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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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尋問 その三

 白機兵の女から共和国軍側の事情は聞き出せた。マルケルスは聞き取ったことを紙に書き記している。きっと偉い人に見せることになるのだろう。


「君達の事情はわかった。嘘は言っていないようだから、信用しよう。じゃあ次の質問だ」

「ああ」

「私は先日、カルネラ港……君達があの港を何と呼んでいるのかは知らないが、とにかく君がいた港に潜入した一人だった。その倉庫街で見たモノ……あれについて説明して欲しい」


 私は倉庫街に行っていないが、あそこに行った後の三人はとても憔悴しているようだったのは覚えている。結局、私は彼らが何を見たのか聞いていない。だが、今のマルケルスの真剣な表情と少しだけ目を細めたミカの様子から察するに、何か不愉快になるモノがあったのは確かだろう。


 マルケルスの問いに対して、白機兵の女は気まずそうに顔を背けた。女にとっても、彼らが見た何かは受け入れ難いものなのだと思われる。この場でそれが何なのか知らない私だけは、ボーッとしながら話を聞いていた。


「あれは故国のイカれた科学者がやっていることだ。私は一切協力していないとわかって欲しい」

「そうか。信じよう」

「ありがとう。あれは我らカン族と他のヒト種を比較して、闘気と霊力が弱い理由を生物学的に解明するための標本らしい。死者の身体を腑分けするなど、本国でも冒涜的だと批判されている。連中はどこ吹く風とばかりに気にしていないがな」


 死者を身体を腑分け……?そうされた人々を見て、三人は気分が悪くなったのか。死体は見慣れていても、それが腑分けされていたらダメとは……ヒト種とは不思議なものだ。腑分けされた肉を見たら、食べやすそうくらいにしか思わないのだが。


 いや、これは私の感性が結局は蠍のままだからかもしれない。私は根底の部分でヒト種とは異なる種族である。それに生まれた直後に同族を山ほど殺した同族殺しだ。同族が死んでも気にならない上に、そもそも同族ですらない。気にならなくて当然だ。


「神の呪いを技術でどうにかするなんて無理だろうに」

「それには同意する。だが科学者、特に生物学者が品種改良した作物のお陰で同じ面積辺りの収穫量が増加したのも事実。彼らは本国ではかなりの権力を持つんだ」

「白機兵の君達よりも?」

「ハッ!私達などただ単に腕っ節が強いだけの先祖返りに過ぎん。確かに特別製の鎧や武具を用意してもらえるが、それだけだ。強さ故に尊敬してくれる一般兵もいるが、権力などないに等しい」


 強いからと言って偉いとは限らない。ヒト種の社会では良くあることだ。食糧不足に悩み続けたシーシャ大陸のカン族にとって、食糧関連の知識人や技術者が権威を得るようになったと考えて良いだろう。


 この話を聞いて、何故我々が麦畑に飛び込んだ時に共和国の火吹戦車が炎弾を撃つのを躊躇ったのかわかった気がする。何よりも重要な食糧を自らの手で傷付けることをしたくなかったのだ。


「それよりも、白機兵だと?お前達は我々をそう呼んでいるのか?」

「ああ。正式名称がわからないのでね。良ければ教えてくれるか?」

「別に、特別な名前はない。白い鎧は精鋭兵、その他は一般兵と言うだけだ」

「なるほど……これでよし、っと。話をしてくれてありがとう。今日はここまでにするよ。他の質問は明日以降だ。君の……ああ!大切なことを忘れてた!」


 紙に書く手を止めたマルケルスは、立ち上がって独房から出ようとした。だが、立ち上がった後に自分で自分の額をピシャリと叩きつつそう言った。何を忘れていたと言うのだろうか?


「君の名前を聞き忘れていたよ!教えてくれるか?」

「アスミ。アスミ・イシャクラムだ」

「わかった。また話を聞きに来るよ、アスミ」

「あ、ああ。じゃあな、マルケルス」



◆◇◆◇◆◇



 白機兵の女、アスミは私の注入した麻痺毒の効果が切れた直後に暴れようとしたらしい。武器も持っておらず、周囲には屈強な精兵が囲んでいたこともあってすぐに取り押さえられたのだが、問題はここからだった。何と、アスミには隷属系の霊術が一切効かなかったのである。


 帝国軍の霊術師の話によれば、どうやら彼女の心臓付近に隷属をはね除ける器具が埋め込まれているらしい。その器具は無理に外そうとすれば彼女が死んでしまうらしく、そのせいで隷属させて真実を話すように強要することも出来なかったのだ。


