25. 第七死合!悪役令嬢vs怒りの乱暴者[ROUND2]【STAGE 校舎裏】
校舎裏へと続く通路の中央で腰に手を当てデンと胸を張る。
『その胸を張るポーズだとホントに強大なおっぱいがデデン!ですね』
くッ!――あんた私より大きいでしょ!
『私はそんな破廉恥なポーズはしません。そんなに胸を張るから胸圧でブラウスのボタンが飛びそうですよ』
ボタンの耐久力がゼロになる前に決着をつけないと。
『そんな危険なフラグを立てるのは止めなさい……』
「さて、情報ではマリク一党はここの校舎裏にいることが多いとのことだけど……」
『校舎裏は不良のたまり場の代名詞みたいなものですからね』
このあたりが目的の場所よね?
だんだん周囲が薄暗く汚くなってくんですけど……なんで貴族の通う学園にこんな場所があるのよ。
『まあ、お約束というやつでしょう』
いらないお約束ね。
『おっと、さっそくお出ましのようですよ』
まあ、察知はしていたんだけど、周りから人相の悪い男たちがわらわらと涌いてきやがりましたよ。
どいつもこいつも制服をひどく着崩しているけれど、間違いなく我が校の制服ね。
うーん……こんな悪人ヅラでも貴族の子弟なのよね?
「ヒュー!いい女だぜ」
「へっへっへっへっ、見ろよあのデカい胸」
「クゥーたまんねぇ」
「マブいねーちゃんオレたちと遊ばない?」
お決まりの口汚いセリフね……
いや、マブいはもう死語じゃないかしら?
『一周回って新しいかもしれません』
「あんた達が私のメイヤー先生を困らせる諸悪の根源ね」
ざっと見回して、おおよそ20人くらい?
少ないわね。
がっかりだわ。
『この人数を相手にそんなこと言える令嬢は貴女だけですよ』
「校舎裏のじめじめして汚らしい場所ね。あんた達ゴミ屑どものたまり場としてはうってつけね」
『相変わらず煽りますね』
「なんだぁ!」
「このクソアマ!」
「犯すぞゴラァ!」
生きた化石どもがいきり立っちゃった。
この程度で怒るなんてカルシウムが足りないんじゃない?
「私のメイヤー先生のお手を煩わせたこと万死に値する!学園の汚物は消毒よ!――てめえらに今日を生きる資格はねぇ!!」
『貴女はどこの世紀末救世主ですか!』
「なんだとぉ!」
「殺すぞゴラァ!」
「チョーシこいてんじゃねぇぞゴラぁ!」
おうおう!一丁前に半人前未満どもが殺気だっているわ。
『ボキャブラリーも半人前未満のようです』
その時――
「ちっ!」
何こいつ?
デカいずうたいで大きな舌打ちをしちゃって……態度もデカいわね。
『貴女にだけは言われたくないと思いますよ』
ん~?
青い髪に碧い瞳。
高身長でガタイがよく。
顔もこいつらの中ではカッコいい方。
だらしなく着ている制服のブレザーには最高学年の校章。
この特徴は情報通りね。
間違いない。
こいつが諸悪の根源――マリク・タイゾン!
「おい!痛い目みねぇうちに消えな」
何その恫喝?
ちゃんちゃらおかしいっての。
「はん!弱い者イジメしかできないヤツが随分と粋がるじゃない」
「オレは弱い者イジメなんてしてねぇ!」
弱い者イジメする奴はみんなそう言うのよ。
『盛大なブーメランに聞こえますが……』
「オレはワルだが硬派なんだよ!」
「弱い者イジメばかりする絶滅危惧種の番長気取って何が硬派よ!」
「なっ!ひ弱な女や子供に手を出すようなカッコ悪いマネするかよ!」
「男にだってひ弱な人はいるでしょうに。女、子供に手を出さないことを免罪符にしているの?――プーックスクス!」
「このぉ!オレは最高学年の絶対強者だ!強いヤツしか相手にしねぇ!」
「プゲラ――ッ!サル山の大将の癖に。ボス猿がチャンプとか烏滸がましいのよ!」
「てめぇ……その軽口の代償は高くつくぜ!」
「戦う力も満足にない者しか相手できないあんたたち落ちこぼれに何ができるのかしら?」
怒らせ過ぎた?
血管が浮きまくって、いよいよマリクの顔に青筋が入りきらないわね。
『煽りすぎですよ』
「魔法が使えるからって勝てると思うなよ」
「魔法?何それオイシイノ?」
「はぁ?」
何こいつ?
鳩が豆鉄砲を食ったような顔なんかしちゃって。
「てめぇは魔法が優位だと思ったから煽ってきたんじゃねぇのかよ?」
どうやらマリクは魔法優勢論者のようね。この世は物理こそが最強だというのに……嘆かわしい!
