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14. 第五死合!悪役令嬢vs逆襲のスピードスター[ROUND3]【STAGE 特設闘技場】

『ギルド特設の闘技場で向かい合う2人。


 身長176cm、体重69kg。

 タクマ・ジュダー!

 つい最近18歳の若さでミスリル級に昇格した新進気鋭の凄腕冒険者(攻略対象の1人)!

 その敏捷性から誰もその動きに追いつけない!

 ついた二つ名が《スピードスター》!』


 え!?このとっぽいあんちゃん二つ名があるの?

 いいなー。私もほしー。


『対する挑戦者は……

 身長125cm、体重24kg。「あんた!いつの間に私の体重を!!!」

 カレリン・アレクサンドール!

 若干8歳のまごうことなき真正の幼女!』


 え!私が挑戦者なの!?

 まあ美幼女は認めるけどさぁ。


『自分で言うな!……こほん。

 その常識外れな言動と霊長類最強にしか興味の無い青天井のアホさは止まるところを知らず、他の追随を許さない!

 呆れた私がつけた二つ名は《脳筋非常識アホ娘》!』


 えーポンコツがつけたの?

 しかも何その昭和臭漂う二つ名?

 あんた歳がバレるわよ。

『黙れ女神を崇めぬ不届き者!』


 まあいいわ。私にはまだ戦績(じっせき)がないから二つ名が無いのも無理なし。これから目の前の優男をぶっ潰して周りに私の実力を思い知らせてやりましょう。


 ふっふっふっ!こいつミスリル級に昇格して粋がっているようだけど、私がこの男に世間の厳しさを教えてあげるわ!

『貴女に関わるとみんなドン底に落とされそうです』


 堕ちればまた這い上がってくればいいだけのこと!

『どこのアント兄さんですか!』


 おーほっほっほっ!まあ、這い上がってきても、またドン底に叩き堕としてやるけどね。

『鬼ですか貴女は!』


 私は内心で高笑いしながらタクマに余裕の眼差しを向けた。さすがにさっきのザコとは違い、彼は自然体で手にした木刀で肩をトントンと軽く叩いた。



「で、嬢ちゃんの得物は何にするんだ?」

「私はこれでいいわ」


 握った拳を突き出すとタクマは顔を顰めた。


「素手だと!ナメるのもいい加減にしろよ!泣かすぞ!」

「舐めるだなんて汚らしい……そういうご趣味があるのかしら?」

「こんガキャ!調子に……」

「いやぁ!この人、私に舐めなきゃ泣かすって脅すのぉ」



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――え!?幼女相手に?

――タクマさんって変態?

