38. 第八死合!悪役令嬢vs道化の転生ヒロイン[ROUND2]【STAGE 学園】
もしかし核の炎に包まれた後の世界なの!?
この学園は腐敗と自由と暴力の真っただ中なの!?
イカれた生徒達が水と食料を求めてヒャッハーしているの!?
いや待って!落ち着けラファリィ!
私の名前はラファリィ・マット――ヒロインのデフォルト名。
カレリン・アレクサンドール――間違いなく悪役令嬢の名前。
わたしは世紀末救世主ではない!
カレリンも世紀末覇者ではない!
間違いない。
ここは乙女ゲーム『恋の魔法を教えます』の世界。
じゃあなんで世紀末モヒカンが蔓延っているの?
はっ!まさかカレリンの仕業なんじゃね?
きっとヤツがゲームの世界を壊している影響が出ているのね!
だいたい悪役令嬢のファンクラブってのもおかしいと思ったのよ。
あんなにフェロモン撒き散らして!
もしかして、あのお姫様抱っこも彼女の作戦!?
わたしを懐柔するつもりだったとか?
危ない、危ない、籠絡されるところだったわ。
いえ、もしくはファンクラブに睨ませるのが目的とか?
実際、わたしはカレリンに近づけなくなったし。
うーん彼女の狙いが分からない。
どう動けばいいの?
だけど、わたしが行動できずに迷っていたら、自体は思わぬ方向へと動き出してしまったの。
その異変はまずわたしの私物から始まったの。それらが隠される様になったのよ。
まあ定番の陰湿な嫌がらせね。
おそらくカレリンファンクラブの人達の仕業だと思う。
でも、これじゃゲームの流れと同じになっちゃうよね?
これってカレリンの思惑とは違うんじゃない?
うーん……ゲームの強制力なのかも。
次の犠牲はわたしの教科書。もうねズタズタに引き裂かれちゃって、それに飽き足らず窓から中庭に捨てられてたの。
教科書を手に取ってみたけど、これってもう使えそうにないわね。
ゲームのイベント通りと言っても、これにはちょっと堪えるわね。
「あら?教科書がボロボロじゃない」
ため息ついて少しへこんで俯いていたわたしに話しかけてくる凛とした女性の声。
顔を上げれば、そこにいたのは顰めっ面のカレリン。
「誰?こんな事をしたのは」
彼女の少し怒気を含んだ声と鋭い視線に野次馬の令嬢どもがサッと視線を逸らしやがった。
「まったく……」
カレリンは呆れたため息をついてるけど……これは彼女の指示じゃないの?
それもそうか。ゲーム通りの進行では彼女にとって都合が悪いものね。
「そこのあなた――」
うぉっと!突然カレリンから呼ばれちゃったけど――いったいなによ?
「これをお使いなさい」
「えッ!」
おっと教科書を手渡されちゃった。
これ彼女の教科書?
うへへへ……いい匂いがする……カレリン…さまの……残り香……
じゃない!じゃない!
わたしは何を喜んでいるのよ!
これはきっとわたしを抱き込むためのワイロよ!
その手に乗るもんですか。
「そ、そんな!教科書を借りたらカレリン様がお困りに……」
「あら貸すんじゃないわ。それはあなたに差し上げるのよ」
え~ッ!って周囲から上がる絶望の悲鳴。
「そ、そんなぁ〜」
「カレリン様の教科書があんな子の手にッ!」
「うそよぉぉぉ!!!」
けっけっけっ!令嬢達が膝から崩れ落ちて血涙流してるわ。
わははは!ざまぁ!
自分の行為で自分の首を絞めてやんの。
己の愚かさを呪うがいい。
「私はもう全部覚えたから返す必要はないわ」
「あ、ありがとうございます!」
もう思いっきり頭を下げてお礼を述べちゃうわ!
教科書はしっかりと抱きしめてっと――誰にも渡さん!
颯爽と去って行くカレリン…さま……ス・テ・キ……
ぐふふふふ……あゝカレリン様は良い人だ。
やっぱりカレリン様は邪神に騙されているのよ。そうに違いないわ。
わたしがカレリン様を救ってみせるわッ!
――と、この時は息巻いていたんだけど……この後、カレリン様――いえ!悪役令嬢カレリンとわたしが訣別するきっかけとなる、悲しくも恐ろしい事件が起きたのよ!
次に日、わたしはさっそくカレリンの目を覚まそうと彼女の教室を目指して、階段を降りていたんだけど――
ドンッ!!!
――誰かに押された!
「キャ――!!!」
え?これわたしの悲鳴?他の人の悲鳴?
