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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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潜入任務 その十四

 我々の頭上を飛ぶ気配は、日が沈んで真っ暗になった後でも去ることはなかった。朝早くに出発してからすぐに隠れたので、一日中飛び回っていたことになる。これからずっとあれが飛んでいるのだとすれば、日中どころか地上は移動なんて出来ないぞ。


 私一人であれば地中を掘り進むことも容易い。だが、今はミカと捕虜の白機兵がいる。崩れてしまった時に二人は生き埋めになるだろう。そうなると救出しなければならなくなる。それ故に地中を進むという案は私の中で却下しておいた。


「どうやら向こうはこちらを草の根を分けてでも探し出すつもりでしょう。さて、どうやって逃げましょうか……」


 ミカは顎に手を当てて何かを考えている。その目は何かを決意しているかのようだった。こいつ、まだ死にたがっているんじゃないだろうな?自分が囮になる、とか言い出しそうだ。


 死にたがるほど苦しんでいるのはわかるが、お前を犠牲にして逃げた後の私の心情を考慮しろ。恩人を見捨てて平気で逃げるほど、私は恥知らずではないつもりだ。


 そこで私は尻尾の先端で壁に文字を刻む。地中は真っ暗だが、私もミカも夜目が利く。なので読み取ることに不自由はなかった。


『逃げるなら一緒にだ。私は武器を、お前はその雌を連れていくのだからな』

「一緒に、ですか……かしこまりました。ただ、1つだけ申し上げても?」

『何だ?』

「ヒト種の女性を雌と呼ぶのはいかがなものかと。男性や女性という言葉を選ぶのが一般的です」

『そうだったのか?以後、訂正しよう』


 へぇ、そうだったのか。雄は男、雌は女……覚えたぞ。言葉が原因で揉め事になるのはあまりにも馬鹿馬鹿しい。忠告は素直に受け止めるべきだ。


「しかしそうなると強行突破以外に道はありません。茨の道になりますが、それでもよろしいのですか?」

『問題ない。白機兵や火吹戦車が相手でない限り、私の外骨格は貫けん。雑魚を蹴散らしながら逃げるだけなら余裕だろ?』


 私は自分の前腕をペチペチと叩きながらそう嘯く。侵略軍ならば他にも私の外骨格を砕ける兵器の一つや二つくらいありそうなものだが、あえてそれを考慮しなかった。


 ミカもきっとその可能性に気付いているのだろうが、柔らかく笑って頷いた。取りあえず、今すぐに死にたがると言うことはないだろう。よし、では行くか。


「では出発の前に一撃、お願いします。そろそろ動き出しそうなので」

『わかった』

「■■■……!」


 尻尾で了承する文字を刻んだ直後、私は白機兵の雌……ではなくて女だったな。それの首筋に毒針を突き刺して麻痺毒を注入する。前に差した時よりも少し強い毒なので、万が一にも耐性が出来ていても無駄である。女は苦しそうに呻きながら、ぐったりと動かなくなった。


 ミカは女を担ぎ上げ、私は武器を持つ。そうしてから天井になっている部分を崩し、我々は地上へと飛び出した。


ビーッ!ビーッ!ビーッ!


 我々が外に出た瞬間、濁った音が上下左右から響き渡る。音の主は空を飛んでいた何かだった。こうして実物を複眼で見ると奇妙な形をしているな。


 全体的には薄っぺらい円盤なのだが、その下から筒状兵器が伸びている。その付け根には霊術によるものらしき赤い光が灯っていた。その光は全て我々に向けられている。この光で我々を探していたのかもしれないな。


 浮遊する円盤は見える範囲に五つほどあって、それらは同時に筒状兵器を撃って来た。おいおい、味方の女がいるのに撃つのか。巻き込まれたらどうするつもりだ?当てない自信があるのか、あるいは……当たっても構わないとか思っているのか?


 もしも後者であれば敵ながら不愉快な連中である。私はミカが盾を構えたのを確認してから、彼の背後を守るべく外骨格を硬化させた。鉄の礫はやはり私の外骨格を貫通させることは出来ていない。これなら問題はあるまい。


 私とミカは目配せしてから南を目指して走り出す。円盤は我々を追い掛けながら鉄の礫を放つが、その全てを私は受けきった。そこで距離を詰めれば貫けると思ったのか、円盤はこちらに近付いて来る。だが、それは少し私をナメ過ぎだろう。


「ががっ!」


 不用意に近付いた円盤は私の尻尾の間合いに入った瞬間に、私は尻尾を巻き付けた戦斧で円盤を叩き潰す。円盤そのものは対して硬くないようで、アッサリと両断することが出来た。