――マジ引くわー。

――えー尊敬してたのに幻滅だぜぇ。



「お、おい!俺にそんな趣味は……」


 慌てるタクマに向かってニヤリと私は不敵に笑う。


「こ、このガキ!謀ったな!」

「くっくっくっくっ陰口を叩かれながら世間の荒波に揉まれるといいわ!」

『どこまでエゲツないんですか!』


 これで舌戦は私の勝利ね。

『なんて汚い……』



「このガキ!もう勘弁ならねぇ!素手だろうとガキだろうと関係ねぇ!絶対ぶっ潰す!」



 頭に血が上っているタクマに私は指でクイクイとかかってこいとジェスチャーする。



「貴方はこの狭いギルドで登り詰めて調子に乗っているようだけど、世の中は広いってこと教えてあげるわ」

「それはこっちのセリフだろぉー!」

『8歳児が大人に言うセリフでもないですね。立場があべこべです』




「それでは始め!」


 判定員(レフェリー)を押し付けられた鋼級冒険者のボルナルフ君が挙上した腕を勢いよく振り下ろす。



「てめーはおれを怒らせた」



 言うが早いか、タクマが一直線に向かってくると木刀を振るった。

 その軌道は地面スレスレ、私の足を掬い上げるつもりね。



 だけど……



「どわ!」



 盛大に転んだのはタクマの方。


「いったい何が?」


 タクマはわけがわからず、尻餅をついたまま茫然とする。

 周囲の冒険者(ギャラリー)も何が起きたか分からず騒めく。


 それほど大した事ではないんだけどね。


 ただ私は右足を斜め前方に大きく踏み出し左足を素早く後ろに引いただけ。

 これだけで、タクマの左からきた木刀を躱し側面をとったのよ。


 その後に魔力で強化した足を引っ掛けてタクマを転がしたの。

『反三才歩で木刀を(かわ)して、三才歩で足を払ったのですか。見事です』

 さすがオタク女神。よく知っているわね。



「《令嬢流魔闘衣術・グリーブ》」



 やはり、技をかけた後に技名を呟く。

 これぞタイマンの醍醐味!

『その厨二臭プンプンの名前はどうにかならないのですか?』


 なんてこと言うの駄女神!

 この名前もメイヤー先生と三日三晩……

『それはもういいです』


 なんて塩対応!私達の産みの苦しみも知らず!

 男の人っていつもそうですよね女をなんだと思ってるんですか!

『いや私女神だし、なんなら世界産んでますし』


 何よ!産みっぱなしのネグレクトのくせに!

 まるで無計画に女を孕ませる最低男よね!

『あながち間違いでないのが癪に触りますね』



「貴様、いったい何をした!」



 立ち上がったタクマは、今度は油断なく構えて私と対峙する。



「この程度のことも分からないなんてね」



 やれやれと肩をすくめて首を振る。

『貴女ホントに挑発しますよね』


「あんたは確かに速く、太刀筋は鋭い。そのスピードで今までやって来れたのでしょうけど、足運びは直線的、剣の振りも単調。話にならないわ」


「それならこれでどうだ!」



 タクマはいったん距離を取ると、ジグザグに体を振りながら私に向かってくる。


 速い!



「俺はミスリル級冒険者……ザッコとは違うのだよ、ザッコとは!!」



『かなりのスピードです。さすがスピードスターの異名は伊達ではありませんね。人間の限界ギリギリといったいところですか』

 ま、意味はないけどね。


 私はタクマの動きの機を捉えると、自分からタクマへと近づく。

 もっともタクマから見れば一瞬にして懐に入られたように感じたでしょうね。


 そして、横への移動と捻りの動作で半身になれば瞬時に側面を取れる!

『同じことの繰り返しですね』


 タクマは私の足に引っかかり、勢い良く顔面スライディングして行った。いい男も台無しね。



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――あのタクマさんが!

――ミスリルが手も足も出ないのか?

――アレクサンドールの幼女はバケモノか!?



「馬鹿なの?左右に体振ったって、足運びが無茶苦茶じゃ直線的な攻撃とさして変わらないわよ。ジグザグに動く分だけ無駄」

「くそ!それなら……」



 タクマは私の周囲を猛スピードでぐるぐると周る。

『先程よりも更にスピードアップしてきましたか』



「懲りない男ねぇ」

「ほざけ!この動きを捉えられるものか」



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――すげぇ!

――速すぎて分身が見えるぞ!

――オレはタクマさんを信じてた!

――この速さならあのガキも……



 タクマのスピードにギャラリーが騒然としているわね。

 確かに速い。残像がまるで分身して何人もタクマが存在するかのよう。

 でもね体は一つなのよ!


