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ネクストライフ  作者: 相野仁
四章「婚活戦争?(前)」

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十二話「むごい」

「アシュトンらか……」


 ベルンハルト三世は報告を受けて頭を抱えた。

 人の形をした選民思想と言うべき連中は頭痛の種となっているが、排除するのは難しい。

 国への愛は本物だし、反逆罪も適用出来ないし、おまけに能力水準も低くはないのだ。

 ホルディアの武力改革を倣うわけにはいかなかった。

 かと言って放置し続けるのも問題だろう。

 彼らのせいでマリウスと不仲になったら最悪である。

 国が仲よくしたい相手を敵視するだけでなく、排斥行為を実際にやり始めるとなるともうこれは利敵と見なすべきなのだ。

 なのだが、どうすれば穏便に排除出来るのかが悩みの種となった。

 これはベルンハルト三世の温和な性格が足かせとなっている。

 ホルディア王アステリアやセラエノ王デレクならば、証拠を揃えた上で武力に訴えるであろう。

 放置すればするほど事態が悪化する危険が高まるのだから。

 マリウスは直接的に来るなら返り討ちにする、と予告なのか警告なのか、恐らくは両方であろう言葉を発し、王として許可を出した。

 いくら名門大貴族とて、彼らの我がままで魔王や魔人に対抗出来る傑物を失うわけにはいかない。

 彼らを一気に処分すれば事後処理が実に面倒だろうと思い、げんなりとした気分になる。

 しかしどうやら決着を急ぐ必要が出てきたようだ。

 仮にも国の人間だし、と甘く考えていたのが悔やまれる。

 マリウスに愛想を尽かされては取り返しがつかなくなる。

 他国の間者が暗躍しているし、バーラ、キャサリンという堂々した存在もいる。

 彼女らがただ単に親善やお礼の為に来たなど、果たして何人が信じるだろうか。

 

(……まさかマリウスは信じて仲よくなったり?)


 一抹の不安が脳をよぎる。

 ロヴィーサをけしかける必要がありそうだった。

 エマをつけ何とかバーラに対抗してもらわねばならない。

 この際キャサリンの事は考慮から外した。

 まだ幼いし臣下も策謀の類が苦手な脳筋揃いである。

 モルト一人で何が出来るというのか。

 ベルンハルト三世はバーラという少女の事を完全に見誤っていたが、彼を責めるのは気の毒というものである。

 一個人の情報が少ない場合、同国人の気質から推測するのが常となっている。

 ランレオ人は国祖アドラーを尊敬し、魔法へ強い愛着を持つ。

 魔法教育が盛んだし、一般人でも十五歳以上であれば「魔術士」や「治癒士」の資格保有者、ないし資格保有者と同等の力量を持つ者は過半数を超える。

 それ故に魔法が苦手な相手を侮蔑し、軽んじる傾向が強い。

 だからバーラがキャサリンと手を組もうとするとは思いつきさえしなかった。

 もっともこれはマリウスが報告している。

 ベルンハルト三世が誤ったのは「バーラは単にボルトナーを利用しているだけ」と結論を下した事だ。

 バーラはランレオ人として異質だと何度も思ってきたというのに、これ以上はないと勝手に決めてしまったのである。

 アシュトンらの方に気を取られていたという事もある。

 それに諜報網の整備もだ。

 ゾフィと手下がやってくれたらしいが、彼女らはあくまでもマリウスの召喚獣にすぎない。

 いっそ王宮内は彼女らに任せて外の方を急ごうかと思いもした。  

 ……人間の思考力には限界があるという事なのかもしれない。

 







