゃん!フェ〜ン、カムバ〜ック!!」
くッ!なんて後ろ髪引かれるキャスリンちゃんの声……
あの美しい巨胸に埋もれてた耽美な日々を思い出す……
あゝここにいたいな……ずっと……振り返って戻りたいな……
でも、もうボクは戻ることはできない!
こめん……ごめんよキャスリンちゃん……
ボクは行かずにはいられないんだよ……
だけどいつだってボクは君のこと思っているから……
みんなの巨乳を想像しているから……
たくさん……ありがとうと思うよ……
たくさん……ごめんと思うよ……
忘れることなんてない……
どんな時も……心は傍に居る……
だから……どうか許してくれ……
ボクは振り返らない。
キャスリンちゃん……君(の胸)は悪くない。
だけど男には譲れないものがある!
男にはヤラねばならぬ時があるんだ!
待っててね、学園の女生徒たち!
ボクはご主人様の匂いをたどってひた走る。
ご主人様!これでボクに首輪を付けたつもりなんだろうけど甘い!
ボクとボインの絆は誰にも引き裂けない!




