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ネクストライフ  作者: 相野仁
六章「ターリアント大陸擾乱」

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エピローグ「あがき」

 ルーベンスが魔軍と人類軍の戦争の顛末を知るまでには、かなりの時間を必要とした。

 アステリアが意図的に東方戦線の情報を遮断し、魔人達が知る機会をも奪おうとしたのである。

 ルーベンスとメルゲンだけであれば打つ手はなくなっていただろうが、ゲーリックがいた為それは回避出来た。

 彼はルーベンスの命令で「トランスフォーム」を駆使し、ホルディア国内での情報収集に奔走したのだが、なかなか上手くいかない。

 本来ならば国の諜報機関と言うべき組織が集めて然るべき情報なのにも関わらず、東方の動きを知る者はいなかったのである。


(何なんだこの国は……)


 ゲーリックは困惑を隠せなかった。

 国にせよ王にせよ直属の組織が存在し、その者達が情報収集を一身に請け負う。

 これがゲーリックの知る人類国家の在り方というやつなのだが、ホルディアに関してはそれが通用しない。

 

(まあいいさ)


 ゲーリックはあっさりホルディアから情報を入手する事を諦めた。

 大切なのは情報であって、入手先ではない。

 つまりホルディアに潜入している他国の間者からでも充分だ。

 そう判断し、他国の間者を割り出しにかかったのだが、魔人としての知覚能力を持つゲーリックにしてみれば大して難しくはない。

 あっさりと見つけて気絶させ、「トランスフォーム」を使う。

 姿形、あらゆる癖、そして記憶さえも写し取る恐ろしいスキルだ。

 そして記憶を写し取って愕然とする。

 誰も東方の情報を持っていないのだ。

 どうやらホルディア側からの妨害が激しく、本国と連絡を取るには本国に帰るしかないらしい。

 本国からの情報はないに等しい状態で活動しているようである。

 その割に国内で嗅ぎ回っている自分は妨害されない事にゲーリックは首をひねった。

 

(もしかして俺達が潜入している事に気づいているのか……?)


 恐ろしい考えが浮かび、すぐに打ち消す。

 だとすれば何の反応もないのはおかしい。

 魔人達が国内に潜入しているというのに無視するなど、マリウス並みの力でもなければありえない。

 かつてゲーリックがセラエノなどで工作した時のように、軍なり騎士団なりが血眼になって捜索するはずであろう。


(それもこれも女王のせいか……?)


 各国の王達に関する情報は脳内に入っている。

 ホルディアの現国王、アステリアはかつて狂っているとしか思えない言動を繰り返していて、周囲からの信望はほぼゼロだった。

 それが突然専横貴族達を壊滅させ、全て演技だったと公言し民の為の政策を次々と打ち出し、一転人気者になっているという。

 もっとも諸外国からの評判は最悪に近いらしいが。


(まあよい。俺の任務は情報を得る事だ。考えるのはルーベンス様にお願いしよう)


 ゲーリックは思考を放棄し、任務を再開する。

 彼が選んだのはガリウス王国であった。

 この時、彼が王都ホルディアスに向かっていれば、違った未来が訪れていたかもしれない。




 アステリアは今回のルーベンスらの行動を予想していた。

 だから情報収集には召喚獣を使って、諜報部の者達には一切何も知らせていない。

 魔人達の行動範囲に入りそうな地域から全て引き上げさせ、召喚獣達を代わりに配置し、魔人との遭遇を避け続けた。

 もし召喚獣を諜報として使うのが一般的に普及していたのであれば、ゲーリックもすぐに気づいただろう。

 しかし召喚獣達はヴェスターの翼竜兵団のように戦力として使われるのが常識で、諜報特化型を保有しているのはアステリアくらいなのである。

 だからこそ魔人達も見落としていたし、アステリアはそれを計算に入れていたのは言うまでもない。

 今回起こった戦争で大陸東方が受けた被害は大きく、大量のゾンビ発生はその後の処理が大切だからマリウスの力が必要だろうし、彼が来れるようになるまで魔人を足止めをせねばならない。

 アステリアはそう考え、今回のやり方で時間稼ぎを狙ったのであった。

 ルーベンスは慎重な性格の為、今回の方法がハマる。

 もっともホルディア国外へ出れば解決出来るので、魔人の力を考えるならば三日もてばいい方だろう。


(決戦はヴァユタの森か)