 私は時計回りに動くタクマの機を捉えると重心を残しながら体を左に振る。すると、タクマが釣られて僅かに周回する円形の中心点が私の方へずれた。


 その瞬間にススイッと摺り足で前進すれば、あ~ら不思議。私とタクマが一瞬にして交差する。

 そのすれ違いざまに掌底で足を掬うと自分の勢いもあってタクマが宙を舞った。



「どわわわわ!」



 勢いがあり過ぎたのがよかったようで、タクマは空中で体勢を立て直すと何とか着地に成功。



「何故だ!どうして今の動きを捉えられるんだ!」

「無駄無駄無駄無駄ァ――ッ!速く動いたところで意味がないのよ。それに……」



 私はタクマの周りをぐるぐると猛スピードで走る。



「その程度なら私にもできるわ!」

「バ、バカな……俺より速いだと!」



 《令嬢流魔闘衣術》は筋肉を増量することなく身体を強化する。


 つまり質量をそのままにパワーアップしている私は車体をオールアルミで軽量化して大出力のエンジンを積んだホンダNSXのようなもの。


 本当は筋肉をムキムキにつけたいんだけど、まだ幼女の私には筋トレは早いので今の私はぷよぷよ。だけど、それが却ってこのスピードを生み出しているの。


 全身に魔力を通し強化された私のトップスピードははっきり言って人の域を超えている。タクマが分身を5つ作ったなら私は10は作れるわ。



「技術で劣るあんたが身体能力でも劣っていれば、もはや勝ち目はないわよね」

「くっ!」

「それに……」


 私は急停止すると舌打ちするタクマに背を向け、近くの壁に打突を繰り出す。



 ドガァァァン!!!



「《令嬢流魔闘衣術・ガントレット》」

『やっぱりその名前なんとかなりませんか?』



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――なんて破壊力だ!

――この領地の幼女は戦術級魔法並みの攻撃力を持っているのか!?

――可愛いナリしてあのガキは化け物か!?

――あんなのまともに食らったら1発ミンチだ



「さてタクマ。もう降参する?」

「あ、当たらなければどうということはない!」


『この方も赤色で性能3倍になれればいいのですが』

 赤い色が性能を引き上げるなんて仮面の男の幻想よ!


「降参しないなら仕方がないわ」


 私は再びタクマを中心にぐるぐると猛スピードで周回する。


「私とてミスリル級の冒険者!無駄死にはしない!」


 そう叫ぶやタクマの目がカッと見開かれ、どうやら私の動きを捉え始めたようだ。



「見えるぞ!私にも敵が見える!!!」



『ホントに覚醒した!この方、自分の目に魔力を通して動体視力を上げていますよ!』

 そんな使い方もあったのね。ふふふ、これは良い収穫ね。《令嬢流魔闘衣術》の幅が広がりそうよ。


『たぶん彼は無意識にやっているのでしょうが大した才能です』

 こいつも良い拾い物ね。

 鍛え上げて私の実験だぃ……じゃない、モルモッ……もとい修行の相手をしてもらいましょう。


『貴女ホントに鬼畜ですよね』

 世界を実験場にしているお前が言うな!



「お前の動きが見えるなら、この戦いは対等!」


 タクマは私に対して正眼に木刀を構える。


「見える?対等?

 私は貴方ほど急ぎすぎもしなければ、速度に期待もしちゃいない」



 こいつバカね。

 嘲笑(わら)っちゃうわ。

『貴女ホントにヒロインですか……あっ!悪役令嬢でした』



「だけどそうね……折角だから」



 さらに加速の倍満(8000オール)よ!

「ここからが本当の絶望だ」


「バカな!これ以上スピードが上がるだと!!!」

「WRYYYYYYYYーーーッ!」



 いつものような華麗な足運びをやめて、タクマに乱雑な動きで襲い掛かる。


 技術で圧倒してもよかったのだけれでね。今回は圧倒的な力の差を見せつけてやるのよ!

 自分の得意分野で打ちのめされる気分はどんなものかしら(笑)

『貴女ホントに無慈悲ですよね』



「くっ!まだだ!まだ終わらんよ!」



 タクマも負けじとスピードを上げて走り出すが……



「くそっ!追いつけねぇ!!!」



 私とでは全く勝負にならない。

 何故なら……



()()()()()()()てるのよ!タクマ―ッ!!」

『貴女はどこぞの吸血鬼ですか!?』


「くおぉぉぉ!」

 私のスピードに食らいつこうと必死の形相で走るタクマ。


 しかし、私を包み込む魔力が体に浸透し、身体能力をどんどん向上させていく私には到底及ぶはずもない。



「一年前に《令嬢流魔闘衣術》を完成させたが、これ程までに絶好調の晴れ晴れとした気分はなかったなぁ!全身を駆け巡る魔力は本当に良く馴染む!」


 サイコーの気分よ!

