表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
98/477

カルネラ港奪還作戦 その三

 魔人による魔人の虐殺。それを止めるために走る私に気付いたのは、最も楽しそうに剣を振り下ろしていた鰐の魔人だった。私に気が付いた奴は目を大きく見開いてから、歪んだ笑みを私に向ける。私に抱いていた憎悪とそれを晴らせるという狂喜がない交ぜになった笑みは醜悪としか言いようがなかった。


 向こうは遠慮も容赦も一切なく、全力で刃を振るうことだろう。それをわかった上で、私はあえて剣を抜かなかった。抜かずとも勝てる自信があるし、何よりも鎮圧する気はあっても殺す気はなかったからだ。


 殺さない理由は二つある。一つ目は私が無益な殺生を好まないから。そして二つ目は殺してしまった場合にカレルヴォが何を言い出すかわからないからだ。つまるところ私が優しいとか慈悲深いとかではなく、目の前の魔人達を生かして捕まえる労力よりもカレルヴォから何かの嫌がらせを受けることへの心労の方が上回るからである。


「こんなに早く復讐出来るとは思わなかったぜぇ!ぶっ殺してやる!戦場で死体が一つ増えたって、誰も気にしねぇからなぁ!」


 鰐の魔人は片方の剣の切っ先を向け、もう片方の剣を肩に担ぎつつ大きな声でそんなことを吠えている。それを聞いた私は、意外と頭は悪くない……と言うよりも悪知恵が働くのだなと思った。死体、それも魔人の死体がいくつも転がっている状況で、その中に私の死体が混ざったとしても気にされ難いからだ。


 しかし、同時にその考えは浅はかなものだとも考えている。と言うのも、共和国軍の砲撃や銃撃で殺された死体と、魔人達の爪牙や刃物で殺された死体。その傷跡は全く異なり、知っている者が見れば違いは明らかであるからだ。


 それにこれだけ大きな声で喚いているのなら、ミカを始めとする耳の良い魔人達どころか普通のヒト種であるマルケルスにまで聞こえていてもおかしくない。万が一にも私が死んだ時、その犯人は明白となるだろう。


「フハッ!活きの良い獲物っ!俺に寄越せぇぇっ!」


 私を待ち構える鰐の魔人の横をすり抜けるようにして一人の魔人が飛び出した。狼か何かと合成されたと思われるその魔人は、目を血走らせつつ口からはダラダラと唾液を垂れ流してこちらに突撃しようとする。まさに血に餓えた獣であった。


 だが、その歩みはすぐに止まることになる。その魔人の背中を後ろから飛んできた槍に貫かれたのである。魔人は何が起きているのかわからぬまま、口から大量の血反吐を吐きつつその場で倒れてしまった。


「ソイツハ、俺ノ獲物ダ。誰ニモ渡サン」


 槍を投げたのはラピを怖がらせた蛭の魔人だった。こいつも私に恨みを抱いていたらしい。しかし、だからと言って抜け駆けしようとした味方を殺すとはな。やはり、こいつらとは相容れない。


「あ゛あ゛?あのクソ野郎を殺すのは俺だ!気味が悪い虫ケラ野郎は引っ込んでろ!」

「……虫ケラト、マタ言ッタナ?先ニ貴様カラ殺シテヤロウ!」


 ……勝手に殺し合いをし始めたぞ。どうなっているんだ、こいつらは?カレルヴォはこいつらを統率するつもりがないのか?全くもって意味がわからない。とにかく、今の私がやるべきことは目の前で行われている全ての戦闘を鎮圧することだ。


 力任せに振るわれる二本の剣と同じく力任せに振るわれる槍が激突して火花を散らす。どちらも荒々しくはあれど、大振りで雑でしかない。やはり武器を扱う技量はないに等しいようだ。


 私はそんな二人の間に飛び込むと、鰐の魔人の二本の剣を両手で掴みつつ、蛭の魔人の槍に尻尾を絡ませる。二人の得物を同時に抑え込んだのだ。


「てめグエェッ!?」


 私はまずは目の前の鰐の魔人を鎮圧することにした。下段蹴りによってその膝を蹴り折ると、掴みとった剣を引き寄せる。鰐の魔人は脚が折れていることもあって踏ん張ることが出来ず、そのまま彼我の頭が近付いて……私はその眉間に頭突きを叩き込んだ。


 鰐の魔人の頭骨にヒビが入ったのか、ミシリと言う音が聞こえてくる。それで気絶こそしなかったものの、鰐の魔人は脳が揺れたことで膝から崩れ落ちた。


「ながっ!?離ぜじごおぉぉぉぉ……!」


 崩れ落ちた鰐の魔人を、私は霊術で作り出した砂で拘束していく。手足を動かして暴れているが、私の霊術を振りほどくほどの力はない。ただ、喚き散らされても厄介なので、鰐の長い鼻面にも砂を巻き付けて声を出せないようにしておいた。


 これでもう動けない。そこで私は剣から手を放し、後ろに注意を向ける。するとそこでは尻尾を巻き付けた槍を引き抜くことに固執する蛭の魔人がいた。どうせ槍の扱いなんてわかっていないのだから、さっさと捨てて素手で来れば良いのに。私にとってはやり易いので問題はないが。


「グハアッ!」


 私は振り向き様に裏拳を蛭の魔人の顔面を殴り付ける。拳が当たった瞬間に感じたヌルヌルした感触は、川の水で濡れていたのではなく表面にある粘液のせいだろう。正直に言って気持ちの良いものではないな。


 殴られた蛭の魔人は、よろめきながら槍から手を放してしまった。私は尻尾で槍を締め付けてへし折っておく。これでもう槍を使えないだろう。武器を失った蛭の魔人だが、意外なことに気絶するどころか両手を開いて掴み掛かって来た。