 キャサリンはマリウス、バーラ、ロヴィーサと一緒に護身のお勉強をする事になった。

 一同は動きやすいようにズボンをはいて集まった。

 マリウスだけはいつも通りローブを着ていたが、誰も咎めなかった。


「護身術ならば、お勉強しました」


 キャサリンは自分がついていけそうな内容なのでニコニコしている。

 もちろん自分に配慮した結果だという事は分かっているが、この場合はさりげないタイミングで礼を言うのがマナーとされている。

 ロヴィーサは「王女がみだりに強さを持つ必要はない」という父王の意向でこれまで魔法や武術を学ぶ事はなかった。

 だからこそ密かに楽しみにしていたりする。

 暴漢に襲われる事を想定する、という事でフィラート、ランレオの騎士が数人ずつ駆り出された。


「ボルトナー流ってどのようなものなのでしょう?」


 バーラのこの一言でまずはキャサリンが実演する事になった。

 張り切った彼女が臣下達に目で合図すると、何故だか顔を強張らせて視線を交わし合った。

 譲り合いの後、一人がやっと前に出てくるが顔は青い。

 そんなボルトナー人達を他国人達は怪訝そうに見ていた。

 十二歳の護身術などたかが知れていそうなものなのに、どうして嫌がるような素振りを見せるのだろうか。

 彼らの疑問が解消されるのに大して時間はかからなかった。

 前に出た騎士が「参ります」と断ると、キャサリンに掴みかかる。

 キャサリンはするりとそれを避けつつ、膝を股間に叩き込んだ。


「!!!!!」

 

 騎士は苦悶の声を上げつつ両膝をつく。

 そこを更に股間を狙って踏みつけようとしたところで、マリウスが大急ぎて止めた。


「それまで!」


 マリウスに肩を掴まれて制止されたキャサリンは、一瞬何が起こったのか理解出来ずにいたが、すぐに頬を赤らめて足を下ろした。

 騎士はウンウンと唸っている。

 どうやらまともに食らってしまったらしい。

 十二歳の少女と言えど股間に膝蹴りを入れられては……それも掴みかかったところをカウンターで、である。

 おまけに追撃も股間だとか。


(む、惨すぎる)


 マリウスは冷や汗をかいた。

 同じ男として、暴漢役を務めた騎士には同情せずにはいられない。

 ボルトナーの連中は何と恐ろしい事を少女に教え込んだのだろう。

 キャサリンはと言うと、何故皆が微妙な顔をして静まり返ったのか分からず、きょとんとしている。

 誰かがフォローする必要があった。


「凄まじい、ですね。さすがボルトナー流と言うか」


 最初に声を発したのはバーラだったが、やや精彩を欠いていた。

 

「見事ですね」


「実践的ですね」


 口々に同調者が出る。

 賞賛以外の成分が多い事に気づくにはキャサリンは幼かった。


「た、大した事ないです。父上、もっと凄いです」


 頬を染め照れながら俯く姿は愛らしかったが、やっぱり脳筋のようだ。


「次はランレオ流でしょうか」


 バーラは微妙な空気を蹴散らすように笑顔を振りまく。

 一同はそれに乗っかって何度も首を縦に振った。


「それではマリウス様、お相手をお願いしてよろしいでしょうか。失礼ながら、私の魔法を防ぎきれる方は他にいないでしょうから」


 これはもっともな事だった。

 マリウスのせいで霞んでいるが、バーラも人類最強クラスという称号が当てはまる高位の魔法使いである。

 事故の発生を防止するにはマリウスが最適だろう。

 もっともバーラの本音は、「マリウス様を誘えたわ!」であったが。


「了解しました」


 マリウスも二つ返事で引き受ける。

 バーラという少女の強さは魔演祭で知ったつもりだし、魔法使いというものは実力差が大きいとどうしても事故が起こると、そろそろ気づき始めてもいた。

 

「基本的には魔法も訓練すれば脊髄反射で使えるようになります」


 バーラは説明をしながらマリウスに背を向け歩き始め、突然振り向いて「ファイア」を無詠唱で放ってきた。

 マリウスは「ディスペル」で無効化する。

 今まとっているのは「煉獄の衣」だから、バーラのファイアくらいならば自動的に無力化出来るが、装備品に注目が集まるのは避けたかった。


「えっと、無詠唱って高等技術だったように思うのですが?」


 ロヴィーサが困惑したように問いを発する。

 バーラも無詠唱、マリウスも無詠唱と高等技術の応酬をされたところで他の者はついていけないのだから無理もない。

 この場で無詠唱が出来るはの他にエマくらいである。


「きちんと努力すれば誰にでも会得出来る技術です。護身目的なのですから、得意魔法一つか二つに絞って努力すれば可能でしょう。一瞬の反応が勝負の分かれ目ですから。魔法の素養がない人には無理なのも事実ですが」