『走り過ぎてランナーズハイになってませんか?』



「最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ!」



 私は必死に走るタクマの背後を簡単にとる。



「死ぬしかないなタクマ・ジュダーッ!」

「それが『最速(トップスピード)』かッ!こい―っ!」



 タクマの全身全霊全力のスピードを以て繰り出す無数の鋭い突き!



「オラオラオラオラオラオラオラオラ―ッ!!!」



 だけど……



「遅過ぎ!無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄」



 それらの突きをひょいひょいとことごとく躱す。



「何故だ!何故あたらん!」


「もともと技術が上の私にスピードでも負けているのに、あんたの攻撃が当たるわけないでしょうに。逆に私の攻撃はいつでも、幾らでも当たられるわ……

 そこで問題だ!この絶望的状況でどうやって私の攻撃をかわすか?

 3択―ひとつだけ選びなさい

 答え①ハンサムのタクマ・ジュダーは突如反撃のアイデアがひらめく

 答え②仲間がきて助けてくれる

 答え③かわせない。現実は非情である。


 冒険者のあんたが選びたいのは答え②でしょうが、1対1(タイマン)に仲間の助けは期待できないわよね!」


「グッ!クッ!い……いち?」

「ぶっぶー!都合よくアイディアが浮かぶくらいなら、最初からもっと上手く立ち回んなさい!

 答え―③ 答え③ 答え③かわせない。現実は非情である!」



 私は苦し紛れにタクマが振るった剣を易々と躱して懐に飛び込むと腹部に掌底を叩き込んだ。



「ぐぼぉは!」



 私の打撃をもろに食らったタクマは変な声を上げて倒れ伏した。

 ぴくりとも動かなくなったタクマをちょんちょんと足蹴にしたが、全く反応がない。



「生きてる~?」


 へんじがない。

 ただの しかばね のようだ。

『死んではいませんよ』


 最大限の手加減はしたのに。

『当然です。貴女が全力で打ち込んだら、この男の上半身と下半身が永久に別たれてしまいますよ!』


 判定員(レフェリー)を押し付けられた鋼級冒険者のボルナルフ君が微動だにしないタクマの状態を確認していたが、直ぐに立ち上がると頭上で両腕を交差させた。



「タクマ・ジュダーのノックアウト!幼女……じゃなかったカレリンの勝利!」



 ボルナルフ君は私の勝利宣言をすると大声で担架を持ってくるように指示をだしていた。

 まあ、死にはしないでしょう。


 こうして冒険者なりたての木級幼女ルーキーの私に完膚なきまで叩き潰されたタクマはロリコンの汚名も着せられて世間の荒波に耐える試練が与えられたのであった。

『何という非情!』


 一方の私はザコに引き続きミスリル級冒険者タクマも葬ったため、その時に見学していた周囲の冒険者からは恐れられて、腫れ物を扱うが如く距離を取られた。

『まあ、幼女相手にちょっかいかけて痛い目はみたくないですよね。あまりにリスクが大き過ぎます』


 そうして冒険者どもが私の対処に手をこまねいているうちに、私の可愛さと強さにメロメロになった受付嬢(うらぼす)セレーナさんと結託した。こうして武力のカレリン、知力のセレーナという最悪のタッグがアレクサンドール冒険者支部の影の支配者(フィクサー)として君臨した。


 もはや私とセレーナさんに逆らえるものはなし!

 このギルドは完全に私が掌握し(ぎゅうじっ)た。

『何という非道!』

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