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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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獄中生活 その一

 牢獄に放り込まれた我々だったが、取りあえずは身体を休めることに集中することにした。闘気を高めて傷を癒しながら、体力を回復させるのだ。


 私とミカはほぼ無傷だったので、他の牢屋に入っている仲間達の様子を窺う。ほぼ全員が殴打されて腫れ上がっていたり、牙で噛まれたり、爪で切り裂かれたりしていた。しかし、かなり深い傷以外は既に治り終わりつつある。魔人としての治癒力の強さに感謝するべきだな。


 私は視線を泣き疲れて眠っているラピに落とす。捕まれていたせいでボサボサになっていた髪は直してやったものの、その頬は赤く腫れている。あの謎の魔人に叩かれたのだろう。いたいけな子供を殴るとは……機会があったら息の根を止めてやる。


「また助けられちまったな。あんたの強さはマジで別格だよな……どうやってそんだけ強くなったんだ?」

「君と共に戦うようになってから、私達は助けてもらってばかりだ。全く、自分が情けなくなるよ」


 ティガルは感心したように、ザルドは自嘲するようにそう言った。私の強さはゲオルグによる拷問めいた訓練を乗り切りつつ、死にたくないがために寝る間を惜しんで行った自主鍛練、そして短期間とは言えアレクサンドルに本気で仕込まれた武術によるものだ。決して天性ものではない。


 同じことをすれば……いや、ゲオルグの訓練は無理か?ともかく、自主鍛練と武術の鍛練の方は教えられる。希望するのならば、これからも時間があれば教えてやろう。


 それとザルドよ。助けてもらってばかりと言うが、そんなことは絶対にない。最初こそ警戒していたが、最終的に魔人部隊の皆は私を仲間として受け入れてくれた。そのことは私の精神面において大きな救いになっている。だからそう卑下して欲しくはなかった。


 私の気持ちをどうやって伝えようかと考えていると、下の階が騒がしくなってきた。何事かと思って耳を澄ましてみると、どうやら目を覚ましたあの魔人達が騒いでいるようなのだ。


『グルルルルッ!出せ!出しやがれぇ!』

『あああああっ!?俺のっ、俺のタマがあああああっ!?』

『口の中が血の味しかしねぇ……あの蠍野郎、次に会ったら絶対にぶっ殺してやる!』

『アイツハ俺ノ標的ダ。奪ウ気ナラ、貴様カラ殺ス』

『んだとぉ?(ヒル)なんて虫ケラの魔人の癖に調子に乗るんじゃねぇぞ。殺せるもんならやってみろよ、雑魚が』

『……吐イタ唾ハ飲メンゾ、低能ノ蜥蜴メガ』

『キキキキキッ!喧嘩!喧嘩だ!』

『どっちが勝つか賭けようぜ!』


 下の階にはあの魔人達がいるようで、やいのやいのと騒いでいた。騒ぐだけならともかく、どうやら本気で殺し合いを始めたらしい。恐らく戦っているのは鰐の魔人とラピを殴った魔人だ。何と蛭の魔人だったらしい。奴等が戦う激しい音と強い揺れが下から伝わってきた。


 こいつら、仲間意識とかないのか?何だか闘獣会の新人戦を思い出す。全員が闘獣という同じ境遇でありながら、お互いに敵として殺し合ったものだ。下の連中も同じ魔人でありながら、協力しようとせずに食らい合う。あれでは獣と同じではないか。


 魔人の強みとは様々な生物の力をヒト種の理性によって扱うこと。それが出来ないのなら、ただ見た目が変なヒト種のような何かでしかない。それがわかっているのだろうか?


『貴様ら!何を騒いでいる!静かにしろ!』

『うるせぇ!今いいところ何だから邪魔すんじゃねぇよ!』

『静かにして欲しいんなら、強引に止めりゃいいだろ?出来るんならな!ギャハハハハ!』


 騒ぎを聞き付けた看守達が黙らせようとするものの、魔人達は黙るどころか挑発している。その態度を改めさせるために看守が懲罰を加えようとしたその時、外に繋がる扉が開かれた。


 少し前にマルケルスと共に私も通った扉から入ってきたのは、十人ほどの帝国兵だった。その内の二人は知っている気配である。一人はマルケルスで、もう一人はデキウスだった。


『一階にいる魔人達は釈放が決まった。即刻、戦いは止めろ。繰り返す。釈放が決まったから、戦いは止めろ』


 帝国兵の一人がそう言うと、魔人達は一瞬だけ静かになってから歓声を上げた。戦っていた鰐の魔人と蛭の魔人も、舌打ちしながら互いに矛を収めているらしい。どうやら不愉快な相手と殺し合うことよりも、外に出ることを優先したようだ。


 魔人達はやはりギャーギャーと騒ぎながら外へ出ていく。連中が出ていった後、扉が閉められてようやく監獄内に静けさが戻ってきた。


 扉から入ってきた帝国兵の内、マルケルスとデキウスを除いた全員が魔人達を連れて外に出たらしい。二人は階段を上がると我々の元へとやって来た。こっちも釈放してくれる、と言うことだろうか?


