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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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獄中生活 その三

 私達が監獄で暮らすようになってから一ヶ月と少しが経過した。外では季節が巡り、寒さの厳しい冬が終わって暖かな春がやって来た……はずだ。我々魔人は温度変化に強い上に、監獄の中は気候の変化がよくわからない。それ故に暦の上で春になったことしかわからなかった。


 監獄にいる間、外では帝国軍がカルネラ港の奪還作戦のために動いているようだ。マルケルスの話によれば、帝国軍は十万の大軍を新たな砦……と言うか要塞に集結させているらしい。この規模の軍団を動かすのは砦を同時攻略したあの時以来であった。


 更に我々が持ち帰った火吹戦車……アスミの話によると共和国軍では自走砲と言うらしいが、あれを解体・研究して作り出した新型兵器も投入されるそうだ。味方を巻き込んでくれるなよ?


 あと、我々が監獄に入っている間に川沿いで小規模な戦闘が幾度か発生したらしい。そこにカレルヴォの魔人達が実戦投入されたそうだ。渡河しようとした共和国軍を攻撃して撃退したようだが、偶然にも銃弾に頭部を貫かれて戦死した魔人がいたのだとか。


 連中は仲間ではないし、初めて会った時のこともあって良い印象を持っている者は一人もいないだろう。しかし魔人の同胞であるし、何より我々は治癒力は高くとも不死身の存在ではないことを思い知らせてくれた。


「ぬりゃっ!」

「シャアッ!」

「…………!」


 外では色々なことが起こっているようだが、監獄にいる我々は元気に組手を行っていた。今はゴーラとリナルドを相手にしている。この二人のコンビは中々に強力だった。


 闘気を使わない純粋な力では私よりも強いゴーラの剛腕と、素早いフットワークで刻むようなリナルドの拳や蹴り。贖罪兵時代からの連係技術も相まって私を追い詰めつつあった。


「あえっ!?ぶべぇっ!?」

「わっ、悪ぃ!」


 だが、まだ私も負けてやる訳には行かない。ゴーラの拳をスレスレで回避すると、手首に手を引っ掛けつつ肘を反して固定する。そしてゴーラが殴った勢いを利用してリナルドがいる方に誘導した。


 つんのめるようにして頭が下がったゴーラの顔面にリナルドの膝蹴りが突き刺さる。ゴーラはたまらず悲鳴を上げ、リナルドは思わず謝ってしまう。だが、それは私にとって隙でしかなかった。


「あがっ!?」

「ぶふっ!?」


 私は両手を離すと、ゴーラの背中を踏みつけながらリナルドの顎を拳で撃ち抜いた。ゴーラは立ち上がれずにバタバタと手足を動かし、リナルドは脳が揺れたからか床に転がって呻いていた。


 私はゴーラの背中から足を上げて、リナルドの手を取って身体を起き上がらせる。リナルドは頭をブンブンと振ってからすぐに立ち上がった。


「やっぱアンタ強ぇな!さっきの技、教えてくれよ!」

「イテテ……今のでも駄目なんですかい?とんでもねぇお人ですなぁ」


 リナルドは目をキラキラさせながら今の動きを教えてくれと迫り、ゴーラはリナルドの蹴りが入った鼻を擦りながら苦笑していた。私はゆっくりと動いて先ほど使った格闘術の動きを見せてやる。リナルドは早速それの練習をゴーラに手伝ってもらい始めた。


 二人を見るのはここまでで良いだろう。なら次は別の者達の鍛練を見ることにしよう。誰が良いだろうか……ううむ、悩ましい。


「ふん!」

「はっ!」


 ティガルとザルドは互角の腕前で組手を行っていた。ティガルは蹴りが主体で、ザルドはバランスよく四肢を使っている。ティガルは幅広い大剣を用いている以上、実戦で拳を使うことはほぼないだろう。そこで蹴りの技術を重点的に磨いているのだ。