分かんないけど、今わたしは宙を飛んでいる!
アイ・キャン・フラーイ!
って、んなわけあるかい!え?ウソ!?
わたしこのまま落ちちゃうの?
この高さ!下手したら死ぬ――ッ!?
フヨッ!フワッ!
――って思ったら、何だかすっごく柔らかいものに包まれて浮遊感が?
そーっと目を開けてみたら……目の前にはわたしの王子様――あゝカレリン様♡
またまたまたまたお姫様抱っこされちゃった――きゃッ♡
あゝなんて至福……
ぞわッ!ぞわわわッ!!
な、なに?凄まじく悍ましい戦慄が背中を走ったけど……
誰ッ!わたしにこれ程の戦慄を与えるのは?
キョロキョロ……うわッ!めっちゃ睨まれてるんですけどぉ!
あッ!あの子って確かもう一度お姫様抱っこされたら刺す宣言してた病んデレラじゃない!
「またあなたなの?さすがに階段は気をつけなさい。下手したら死んじゃうわよ」
ふぁッ!なにこのイケメン!指でわたしのおでこをチョンとつついて、颯爽と去って行く姿なんて攻略対象なんて目じゃないくらいカッコいい!
ぞくッ!ぞくぞくぞくッ!!
ぎゃっ!背筋に凄まじい寒気がッ!!
さっきの病んデレラ!?
うわぁ目がぁ!目がぁ!あの子の目が闇を宿しているんですけどぉ!
もうね――
殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!殺ッ!
――って彼女の黒いオーラが殺意一色で、ほとんど実体化してるよ!
目でわたしを殺す勢いなんですけどぉ!!!
黒髪黒目の綺麗めの大人しそうな子だからかえって呪われそうで怖いんですけどぉ!
こ、これはマジでヤバいんじゃね?
そして、この予想は的中しちゃったの。
身の毛のよだつとんでも事件が起きたのよ……
事件の日、魔法実技の授業を終えたわたしは着替えようと更衣室へ入ったんだけど、更衣室の中は既に幾人かの令嬢達が着替えをしていて、わたしも着替えようと自分のロッカーを開けて制服を取り出したら……
その時――ッ!
キャーッ!っと周囲から悲鳴が上がったんで振り返ってみたら――
「このアバズレッ!!!」
――叫び声を上げ、刃物を持った黒髪黒目の病んデレラッ!!!
「カレリン様を誑かす悪女!」
目に深い闇と嫉妬の炎を宿し、殺意を漲らせて病んでレラがわたしに襲い掛かってきたの!
うそぉぉぉぉぉ!
わたしここで死んじゃうの!?
恐怖で思わず制服を持つ手を突き出してギュッと目を閉じたんだけど――
「この!この!えい!えい!」
ざくッ!ざくッ!
――あれ?
(ちょっと可愛い)声と音はすれど、いつまで経っても痛みはない……
何が起きているの?
恐々と目を開けたら制服のブラウスとスカートが切られて、それを見ながらふぃ〜と息をついて額を拭っている病んデレラの姿が……
なんかやり切った感出して、憑き物落ちたみたく清々しい表情になってるんですけど!
確かに貴族の令嬢じゃあ、これで精一杯かもしれないけど……なんか肩透かしを食らった気分。
いや、制服切られるのもじゅうぶん恐いし、本気で困るんだけど……
「なにをやっているの!!」
あゝ王子様が参上よ。
「「「カレリン様♡」」」
この場の全員(わたし含む)の声と心が完全一致。
更衣室内を見回していたカレリン様は刃物を持つ病んデレラに目を止めると、その美しいご尊顔を顰められたの。
「あ、あ、あ……わ、私……」
カレリン様に睨まれ、黒髪黒目の病んデレラはさっきまでの憑物落ちの爽やか笑顔から一転、顔は真っ青になり、ガタガタと震え、違う…違う…と首を横に振ってるけど。
「こんな危ない物を持ってるの……いけない子」
え!?いつの間に?
さっきまで入口にいたわよね?気がついたらカレリン様は病んデレラの目の前に立っていたの。
しかもカレリン様の左手には病んデレラの持っていた刃物が――いつの間に奪ったの!?
カレリン様はにこりと微笑むんで、右手で病んデレラの頬を優しく包み――
「もうこんな真似はしちゃダメよ」
「ふぁ…いぃ……」
――甘く諭したのよ!
もう病んデレラも顔真っ赤ッ!!!
「「「キャ――――ッ!!!」」」
このピンクな光景に、もう更衣室内は黄色い悲鳴で溢れかえるのも無理ないわ。
かく言うわたしも声の主の1人よ。
「さて……」
顔を上気させポーッとしている病んデレラから離れると、カレリン様はわたしの方へと麗しのご尊顔を向けられたの。
あゝカレリン様がわたしを見詰めている――ぽっ!
