昔話
魔力というものが存在しない古代。
この世界には三大覇者がいた。
陸上の覇者、タイラント。
圧倒的な体格、パワー、タフネスを武器とする。
逃げ足の速い被捕食生物たちを狩るため、敏捷性も得たという天性の捕食者。
大海の覇者、クラーケンギガース。
大型クジラをも簡単に足で拘束し、そのまま砕いてむさぼってしまう。
獰猛な鮫や狡猾なシャチだって生息域に近づこうとしない。
まさに海の王者だ。
大空の覇者、グリフォン。
大型猛禽類の飛行能力、獅子の体格とパワーを併せ持つ。
視力にも優れたこの種族は、陸上にいる大型の象や小型のタイラントすら捕食対象とする。
タイラントだって、積極的には狙わないほどの強豪種。
また、グリフォンだってタイラントの中型以上は狙わない。
返り討ちにされる危険性を、本能で理解しているからだ。
彼らこそが頂点を争う三大覇者。
他の種族は誰も争おうとはせず、彼らに見つからないことを生存戦略に据えていた。
ところが、勢力図はやがて変わる。
魔力がこの世界に発生し、魔物へと変異する個体が続出した。
素の能力では三大覇者に敵わなくても、魔力をまとって身体能力を大きく向上させる。
また魔法を使い、石化能力を使い、からめ手で圧倒する。
これらによって三大覇者だった種族たちは、頂点の椅子から転がり落ちることになってしまう。
陸ではバジリスク、空ではドラゴン、海ではシーサーペント。
多種多彩な能力を得た、多種多彩な魔物たちが生存競争で勝っていく。
しかしながら、やはりというか何事にも例外というものは存在する。
襲い来る魔物たちを返り討ちにし続け、やがて生息圏からすべての敵対者を駆逐してしまった規格外のタイラント──アウラニース。
襲ってきた魔物たちを逆に捕食しているうちに、魔法の力を目覚めて海の覇者としての地位を守ることになった最強のクラーケン──アイリス。
新しい大空の覇者たらんとする生物、ドラゴンを圧倒するほど強大な力を手に入れることになった百戦練磨のグリフォン──アシュタロト。
そして無数の戦い、無数の屍と流血、怨念から生まれ落ちた──ベネトナシュ。
彼らの前では人は弱く、ネズミやリスと変わらない存在だった。
支配され、捕獲され、玩具とされる。
残酷な状況が続き、どんどん数を減らしていき、一部隠れ住む者たちがいるだけとなってしまった。
人間たちの絶望は長かったが、それでもやがて夜は明ける。
メリンダ・ギルフォードという稀代の英雄を得た人類は、反攻に転じて安全な生存圏をついに手にしたのだ。