 だが、殺してしまうにはあまりにも惜しい。そこで帝国の技術によって作られた頑丈な鎖で、徹底的に強化を施した独房に入れることになったのだと言う。


「でも、誰が行っても向こうの言葉で罵られるばっかりで話にすらならなかったんだって。そこで、実際に捕まえた君達を連れていくように命じられた訳だ」

「効果は覿面でしたね。我が主の尻尾が相当なトラウマとなっていたようです」


 監獄の外に出ながら、マルケルスは我々を連れて来ることになった経緯を話してくれた。確かに、我々が地下に降りた直後には怒鳴っていたな。尻尾を見た途端に大人しくなっていたが、あれがなければ延々と怒鳴られていたのかもしれない。帝国軍も大変だったようだ。


 ちなみに、ミカが私のことを『我が主』と言い出したことにマルケルスは何も言わない。どうやらいつの間にかそのような立ち位置にいたいと直談判していたようだ。根回しが得意なことで。


 何はともあれ、これで我々の仕事は終わりだ。次に呼ばれるまで、厩舎の横でゆっくりさせてもらおう。聞き出した情報を伝えなければならないと言うことで、マルケルスは監獄の前で分かれた。私とミカは帝国兵からの視線を感じながら厩舎に戻ろうとした。


「がぁ?」

「何でしょうか?」


 厩舎は人気が少ないはずなのに、近付くに従って人数が増えているような気がするのだ。何か不穏な予感を覚えた私とミカは、足早に厩舎横へ向かう。だが、我々がたどり着く前に、固いモノで肉を打つ音と小さな悲鳴が聞こえて来た。


 私とミカは目配せする時間すら惜しいとばかりに走り出す。邪魔な帝国兵を突き飛ばしながら厩舎へと一直線に駆けた。後で何か言われるかもしれない。だが、知ったことか!そんなことよりも魔人部隊の仲間の方が大切なのだから!


 最前列で見物している帝国兵を押し退けて前に出る。すると、そこでは見覚えのない数十人もの魔人が暴れていてティガルを始めとした仲間達はボコボコにされながら必死に耐えていた。


「があああああああああっ!」


 何がどうなっているのかは分からない。だが、私は怒りで我を忘れて仲間(魔人)達を襲う(魔人)へと飛び掛かるのだった。



◆◇◆◇◆◇



 冥王蠍の魔人とミカがマルケルスと共にどこかへ向かった後、魔人部隊が待機している厩舎の周囲には一種の弛緩した空気が流れていた。監視任務から解き放たれた彼らが力を抜いてしまうのも無理はないだろう。


 疲れが溜まっていた者達は眠りに就き、まだ起きている者達も天幕の中でゆっくりと横たわっている。次の任務までに体調を万全にしておきたいからだ。


「……何だ?」


 そんな時でもティガルはルガル隊のリーダーだった頃からの習慣で警戒は怠っていなかった。ミカほどではないにしろ魔人となって鋭敏になった彼の聴覚が、自分のいる厩舎に向かってくる一団を捉えたからである。


 同じ天幕で眠る妻と息子の頭を撫でてから、彼はなるべく音を立てずに天幕から外に出た。自分と同じく警戒していたらしいザルドと、寝ていなかった数人の仲間達も異変を察知して外に出ていた。


「こんな時間に来るたぁ、礼儀がなってねぇ客がいたもんだ。で、何者だと思う?」

「さあな。ただ、油断はするなよ」


 一団の気配は徐々に近付き、少ししてからティガル達の視界に姿を表した。それを見た彼らは驚いた。何故なら、その一団は先頭を歩くローブを着た霊術師を除いた全員が魔人……それも自分達とは違って魔人形態になっている者達だったからだ。


 予想外のことに戸惑っていると、霊術師に率いられた一団はティガル達の前にやって来た。ティガル達はその魔人達の動きを観察する。数は三十ほどで、その立ち振舞いから察するに戦闘の技能は拙いものだと思われる。自分達も魔人形態になれば一方的に殴り勝てるだろう。


 しかし、彼らは敵との戦闘時以外は魔人形態になれないように命令されている。隷属させられている彼らにとって、命令とは即ち強制だ。魔人形態になっていない状態では身体能力に大きな差があるので、戦いになったら不利だろう。ティガル達はなるべく諍いを起こさないようにするべきだ、と判断した。