「俺ニ打撃ハ効カン!」


 ああ、確かに殴ったときの手応えは妙な感じがした。粘液の下にある頭が、何と言うかブヨブヨしていたのである。前に鰐の魔人を鈍器にして殴った時には効いていたので、効かないのではなく効きにくいのだろう。何にせよ、それなら打撃以外の方法で無力化するだけだが。


 私は蛭の魔人の手を前腕の外骨格で受け止める。すると醜い顔をニヤリと歪め、私の前腕を強く握り締めた。すると、奴の指先と掌にある何かによって外骨格を削ろうとし始めた。


「カッ、硬イ!?何テ硬サダバッ!?」


 どうやら蛭の魔人の指先と掌には小さな口のようになっているらしく、それを使って何かをしようとしたようだ。しかし、私の外骨格に穴を開けることなど出来る訳がない。驚愕している蛭の魔人の腹に、足の指を槍のように固めてから突き刺してやった。


 鋭い指先は粘液と弾力のある肌を破ってしまったものの、手加減が効いたのか爪先が刺さっただけですんだ。本気だったら足が貫通していたかもしれない。打撃には強くとも、斬撃や刺突にはそこまで強くないようだ。


 蛭の魔人は今度こそ悶絶しながら崩れ落ち、口からは汚ならしい色の液体を吐いている。今が好機、と言うことでこいつも砂で縛り上げて拘束した。


「死ね!死ね!死のわああああっ!?」

「邪魔すんなよぉぉぉ!?」


 私が目的だった二人を捕らえた後は簡単だった。ただ無軌道に殺したいと思っているだけの連中なので、私を放っておいて弱っている魔人を殺そうとしているからだ。背後から狙い放題であり、あっという間に拘束に成功した。


 砂の球から頭だけを出している状態にした魔人達を尻目に、まだ生きて苦しんでいる魔人達をどうするかを考えるべきだ。私が思案していると、南の方から六つの気配が空を飛びながら近付いてくる。間違いない。ミカ達だ。


「ご無事で?何が起きていたのかは、私の聴覚で全て聞き取っておりました。マルケルス様も既にご存知です」


 そうだったのか。ならば話は早い。ミカ達には今にも死にそうな重傷者を運んでもらおう。私が剣で倒れている重傷者を指すと、ミカは承知致しましたと言って息のある二人の魔人を小脇に挟んで空を舞った。


 私がファル達残りの五人に視線を向けると、彼女らは慌ててミカと同じように重傷者を運び始めた。これで生と死の狭間にいるような重傷者はもういないが、身動きがとれない負傷者はまだまだいる。私は霊術で大きな手を作り出すと、負傷者達をなるべく優しく包み込んでやった。


「うぅ……」

「痛ぇよぉ……」


 負傷者は自分の痛みに耐えるばかりで、私に噛み付く余裕はない。これは好都合である。私は何かを言われる前に南に向かって走り始めた。


 マルケルス達のいる場所に戻った時、私は思わず息を飲んだ。何と帝国側の川岸から建設中だった橋が、もう川の半ばを越えているのだ。つまり、無人偵察機と戦い、自走砲を追い払い、魔人達を鎮圧している間にもう橋の建設が半分も終わったのである。帝国の国力は大陸一だと聞いていたが、その力を改めて思い知った気分だった。


「戻ったか。負傷者はここに並べてくれ。で、そっちの砂の球が例の暴れん坊達か?」

「……」

「そうか。なら、そのまま拘束しておいてくれ。ここで暴れられたら……殺すしかないからな」


 暴れん坊と言うには狂暴過ぎる連中だが、マルケルスの言いたいことはわかっているので首肯した。それにここで暴れるのなら殺すしかないと言うのには賛成だ。この頭のおかしな連中を解放して、仲間が手傷を負うようなことになったら馬鹿馬鹿しいだろう。


 その後、マルケルスの命令によってミカと飛べる魔人達は空中で、私とミカの薫陶を受けた魔人達は地上で敵が来ないかどうかを警戒している。一度撤退したからと言って、もう一度攻めて来ないとは限らないからだ。


 残りの者達の内、治療の霊術が使える者は負傷者の手当てを行い、残りは私が拘束した魔人達の監視をしていた。拘束されている者達は怪我をほとんどしておらず、無駄に元気なので汚い言葉を喚きながら暴れているのだ。霊術を破ることが出来るとは思えないが、警戒しておいて損はない。ティガル達はうんざりしたような顔付きになりながら、連中を監視していた。


 結局、橋が完成するまでの間に北方から何かが近付いてくる気配は一つたりとも存在しなかった。完成するや否や、帝国は迅速に渡河を開始する。その先頭集団が通過する邪魔にならないように端によっておいた。


 しかし先頭集団にいる最も偉そうな帝国兵は、我々の前で一度停止した。それを見てマルケルス達は整列して敬礼する。どうやらマルケルスよりも立場が上の帝国兵のようだ。


「オーロクス大隊副隊長。任務、ご苦労だった。部下を連れて通常任務に戻ると良い」

「はっ!師団長かっ……」

「お前達!何をしている!」


 労いの言葉に感謝しようとしたマルケルスを遮るように大声を張り上げる者がいる。その声には魔人部隊の全員が聞き覚えがあった。神経質そうで耳障りなこの声の主……それはカレルヴォであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 勝手に殺し合わせておいたほうが面倒が減った気もするなあ……そうもいかないんだろうけど そしてまた面倒の種が来ましたねー さてさて、カレルヴォはどんな言い訳を並べ立てますやら
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