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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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潜入任務 その十六

 前方に見えた四脚の火吹戦車と魔人部隊の仲間達。彼らがどうしてここにいるのか、どうやってここまで来たのか。それは全くわからない。ただ確実なのは……彼らは何よりも心強い援軍だと言うことだった。


 火吹戦車はもう一発炎弾を放ち、その後ティガル達が咆哮を上げながら突撃してくる。我々を追跡していた鉄の馬は急停止すると、何かを罵ってから馬首を反して北へ逃げていく。自分達の不利を悟ったのだろう。どうやら、助かったようだな。


「また、生き残りましたか」

「……」

「安心して下さい。もう自分から死のうとはしませんよ。貴方に叱られて思い出したんですよ。我が友にして主人でもあったお方の口癖……『命あっての物種』という言葉を」


 砂の手に抱えられたままのミカは、顔色を悪くしながらも呼吸は落ち着いた状態でそう言った。走っている間に闘気を高めて傷を塞いだらしい。かなりの深傷だったので、魔人でなければ死んでいたかもしれない。魔人になったのは不本意だっただろうが、今だけはその身体に感謝しておけ。


 それよりも『命あっての物種』か。私の心にも響く良い言葉だ。まともに言葉を話せるようになったら口に出してみたい。覚えておこう。


「おい、生きてるか!?」

「重傷者がいる!治癒の霊術が使える者は集まれ!」


 私は走る速度を緩めて歩くと、ティガル達が駆け寄って来る。ティガルは私の身体をペチペチ叩いて無事を確認し、ザルドはミカの容態を見て迅速に指示をする。そこで私はミカを地面の上にゆっくりと下ろして砂を散らした。


 その時、含めた全員が固まってしまった。何故ならミカを包んでいた砂の中からグッタリとした青い肌の女が現れたからである。あ、ミカを助けることに夢中で白機兵がいたのを忘れていた。おい、生きてるか?


 観察したところ、胸が上下に動いているので呼吸はしているようだ。ここで死んだら連れ帰るのに払った苦労が水の泡になってしまう。生きていて私はほっと胸を撫で下ろした。


「何だ、この女……女だよな?」

「捕虜なのか?」


 ザルドの確認に私は頷く。すると魔人部隊の女達を呼び、その手足を縛って拘束させた。その手際はとても良い。魔人部隊の面々は器用な者が多いようだ。


 私達がティガル達に囲まれていると、四脚の火吹戦車の扉を開けてマルケルスとリンネが現れた。二人とも顔には疲労が浮かんでいるものの、無事にたどり着けたらしい。


「良かった……本当に、良かった……!」

「ご心配をお掛けしました」


 リンネは地面に飛び降りると、地面に横たわるミカに駆け寄った。彼女はその瞳に大粒の涙を浮かべていて、ミカは申し訳なさそうにしている。そうだ、私以外にもお前が死ぬのは嫌だって者はいるんだ。さっきの命を粗末にしないと言う約束を守れよ。


 そう言えば、どうして魔人部隊は川を越えてここまで来たのだろうか?向こう岸での偵察任務のはずだ。その疑問の答えはティガルとザルドが教えてくれた。


「俺達が林の中を探ってたらよ、あのバケモンみたいな火吹戦車が来たんだよ。んで、中から出て来たマルケルスがお前らを助けに行くから力を貸せって言ったのさ」

「君達がどこにいるのかはすぐにわかった。何せ、向こう岸から見えるくらいに煙が上がっていたからね」

「後は空を飛べる連中が軽い連中を運んで、残りは火吹戦車の上に乗ったんだ。お前ら、相当派手に暴れただろ?占領地側の人工林にいた敵は、ほとんどがお前らの行き先に集まってたぜ」

「北側ばかりに気をとられていたから、殲滅するのは容易かったよ」


 おっと、我々の前に立ちはだかるように敵が配置されていたらしい。それをティガル達が背後から討ってくれていなければ、挟み撃ちされていたと言うことか。そうなっていれば、私は無事だったとしてもミカは死んでいたかもしれない。マルケルスの判断に感謝しよう。


 我々が再会を喜んでいると、マルケルスがパンパンと手を叩いて注目を集める。全員の視線が集中したところで言った。撤退する、と。


「再会は私も嬉しいが、ここは端とは言え敵地だ。暢気に騒いでいい場所じゃない。一刻も早く川を渡ってから報告に戻るぞ」


 マルケルスの言い分は全く正論であった。我々は手早く撤退の準備を整える。安静にしなければならないミカと縛り上げられた白機兵の女を火吹戦車の座席に座らせてから自分は車体の上に乗った。


 座席は三つしかないので、場所がなくなったリンネもまた車体の上に座っている。彼女は私を見ると、何も言わずにペコリと頭を下げながら、小さな声でありがとうと言った。きっとミカを見捨てなかったことへの礼だろう。私は頷くことで礼を受け取っておいた。


 空を飛べる者達が上空を警戒しつつ、水の霊術を得意とする者達が水面を固める。マルケルスが操縦する火吹戦車は安全に渡河して、私とミカは何とか帝国側へと帰還したのだった。