ピピピピピ……


 私が円盤を一つ壊した途端に、他の円盤から妙な音が聞こえてくる。そしてこれまではずっと点灯していた赤い光が、点いたり消えたりを連続で繰り返すようになった。何のつもりか、と思ったら円盤は自棄になったかのように突進してきた。


「嫌な予感がします!武器で破壊せず、霊術で壊して下さい!」


 近付いて来たところを戦斧で砕いてやる予定だったのだが、怒鳴るようなミカの指示に従って私は即座に作り出した砂の直剣を放つ。円盤の中央に剣が刺さった瞬間、眩い閃光と共に爆発したではないか!


 範囲こそ小さいものの、あれはミカを殺しかけた白機兵の放った光線の爆発に似ている。まさか、あの円盤は鉄の礫が通用しないのなら突っ込んで自爆すると言うことか?もしそうなら近付かせるのは危な過ぎるぞ!?


 戦慄する私を更に絶望させるように、地平線の向こう側から大量の円盤がこちらに向かって高速で飛来して来た。赤い光を点滅させる円盤の群れが迫る様子は不気味である。私はそれなりに育った後、ゲオルグにネズミの群れと戦わされたことを思い出した。


(あの時はまだ外骨格が成長しきっていなかったからか、群がってくるネズミの歯が恐ろしかった。それに加えて今回はミカと敵の女を守る必要がある。より難しいじゃないか)


 私は苦笑しながら霊術を使う。円盤には円盤で対抗してやろうと、砂で大きな円盤を可能な限り作り出す。そして狙いを定めずにメチャクチャに動かしてやった。


 壊れた円盤は次々に爆発し、近くを飛ぶ別の円盤を巻き込んでしまう。連鎖的に爆発したことで、一列になった光が夜の闇を明るく照らしていた。


 ただ、ほとんどの円盤はその爆発を避けるか爆風を突破して我々の追跡を続ける。私が作り出した砂の円盤は爆風で散らされており、迎撃するためにはもう一度作る必要があった。別に大した手間ではないので霊術を使おうとした時、南西側から、すなわち私達の右斜め前から轟音が響き渡った。


「くっ!敵の火吹戦車です!撃ってきましたよ!」

「■■■!?」


 ミカと女が叫ぶと同時に我々から少し離れた場所に炎弾が落ちて炸裂する。灼熱の爆風をミカは盾で防ぎ、私は外骨格の強度に任せて受け止める。痛くはないがこのまま移動するとなればミカが辛くなるだろう。


 南西の方角からは十台ほどの火吹戦車と、三十を超える鉄の馬に乗った侵略軍の機鎧兵が姿を表している。奴等は我々から離れた場所から炎弾を放つだけで近付かない。どうやら円盤の自爆攻撃で我々を殺し切るつもりのようだ。


「隠れられる場所はありません!麦畑までの辛抱です!力の限り走り続けて下さい!」


 返事をする余裕すらない私だったが、霊術を発動させて円盤を撃墜していく。後ろに集中しなければならない私が後ろを、盾を構えたミカが前方を走っていた。


 その隊列を維持しつつ、我々は一心不乱に明け方まで駆け続ける。ミカは防ぎ切れなかった爆風によって傷だらけになっており、彼が小脇に抱えている白機兵の女も髪はボサボサで顔も煤だらけだ、私も霊力を二日連続で使いすぎてかなり辛かった。


 そして何よりも私もミカも体力の限界に近付きつつある。闘気で疲労を誤魔化せるものの、我々はここまで走りっぱなしだ。しかもミカは敵の攻撃を防御しつつであるし、私は霊術を使い続けている。疲労は誤魔化しきれないところまで溜まっていた。


 三人とも限界が見えてきた頃、私の視界には東側から陽光を浴びる背の高い麦畑が見えてきた。あそこが見えてきたということは、帝国軍と侵略軍を隔てる川に近付いて来たということ。あと少し!あと少しだ!


 ミカと私は一瞬たりとも躊躇せずに麦畑の中へと飛び込んだ。そして聴覚を頼りに互いの位置を把握しつつ、更に南へ向かって走り続ける。しかし、追撃の手が止まることはなく、侵略軍は我々がいそうな場所に向かって鉄の礫を撃ち続けていた。お前達の麦畑だぞ?荒れても良いのか!?


