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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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カルネラ港奪還作戦 その一

 カルネラ港奪還作戦における我々の役割についてマルケルスから通達があってから、一週間が経過した。今日、我々は久々に監獄の外の空気を吸うことになる。すなわち、奪還作戦が開始されるのだ。


 投獄された日以来、初めて二階に上がった看守に連れられて我々は監獄の外に出る。監獄の外は穏やかな春の陽射しが降り注いでおり、ポカポカと暖かい。何もこんな昼寝日和のような時期に戦争をすることはないのに、と私は少しもったいないような気分になった。


「集まったな。では、少ししたら出発するぞ……別れは今のうちにすませておけ」


 監獄の外で待っていたのは完全武装のマルケルスだった。彼は出発までまだ時間があるとして、ほんの少しだけ時間をとった。子供達と別れを惜しむ時間をくれたのだ。


 我々が戦争に出向いている間、レオやケルフのような子供達は最初のように厩舎の横で天幕を張ってそこで過ごすことになっている。そして厩舎の掃除などの雑事をこなすのだ。


 レオは泣きそうな顔でティガルとシャルに抱き付いている。泣きそうになりつつも涙を流していないのは戦士の息子としての矜持だろうか。ケルフも父親の胸に顔を埋めている。母親は彼が産まれてすぐに亡くなっているそうだ。他の子供達も両親共に健在の者は少なく、残された片親に抱きついていた。


「あにき、無事で帰ってきてね」


 そして両親共に亡くなっているラピは、私にピッタリと抱き付いていた。ラピが私に懐いていたのは私に父性を見出だしたからだろう、とミカは分析していた。私に父性などないと思うのだが……甘えられても嫌な訳でもないし、好きにさせておこう。


 私は膝にしがみつくラピを抱き上げると、ポンポンと頭を撫でてやる。ラピはくすぐったそうに身体を捻りながら、はにかむように、しかしどこか悲しそうに笑っていた。


 しかし、マルケルスが作ってくれた短い時間は無情にも過ぎてしまう。私を含めた大人達は子供達と離れると、従軍するための準備を整える。厩舎で眠っていたシユウとアパオを叩き起こし、裏にあった我々の荷馬車に繋ぎ、荷台にあった武装に身を包む。そして不安そうな子供達を残して砦の外へと出ていった。


「ブモォ~」

「ヒヒィ~ン」


 久々に厩舎から出られたことと我々に会えたことから、シユウとアパオは上機嫌で歌っている。これから戦いに行くことを理解していないらしい。呑気なものだ。


 シユウとアパオという獣形態が基本の魔人がいることもあり、我々は輜重車隊の護衛として後方を歩いている。二頭を宥められるのは我々だけであるからだ。カルネラ港に到着すれば最前線で戦うことになるが、今だけは平和に歩かせてもらうとするか。


 指揮官であるマルケルス達は馬に乗り、それに従って我々は街道を徒歩で進む。そうして我々と交代して人工林の監視任務に従事していた者達と合流し、帝国軍は渡河作業を開始する。そこで我々には最初の仕事が与えられることになった。


「これから霊術師達が早急に橋を架ける。だが、作業中に攻撃を受ける可能性は高い。そこで我々は飛行していち早く向こう岸に渡り、警戒に当たれとのことだ。もしも敵が現れたら撃退せよとも言われている。行くぞ!」


 上官から命じられたマルケルスが任務について我々に伝えると、すぐに行動を開始した。まず最初に飛行可能な六人の魔人によって運ばれたのは、現地で指揮を執るマルケルスと最も戦力が高い私、ルガル隊とカダハ隊のリーダーだったティガルとザルド、そして二人の右腕的な存在であるシャルとソフィーの六人だった。


 六人の魔人によって空輸された一人の帝国兵と五人の魔人は、かつて橋が架かっていた占領地側の川岸へと飛び立った。人工林から攻撃を受けるかと思っていたが、意外なことに何事もなく着地することに成功した。


「ミカ達には悪いが、この調子でピストン輸送してくれるか?人数の内訳は私の部下を一人と魔人達を五人で頼む」

「かしこまりました」


 第一陣として川の上を飛び越えて運ばれた後、マルケルスはミカに指示をする。ミカ達は指示を聞いた後、再び空を飛んで帝国側の岸へと飛び立つ。私達はその背中を見送った。


 ミカに運ばれた私は、着地した後にいつでも戦えるように二本の剣の柄に手を起きながら北方に向かって意識を飛ばす。ただし、それよりも気になるのはグッタリとしてその場で四つん這いになっていたザルドについてだった。


「うぷっ……まっ、まだ揺れている気がする……!」

「あぁっ!ザルド様……おいたわしい……!」


 ザルドは空中での移動で酔ってしまったらしい。四つん這いになったまま、青い顔で口を押さえている。ソフィーは慌てたように彼の背中を擦っており、そんな二人をティガルとシャルは苦笑しながら眺めていた。


 マルケルスも心配はしているようだが、それよりも北を警戒する気持ちが強いらしい。安心してくれ。近くに敵の気配はない。遠くには共和国軍の気配がするし、近付いているのは確かだ。しかし、すぐ近くには何もな……っ!?


ガササッ!


 何もないと思っていた矢先、右の人工林から物音が聞こえてきた。私はその方向に集中すると、そこから現れたのは我々を追跡してきた金属製の円盤……アスミが無人偵察機と呼んだ兵器であった。生物の気配にばかり注意していたから見過ごしてしまうとは、私の間抜けめ!