 一方のザルドは同じ剣だが、両手でも片手でも使える長剣が得物である。実戦では拳を使う機会も多く、全身を使えるように鍛練を積んでいた。


 二人の実力は拮抗しているので、このまま二人で組手をした方が実りがありそうだ。ただし、二人でやり過ぎて変なクセがついても問題だろう。時々、別の者と組手をするようにミカに言わせておくべきだな。


「えぇい!とぉう!」

「うぅっ……!相変わらずの馬鹿力ね……っ!」

「妹をっ!馬鹿とかっ!言わないでっ!」


 別の場所ではトゥルとソフィー、それにファルが組手を行っている。女性でありながらゴーラに匹敵する長身と腕力、それに男にはないしなやかな手足から繰り出されるトゥルの鞭のような打撃は、可愛らしい掛け声とは裏腹に一撃で意識を刈り取る威力を秘めていた。


 それをソフィーとファルがギリギリで回避している。反撃もしているようだが、二人の打撃ではトゥルにダメージを与えることは出来ていない。一方でトゥルも二人に直撃させることは出来ていなかった。トゥルが打撃を当てるのが先か、二人が有効打を与えられるようになるのが先か。これはこれで良い訓練になりそうだ。


 他の者達も自分と同格の者と鍛練に励んでいる。これならば誰かが自分から私に相手をして欲しいと言うまではこのまま見て回るようにしよう。


「皆さん、ディト語の線体字と円体字は覚えましたか?テストをしますから、一つ一つを丁寧に書いて下さいね」

「楽勝だぜ!」

「えっと、こうだったよね?」

「うー……難しい……あにきぃ……」


 大人達の組手を見て回りながら、私は後ろの複眼で子供達の様子を窺う。今はミカによる学問の時間であり、子供達はワイワイと騒ぎながら文字を書いている。ディト語には直線だけで書かれる線体字と曲線だけで書かれる円体字があり、それを全て覚えているかをチェックしているようだ。


 ティガルとシャルの息子であるレオは物覚えが良いらしく、スラスラと正しい文字を書いていく。ケルフは少し悩みながらも、何だかんだで全て正解だ。しかしラピはまだ覚えきっていないようで、幾つか間違っているものがある。子供達の中では幼いので仕方がないだろう。


 ラピは涙目で私を見ているが、今は学問の時間だから助ける訳には行かない。頑張って覚えてくれ。覚えていればきっと役に立つのだから。


 私が歩いて見回っていると、階下から上がってくる足音が聞こえてくる。周囲の仲間達が戦っている音があったとしても、私の両足の外骨格は床に触れている。伝わってくる振動で事前に察知することは可能であった。


「おお、精が出るな!」

「いや、激しすぎでは?魔人の回復力があれば問題はないのかもしれませんが……」


 二階に上がって来たのは、当然のようにマルケルスとデキウスだった。マルケルスは興味深そうに我々の組手を見物し、デキウスはその激しさに引いているようだ。私からするとこれでもまだ甘いのだが……それを言ったらもっと引かれそうだ。黙っておこう。


 マルケルスは少しの間だけ組手を見物していたが、すぐに手を叩いて注目を集める。大人達は組手を中断し、ミカも授業を中断して立ち上がった。その時、ラピがほっとしたように胸を撫で下ろしたのを私は見逃さなかったぞ。


「皆、聞いてくれ。カルネラ港の奪還作戦についての話だ」


 ついに来たか、大きな戦いが。私達は神妙な顔付きになってマルケルスの次の言葉を待つ。彼は我々全員の顔を見回してから、おもむろに口を開いた。


「ミカとリンネ、それにサソリ君は私と共に潜入していた。だから皆はカルネラ港の現状を聞いている思う。そうだな?」

「はい。我々が見たものについては情報を共有済みです」


 監獄にいる我々だが、食事を取ったり休憩したりする時間はある。その時にミカとリンネの二人が潜入任務であったことを話していた。


 ミカもリンネも誇張するタイプではないので、事実をありのままに伝えている。だからここにいる大人達はカルネラ港の現状を概ね把握しているのだ。


「よろしい。なら、話は早い。それでは君達の任務について伝える。今回も部隊を二つに分けての作戦になるぞ。片方の部隊は私の指揮の元で攻城戦に参加する。そしてもう一つの部隊は……本格的な戦闘が始まる前に共和国軍の戦艦を撃沈させる、もしくは無力化することだ」