「おや?炎弾が来ませんね?大規模な麦畑で食料を生産して港に運ぶくらいです。これを焼いてしまう訳には行かないのでしょう」


 しかしながら、ミカの見立てでは荒らされては困るようだ。言われてみれば確かに最も厄介な炎弾が飛んで来なくなっている。飛んできていた鉄の礫の勢いも弱まり、遂には完全に収まってしまった。


 これで一息つけるかと思ったが、浮遊する円盤だけは容赦なく我々を追跡してくる。そこで私はこれまで通りに霊術で迎撃したのだが……どうやら疲労で判断力が鈍っていたらしい。私が気付いた時には遅かった。


 爆発した円盤の一部は麦畑に落下してしまう。するとそこで燻っていた火が麦畑に引火してしまったのだ。そのタイミングで強い風が吹き抜け……小火だったものが一気に燃え上がって大火となって麦畑は炎の海と化した。


 麦畑を焼き払うつもりはなかったのだが、これはとんでもないことになったぞ。侵略軍は大慌てで鉄の馬や火吹戦車から降りて鎮火しようと躍起になっている。ミカの言う通り、この麦畑は連中にとって重要なものであるようだ。


「……やってしまいましたね。ですが、これは逃げる好機です。行きましょう」


 もうもうと煙を上昇させる麦畑の中で、私はミカの提案に頷く。そしてこの混乱に乗じて逃走を再び開始した。だが、いくら麦の背が高いと言っても麦畑の中を走れば目立ってしまう。侵略軍は鉄の馬に跨がると、何かを怒鳴りながら追い掛けてきたのだ。


 やはり麦畑をこれ以上燃やしたくないからか、火吹戦車は来ていないし炎弾も撃ってこない。その代わりに鉄の礫の密度はこれまでとは比較にならない。どうあっても殺してやろう、という強い意思が感じられたのだ。


「ぐはぁっ!」


 その時、ミカが苦しそうな声を出した。どうやら盾で守られていなかった部分に鉄の礫を受けてしまったらしい。しかも礫を受けたのは脇腹と太腿であり、ミカは脚に力が入らずに転げてしまった。


 貫かれた太腿と脇腹からはおびただしい量の血が流れ出し、服に赤黒い染みが広がっていく。小脇に抱えられていた女の顔にも血の飛沫が飛び散っていて、ビックリしたように目を見開いていた。


 私は急いで彼と機鎧兵の間に霊術で壁を作ると、霊術で砂の腕を作り出してミカの腰の辺りと太腿を掴んで止血しながら逃げ続ける。そんな私に対してミカは言った。自分を見捨てろ、と。


「ごふっ……私を捨てて、行って下さい。どうせ今の私には……もう生きて行くための、目的がない……」

ががっげご(だまってろ)がががごぉ(バカ野郎)!」


 私は走りながら怒りのままに怒鳴り付けた。ミカが死にたがっていることは知っている。それを知った時、私は何かモヤモヤしていた。それは恩人に死んで欲しくないからだと思っていたが、違っていたらしい。


 私は怒っていたのだ。自分の命を大切にしないミカに対して、怒りを覚えていたのである。個人にとって何よりも大事なものは人によって異なるだろう。だが、誰にとっても一つしかない命は大切なものだ。恩人がそれを雑に扱うことに怒っていたのである。


げっがぎぎがぐげぐ(絶対に助ける)ぎがげぐごごが(死なせるものか)!」


 私はミカに一方的にそう言うと、砂の殻を作って守りながら麦畑を走り続ける。鉄の礫は私だけに集中するようになったせいで、外骨格の隙間を通って私の肉を穿つこともあった。


 しかし、私は痛みを抑制しながら歯を食い縛って前に進む。私は死ぬその瞬間まで諦めるつもりなどないからだ。


ドォン!


 その時、前方から火吹戦車が炎弾を放つ時の音がした。前に回り込まれていたのか!私は大剣と戦斧を重ねて防御を固めた……のだが、炎弾は私の頭の上を飛び越えて追撃していた鉄の馬の部隊のど真ん中に着弾して炸裂した。


 同士討ちかと思ったが、それは謝りである。奴等を撃って私達を救ってくれたのは、ティガル達を引き連れたマルケルスが奪った四脚の火吹戦車だった。

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― 新着の感想 ―
たまに変な文章だよな。 「同士討ちかと思ったが、それは謝りである。」のところなんか誤字だし目線はブレてるしで読みずらかった。 「同士討ちかと思った」は驚いてる主人公目線の文章じゃん。 「それは誤りで…
[一言] 潜入されて兵器を奪われて人質取られた上に畑まで燃やされるとか ここまで虚仮にされたら怒り心頭でしょうなあ
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