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ネクストライフ  作者: 相野仁
三章「魔の足音」

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エピローグ「足音」

 魔人ゲーリックはミミックが進化して誕生した存在である。

 ミミックの特徴と言えば何と言っても擬態スキルだ。

 魔人となった事でスキルも強化され、擬態出来る存在の数は軽く万を超えるし、同一種族の別個体も数えるならば億を超えるだろう。

 戦闘力は魔人全体の中で底辺に位置するが、そのスキルを買われて潜入や情報収集などを一任されていた。

 そして今、入手した情報を集った仲間達に報告していた。


「……以上がマリウスに関する事となります。一刻も早く、魔王様にお目覚めいただくべきかと存じます」


「そうか? また心配性って病気が発病したんじゃないのか?」


 ゲーリックの情報と進言に懐疑的なのは魔人アルベルトだ。

 上位の魔人であり、グリフォン出身の武闘派である。


「ザムエル、魔人の面汚しめが」


 そうはき捨てたのは魔人センドリック。


「肝心のザムエルのやられ方が分からないのは落ち度だと思うよ、ゲーリック」


 否定こそしなかったものの、責める素振りを隠さないのは下位魔人パル。


「同感ですね。ザムエルのような雑魚、全部同時に攻撃すれば秒殺出来るのは自明の理ですが、どのような広範囲攻撃を用いたのか、それこそが肝要でした」


 魔人フランクリンは責める気配もなく単に事実を口にしただけという態度。


「やれやれ、脳筋どもは想像力がないから嫌になる。そうではありませんか、ルーベンス様?」


 同輩達を揶揄しつつ、この場の頂点であるルーベンスへの追従を行ったのは下位魔人ガスターク。


「うむ」


 ガスタークの無礼な言葉にコメカミをひくつかせた魔人達も、ルーベンスが賛意を示した事で何も言えなくなってしまった。


「人に化けていたとは言え、ゲーリックを含め数万の者を転送し、その後にザムエルを破ったのであれば、たかが人間と侮る事は出来ぬ」


「確かに魔力は大したものだ。クラウス=アドラーと同程度はあると言う事になるのかな」


 ルパートが冷静に分析をする。


「は、ぶち殺せば分かる事だぜ」


 乱暴にはき捨てたのは魔人レーベラ。

 それにアルベルトが乗っかった。


「大体、ゲーリックは人間に化けて行動してたんだろ? 飛ばされた先から戻るのに時間かかったんじゃねーの?」


 ゲーリックは躊躇いがちに答えた。


「はい。三十分はかかったかと」


「あああ?」


 魔人レーベラが怒気を孕んだ声を上げた。


「三十分ありゃ、ザムエル殺す魔力くらい回復出来るっつーの。お前馬鹿なの? カスなの? ゴミなの? 死ぬの?」


「黙れレーベラ」


 ルーベンスの一言でレーベラは罵詈雑言を放っていた口を閉ざした。

 ゲーリックの報告に多分の恣意的解釈が含まれていたのは事実だが、丸っきり無視するわけにもいかない。 


「どうします、ルーベンス様。ザムエルの敵討ちしてやりますか?」


 質問を発したのは魔人メルゲン。


「いや。魔王様に目覚めていただく事を優先する。我らの悲願を達成すれば、自然とザムエルの仇をとった事になるだろう」


 ルーベンスの決断は絶対で、アルベルト達も異を唱えなかった。


「ただし、我らの邪魔してくる事は充分に考えられる。注意を引く者は必要だろうな」


「じゃあ俺がいくぜ。ぶち殺しちまうけどな」


 アルベルトがそう言うと、レーベラ、フランクリン、といった者達も一斉に申し出る。

 主張合戦が終わってからルーベンスは口を開いた。


「ここはゾフィに行ってもらおうと思う」


 一言も発さなかった紅一点、魔人ゾフィに一同の視線が集中する。


「ゾフィ、任せていいか?」


「構いませんわ」


 ゾフィは魔人達すら骨抜きになりそうな蠱惑的な笑顔を浮かべた。


「注意を引けとのご命令でしたが、私のシモベに変えてしまってもいいのでしょう?」


 挑戦的な目と言葉にルーベンスは頼もしげに頷いた。


「それもよかろう。マリウスほどの者なら我らの末席に加えてやってもよい。前例もある事だしな」


「御意」


 ゾフィはルーベンスに一礼をし、部下を引き連れて外へと出て行った。


「ところでよ、ルーベンスさん。お目覚めいただくのはどなたからにする? やっぱりザガン様か?」


 アルベルトの問いかけにルーベンスは頷いた。


「うむ。今後の事を考えるのなら、まずザガン様にお目覚めいただくのが、一番だろうな」


 そうした方が彼らは動きやすくなる。


「という事は次の目標はフィラートだな」


「うむ。全員で行くと見つかって戦闘になるかもしれんな。少数で行くか」


「ええ? 戦闘くらい楽勝でしょー」


 不満げな声を上げたレーベラをアルベルトが睨みつけた。


「楽勝っつってもフィラートが消えちまうだろうが。ザガン様を封印した奴が誰か忘れたのか?」


「……フィラートの先祖でしたっけ? 後、ランレオって国を作った奴」


「ザガン様にすりゃ、真っ先に血祭りに上げたい奴らだろうよ。そんな奴ら、俺らが勝手に消しちまったら……マジ切れするぜ?」


 シン、と静まり返った。

 ルーベンスが口を開く。


「ザガン様を激怒させたばかりに大陸が一つ、更地に変えられた事を知らぬ者はいまい?」


「……あれはえげつなかったですな」


 フランクリンがしみじみとつぶやきアルベルトがレーベラに更に噛み付いた。


「テメー、ザガン様の怒りを責任とって鎮めてくれるのか?」


「む、無理です」


 レーベラは顔を青くして首を高速で横に振った。


「じゃあ黙ってろ」


 皆で黙った。


「ルパート、そしてセンドリック。ザガン様と面識のあるお前達に任せたい」


「御意」


「かしこまりました」


 こうして新しい刺客は放たれた。

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