「お帰りなさい、副隊長。じゃあ、さっさと報告に向かって下さいね」

「……デキウス。困難な任務を成し遂げた上官の苦労を労う気持ちはないのか?」

「帰還した直後に部下から兵士を取り上げた人に言われたくありませんよ」

「うぐっ……」


 帝国側の人工林で待っていたのは、マルケルスの部下であるデキウスだった。彼はティガル達を指揮して人工林を巡回していたはず。確かにデキウスの視点から見れば、急に帰ってきた上官が突然自分の兵士を奪って敵地に乗り込んだことになる。トゲのある言い方になるのも仕方がないだろう。


 車体の扉から半身を出したマルケルスはデキウスの正論に言い返せない。だが、彼の判断のお陰で私とミカが助かったのも間違いない。私は火吹戦車の車体から地面に飛び降りると、デキウス向かって頭を下げた。彼が不機嫌になったそもそもの原因は私にあるのだから。


 デキウスだけでなく、その場にいた者達の全員が驚いたように私を見る。するとデキウスはクスリと小さく笑ってから、私にしか聞こえない小さな声で囁いた。


「律儀な人ですね、貴方は。別に本気で怒っている訳じゃありませんよ。副隊長に反省してもらいたかっただけですから。貴方は一度野営地に戻って身体を休めて下さい」

「……」

「おい、何の話をしてるんだ?」


 私はデキウスに頷くと、火吹戦車の車体に飛び乗った。マルケルスは変な表情で私を見上げるが、私はあえて無視して火吹戦車の筒の上に座った。マルケルスは私とデキウスを交互に見るが、私もデキウスも何も言わなかった。


 マルケルスは憮然とした表情で扉を閉めると、魔人部隊をデキウスに返してから建設中の砦に向かって南下し始めた。行きの時と違って火吹戦車に乗っているので、徒歩よりも遥かに速かった。


 しばらくすると帝国軍の哨戒網に引っ掛かったようで、十人以上の騎兵がこちらに向かって駆けて来た。火吹戦車には旗代わりに兵士の服を掲げているので、味方であることは全力でアピールしている。しかし味方だとハッキリしていないからか、騎兵隊は槍をいつでも振れるように脇を閉めていた。


「待ってくれ!我々は敵ではない!」


 こちらに向かって来る騎兵をマルケルスも発見したらしく、彼は一旦火吹戦車を止めると扉を開けて姿を表した。中から現れたのが明らかに帝国兵だとわかったからか驚いているのが強化した聴覚で拾った会話でわかった。それと同時に騎兵隊は槍を下げ、速度も落としてこちらに近付いた。


 それからマルケルスは騎兵隊に向かって自分達の所属やら何やらを説明する。確認が取れたところで、その騎兵隊の数人が護衛という名目で野営地に同行してくれた。


 一応、監視という面もあるのだろう。彼らがいてくれた方がマルケルスも繰り返し説明する必要がなくなるので都合が良い。こちらは何一つとして後ろめたいことはないので、全く問題はない。私はチラチラと騎兵達がこちらを見る視線を感じつつ、ボーッと空を眺めていた。


 その後、我々が野営地を肉眼で見える位置までやって来た時、先に騎兵の一人が我々の到着を報告するべく先行した。そのお陰で混乱が起きることもなく、我々は野営地に入ることが出来た。


「大隊長殿。マルケルス・シュティウス・オーロクス以下三名、潜入任務を果たして帰還致しました」

「そうか。それにしても随分と騒がしい帰還だな?そんなに目立ちたいのか、貴様は?」

「お騒がせして、申し訳ありません」


 出迎えたのは二十人ほどの兵士を引き連れたマルケルスの上司だった。扉を開けて地面に降りたマルケルスが敬礼と共に帰還の報告をしたにもかかわらず、神経質そうな細長い男は開口一番に嫌みな言い方で返した。


 労いの気持ちを欠片ほども持っていなさそうな上司に慣れているのか、マルケルスは真面目な表情を一瞬たりとも崩さない。それが面白くなかったのか、上司の男は不愉快そうに鼻を鳴らした。


「ふん。それで?とても早い帰還だが、情報は本当に集まっているのか?仮にも尻尾を巻いて逃げ出したのなら、今すぐに軍法会議にかけることになるぞ」

「そのようなことはありません。我々は占領地の情報を入手しております。この情報は、これからの戦略を立てるための一助となるでしょう」

「本当にそれほどの価値があれば良いがな。報告は本部で聞く。将軍閣下がお待ちだ。それと……お前以外の者は来るな。下賎な階級なしが、選ばれし者達が集まる司令部に近付くと考えただけでも吐き気がするわ」

「…………了解しました。三人とも、悪いが前に野営していた場所で待機しておけ。荷馬車があるからすぐにわかるだろう」


 私は頷くと無言で車内に入ってミカを引っ張り出す。ちょうどその時に白機兵の女は目を覚ましつつあったので、私はミカを連れ出しながら尻尾の毒針を刺しておいた。これでまた、しばらくは身動きが出来ないだろう。


 ミカに肩を貸した状態で地面に降りた私は、リンネと共にシユウとアパオ……牛の魔人と馬の魔人の気配がする方向へ歩いていく。こうして私の潜入任務は終了したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] マルケルスの上司から厄い気配を感じるなあ こういうあからさまに見下してくる奴が部下がこれだけの大手柄を上げるのを褒めるように思えねえ
[良い点] 捕虜になった女「うぅ〜ん…」 蠍くん(あっ起きそう、えい)プス! 女「う!zzz…」 ですねw [気になる点] なんて書きたかったのか分からない誤字脱字が多くなってきて読み辛い
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