「みんな、大変だったらしいな。怪我は……もう治っているのか」

「流石は魔人、と言ったところでしょうか?何はともあれ、これをどうぞ。差し入れです」


 デキウスは肩から提げていた持っていた大きな袋から取り出した何かを牢屋の中に入れていく。私はそれが何か知っている。あれは……ドライフルーツだ!


 私はすぐにでも飛び付きたい気持ちであったが、それをグッとこらえてラピを揺らして起こしてやった。ラピは目を擦りながら目を覚ます。すると何かを思い出したように震えながら私に抱き付いた。


 きっと、蛭の魔人がとても怖かったのだろう。私はやりたいようにさせながら、ミカの方に目を向ける。すると私の意図を汲んでくれたようで、デキウスが持ってきた差し入れを私に手渡した。


「……」

「……あにき、これなぁに?」

「それは干した果物です。甘くて美味しいですよ」


 私は差し入れのドライフルーツをラピに手渡す。彼女は最初、それが何かわからなかった。だが、何度か匂いを嗅いでその芳しい香り気付いたらしい。ラピはそれを恐る恐る口へと運んだ。


 するとどうだろう。ラピは目を大きく見開いたまま身体を硬直された。硬直が解けた後、彼女は猛然とドライフルーツを食べ始める。あっと言う間に我々の牢屋にあったドライフルーツを食べ尽くしてしまった。


 わ、私も食べたかったのに……!だが、満腹になったのか再び眠りについたラピの幸せそうな寝顔を見ていたら怒る気にもなれない。今日のところは許してやるとするか。


「みんな、聞いてくれ。今日の乱闘騒ぎをどう決着するかについてだ」


 それからマルケルスは語った。あの魔人達は既に釈放されて外に出たこと、そして同じことを二度と起こさせないように我々と魔人達を隔離するため、そして兵士達へ規律が保たれていることを示すために監獄に入りっぱなしになることを。


 その沙汰を聞いて、我々の中には不満そうな顔をしている者達もいた。それも仕方がない話だ。どう考えても悪いのは仕掛けてきたカレルヴォとあの魔人達である。なのに我々は罰として監獄に閉じ込められ、ただでさえ少ない自由を奪われている。彼らの反応は尤もだろう。


「まあ、待ってくれ。悪いことばかりじゃないぞ。君達に不自由を強いる代わりに、二つの条件を着けてくれたんだ」


 マルケルスの言う二つの条件。その一つ目は今いる監獄の二階に限っては自由行動が許されることで、二つ目は食事が捕虜と同じものが出ることだった。


 ティガル達は捕虜と同じと言われてもピンと来ないようだったが、尋問に同席した私とミカは理解していた。捕虜の女は質問に答える代わりに食事を豪華にしろと言っていた。それと同じ食事が出るということは、我々の食事も豪華になるということだからだ。


「司令部は君達の戦力を正しく評価している。そのくらいは当然だよ」

「何を言ってるんですか。食事云々は副隊長が掛け合ったと聞いていますが?」

「おまっ!?誰から聞いた!?」

「司令部付きの守衛に同郷の者がいるんですよ」


 どうやら我々の待遇が少しでも良くなるようにマルケルスは尽力してくれたらしい。そのことを隠そうとしていたようだが、デキウスに暴露されてしまった。


「と、とにかく!そう言うことだ!あと当然だが監獄から逃走を図ったり、勝手に他の階に行ったりしたら懲罰の対象になるから気を付けろよ」

「あくまでも自由が許されるのはこの階だけだと肝に命じてください。良いですね?」


 マルケルスとデキウスの忠告に我々は大きく頷いた。せっかく得られた小さな自由と贅沢を手放すようなことはしたくないからだ。その時、誰の顔にも不満は浮かんでいなかった。


 説明を終えたマルケルスとデキウスは、我々のいる牢屋の鍵を次々に開けていく。これで牢屋同士を行き来することが可能になった訳だ。


「これでよし、と。ああ、ミカとサソリ君。悪いけどこれから捕虜の尋問に向かうから同行してくれ」

「今回からは速記官として私も同行します。万が一の時は任せましたよ」


 ……自由になったと思ったが、すぐに仕事があるようだ。私とミカはやれやれと首を振ってから立ち上がる。そして眠っているラピを仲間達に任せ、マルケルス達と共に地下へ向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 釈放もうちょっと遅ければ同士討ちをしてさらなる恥の上塗りをしてくれたのに……! そしてドライフルーツがああああ! いや、サソリほんと優しいなあ
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