 キャサリンの方を見て言う。

 ボルトナー人は魔法の素養に恵まれない者が大多数なのだ。


「ただ、魔法が全く使えない人は希少だと、ランレオでは言われています。これはランレオ人に限った話ではないので、キャサリン様も試してみる価値はあると思いますよ」


 優しく言われたキャサリンはやる気を出す。

 彼女がたとえ一つでも魔法を使えるようになれば、ボルトナーにとっては大きな進歩だ。


「頑張ります!」


 むん、と可愛らしく握り拳を作った。


「では早速。まずイメージをしてみましょうか」


 まずは頭の中で各属性を思い浮かべ、それに魔力を変換する。

 魔力の変化の現れ方で適性がある程度分かるとか。

 火、水、風、土、氷、光と身近な属性を浮かべた方が初心者はやりやすい。

 雷や闇は難しいし、転移系などの特殊系統は複雑すぎるので割愛する。


「雷や闇、特殊系統のみしか使えない人もいるにはいますが……」


 ターリアント大陸の全人類で一人いるかいないか程度の確率だとバーラは説明した。

 

「まずはやってみましょうか」


 ロヴィーサが音頭を取って実践が始まった。

 と言っても、バーラとエマは既に使えるので実際にやるのはロヴィーサとキャサリンの二人だ。

 ロヴィーサにとっては水、キャサリンにとっては風が最も親しみを感じるものだ。

 そういったものに適性があるとは限らないが、魔法が発現する手助けとなる可能性は極めて高い。

 要するに慣れるまではイメージがしやすいものがいいという事だ。 


(風、風……)


 草原を吹き抜ける爽やかな風、馬を走らせると集まってくるヒンヤリとした風。

 キャサリンの中では風とはそういったもので、必死にイメージを続けているが一向に兆候が表れない。

 一方のロヴィーサは手や顔を洗う水、飲み物としての水をイメージしていると、少しずつではあったが魔力がさざなみのように揺れ始めた。

 やはりと言うべきか、魔法の素養ではキャサリンよりロヴィーサの方が優れているようだった。

 それがキャサリンを落ち込ませる。

 見かねてマリウスが口を挟んだ。


「多少手荒い方法でよければお教えしますよ」


 キャサリンはガバッと顔を上げた。


「ほ、本当によろしいのでしょうか?」


「はい。荒っぽい上に成功するとは限りませんが」


「ぜ、ぜひお願いいたします」


 キャサリンとしては願ってもない展開だった。

 一方のバーラも目を光らせると素早く発言した。


「ではロヴィーサ様は私が担当しましょう」


 そしてキャサリンの方に意味ありげな一瞥をくれる。

 エマやロヴィーサが反応する暇もなく、キャサリン・マリウス組とロヴィーサ・エマ・バーラ組という構図になってしまった。

 キャサリンも何となくその事を察し、バーラがくれた機会を活かそうと決意をする。

 そしてバーラとも仲よくなり、ロヴィーサにはごめんなさいをするのだ。

 バーラはまずキャサリンが仲よくなってもらい、なおかつロヴィーサ・エマとマリウスを分断するという目的が達成出来たので満足である。

 後でキャサリンからきっちり見返りを取り立てる腹積もりだった。

 上級習熟者二人が初心者二人にそれぞれにつく、という形を取ったので文句を言えるはずもない。

 ロヴィーサ、エマは完全に出遅れた形となった。

 エマは内心ため息をつき、国王に謝罪をする。


(バーラ王女は狡猾で抜け目がないようです……)


 一国の王女がそんな性格でいいのかという思いがなくもなかったが、ホルディアの女王は更に酷い事を思い出してしまった。

 もしかしたら自分と二人がかりでも対抗出来ないかもしれない。

 エマは危機感を募らせる。

 接点が最も多いのにランレオ、ボルトナーに遅れを取って三番手以下となると、貴婦人達の嘲笑の的になってしまうだろう。


(ロヴィーサ様にそんな目を遭わせるわけにいかない……)


 知り合って十年以上、正式に仕えるようになって約六年が経つ、エマにとって大切な主人である。

 今だって本当は悔しいだろうに、表面上は全く感情の揺らぎを見せない。

 可愛げないのにも限度というものがあるが、同じく可愛げのなさという点ではエマも負けていないし、もっとも彼女の方は自覚があった。

 いずれにせよこのままでは後手に回り続ける可能性は高い。

 非常に不本意ではあったが、奥の手を出そうと思った。

 ……ヘルカの知恵を借りるという色恋方面での最終手段である。

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『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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