「あなた……」
カレリン様がわたしの切られた制服に目を止めると哀しそうな表情に――あゝカレリン様の表情が曇っていらっしゃる。
カレリン様には晴れ渡るような笑顔がお似合いになられるのに……
「その制服の代わりが必要ね」
そう言うとカレリン様はご自分のロッカーを開けて、中から制服一式を取り出してきたんだけど……こ、これをわたしに?
「私って制服をよくダメにしちゃうから予備をいつも置いているの。サイズは違うと思うけど、今日一日は我慢してね」
「あ、あ、あ、ありがとうございます!!!」
カレリン様の制服!?
ふぉぉぉぉぉ!!!
キーッ!と周囲から歯噛みする声が聞こえてくるわ。
なんて優越感ッ!
クンカクンカ、スーハースーハー……芳しいわ!
「こっちの制服は直しといてあげる……その代わりと言うわけじゃないんだけど、この件は大事にしないでもらいたいの。刃傷沙汰はさすがにこの子の将来に大きく響いちゃうしね」
あゝこれ程までに他者を思いやる…なんてお優しいお・か・た……
「刃物で襲われて恐い思いをしたあなたには申し訳ないと思うの。この程度では償いにならないけれど、どうか私の顔に免じて許してもらえないかしら?」
あゝ自身に責はないのに全てを背負われるなんて…すっごく素敵なお・ひ・と……
「みんなもいい?この諍いをあまり公言しないこと」
カレリン様のお言葉に皆が頷く。これで、騒動は落ち着き、全ては解決した――かのように見えた。
わたしはカレリン様の制服に身を包んで……ぐへへへへ――あゝカレリン様に包まれている気分♡
ちょっとぶかぶかなところがエロティック?
え?ちょっとじゃなく、だいぶんダボダボだって?
「あら?」
何かしら?わたしの制服姿にカレリン様が首を傾げていらっしゃるわ。
「思った以上にサイズが……」
カレリン様!何故ブラウスの胸あたりをジロジロとッ!
「ブラウスが大きすぎた?」
ぐッ!確かに胸の部分だけ余裕が少しだけあるけどぉ(涙目)
「ごめんなさい。ここまで大きさに差があるなんて思わなくて」
たゆんッ!
目の前で大きく弾む双丘――もとい双山が……
胸か!胸のサイズの違いなのか!
「スカートは大丈夫かしら?丈が随分としたまで下がっているけど……」
カレリン様の膝丈スカートがわたしだとロングに……
足の長さか!そんなにもコンパスの性能が違うとでも言うの!?
「腰回りは大丈夫?ずれ落ちたりしないかしら?」
「……」
……
…………ゆるゆる?
スカートのウェストに隙間は………
そうよッ!キッツキツよ!
ウェストに指の入る余裕も無いわよ!
なんならお腹が苦しいし!
バストはガバガバ!ウェストはキツキツ!足はスラリと長いってか!
どんなスタイルしてんのよぉ!!!
心の中で血涙流しているわたしを見てカレリン様が何やらブツブツと呟いて――
「胸が小さ……足のみじか……てい……りそ…の幼児体型……」
――バッチリ聞こえてるから!
胸ちっさって!
足みじかって!
幼児体型って!
わたしの耳はハッキリ捉えているし、なんなら周囲の令嬢達もクスクス笑ってるからぁ!
それなのに、なんでカレリン様はそんなキラキラした瞳をわたしに向けてくるの?
「あなた素晴らしい体をしているわ!」
「――ッ!」
嫌味か?それは嫌味なのか!?
そんなに自分のボンッキュッボンッ!を自慢したいかぁ!
「まあ、カレリン様ったら意地の悪い……ふふふ」
「ちんちくり……失礼、小柄で可愛いくて羨ましいわ……クスクス」
「ですが、この乏しい色香で殿下達がよく靡いたものです」
「殿方の庇護欲をそそるのでしょう……お胸はすこーし寂しいようですが」
くッ!周りで嘲笑する令嬢達の囁く陰口まで……
いや、コイツら絶対に聞こえるように喋ってる。
なのにカレリン様――いや、カレリンはニコニコ笑ってやがる!
その後、わたしに明確な虐めをする者はいなかったが、令嬢達の間でわたしは胸なし、寸胴、幼児体型と嘲笑われるようになった……
それもこれも全てヤツのせいだ!
カレリン――いや、悪役令嬢カレリン・アレクサンドール!