「おいおい、カレルヴォ様よぅ。こんな小汚ねぇ奴等が俺達の先輩なのかぁ?」


 開口一番にティガル達を大声で侮辱したのは、ゴツゴツした皮と太い尻尾に鰐の頭を持つ魔人だった。ここにいる魔人達の中では最も大柄で、暴力に慣れた雰囲気を漂わせている。魔人になる前はきっと恐喝などをしていたのだろう、とティガルは推測していた。


 そんな鰐の魔人に尋ねられた霊術師……カレルヴォは、ニヤニヤといやらしく笑いながら周囲を見渡す。そして冥王蠍の魔人とミカがいないことを確認するとその笑みをより深めた。


「魔人部隊としては、な。だが、こいつらは愚弟が作り出した失敗作……半端者だ。お前達よりも数段劣った存在に過ぎん」

「ははっ!確かに弱そうだもんなぁ!」


 鰐の魔人達は馬鹿にするようにゲラゲラと笑っている。だが、ティガル達が反応を見せることはなかった。贖罪兵というヒト種以下の存在として扱われてきたティガル達は、面と向かって侮辱されることには慣れているのだ。彼らは表情一つ変えず、黙って笑う魔人達を観察するだけだった。


 何の反応も示さないティガル達が面白くなかったからか、カレルヴォは不愉快そうに口を歪める。だが、すぐに何かを思い付いたようで再びニヤニヤとした笑みを浮かべ始めた。


「お前達、ここの失敗作達に本物の魔人とはなんたるかを死なない程度に教えてやれ」

「そろそろ暴れたくてウズウズしてたんだぁ!」

「もう我慢出来ねぇよぉ!」

「女もいるんだろ!?久々に楽しむぜぇ!」


 カレルヴォが()()を命じると、魔人達は嬉々としてティガル達に襲い掛かる。彼らの目には暴力を振るえることへの喜悦がありありと浮かんでいた。カレルヴォは殺すなと言ったものの、そんなことはお構いなしに殺しに来そうな雰囲気である。


「マジかよ!テメェら、起きろ!」

「正気とは思えんが……迎え撃て!」


 そのことを本能的に察知したティガルとザルドは、襲い掛かる魔人に立ち向かいながら仲間達に呼び掛けた。ティガルの怒鳴り声で起きた魔人部隊の者達は、同じ魔人が襲ってくる状況に困惑しながらも戦いに加わった。


 しかし、魔人形態になっている者となっていない者の力の差は歴然であった。ティガル達の方が戦闘技術に優れているので善戦はしたものの、人数の差と身体能力の差で押し潰されたのである。


 彼らも魔人形態になれば結果は逆だっただろうが、砦の中で変化することは無用なトラブルを避けるためにもマルケルスによって禁じられている。その差を埋めることは出来なかった。


「ホレホレ!どうしたぁ?」

「クソ……!魔人形態になれりゃあ、こんな連中……!」


 鰐の魔人はティガルの頭を踏みつけながら、グリグリと足を動かしている。ティガルは悔しさから奥歯を噛み締めつつ、起き上がろうと躍起になっていた。


「クンクン……見付けたぞ、ガキィ!」

「うわああっ!?」

「女ぁ!女だあぁぁぁ!」

「止めっ……離れてっ……!」


 欲望のままに暴力を振るった魔人達だったが、まだ足りないようだった。優れた嗅覚で子供達を見つけ出して暴力を振るい、女性とみるや凌辱しようと襲い掛かる。魔人達はヒト種の言葉を話せるだけの獣と化していた。


 カレルヴォは止めるどころか、悦に入りながらその様子を眺めている。オルヴォの魔人(作品)を自分の魔人(作品)が痛め付けている。これほど痛快なことがあるだろうか?いや、あるわけがない。彼の自尊心は大いに満たされ、永遠に見続けていたいとすら思っていたほどである。


「があああああああああっ!」


 そんなカレルヴォを現実に引き戻したのは、彼らの後ろから発せられた咆哮であった。空気がビリビリと震えるような声と同時に凄まじい殺気が叩き付けられる。カレルヴォが恐る恐る振り向いた時、そこには怒りのままに自分の魔人(作品)へ怖気が走るほどの殺気を向ける冥王蠍の魔人(オルヴォの最高傑作)がいるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この作品、好きダァァァァァ‼︎
[一言] 隷属を防ぐ器具が勝利の鍵になるといいなあ(^^)
[気になる点] 戦闘の技能は拙い…ははぁん?そこらの使っても惜しくないゴロツキ捕まえてきたな?と、なると個々の組み合わせる魔物による相性なんかも考えてねぇんじゃないか?
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