「ふん!魔法が至上?魔法の力が勝敗の優劣を決める?下らない!」
胸を反らしてマリクを睥睨してやる。
あ、まずい――ッ!ブラウスのボタンが弾けそう!
『女の子なんだから気をつけなさい!』
「魔法なんて使わせる前に全員ぶっ潰してきたわ。まあ、魔法なんて使われたところで……」
私はマリクに向かって拳を握って突き出してみせる。
「拳で粉砕すればいいのよ」
『そん真似は貴女しかできません!』
「私はこの拳一つで数々の敵と戦ってきた……今のところ、このカレリン・アレクサンドールより強い奴はいなかったわ」
ああ、早く私より強い奴に会いに行きたい。
ザワ… ザワ…
「カ、カレリン・アレクサンドールだと!」
「最年少でオリハルコン級冒険者になったっていう?」
「噂では《スピードスター》タクマ・ジュダーを一蹴したとか……」
「オレは200人斬りして死体の山を築いたと聞いたぞ」
「スタンピードで溢れた魔獣を討伐隊ごと全滅させたらしいな」
「その時に西の大魔獣フェンリルさえも討伐したってよ」
ヤンキー共が私の名前でビビってるわ。
私も随分と有名人になったものね。
『悪名の方が高そうですが』
「て、てめぇがあのカレリン・アレクサンドールだと!」
「あのがどのかは知らないけど、私がアレクサンドール侯爵の娘カレリンよ!」
ふふふ……
恐れ慄け!
泣き喚け!
ヒソ… ヒソ…
「モノホンか?」
「はったりだろ?」
「じゃあお前行けよ」
「いやオレ今日は調子悪くて……」
「ビビってんのかよ」
「な――ッ!ビビッてないしぃ!調子よければワンパンだしぃ!」
ふむ……これはこのまま試合終了かしら?
「おおい嬢ちゃん!こんなとこにいたのか――探したぜ」
そう思っていたら用務員服に身を包んだタクマが白い物体を手に持ってやってきたんですが。
「タクマ?」
「この危険物なんとかしてくれよ」
タクマが私の眼前にずいっと突き出した白い物体……
「わん!」
「フェンリル!?」
なんてこったい!
こいつ勝手に屋敷を抜け出してきたのね。
え!?なに?「薹が立ったメイドではなく、若くボインボインのねぇちゃんがいる楽園を俺から奪うな!」ですって!?
「こいつ勝手に学園の中に入って――」
「「「ぎゃ~はっはっはっはっはっは――っ!!!」」」
タクマが苦情を言っていると、不良どもがバカ笑を始めたんですが……うっさいわね!
「おい聞いたかぁ?」
「あのとっぽい用務員のおっさんがタクマだとよぉ」
「そして子犬がフェンリルだってさ」
「カレリン・アレクサンドール、噂ほどではないわっ!」
周囲で私たちを蔑む言動が巻き起こる――なんなのよ!?
『貴女の数々の噂が偽りであると思われたのでしょう……』
「なんだぁ?このガキどもは……」
顔を顰めて不愉快を表にだすタクマ。
一方、フェンリルは――くぁ~っと欠伸をしていた。興味無さそうね。
フェンリル……あんたバカにされてんのよ?
え?「どうでもいい」って?
西方最強の魔獣としてのプライドは無いの?
なに?「プライドで餌がもらえるか?女の子にチヤホヤしてもらえるか?クソの役にも立たんプライドなんぞ犬にでも食わせておけ」ですって!
『貴方がその犬畜生でしょう!』
「とんだ大魔獣とアダマンタイト級冒険者様だぜ!」
「大方、他の噂も同じように作ったもんなんだろ?」
「へっ!ビビって損したぜ」
「ぎゃははは――おめぇやっぱビビッてたんじゃねぇか!」
バカ笑いを始める不良ども……
現金なものね。
噂が虚像だと分かって、途端に元気づいたわ――虚像じゃないけど。
そして、ここに活気づくバカが一人――
「どうすんだ?もうはったりは効かないぜ」
――マリクが得意げにそう言ってくるのだけれど……
「はったり?」
「――?」
私が不思議そうに小首を傾げてタクマの方を見れば、タクマも肩をすくめて首を振ってる。
「何こいつ?さっきまでビビって縮み上がってたくせに。カッコ悪!――プーックスクス!」
「勝てるかもと思ったら、途端に強気になるあたり恥かしい奴だな」
『小物臭がぷんぷんしますね(こいつ攻略対象のくせに)』
私が嘲笑し、タクマの呆れるとマリクが怒声を上げてきたんですけど。
「ああっ!いつまで強がってやがる!もうブラフだって分かってるんだよ!」
「顔真っ赤!ウケるw」
『貴女はどうしてそう煽るのか……』
ビシィッ!!!
