エピローグ「魔人達」
夜の帳が落ち、星と月の明かりだけが頼りとなる頃、魔人達は他の生き物がいない場所で落ち合った。
「え? ザガン様死んだのか?」
呆気にとられたアルベルトに対してルーベンスは首肯した。
「今後はそのつもりで行動しよう」
フランクリン、ガスターク、パル、ゲーリックは神妙に頷いたが、レーベラは笑い出した。
アルベルトとメルゲンは特に反応を見せなかった。
「ひゃっはー! もう怖くねーっ! 人間殺し放題だぜっ!」
人間達を殺したくてうずうずしていたレーベラにとっては吉報だったのだ。
「そりゃそうだなぁ」
アルベルトが獰猛な笑みを浮かべながら賛同する。
ザガンという恐怖は魔人達にとっても同様で、大きな枷でもあったのだ。
つまりその死は人類には必ずしもよい事とは言えなかった。
「どうするよ、ルーベンスさん?」
アルベルトの発言は問いかけと言うより許可を求める意味合いが強かった。
ルーベンスはそれを察知しため息をついた。
力ずくで抑え込む事は可能だが、不満が溜まれば暴走を招きかねない。
「仕方あるまい。こちらとしてもそろそろ攻撃に出る必要がある」
「待ってました!」
ガスターク、アルベルト、レーベラは手を叩いたり口笛を吹いたりして喜びを露にした。
「人間どもは戦争を起こす気らしい。我々を放置して、だ」
ルーベンスのその一言で全魔人は怒気を発する。
「それはそれは……随分と人間達は私達の事を侮っているようで……」
フランクリンの口ぶりは常日頃と変わらず穏やかだった。
しかし側にいたレーベラが顔を真っ青にして距離を置いたほどに、凄まじい殺気がこもっていた。
「アルベルト、フランクリン、ガスターク、パル、レーベラはあの国に向かい、アウラニース様を探し出せ。その際、国が消えても構わん」
「よっしゃああああ」
レーベラは一際大きな声で叫ぶ。
単純な喜び以外に恐怖を払拭する試みもあった。
「ガスターク。お前の力で魔軍そのものを強化せよ」
「了解! ……俺も殺っていいんですよね?」
「うむ。但し、油断はするな。強化がお前の最優先任務だ」
「はいっ!」
ガスタークは嬉しそうに何度も首を縦に振った。
「パル、お前はまず人間どもの情報伝達網を潰せ」
「かしこまりました」
パルは感情を表に出さす命令を受け取った。
「フランクリンは好きにしろ」
「ふむ。臨機応変にという事ですかな」
フランクリンは愉快そうに笑った。
レーベラが後ずさりした、迫力はそのままに。
「そして現場で指揮を取るのはお前だ、アルベルト」
「もちろんだ。あんたらの分はどうする? 残しといてやろうか?」
あくまでも善意で気を回したアルベルトに苦笑に近いものを浮かべつつ、ルーベンスは首を横に振った。
「我々は別行動を取る。遠慮はいらん、全力を解放せよ。人間どもを叩きのめせ」
けしかけるような響きを含ませ、改めて許可を出す。
「下級魔人や解放されたてのザガン様を倒したくらいで図に乗る、哀れで愚かな人間に現実を突きつけてやれ」
『オオーッ!』
夜の闇に魔のもの達の獰猛な雄たけびが響き渡る。
これまで抑圧されてきた、邪悪なる暴力と欲望が放たれる事になった瞬間であった。