 形状も、下の部分に銃が着いているのも以前と同じである。つまりあそこから銃弾……例の鉄の礫が放たれるのは確実であり、こちらにはまだ戦う準備が整っていない者もいる。撃たせる訳にはいかない。私は先手必勝とばかりに踏み込むと、右手で剣を抜き放ちつつ無人偵察機を両断した。


 どうやって浮かんでいたのか不明な無人偵察機は、ガシャンとけたたましい音を立てながら地面に落ちてしまう。敵が来たと知った五人は慌てて武器を構えた。


「やれ、シャル!」

「任せて!」


 最初の一機を叩き落としたことが呼び水となったのか、人工林からは次々と無人偵察機が飛び出して来た。そして問答無用で銃を撃ち始める。ティガルは大剣を盾のように構えてシャルを庇い、庇われた彼女は霊術で風の刃と光矢を作り出して放った。


 シャルの霊術の威力は高く、無人偵察機は一瞬で十機以上も破壊された。バラバラになった無人偵察機の残骸が地面に散らばる。そして無人偵察機の群れに飛び込んだザルドとソフィーは、その残骸を踏み締めながら剣を振るっていた。


「本調子じゃ、ないのに、敵が、多いな!」

「背中はお任せを!」


 ザルドは顔を青くしたまま戦っているものの、長剣を振る動きはいつも通りの鋭さだ。しかもその背後を守るソフィーは巧みな細剣捌きによって彼の死角から来る無人偵察機を貫き続けていた。


 ただ、誰よりも安定感のある戦いを見せていたのはマルケルスだった。彼は帝国兵の鎧で身を固め、長方形の盾と肉厚な片手剣という一般的な帝国兵の武器を装備している。盾で礫を防ぎつつ、片手剣で叩き斬る。鉄壁にして堅実な戦いぶりだった。


「フンッ!ああ、もう!どれだけいるんだ!鬱陶し過ぎるぞ!?」

「落ち着いて下さい、副隊長」


 苛立ちを力に変えて無人偵察機を盾で殴ったマルケルスに話し掛けたのは、第二陣としてミカ達に運ばれてきたデキウスだった。空中で既に剣を抜いていた彼は、着地するや否やマルケルスの背中を守るように立ち回り始めた。


 デキウスもマルケルスに匹敵する腕前であり、同じように堅実な戦いぶりを見せている。二人を守る必要は全くないだろう。無論、命令されれば飛び込むが。


「見てろよ、トゥル!俺の槍の腕前をよ!」


 デキウスと同じタイミングでやって来たリナルドは、愛用の槍をグルグルと回してから連続突きをしてみせる。その速度は私でも両手の剣だけでは防ぐのがやっとのことだろう。


 それに彼の突きは速いだけでなく、非常に正確無比であった。どの無人偵察機もその中央を貫かれており、それが狙い通りであったのは確実だ。自慢したくなるのもわかると言うものだ。


「やあぁっ!ふえっ?何か言った、リナルドぉ?」


 その妙技を見せたかった相手である張本人のトゥルは全く見ていなかったらしい。どこか気の抜ける気合いの声からは想像もつかない凶悪無比な一撃によって、あらゆる無人偵察機が粉々になっていく。


 コテンと首を傾げるトゥルの反応を見て、リナルドはガクッと肩を落とした。しかし、それでもリナルドの槍を正確さが失われることはない。たとえ見ていなかったとしても、槍の動きには寸分の狂いもなかった。


「トゥルちゃんは鈍感だからなぁ……もっと真っ直ぐ行かなきゃダメだぞ、リナ坊」

「ああ、そう言うこと」


 二人掛かりで運ばれたゴーラは戦斧の平たい面で銃弾を弾きながら無人偵察機をまとめて破壊する。重たい戦斧を軽々と片手で振り回し、地面に転がった無人偵察機の残骸をもう片方の手で掴んで思い切り投げる。豪快で荒々しい戦い方であった。


 そして第二陣の最後の一人であるリンネは幻術で姿を消しつつ、様々な霊術を用いて我々全員を強化し始めた。彼女自身の戦闘力は低い。しかし他の仲間を強化することで、ある意味誰よりも戦闘に貢献することが出来るのだ。


 戦っている私達は誰一人として魔人形態に変化していない。そうする必要がないからだ。元々彼らは強かったが、鍛練の成果が出ているのである。これからもなるべく続けて行きたいものだ。


 私は羽虫のように集ってくる無人偵察機を二本の剣で斬り、毒を分泌させていない毒針で貫き、そして蹴りによって砕いていく。しかしながら誰かが危うくなった時、いつでも助けに行けるように周囲に気を配るのは忘れていなかった。


「……?」


 今のところは安定した戦いを繰り広げているので、私は安心しつつ戦っていた。だからこそすぐ近くと北方だけでなく、背後の気配を探る余裕が生まれていた。


 その時、私は察知していた。空中ではなく、水中を進んでこちらに来る者達の存在を。そしてその気配に私は覚えがあった。


「ガハアァァァ!やっと暴れられるぜぇ!」


 川から勢い良く現れたのは、カレルヴォが連れてきた鰐の魔人だった。その後から次々と新たな魔人達のが上陸してくる。どうやら、こいつらと共闘することになったらしい。足を引っ張るなよ、と思いながら私は両手の剣を振るい続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 厄介なのは有能な敵よりも無能な味方という事になりそう… てかなるな!
[一言] 敵の無人偵察機は厄介ではありますがこの面々ならいけるかー?って思ってたらなんか背中に気を付けなきゃいけなさそうなのが来ましたねえ 一応は味方ですが……信用していいのかなあ?
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