 かつてマリウスに告げた魔王デカラビアの封印地である。

 夫婦ドラゴンに正規軍の精鋭、更にイザベラが開発したアイテムの投入も視野に入れていた。




 ゲーリックは数日後、蒼白になりながらルーベンス達へ情報を持ち帰ってきた。


「な、何だと……?」


「ま、負けた……? こんな短期間で?」


 ルーベンスが呻き、メルゲンも目を白黒させている。

 計り知れない衝撃であった。

 敗北自体はさほど痛くはない。

 その可能性を考慮し、陽動のつもりで配したのだから。

 けれど彼らがデカラビアを復活させる前に全滅してしまうのは、とんでもない大誤算だ。

 ガスタークにアンデッド兵数百万を組織させ、上級魔人のアルベルトとフランクリンをつけ、三カ国を同時に大規模な侵攻をさせたというのに。


「ど、どこで狂ったのだ……?」


 ルーベンスは必死に考える。

 このままでは彼の野望が危ない。

 邪神ティンダロスや魔王を復活させ、人の世を終わらせ、魔が支配する時代が来るという悲願が。

 マリウスという人間を侮ったつもりはなかった。

 だがもし「魔人五人で時間稼ぎ」という発想が、既にマリウスを侮っていた事になるのだとすれば。


「メ、メリンダ・ギルフォード……!」


 かつて魔の時代を終わらせ、人の時代をもたらした一人の怪物の名前を思わず口にしていた。

 あの悪夢が再び蘇ったというのだろうか。

 だとすれば人間達は何と悪運が強いのだろう。

 邪神ティンダロス復活の目処がついた時代に、それを阻止する為の存在が出現するとは。

 これが人間達が好む「運命」あるいは「宿命」なのか。


(そんなはずはない!)


 確かに魔は全体的に不利な状況ではあるが、希望である魔王達はまだ各大陸に眠っているはずである。

 本当に魔が滅びる時代が来るというのならば、何故これまで滅ぼされない魔王が複数いたのか。


「ルーベンス様」


 気づけばゲーリックとメルゲンがこちらを見ていた。

 ルーベンスは上位者として彼らを統率する義務がある。


「恐れながら……ティンダロス様復活の儀式にとりかかるべきでは?」


 メルゲンが恐る恐る意見を述べたが、ルーベンスは頷かない。


「それは出来ん。復活の儀式を成功させる為には、魔王様が必要なのだ」


 二人はその言葉に驚いたものの、どこか納得がいった。

 何故戦力を強化してまで魔王を先に復活させようとしていたのか、ティンダロスが先ではいけなかった理由をようやく知ったのである。


「予定通りだ。ヴァユタの森へ行く」


「はっ」


 ルーベンスが従来通りの態度を見せた事で、ゲーリックは落ち着いたようであった。

 メルゲンは何を考えているのか表情が読めないが、ゲーリックの後についていく。

 実のところ後ろの二人や人間どもが思う程、ルーベンスは追い詰められていなかったりする。

 ティンダロスを復活させるのは確かに容易ではないが、復活が不可能となる条件もまた困難なのだ。

 そのあたりはさすがは神といったところだろうか。

 フォルネウス、レヴィト、エリゴール……さすがにアウラニースに匹敵する者はいないが、ザガンと同格の魔王は他の大陸に眠っているはずで、彼らが復活すればマリウスなど矮小な存在になる。


「いや、待て」


 ルーベンスは足を止める。

 己の慎重な部分が、万に一に備えろと警告を発してくるのに従ったのだ。

 

「念の為だ、メルゲン。お前はバルシャークへと向かえ。例の作戦の準備をしろ」


「は……」


 メルゲンは突然の命令変更に目を丸くしたが、すぐに頷き「テレポート」で移動した。

 実のところ魔人の頭数を揃え、魔王の封印地を割り出すだけでは数百年もかからない。

 かかってしまったのはより確実を期す為、人類国家の力を少しずつ削ぎ、有事の際に利用出来そうな組織を人類社会に発足させる工作もした為だ。

 多くの魔人は単にストレス発散代わりに暴れていると思っていたようだが。

 マリウスも「テレポート」は使えるはずだし、もしかしたら他の転移系魔法も使えるかもしれない。

 そうするとデカラビア復活を阻止される恐れはかなり高い。

 ならばもしもに備え、自分なしでも盛り返す方策を用意しておくべきだと気づいたのだ。

 いつものルーベンスであればもっと早く気づいていただろう。

 東の結果が平常心を奪っていたのである。

 

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『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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