 戦艦を撃沈、だと?海の上に浮かぶ戦艦をどうやって攻撃すると言うのだ。地上から攻撃するのは現実的ではないし、我々の中には水棲生物の魔人はいない。なら……答えは一つ。空から攻めるのだ。


 空中から攻撃を仕掛けるのは悪くない作戦だと思う。霊術を使って飛ぶと気付かれるかも知れないが、鳥と同じく自然と飛べる魔人達ならば見付かる可能性も低かろう。だが、その作戦には致命的な問題があった。


「……察している者も多いようだが、あえて私の口から言おう。飛行可能な魔人達によって、空中から襲撃しろとのことだ」

「お待ちください。私を含め、飛行可能な魔人は六人しかおりません。新たな魔人達の中に翼を持つ者もおりませんでした。たった六人であの戦艦と戦えとおっしゃるのですか?」


 そう、飛べる魔人は人数が少ないのである。四翼蝙蝠の魔人であるミカや嵐鷹の魔人であるファルなど、全員でたったの六人しかいないのだ。それが可能だとはとてもではないが思えなかった。


「それに捕虜の証言では設置式の大型銃で空からの攻撃への備えも十分だと言っておりました。通常の方法では犬死にになってしまいます」

「司令部も馬鹿じゃない。ちゃんと秘策を用意してある」

「秘策とは何でしょうか?」

「共和国軍の技術を応用して作られた強力な爆弾が製造されている。それを上空からばら蒔くんだ。デキウス?」

「はっ」


 デキウスは懐から掌に収まる大きさの球体を取り出した。黒く艶やかな表面の球体からは、特に力は感じられない。これが強力な爆弾だ、と言われても誰もがピンと来ていないようだった。


 その反応は予想通りだったようで、マルケルスも苦笑いをしている。デキウスは表情を変えることなく、その球体を再び懐にしまった。


「爆弾の威力は私達もこの目で確かめている。これ一個で小さな村一つくらいなら吹き飛ばせる代物だ。信じてくれ」

「……かしこまりました」

「ありがとう。ただ、爆弾は確かに強力だが数が限られている。全て使って万が一にも沈まなかった場合は直接乗り込んで戦ってもらうことになる。それが六人では死ににいくようなものだろう。そこで聞きたい。六人はどのくらいの重量までなら担いで飛ぶことが出来るんだ?」


 マルケルスの質問にミカ達は答えていく。その結果、自分と同じくらいの重さということで六人全員が共通していた。


「なるほど……では、三人を選抜してくれ。六人の内、三人は爆弾を持って飛んでもらう。そして残りの三人は選抜された三人と共に飛び、万が一の場合は九人で戦艦を沈めろ。これが司令部が君達に課した任務の概要だ。選抜する三人を今から決めることになるが……サソリ君。作戦を成功させるために君は欠かせない。悪いが強制参加だ」

「…………」


 どんな威力かもわからない新兵器を携えて、たったの九人で敵の海上戦力を無力化しろ。私の次なる任務は、そんな立案した者の正気を疑いたくなるものだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 牛くんと馬くんが完全に空気…… あと主人公が鹵獲した武器の行方 [一言] まぁ対空砲は夜中に低空飛行して接近すればワンチャン
[一言] 今度も中々に無茶な任務なことで 爆弾の威力を目にしていないのと戦艦とやらにも通じるか分からないって点が不安ですね〜 これまでに挙げてきた戦果が戦果だけに求められる働きがとんでもない物になって…
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