21. 第六死合!悪役令嬢vs恋する殿下【閑話パート】
ガルム・ダイクンの盛大な勘違いにより、カレリン・アレクサンドールとの婚約が決まって2年が過ぎた。
この2年でガルムと側近3人衆は己の思い違いにやっと気がついたのだが時すでに遅し。
国王と王妃は最強無敵の武力を誇るカレリンを王家に引き込めると大喜びの為もはやガルムの力ではどうすることもできなかったのだ。
第一、積極的だったのはガルム本人だったのだから、その1人相撲の代償は己で払うしかあるまい。
あまりに憐れ、あまりに滑稽!
ガルムの道化っぷりに非人道的な女神ルナテラスがお腹を抱えて大笑したことは疑う余地はない。
さて、今年は悪役令嬢カレリン・アレクサンドールとその婚約者ガルム・ダイクンが王立魔法学園に入学する。同時に私がこの世界に送り込んだ魂を持つヒロインも予定通りこの学園に通うことが決まった。
そして、今日がその学園の入学式だ。
つまり、乙女ゲーム『恋の魔法を教えます』の開幕というわけだ。
『何で侯爵令嬢の貴女が徒歩なのですか?』
「走った方が速いからよ!」
おや?女神ルナテラスと悪役令嬢カレリンか。
ふふふふふ……
噂をすればだな。
『馬車での移動は貴族としての権威の象徴ではないのですか?』
「権威なんて何の役にも立たないわ。私には絶対の暴威があるんだから!」
『その発想は貴女の好きな《霊長類最強》よりも貴女の嫌いな《地上最強の生物》寄りですよ』
「うるさいわね!だいたい馬車なんて街中を数キロ移動するのに数十分もかかるのよ。走ったら秒で移動できるのに。秒よ!秒!」
『秒!?おかしい!貴女の身体能力はどうなっているんですか』
「それに追いつけるあんたに言われたくない!」
『私は女神だからいいのです』
「なら私も悪役令嬢だからいいのよ!」
言い争いながら猛スピードで走り抜けていきやがった。
完全に風になってやがる。
あの速さは常人の目では捉えきれんだろうな。
しかし、相変わらず愉快な連中だ。
さて、私もヒロインを探さないとな。
おそらく学園におるはずだが……
いた!
学園の庭園にある……
この世界で入学式の季節に花を咲かせる桜によく似たスリズィエの木。
その木に咲く淡い桃色の花を見上げて佇む、波打つ薄いピンクの髪の少女。
私がこの世界に送り込んだ魂の持ち主。
なるほど……
ゲームのオープニング強制イベント、《スリズィエの木の下でガルム・ダイクンとの出会い》の再現か。
さすが私が見込んで、この世界に送り込んだ女だ。
このゲームの内容をきちんと熟知していやがる。
おっと、向こうからガルムが来たか……
ガルムは校舎から講堂へ行く道すがら、庭園の中央に聳え立つスリズィエに満開に咲いている見事な桜色の花に目を奪われた。
ひゅらり――
少し強めの風が流れ、スリズィエの枝がざわっと揺れる。
数多の花びらが風に嬲られ、空を舞う。
ひらっ――
ひらっ――
ガルムは何とはなしにその舞い落ちる薄桃色を目で追った。
その視線の先に存在したのは風に揺られる花びらと同じ色の髪を持つ少女の後ろ姿。
小さく華奢な少女の背中は同じ薄桃色に溶けて消えてしまいそうで、ガルムにはとても儚く見えた。
「花の精?」
そのガルムの微かな呟きが届いたわけではないだろうが、幻想のような少女は何かに気がついたかのように振り向いた。
彼女はとても愛らしい顔立ちで、驚いたように目を大きく見開いた。
お互いの視線が絡み合う。
ガルムはそのアクアマリンのように澄んだ大きな瞳に吸い込まれるのではないかと感じ、彼女もガルムの黄金の瞳を食い入るように見ていた。
まるで時が凍りつき、2人だけの世界に入り込んだかのよう……
ヒュルルルル――――
少し冷たく強い一陣の風が2人の間を吹き抜けた。
枝が大きく揺れ、スリズィエの花びら踊り狂う。
少女も風に嬲られ、髪が乱れ制服の裾がなびく。
乱れ流れる髪を押さえる仕草……
翻った裾から覗く細く白い足……
この可憐な少女は幻想の中から現実に飛び出してきたのではないかと錯覚させる。
そして、茫然としていたガルムが正気に戻った時には、その妖精のような少女の姿はなかった。
「スリズィエの妖精か?」
自分は本当に幻を見ていたのではないか?
「いや、我が校の制服を身につけていたな……もう一度会えるだろうか?」
ガルムはじっとスリズィエの木を1人で眺めていた……
というゲームのオープニング強制イベントをあの娘は現実でも無事に熟すことができたわけだ。
さてさて、この後の展開はどうなることか。
くっくっくっくっ……
みなさんお待ちかねぇ!
王立魔法学園の入学式が目前に迫りました!
未だ修行を完了できないカレリン!さらに!ポンコツ駄女神ルナテラスまで現れたではありませんか!
果たして!カレリンは無事、魔法学園へ行けるのでしょうか!?
次回令嬢類最強!ー悪役令嬢わたしより強い奴に会いに行くー「入学式迫る!『恋の魔法を教えます』ゲームスタート!」にぃ、レディィィ、ゴォォォ!!