「言ってろ!もう誇張された噂に踊らされねぇ」
なんかこいつ、ジョジョ立ちで指差してきて。
『地味にイラッときますね』
「なぁ、嬢ちゃん――このバカ殺ってもいいか?」
「ダメよ。こんなザコでも私の獲物よ」
タクマ!人の獲物に手を出すんじゃありません。
さて、どう料理してやりましょうか。
マリクは右拳を顎下あたり、左拳を僅かに前に出す構え――いわゆるボクシングのオーソドックススタイル取ってるわね。
喧嘩屋にしては堂に入っている。
ただの腕力に物を言わせただけの不良ではなさそうね。
「だからもうフェイクは通じねぇって!」
右足と左足を前後に軽くステップを踏んでいたマリクが、右足を大きく前にスライドさせながら前傾姿勢で身を沈め、私との距離を一気に縮めてきた。
悪くないフットワーク――
ダンッ!!!
マリクは左足を強く踏み込み、更に身を沈めると下からすくい上げるように右拳で鳩尾を狙ってくる――ボディアッパーだ。
「終わりだ!」
ドヤ顔のマリク。
だけど……
「遅いッ!」
バシンッ!
ハエの止まるようなブローね。
こんなの平手打ちで簡単に横へ叩いて流せるわ。
『いや、常人からしたらかなり速いですよ?』
「な、なんだと!?」
たくッ――この程度で驚愕しないでよ!
あまりの低レベルに私は怒り心頭よ!
「貧弱貧弱ゥ…ちょいとでも私にかなうとでも思ったか!マヌケがァ〜〜!」
「なんだと!?」
さて、お返しのジョジョ立ち――ビシィッ!!!
やられるとイラッとくるけど、やると楽しいわね。
「随分と自信満々だったわりに遅い!鈍い!弱い!――未熟!未熟ゥ!」
「み、未熟だと?」
「一流の格闘家ならあんた程度のブローなんて簡単に防げるわよ!」
「クソったれ!これならどうだ!」
マリクのやつギリッと歯ぎしりしてる―悔しいのぉ悔しいのぉ
『貴女ホントに性格悪いですよ』
おっと!
こいつ狂ったように襲い掛かってきた。
「オラオラオラオラ!オラオラオラオラ!オラオラオラオラ――――ッ!!!」
なんですかぁ――オラオラですか?
「無駄無駄無駄無駄!無駄無駄無駄無駄!無駄無駄無駄無駄――――ッ!!!」
そんなガムシャラなおらおらブローなんて簡単に叩き落とせるわよ――ハエを叩き落とすようなもんね。
やがて――
「ハァハァハァ……」
こいつもう息が上がったの?
ホント貧弱!貧弱ゥ!
「飽きたわ……あんたの児戯とは違う本物の打撃技を――見せてあげるッ!」
マリクに対し正面に向いて腰を落とし、左腕を前に突き出し右拳を脇に引く――これぞ正拳突きの構え!
「くっ!だがオレのフットワークならどんな攻撃も躱せる!」
「躱す?……ふふふ、あーっはっはっはっ……」
おもわず笑っちゃったわ。
こいつコメディアンの才能あるんじゃね?
「躱せるわけがないでしょう。《令嬢流魔闘衣術》――《ティンフィル》!」
この技は《ドレス》とほぼ同じく全身に魔力を纏い、全ての能力を向上させるもの。
違いは纏う魔力量だけ。
この《ティンフィル》は《ドレス》よりも圧倒的に魔力量を抑えている。まるで、薄い膜を羽織っているような感じね。
つまりは《ドレス》を弱くした手加減技ってわけ。
マリクが私の攻撃に備えて身構えた。
私の攻撃を受けるつもり?――ウケるw
私の正拳突きを躱す?
無理に決まってるでしょ!
私の拳を受け止める?
もっと無理でしょ!
「格の違いを教えてあげるッ!」
振り込み左腕を引き込むと同時に右拳をマリクのどてっぱらにねじり込むように叩き込む――打つべし!!
「あべしッ!!!」
ありゃりゃ。
あっさりお腹を抱えて前に倒れ伏しちゃった。
「これが本物のブローよ」
ちょっとカッコつけて告げるがッ――なによこいつ!
せっかく教えてあげているのに聞いていないわ!
『ピクリとも動きません……既に気絶していますよ』
「え?もう終わりなの?」
ちょんちょんとマリクを突くが――へんじがないただのしかばねのようだ……
「ん~~~」
さてどうしましょう?
周囲に視線を送ると、ボスを倒された不良どもが戦々恐々としている。
「ふむ……次に死にたいやつ前にでろ!」
くいッ!くいッ!と手招きするが――
なにこいつら?
あれだけ威勢が良かったくせに尻込みして。
「誰もこないの?ええい!面倒くさい!全員まとめてかかってこいッ!」
「「「――――ッ!!!」」」
『ここからカレリンによる一方的虐殺ショーが開幕し、途中で目を覚ましたマリクを含めて不良達は全員ぼこぼこにされたのでした……』




